中二病少年が本物に出会う話   作:うみうどん

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八話 走れましろ

 僕は走る。

 ひたすらに学校の廊下……全面ガラス張りにされた窓が特徴的の廊下をただひたすらに走っていた。

 足が軋む。かなり限界が来ているがそんなものは無視して走っていた。廊下の突き当たりの階段を全段ジャンプして降りたり登ったりして、またひたすらに走る。

 もはやここがどこか分からなくなっていた。

 

「あ! またアイツ階段を全段ジャンプして登りやがった!」

「なんて身体能力ですの!?」

 

 後ろから追ってくる青い鬼と緑の悪魔。

 緑に至ってはまともに会話すらしたことないクラスメイトだった。

 

 なぜ僕がこんな目にあっているのかは数時間前に遡る。

 

 ──ー

 

「ありがとう! 八千くん!」

 

 いきなり僕は男から熱い抱擁を受けた。

 つい先日、魔法少女と一戦を交えて限界を突破した体は大分痛むもののなんとか復活したと思ったらこの状態だ。

 何が悲しくて男と抱き合わなければならないのか。

 

 そして困ったことに目の前の彼はとんでもない美形だ。

 一歩間違えると女にでも見間違えるような端正な顔つきをしているコイツは同じクラスメイトの上条恭介だった。

 

 この甘いマスクで何人の女を落としてきたのかと思うと反吐がでる。

 僕は基本的にリア充というものが嫌いであり、特に才能を持ってその分野で活躍している者が苦手である。

 昔、そういう、所謂天才というやつと関わっていた時期があった。はっきり言って時間の無駄だった。口を開けば並みのナルシストなら裸足で逃げ出すような自慢話ばかりであり、何故か奴に気に入られた僕は毎日その話を聞かされて危うく中耳炎になりかけた。

 

 天才と呼ばれる人間はどこかネジが抜けている。そんな常識のない天才どもが嫌いだった。

 そして上条恭介も天才の部類に間違いなく入るだろう。

 

 中学生ながらにして将来有望なヴァイオリン奏者。そのヴァイオリンを弾く姿はまるで湖の上で優雅に翼をはためかせる白鳥のようだと聞いたことがある。

 なんだその例え。

 ちなみに情報の発信源は緑の悪魔こと志筑仁美さんらしい。

 

 ちなみのその志筑さんは顔を真っ赤にして手で口を押さえてとんでもないものを見てしまったかのような表情をしていた。

 待ってくれ、その表情は何か危ない。おい、とんでもない妄想をしているのではないだろうな? 即刻やめたまえ。ぶっ飛ばすぞ。

 

 美樹さんはガタガタと震え出して、机の中からハサミを取り出すのをやめろ。お前のあだ名をリッパーにするぞこの野郎。

 

 しかし、上条君は無事で何よりだった。

 これはつい先週かそこらに遡る。

 結論から言うと事故に遭いそうになった上条君を命からがら助けたのだ。

 

 いや助けたと言っても二人とも轢かれて宙を舞ったのだが。

 僕の方は当然のごとく無傷でその日のうちに退院、上条君の方は安否不明だったが……この様子からすると大丈夫そうだ。

 

「あの後医者から、君がクッションになってなかったら一生ヴァイオリンを弾けなくなっていたと言われて……! ありがとう! 君は僕の恩人だ!」

 

 そうか……そういうわけか……。

 この日、僕は何をトチ狂ったのか男の友情というものに憧れていた。

 それはライトノベルの中で主人公とその相棒が無事生還したと熱い抱擁をかましているシーンを見て、ああ……僕もやってみたいと思ったのが運のつきだった。

 

 僕は優しく上条君を抱き返してしまったのだ。しかも頭ポンポン付きで。

 それをみた上条ファンが黙っちゃいなかった。

 いや……正確には二人だ。

 

「いやあああああ!!!! 恭介ええええええ!!!!」

「ああああ! イケませんわ! 禁断の恋ですわああああああ!!??」

「さやかちゃん!? 仁美ちゃん!?」

 

 鹿目さんの狼狽した声が僕の耳に届く。

 何事かと上条君の後ろを見てみると。ハサミを持った青い鬼と顔を真っ赤にしながらもこっちに興味津々の緑の悪魔がいた。

 

 僕は身の危険を感じ脱兎のごとく駆け出す。

 教室から出る間際、中沢君が「……災難だなぁ……」とポツリと零していた。

 ……中沢君……! 生きて帰ってこれたら是非友達になろう! 

