あの後、転校生までやってきて一旦険悪なムードになったがなんとか事なきを得た。
そしてあの黒いクリスタルみたいな物はグリーフシードと言い、魔法少女が持つソウルジェムの濁りを取り除く事が出来るらしい。
ソウルジェムなるアイテムや濁りという新単語が出てきたがもはや僕にとってはどうでもいい事だった。
非現実が現実になってしまったのだ、その興奮たるや分かってくれるだろう。
今まで架空の存在とされていた魔法少女が存在する。その事を聞いただけで心が踊った。
いやはや、僕もいつのまにか非現実に足を踏み入れていたとはな……いつか選ばれしものとか言われて魔法少女と別存在として戦う事が出来るのだろうか?
まあそれも良い。
僕はグリーフシードを巴さんに渡した。彼女は良いの? と言っていたが、僕が持っていても仕方ないものである。僕は魔法使いでも少女でもないからな。
それにソウルジェムなるものなどはもちろん持っていない。
となると、彼女に渡してしまったほうが良いだろうと判断した。
ゲルトルートがいた証が消えるわけでは無いと思うしな。
そんな感じで僕は魔法少女たちと別れた。
去り際に美樹さんがなんでそんなに強いの? と聞いてきたので、鍛えているからなと力こぶを見せたのだった。
────
そしてまたもや夕暮れの道を一人歩いていると、後ろから声をかけられる。
「やあ、待ってくれないか? 八千ましろ」
「……キュウべぇか」
後ろにいたのは不可思議生物キュウべぇ、猫のような独特なシルエットをしており、全身真っ白なマスコット。
コイツの愛らしさはピカイチだと思う。
「初めて君の事を見たとき、本当に誰だと思ったよ。僕たちのデータになかったからね」
「そうか」
「でも、前、君が独り言を言ってたのを偶然見てしまってようやく合点がいった。成る程、僕たちのデータにないわけだよ」
「は?」
コイツは何を言っている? 俺は独り言など……。
「銀河連邦旅団……この名前に聞き覚えがあるでしょ?」
「ッ!?」
コイツ……まさか……!?
「ねえ、コードネーム【テルミドール】」
誰も居ないと思って銀河連邦ごっこをしていたのをコイツは見ていたのか!?
は、恥ずかしいッッッッッ!!!!!
あの時、確かノリに乗っていた時の事だ! テストの点数が思ってより良かったので、テンションが上がって、誰も見ていないと思い、僕が好きな小説をモチーフにした、ごっこ遊びをやっていた!
確か設定は僕は銀河連邦旅団のリーダー【テルミドール】でとある調査の為に地球に有機生命体として現界し、この地に降り立ったという設定ッ!
し、死にたいッッッッッ!!!!
僕がワナワナと震えていると、キュウべぇが後ろ脚で顔を書きながら僕に言う。
「大方正体がバレて狼狽しているんだね。驚いたな、まさか感情を持つ生命体がこの地球以外にもいるなんて」
「くっ」
「感情は僕たちの星では、一種の個体汚染。言わば精神疾患と捉えているだけど、そちらの星ではどうなのかな?」
何を言ってるんだコイツは?
星? 個体汚染? 精神疾患? いやいやいや、僕にそんな事言われてもなんのこっちゃ、ってなるのが関の山だ。
「……何を言ってるのか」
「しらばっくれても無駄だよ、もう裏はとってある」
なんの裏?
「銀河連邦旅団という部隊がこの地球上に存在すると言うことは分かった。他のメンバーももう既に見つかっている。まあ、殆どが人里離れた山奥に居たわけだけど、君はリーダーとしてこの見滝原に住んでいるんだね」
ええ? 話が急にぶっ飛んで分からなくなった。
なぜ魔法少女から宇宙の話になって、僕の作った架空の旅団が存在しているんだ?
「旅団のメンバーの一人を捕らえて話を聞いたところ、リーダーとなる【マクシミリアン・テルミドール】はこの地球に降り立った時に行方不明になったと聞いたけど、まさかメンバーにも君は連絡を取っていないなんて、全く用意周到だね」
「…………何が言いたい?」
いや純粋な疑問です。本当にコイツは何が言いたい?
ただの魔法少女のマスコットだろ? よくいるじゃあないか、可愛い奴が。そんな可愛い奴がなんでドス黒いオーラを出しながら僕に近づいてくるんだ?
