倒す。他でもない、私が。誰に譲ることも出来ない役目だと思った途端、クリアになった思考は更に歯車がかみ合ったように回り出す。
剣閃が幾筋も重なって見えるほどの連撃でさえ、ハルバードの全てを活用して辛うじて捌き切ることが出来た。集中力が増している、だけじゃない。
見てきた。誰よりも頼もしかった、その背中を。
見てきた。誰よりも幽鬼に苛烈な、その意志を。
見てきた。誰よりも優くしてくれた、その心を。
そして、見てきた。
誰よりも鋭く敵を切り裂いてきた、その剣閃を。
だから、見える。対処できる。今まで見てきた合口だけの剣術ではないが、基礎的な部分。癖と言ってもいいそれは変わらない。ヘーゲルをフルに使って手数をカバーしてようやく、といった差こそあれど、それでも確かに食らいついていけている。
ここまではいい。いいが、食らいついていけているだけで、こちらから攻勢に出ることが出来ない。合口と体術だけの普段見ていたスタイルであれば、ハルバードと合口の威力差に任せて押し返せたかもしれない。
今目の前にいる
異形化。力のある幽鬼の特権とも言え、力がある事の象徴ともいえる能力だ、と以前雑談の中で聞いたことがある。私達代行者が守護者を具現化させて戦力を増強するのと逆に、異形化は具現化した守護者のような姿に、文字通り変身する。
手数は私達、代行者が守護者を召喚する方が有利だろう。しかし、身体的なスペックでは幽鬼自体強力な個体は私達を上回る上で更に強化される為、手の付けようがない。
今まさに、癖だけで刀を振るい猛烈な連撃を浴びせてくる
片手で振るう日本刀が、両手で受け流すハルバードを容赦なく弾き飛ばしかねない程衝撃を与えてくる。幽鬼になる前の、理性がある状態で同じスペックで相対していたらあっという間に効率よく消し飛ばされるだろうと確信できるほど。
もう何合打ち合って、どれだけの火花を散らしたのだろうか。時間としてはあまり長い時間では無かったと思うけど、それだけの密度で攻撃が飛んでくる。天音さんと久遠さんも合間合間に攻撃を差し込んで援護してくれているが、精々私が後ろへ下がらずに済む程度にしか攻撃を緩めることが出来ない。
ヘーゲルの顕現できる時間も長くはない。何かしら……何でもいいから、状況を変える一手を打てなければ、多分普通に力押しされて私達は負ける。
「こ、んの……ッ!」
一手。本当に、些細な一手を打つ。今まで受け止めていた、打刀による斬撃を真正面から受け止める。二刀流の神髄、即ち防御しながら攻撃するための合口の一撃をヘーゲルで強引に止める。
刹那の一瞬ではあるが、受け流さずに受け止めた一撃は、彼我双方の動きを止めた。到底反撃に使えるような猶予は私にはない。が、それでも十分な一瞬だ。
「うおらぁッ!」
「これで……!」
裂帛の声と共に振り抜かれる戦鎚を躱す為、一歩後ろへ飛び退くターレス。それを見抜いていた、敵を穿つべく飛翔する魔力の羽根。でも、まだ足りない。身体を巡る魔力を灼熱に変え、フリーになったハルバードの穂先から息吹として放つ。
「ッ……!?」
ターレスが爆炎を振り払い、周囲を見渡すのを見下ろしていた。さっきの
「く、う……っ! 堅い……!」
「これならァッ!」
膂力の差。それを十全に生かされて、奇襲気味に放ったエアリアルストライクは打刀に。背後から強襲した戦鎚は合口に、それぞれ真っ向から受け止められてしまった。
けど、真っ向から受け止めた以上多少なりともダメージはあったようで、魔力を纏わせていた分くらいは体力を削れたらしい。それと、もう一手。
「はああっ!」
莫大な魔力を長大な刃に変えて斬りかかる久遠さん。私達の挟撃は攻撃を当てるまでの時間稼ぎへと変わり、本能的な部分でそれに気づいたターレスは飛び退こうともがく。
「しぶといですね……!」
「やああぁっ!」
久遠さんの
私と意図するところが同じらしい天音さん、久遠さんもここぞとばかりに手にした得物で攻め立て、次第にターレスは体勢を崩して後ろへ下がり始めていた。
何というか、戦闘が長引くにつれ、
私の攻撃も、受け止める防御より受け流す防御でいなされる割合が増えてきた。攻撃を差し込む隙が少なくなって、3人がかりの状況でも押し切れていないと明確に感じる。反撃の隙を与えていない今の状況が、いつまで続くか。
もはや何合の打ち合いがあったかすら朧気になってきて、私達も疲労が隠せなくなってきた頃。大き目の攻撃がぶつかり合って、私達とターレスの間合いが開いた。一度間合いが開いてしまえば、こちらも一気呵成に攻め立て続けることが出来ない。
迂闊な動きが出来ない状況は、双方共に同じだ。一瞬前までの、鋼が打ち合う音や
そんな瞬間だった。
「ッ!? 小夜、飛び退け!」
ターレスの視線が私達から外れたと思えば、視界が暗くなる。天音さんらしき声が聞こえたのは、咄嗟に掲げたハルバードが派手に火花と音をまき散らしたのとほぼ同時だった。
「っぐ、う……!? なぜ! なんで貴方がここに……!」
ハルバードに強烈な負荷を与えていた巨影が、ろくな追撃もなく飛び退き、私達とターレスの間に着地する。全容が目に入り、私は思わず口に出していた。
私達の目の前に降りてきたのは、幽鬼チャーマーズ。確かに消滅したはずの、院長先生の真の姿だった。