中二病少年が本物に出会う話   作:うみうどん

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九話 もう何も恐くない

 私は迫り来る大きな口をただ呆然と見ていた。

 ああ……こんな事になるのなら彼女たちをこの場へ連れてくるべきでは無かったのかもしれない。

 この時まで私は自分がこんな目に合うなんて思いもしなかった。

 それに、鹿目さんが私を励ましてくれて、もう何も怖くないとも思った……。もう一人じゃないとも。

 でも、こんな事でまた一人に私はなってしまうのだろうか。

 

 これまでの出来事が走馬灯のように流れていく。

 その時間はゆっくりと流れていき、最終的には私はこの口の中に収められてしまうのだろう。

 

 怖い。死にたくない。そんな思いと同時に、私は暁美さんの言葉を思い出していた。

 ……そうだ、暁美さんは私の身を案じてくれていたのでは無いだろうか。

 

 そんな事に今更気がついたとしても、もう遅い。

 

 私の目の前は真っ暗の闇に包まれた。

 

 

 ──ー

 

 

 

 僕にポールアックスを突き立てながら、歩く事を強要してくる彼女は浅古小巻と自分で名乗った。

 一応、急に攻撃しては来たが、一端の礼儀はあるらしく名前を名乗ると言うのは教養が行き届いている証拠だろう。

 

 僕は両手を上に上げながら、渋々僕は浅古さんの前を歩いていた。

 

「ほら! キビキビ歩く!」

「……なあ……」

「何?」

「なんでこんな事を?」

「私はね、急に後ろから不意打ちで攻撃してくる男に復讐しに来ただけよ」

 

 ああ……あの事を……。

 でもなあ、あの時はちょっと君が邪魔だったからであって、僕には全く攻撃する意思などは無かったのだがなあ……。

 

「そのためにはこの邪魔な魔女を倒さないと、アンタをまともにボコボコに出来ないじゃない」

 

 嫌だなあ……僕をボコボコにするのか……。

 いくら鍛えているからと言って、僕は正真正銘ただの人間であり、一般人である。

 そんな中、人間の力を超越した魔法少女の攻撃を受け続ける……そんな事が可能なのだろうか? 

 

 どう考えても、血だまりを作って地面を舐めている光景しか思い浮かばない。

 ……そのボコボコにするとやらは僕が反撃しても良いのだろうか? よし決めた、最初はわざと攻撃を受けてそのあと身の危険を感じたら、応戦するか逃げよう。

 

 そう僕が決心した時の事だった。

 

 

 

 目の前にリボンに吊り下げられた暁美ほむらの姿があった。

 僕も彼女も自分たちの光景を見合わせて、目を見開きぽかーんとしている。

 

((何やってんの、コイツ))

 

 僕たちの心がシンクロしたような気がした。

 いや、本当に何をやっているのだろうか? 

 

「暁美さん……」

「……何かしら……」

「なんでそんな事に?」

「…………油断して……」

 

 敵の攻撃を受けたのだろうか? 

 しかし、それにしては外傷や周りに使い魔たちの姿は見えはしない。

 それにこのリボン。

 

 暁美さんはボソッと巴マミにやられたと言われた。

 どうやら、最初から敵対心を持たれていて、むやみに接触しようとした結果暁美さんはこうなってしまったらしい。

 

 そりゃそうだろう。としか言いようがないが。

 まさか巴さんがこんな大胆な行動に出るとは思わなかった。

 

「何? アンタの知り合い?」

「……ましろさん……彼女は」

「ああ」

 

 僕は浅古さんの事を暁美さんに紹介する。

 浅古さんは訳の分からない奴に名前を教えるなと小突かれたが、僕はひょいと躱した。

 すると、ワナワナと震え始め、こめかみに青筋を浮かべたまま「あとで覚えてなさいよ」とポツリと零していた。

 

 何を覚えておけというのだろうか。勘弁してほしい。

 

 一応、僕の状況も暁美さんに伝えておいた。苦笑いされたが勘違いだとしておこう。

 

「ましろさん、このままじゃ巴マミが危ない」

 

 暁美さんは吊るされたまま、真剣な表情で僕に言う。

 なんだかシュールな光景ではあるが、僕はその真剣な表情は嘘ではないと判断して、僕もまじめに聞くことにした。

 

 どうやら暁美さんの統計上、巴さんはここで命を落とす確率が高いらしく。その光景は凄惨たるものだと言った。

 浅古さんは何の話をしているかわからないと言った表情をしている。無理もないだろう。彼女は暁美さんがタイムトラベラーだと言うことは知らないのだ。

 

「お願い! 早く!」

「分かった!」

 

 どうやらここには美樹さんや鹿目さんたちもいるらしく、このまま巴さんが死ぬと言うことになったら二人もまた危ない。

 それに……巴さんは僕は勝手に同類だと思っている。そんな彼女を殺すなど、この僕が許さない。

 

 僕は浅古さんの包囲を無理やり突破して、走り抜けていった。

 

「……お願い、ましろさん。……さて、貴女は浅古さんだったかしら」

「……だったらなんだって言うのよ」

「……この拘束……解いてくれないかしら?」

 

 ──ー

 

 僕は一直線に走り抜けて、一際大きな広場に出る。

 僕の目に飛び込んできたのは巨大な化け物が巴さんの頭に噛り付きそうになっていた光景だった。

 

「させるかあああああ!!!!」

 

 僕は空中を蹴り、真っ直ぐに化け物に向かっていく。

 