 それと、暁美さんは必死に目を逸らして他人のふりをするんじゃあない! 

 

 とまあ、こんな感じで走っている訳だ。

 今はなぜか外の風景が見えるがそんなことはどうでもいい。僕の命が一番なのだ。

 え? 殴って終わらせろって? 女の子にそんな事出来るわけないだろ! いい加減にしろ! 

 

 お前がな! というツッコミが聞こえてくる気がしたがそんなことはどうでもいい。

 僕はとにかくひたすらに走った! 走って走って走りまくった! 男はこういう時、走る時なのだ! 多分! 

 

 そして──ー

 

「はーっ! はーっ! はーっ! …………ここは……どこだ?」

 

 とにかく走りまくってたら変な所に来てしまった。

 と、とにかく、こういう時は人に道を尋ねるのが一番だ。

 

 あたりを見渡し、一番目立つ赤毛の女の子が見えた。……僕と同じくらいの歳……。そうだ、彼女にここはどこか聞こう。

 

「あ、あのすみません」

「あ?」

 

 だめだ不良に声をかけてしまった。

 よく考えたらこの時間に学校行ってないイコール不良じゃないか。

 ……まあ声をかけてしまったものは仕方がない。

 

「すみません、ここってどこだか分かりますか?」

「はあ? アンタおかしな事言う人だね、ここは風見野市だよ」

 

 隣町まで走ってた。

 バスで片道約20分から30分ぐらいの場所にある風見野市。

 もちろん走ってでは1時間ぐらいかかるのは必須の街だ。

 

「いや、僕、隣の見滝原から走ってきて」

「マジかよ」

 

 ドン引かれた。

 やばい、女の子にこんなに引かれるのは初めての経験だ。メンタルがゴリゴリと削れていく音が聞こえる。

 ま、まあそんなことはどうでもいい。

 

「す、すみません。財布とか全部、見滝原に置いてきたまま走ってきたもんで、喉がカラカラなので水が無料で飲める場所……知りませんか?」

「あーならあそこが一番だなぁ」

 

 赤毛の女の子は頭をぽりぽりとかきながら、前を歩き始める。

 口にはポッキーイチゴ味を咥えながらニッと笑い、僕の方を向いた。

 

「なんだかアンタ面白そうだから、案内してやるよ。ついてきな」

 

 そしてポッキーの新しいのを僕に差し出して彼女はこう言った。

 

「くうかい?」

 

 ──ー

 

 行動や言葉使いは粗々しいも、本当は優しい人なんだなと思った赤毛の少女。

 彼女の名は佐倉杏子と名乗った。

 

 公園で水をがぶ飲みして、後ろを振り向くと緑の悪魔……いや天使がそこにはいた。

 

「はい! お兄ちゃん!」

 

 小学低学年らしき女の子の名は千歳ゆまと名乗った。

 

「あ、ああ。ありがとう」

 

 ゆまちゃんは僕にハンカチを手渡してくれて、佐倉さんが居るところへ向かう。

 佐倉さんとゆまちゃんの中はとても良いらしく、こうして見てみると姉妹のように見えた。

 

「っていうか、なんでド平日のこんな時間に走って見滝原から風見野に来るんだよ」

 

 佐倉さんは心底可笑しそうにくつくつと笑った。

 いやまあ、僕だってきたくて来たわけではないのでなんとも言えないのだが、少し追われてと言っておいた。

 

「まあいいや、さて、こっちはこうやってアンタの希望を叶えてやったと言うわけだが……少しくらい見返りがあってもいいじゃねえかとも思ってな」

「見返り?」

「まあ、私たちは所謂家なし子って奴でね、日々食いつないでいくのに必死なんだ」

「……ストリートチルドレンという奴か……今のご時世にも居るんだな……目的は金か?」

「……まあそれも魅力的なんだが、私が欲しいのは情報だ。……アンタ、『織莉子(おりこ)』って名前に聞き覚えはないか?」

 