「さて、聞こうか。君は一体この地球へ何しに来たんだい?」
知らんがな!
生まれも育ちも地球ですけど!?
ただちょっとした思春期特有の精神疾患に侵されたかわいそうな中学二年生の男子ですけど!?
「だんまりだね、おっとそう言えば僕の正体も君に話してなかったね。その様子からだと、僕たちの存在を知らないみたいだ。僕たちの名前は【インキュベーター】君達と同じ宇宙人だ」
いやあああああああああああああ!!!!
いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!
僕の頭はパンクした! 急にマスコットが難しい事を話し出して最終的に言った言葉が宇宙人!? 勘弁してくれ!!
確かに、いついかなる時もそういうイメージ(妄想)はしてきた! しかし! それが現実に現れてくるとかもう大変! 結構、今の今までも魔法少女とか魔女とかで頭がパンクしそうになったのをなんとか飲み込んできたが、もう無理!
しかも僕と同じだぁ!? 僕は正真正銘の地球人だ! マクシミリアン・テルミドール!? そんな水没しそうな名前の奴は知らん! 帰れ!
「はあ……はあ……」
「……僕たちに気取られたらいけないような重大な使命なのかな? 例えば……地球人を救う為とか」
「!」
「当たりだね」
いいえ、ハズレです。というより何も考えていません。さっきの「!」だって脳内でツッコミまくってえずきそうになっただけだし。
「……ともなれば、この地球で言う所の人類に仇なす僕たちの敵と言ったところか」
「……人類に仇なす?」
ちょっと待て、今。人類に仇なすって言ったよな。
「その様子だと、僕たちの目的も知らないみたいだ。そうだね、特別に教えてあげよう。もしかしたら利害が一致するかもしれないしね。ましろ、君はエントロピーって言葉を知ってるかい?」
こうして、インキュベーターと名乗る宇宙人から、色々と聞いた。
魔法少女の事や、宇宙の事、そして魔女の正体やら何から何まで。
ご丁寧に目的まで話してくる。
……コイツらには感情というものが無いと言っていた。
だから、こうやって平然としていられるのだろう。
「というわけなんだ、どうだい? 僕たちと一緒に宇宙を救わないか?」
確かに将来的に見たら、この地球の人類、一人や二人減ったところで問題などない。
後から続く者を守り、結果的に宇宙を救い、そして地球人はやがて宇宙へと飛び出し
、高位の存在となる日が来る。
それが今ではないという事であり、今は多くの犠牲の上に文明を作っている最中だ。
確かに、インキュベーターとやらの言い分は理解ができた。
僕という中二病からしたら、宇宙の為に礎となる。なんとも甘美な響きだろうか。
しかし、気に食わない点は。
「なぜ、第二次性徴期の女性がターゲットなんだ?」
「効率よくエネルギーを回収する為さ」
「そうか」
ならば僕はこういうしかないだろう。
「断る」
「……訳がわからないよ、少なくとも君はこの話に乗り気だった筈だけど」
「これが感情のある者と、感情のない者の差だ」
理屈は理解できた。しかし、それをやれと言われて、やる女の子など居ないだろう。
それが今を生きたい人間の欲求だ。
「……やはり感情と言う精神疾患は理解し難いね。また話そう。ましろ」
インキュベーターは僕に背を向け去っていく。
やれやれ……結局僕を銀河連邦旅団のリーダーだと誤解して帰りやがった。
……全く、もうこれ以上何があっても驚きはしない自信がついてしまった。
さて、インキュベーターの目的を聞いてしまった訳だが。
ここで見て見ぬ振りをすれば、僕はここで魔法少女とおさらばだろう。
下手に干渉すれば、訳の分からぬまま僕自身が命を落としてしまう。
……しかし、僕はなんとも捻くれ者だ。
今の心の内は彼女たちをなんとかしてやりたいと思ってしまっている。
僕自身が死ぬかもしれないのにだ。
心のどこかで、彼女達が絶望して死んでいくぐらいなら、僕がそれも肩代わりしても良いとすら思っている。
ああ……ここから先、とんでもない出来事が待ち受けているんだろうな。
僕はそう思い、後ろを振り向くと、そこには呆然とその場に立っている転校生の姿があった。
……なんでいるんですか?