「オラァ!」

 

 僕はそのまま横顔を叩き殴り、巨大な化け物を転がした。

 どうやら間に合ったようだ。またもや己の限界を突破したのか体の節々が痛むがそうもいってられない。

 僕は着ていた上着を巴さんに被せる。

 

 目を瞑ってふるふると震えていた巴さんを僕は抱きしめた。

 

「大丈夫……大丈夫……」

「あ……ああ……」

 

 恐る恐る目を開けた巴さんは僕の事を確認すると、目に涙をいっぱい浮かべてそのまま気絶した。

 さて……。僕は巴さんを二人の元へ連れて行き、預ける。

 横にいたインキュベーターを一瞥して、僕は魔女に対峙した。

 

 ピリピリと肌を突き刺すような感覚。なるほど……ゲルトルートとは一線を画しているようだ。僕は魔力とやらは感知できない。だが、それでも、目の前の大口を開けた魔女はかなりの強さのようだ。

 

 見る限り、知性はあるようだが、こちらを食料としてしか見ていない節も取れる。

 僕はこの時悟った。コイツは……話が通じない魔女の類だと。

 

 だったらやるべきことは1つだ! 

 辛かったろうに……こんな姿になってしまい、心の奥底では泣いている少女が居る。

 

「待ってろ、今、安らかに眠らせてやる」

 

 目の前の魔女はムッとした表情でこちらを見て、食らいついてくる。

 僕はバックジャンプで躱しながら、攻撃の機会を伺って、隙を見つけたら拳を叩き込んだ。

 魔女はくらりと体制を崩して、その場に倒れこむ。

 

 僕はこんな時にまで、この魔女に名前をつける事を考えていた。

 まあ、名前がないと不便だしな。

 

 僕はこの魔女をシャーロットと名付ける。

 

 シャーロットは起き上がりふるふると頭を振ったら。僕に向かって突進してきた。

 僕はそれを手を広げて抱き込むように真正面から受け止める。

 数メートル、後ろに下げられたが、問題はない。

 

 シャーロットを横にぶん投げ、その上から拳を叩き込んだ。

 

「……ましろさん! 私の力を!」

 

 後ろから暁美さんの声が聞こえる。

 力? 一体なんの? 

 

 暁美さんが僕に触れ、腕につけていた盾を回す。

 すると、あたりが静寂の空気に包まれた。

 

「これは……!」

「時間停止よ、今のうちに」

 

 取り敢えず僕は状況を判断する前に、動きが止まったシャーロットに拳の連打を叩き込んでいく。そうだな……時間停止……拳の連打と言えば、アレを叫ぶしかないだろう!! 

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!!!!!」

 

 僕が無駄無駄ラッシュを叩き込んだ後、暁美さんは時間停止を解除する。

 すると無駄無駄を叩き込まれたシャーロットはその場で宙高く吹っ飛んで、消滅する。

 

 その後、小柄な人形のようなものが落ちてきてそれも消滅してグリーフシードが落ちてきた。

 僕はそれを掬い上げて、ギュッと握りしめて「おやすみ」と呟いた。

 

 ──ー

 

 あの後結界がなくなり、浅古さんは「なんだかなぁ」と言って帰っていった。

 僕をボコボコにするのでは無かったのだろうか? いや、別にボコボコにされたいとかそういう訳ではない。というより、胸を撫で下ろした。

 

 あんなポールアックスで殴られた日には原型をとどめてないのではないだろうか。

 

「……無駄って……」

「なんだ? オラオラの方が良かったか?」

「何よそれ……」

 

 暁美さんも若干呆れたような顔で去っていく。いいじゃないか。時間停止なんて能力滅多にお目にかかれないんだからな。やってみたくなるのも必然である。

 ちなみに僕はオラオラも無駄無駄もどっちも好きです。ぶっちゃけラッシュの練習はあの漫画を読んで練習した。

 

 さて……暁美さんはこの三人を僕に押し付けて帰りやがった。

 協力するんじゃなかったのか。ほら見ろ、未だに腰を抜かしているぞ。

 

「……よ、よかった……マミさんが……生きてて」

「うん……! うん……!」

 

 よっぽど切羽詰まった状況だったんだな。

 泣きながら二人して巴さんを抱きしめている。

 僕は巴さんのソウルジェムを探して、グリーフシードをかざす。

 

 穢れがグリーフシードに吸い込まれていき、綺麗な色に戻った。

 

「ましろ、それを僕にくれないか?」

「……」

 

 インキュベーターが僕に話しかけてくる。

 ふむ、ここでこいつにコレを渡してしまって構わないのだろうか? いや考えるのはよそう。もし何かあった時はまたその時に対処すればいい。

 僕はおまけに先日のグリーフシードもくれてやった。

 

 インキュベーターは背中にそれをしまい込んだ。

 というか背中、そんな事になっているのかよ。

 

 さて、僕はさっさと家に帰って寝よう。

 今日は流石に疲労がたまって、かなりキテいる。フラフラと僕はその場に立ち上がり、家に向かって歩くが、足が重たい。重たすぎる。

 

 あ、コレだめだ。倒れ──ー。

 

 薄れゆく意識の中、鹿目さんが何か僕に対して叫んでいたが、上手く聞き取れない。

 目が霞んで、微睡んでいく。

 そして気絶する前に、「コンクリートって冷たくて気持ちいな」と呑気な事を考えていた。

 

 




なんかバーが赤くなってるんですが…
ありがとうございます!
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