 佐倉さんは神妙な面持ちで僕の方を見やる。

 しかし……織莉子……か。聞いたこともないし見たこともないな。

 

「すまない」

「そうか……悪い、変な事聞いちまったな、今のは忘れてくれ」

 

 忘れてくれ……と佐倉さんは言った。

 まあ、それが強い希望であるのなら僕は忘れることに務めるが、しかし今の佐倉さんを見ているとどうもそんな風には見えなかった。

 ゆまちゃんを少し、悲しそうな表情で見据える佐倉さんを見ているとなんだか心がざわめくような気がしたのだ。

 

「でもまあ、探すことくらいは出来るよ」

「……!」

「それに僕は受けた恩は必ず返したいんだ。もし探して見つけたらまた風見野に来る。だから佐倉さんがいつも居る所を教えてくれないか?」

「……」

 

 佐倉さんが考えるような素振りを見せる。

 まあそうだろう、だいぶ打ち解けては居るが、出会って数時間の僕を信用してもらえれるかどうかは分からない。

 だからこの話は断られるのを覚悟で佐倉さんに話していた。

 

「キョーコ……」

 

 ゆまちゃんが佐倉さんの裾をキュッと掴む。

 そのゆまちゃんの心配そうな表情を見て佐倉さんは覚悟を決めたような顔つきになった。

 

「……正直な所、アンタを信用してもいいのかはまだ計り知れない。でも、こっちには織莉子の奴にオトシマエをつけさせるって決めたんだ。……アンタを信用してもいいんだな?」

「勿論、受けた恩は仇では返さない。絶対的な誇りを持っている。もし先に佐倉さんたちがその織莉子とやらを見つけた時は、違う恩返しでも考えておくとするよ」

 

 そう言うと佐倉さんはフッと笑って、僕の肩に手を置いた。

 

「……バカだねぇ……何も知らない一般人が……でもその言葉、信用するぞ!」

「任せておいてくれ」

 

 僕が背を向け去ろうとしたら、後ろに引っ張られる感覚があった。

 僕の裾を引っ張って来たのはゆまちゃんだった。

 僕はしゃがみこんでゆまちゃんと同じ目線になる。するとゆまちゃんはにこやかな笑顔を浮かべて、僕の頭を撫でて来た。

 

「無理しないでね!」

「……! ああ!」

 

 僕も撫で返して、歩きで見滝原に帰るのであった。

 

 ──ー

 

 そして、ようやく1時間くらいかけて見滝原に帰って来たわけだが……。

 はい、でましたよ。ようやくお出ましだよ。

 

 周りがいつぞやのゲルトルートと出会った時みたいに不可思議空間になる。

 いや、ここは魔女の結界と言うのだったか。

 

 家に帰る道中、大きな総合病院の前を通り過ぎる道があったのだが、そこからこの結界に迷い込んでしまったようだ。

 周りには病院をモチーフにしたと思われる、ベットやらが見うけられたりしていた。

 ……しかし、疲れた今の体で魔女と戦うのは少し危険かもしれないが、まあそれでも進むしかない。

 

 この奥に……哀れな魔法少女の成れの果てが居るのだとしたら、僕はそれを助けてあげなければならない。

 そんな思いだけで僕は足を動かす。

 

 そんな時だった。

 突如として僕の首元に突き付けられる、ポールアックスの刃の部分。

 僕は突如のことに冷や汗をかいた。

 

 ……このポールアックス……見たことがあるぞ。これはあの時の……! 

 

「やっと見つけた……アンタ! 私にあんなことしておいて、タダじゃ済まないわよ!」

 

 視線を横に向けるといつぞやの小巻さんという魔法少女が怒りの表情と思われる顔で、僕を睨んでいたのだった。




小巻さんはおりこマギカ新訳を読むかググるかしてください……
結構マニアックなキャラなので…
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