「いい加減、私も目的を明かすべきですね」
そう呟くように漏らした久遠さんは、1つため息のような深呼吸を挟むと私と天音さんを見据えた。私も天音さんも、彼女へと注目し先を促す。
「私が辺獄にいる理由と、私が辺獄で果たすべきことは異なります。まず、私には双子の姉がいます。私が生まれることは叶いませんでしたが」
事実、あるいは前提の共有と確認。そんな体で、久遠さんは語り始めた。多少は聞き覚えのある内容だ。それをこちらが認識したのか確認するよりも早く、久遠さんは話を続ける。
「私が辺獄へ来たのは、比較的最近です。姉が、幡田 零が辺獄へ来る時に、姉の魂にくっついていた私は本来の形に別たれ、こうしてここにいます」
「本来の形、ってのは魂が2つ分に別れたってことでいいんだよな」
「はい。恩恵として、零姉さんの守護者は他の代行者と比べてかなり強力で、私も時折向こうへ繋がる事が出来るのは意外ですが」
「……それってサラッと流していいことなんですか?」
「
少し空気が緩んだ。が、割と情報としては重い部類だったと思う。ちなみに守護者が強力だとどんなメリットがあるのかは分からなかった。魂の強度で補強されるなら、より人間っぽいことが出来たりするんだろうか。喋るとか独立して動く、とか。
字面ではほんわかとした雰囲気の推察に見えるが、こと辺獄においては重要な要素だ。守護者は、自らの写し鏡のようなもので、それが喋ったり独立して動いたり、というのはつまるところ自分ではない自分が動いているようなものだ。だからこそ、その幡田 零という代行者とその守護者は特殊だということになる。
「お前がここにいる原因は分かったが、肝心の目的は何だ?」
「そうですね……姉の為、というのが大目標です。少なくとも、騙されて代行者になったことと、辺獄へ来た目的すら欺かれていること。そして全てを操る黒幕に未だ気づくことが許されていない事。これが私の解決すべき小目標です」
大目標を達成する為の小目標。その小目標の達成の為に、私達と行動を共にしているといったところだろうか。
「私が貴女達に同行するのは、悪魔とのつながりがある事と幽鬼の姫……みらい。彼女とのつながりがある事が理由です」
「幽鬼の姫とのつながり?」
「はい。みらい、今は幡田 みらいですか。彼女は零姉さんの義理の妹です。義理の姉妹であることに、零姉さんは気づいていませんが」
義理の妹。義理であるのは、生みの親がいなくなったことで私と同じ施設にいたことがあるということだろう。その境遇自体には共感と共に同情を覚えるが、だからと言って所業についてまでは同情するつもりもない。
そして幽鬼の姫である幡田 みらいは、その経緯からヨミガエリを行っている。その影響で、恐らく記憶にも干渉してしまっているのだろう。
「まとめると、久遠さんは幽鬼の姫、幡田 みらいを追う為に私達に同行している、と?」
「悪魔との繋がりを両立しているのは、今のところ貴女達だけですから。辺獄で何かを追うには、縁が非常に重要な要素です」
「今考えると、何故私と久遠さんは辺獄で出会ったんでしょう……」
「多分幽鬼の姫経由だろうよ。あいつとお前は一度施設で会ってるんだろ?」
「それだけだと少し縁としては弱い気もしますが、それ以外に考えられる点はないですね」
うんうんと唸ってみても、他に心当たりになることもない。ちー姉ぇのヨミガエリに伴う事を除けば、幽鬼の姫側しか記憶の改編も無かったはずだし、態々私を避ける理由もないと思うし。
ヨミガエリの記憶改編はその痕跡に気づくことすら困難だ。それこそ、本人から聞くか矛盾点が目の前に表れでもしない限り、気づくことは無理だと思う。だから可能性が無い、とは言い切れないけど……
「心当たりの有無は兎に角、そういう目論見で私は貴女達と同行を申し出たということに変わりはありません。お互いにお互いを利用する。ビジネスライクと言えばそうですが」
本来信頼関係を築ける間柄じゃないなら良いことだろう。そう言わんばかりに、久遠さんは肩を竦めた。確かに、敵対するはずの関係においてはその通りだろう。
「ただまあ、肝心な部分を聞いちゃいないな。幽鬼の姫と悪魔達の動向を追っているのは分かった。けど、それを把握した後どうするのか、それを聞いてねぇ」
「……まあ、そこは私にも分からないことですから。殺す必要があれば、殺します。思い入れもない相手ですから。必要が無いに越したことはありませんが」
淡々と、酷薄に。しかしどこか祈るように久遠さんは告げた。したい訳ではない、せずに済むならその方が。そんなところか。
「嘘をつく理由もないし、アタシらを背中から刺す理由もないってところか。小夜、お前はどう思う?」
「私ですか? 私としては手伝ってもらってる身なのであまり……」
「お人よしだな。卑屈なのかもしれねぇが。ま、お前が納得してんなら、それでいいけどさ」
何も考えてない、というわけではなさそうだった。あくまでこの一行は、私の目的を主目的として着いて来てくれている形だ。だから最終的な決定権は私にある、ということを言っているんだと思う。
天音さんの言からして、ある種全てが私の責任による自由だと言えなくもないだろう。当然、久遠さんや天音さんが私の方針に反対の意を唱え離脱する可能性も含めて、だ。この辺は割と最初の方からそうだったとも思うが。
その上で、私は久遠さんを信用する事を決めている。聞く人が聞けば、それが消極的な信用だと言うだろう状況ではあるけれど。私個人として、久遠さんが悪い人だとは思っていない。良い人か、までは断言できないけど。
「お人よしでもなんでも構いませんよ。私が必要としてるものを得られて、相手も自分を利用できる。そこは私も同じですし」
それを聞いて天音さんは、元々納得してくれていたこともあるのだろうが、ため息交じりに肩をすくめてみせた。これ以上はこの件に突っ込まない、そういう意思表示も兼ねていると思われる。
それぞれ伝えるべきこと、確認すべきこと、納得すべきことを終えて顔を見合わせる。やるべきことに変わりがないことを頷き合って確認した私達は、行動を再開する時が来たのだと悟った。
院長先生とちー姉ぇという2人の真相と死に、私の目的が曖昧になっているという自覚はある。だからこそこの、空虚なジレンマへ向き合わなければいけない。この逡巡に、答えを突きつけなければいけない。
この先に何が待っているのか。何を知るべきなのか。何の為に、涙を流しても戦ってきたのか。きっと、もうすぐ。もうすぐ、決着が着く。