CRY'sTAIL   作:John.Doe

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悪魔のジレンマ-7

 今この瞬間に限っては、睨み合って出方を窺う、なんてことはしない。啖呵を切った以上一番槍以外を務めるつもりはなかった。

 一番槍を務めると言っても、無謀な突撃をするつもりはない。穂先をすくい上げるように振るい、牽制と出方を見る一撃を初撃に選択した。弾くか、躱すか、あるいは無視するのか。それを――

 

「うっ!?」

 取られた対策は、迎撃。それも大火力だと一目で分かる規模の魔法(スペル)攻撃だった。毒々しい緑色の魔力が打刀を延伸するように溢れ、長大な刃として横薙ぎの一閃。咄嗟に身を捩りながら跳び上がり、寸でのところで回避する。

 魔法(スペル)攻撃とまともに打ち合うなら、こちらも魔法(スペル)攻撃か強化(アーツ)攻撃でなければまともに対抗さえできない。代行者、幽鬼双方にとって相手に確実にダメージを通したい時の手段と言っていい。

 

 

 今のちー姉ぇは本気も本気で、私達を倒す為の手段を選んでいる。倒す、なんて生温い表現だろう。殺す為、という方が余程相応しい。本能だけで放つ、無機質とさえ感じる純粋な殺気が私を射貫いていた。

 身を捩って跳んだことで、結果的に背後へ回る形となった私は、着地と同時に更なる危機感を感じて身を屈める。頭上を何か――恐らく逆手に持った合口が掠め、本命(打刀)が振り下ろされる気配にハルバードを斜めに構える。

 

「よく凌いだ!」

 ハルバードの柄が火花と共に甲高い音を響かせたと同時、天音さんの声と共に彼女の戦鎚が風を切る音が彼女の突撃を知らせる。目の前にあった気配が何らかの動きを見せたタイミングを狙って、ハルバードの石突を振り上げながら立ち上がり体勢を整える。

「援護します」

 久遠さんの、静かながら強い声。それと共に純白の羽根が3枚、光跡を描いて戦鎚を弾いたばかりのターレスへ向かう。魔力を纏わせた合口がそれぞれの羽根を打ち落とし、返す刀で纏わせた刃状の魔力を久遠さんへ飛ばす。

 

 その後の私を含めた3人による攻勢は、チャーマーズが割り入ってくる前よりもかなり勢いの乗ったものだ。しかし、それ以上に堅牢さを増した防御姿勢が反撃さえも許してしまっている。

 けど、引いてしまえばジリ貧よりも悪化した状況になる事は目に見えている以上、この綱渡りな攻防を続ける以外の選択肢は存在しない。今までだって結局綱渡りだったのだから、今更尻込みしていられない。

 

 

 私の深紅に燃える炎が。天音さんの蒼白い稲妻が。久遠さんの純白に輝く光が。毒々しささえ感じるターレスの深緑の牙と幾たびもぶつかり合い、混じり合った末に爆ぜる。合間合間に各々の武器もまた火花を散らし、時には拳打や蹴撃までもが入り混じる。

 特に天音さんの苛烈さは戦闘中であっても私の目を引くもので、拳や足に魔力の雷を纏わせての攻撃はさながら牙や爪を振るう狼のよう。戦闘能力の高さから、ターレスが最も警戒をしている様子を見せていた。

「こいつはどうだッ!」

 誇示するかのように放たれた魔法(スペル)攻撃を、ターレスは飛び退くように回避する。今までと明らかに異なる、大げさなほどの回避行動だった。

 

「今のは……」

「この技の危険度は、アイツが一番よく知ってんだよ」

 棒、あるいは杭と呼ぶべき形状で放たれた魔力の塊。一見すると、今まで使用してきた中では大したことのない攻撃にも見える。が――――

「麻痺、いえ出魂の呪いですか」

「とびきり強力な分、攻撃力自体は殆どねぇけどな」

 距離が開き、僅かな睨み合いの中で種明かしを受ける。大げさなまでの回避を行った理由は分かった。けど、それが天音さんの使うことが出来る魔法(スペル)攻撃だと知っていたとしても、ここまで警戒するものだろうか。

 

 

「あの技はな、元々アイツ(千暁)が使ってたんだよ。相性の問題で、使用頻度はアタシの方が高くなったけどな」

 ギリ、と歯を食いしばる音が聞こえた。ターレスの……ちー姉ぇのあの反応は、ただ危険だから飛び退いた、というだけでは無かった。

 天音さんの言動で合点がいったが、天音さんは何らかの疑問を抱いて、それを確かめる為にあの技を使ったのだろう。そして、それが悪い方向に当たってしまったということだ。

 

 恐らく、という前置きが必要にはなるが、天音さんは私達を私達として識別しているのか、ということを確かめたかったのだろう。そして、驚愕のような気配と共に飛び退いたのを見て、識別している、と確信したのだと思う。

 つまるところ、ちー姉ぇは、私達が妹や戦友である、と理解した上で殺しに来ている、ということ。今更な話ではあるかもしれないが、確信できるものと共に改めて付きつけられると、来るものは私にも、ある。

 

 けど。

 

「あの時、チャーマーズにトドメを刺したときから分かってはいました。そして、私もあの幽鬼をちー姉ぇだと理解した上で、倒そうとしています。少なくとも私はもう、決めました」

「……ま、そうだな。ちっとばかしビビっちまったが、あいつをブン殴ってやることはアタシも変わりねぇぁ」

 獰猛な、肉食獣のような気迫が隣に帰ってきた。頼もしい限りだが、肝心なところを取られないように私も気合を入れなければ。

 

 それと、このやりとりの中で得られたものもある。対ターレス戦における切り札になるかもしれない一手が。タイミングを逃せば意味がないけれど、それさえ逃さなければ意表は突ける……かもしれない。

 この睨み合いも、もう終わりを告げるだろう。いや、告げる。再び一番槍として、私は地を蹴って這うように駆け出す。自分の体で相手からの視線を遮りながら、足へ魔力を溜めていく。

 

「やああっ!」

 多分、読まれてはいるのだろう。ならば、それを正面から打ち破るのみ。足に溜めた魔力を使い、横薙ぎ一閃の攻撃を囮にしながら上空へ跳び上がる。遅れることなく上へ向く視線を感じながら、しかし私の心が動揺することは無かった。

 

「はっ!」

 今までのエアリアルストライクであれば、魔力をハルバードの穂先に纏わせて投げつけていた。けれど今回はそうじゃない。自分の体が隠れる程度の火球を形成し、速度を重視して打ち出す。

 火球は、さながら太陽が迫ってくるような感覚を覚えるだろう。けど、本命ではない。ハルバードの穂先へ、渦巻くように魔力を纏わせながら、空中を魔力の力で蹴りつける。

 標的に火球が当たる直前、ハルバードに纏わせた魔力で火球を突き抜け、炎を魔力の渦に巻き込んで突撃。エアリアルストライクの発展技――ドラゴンストライク、とでも呼ぶべき強化(アーツ)攻撃。魔力消費が非常に大きいこともあって、初披露する切り札の一つだ。

 

 火球による目くらまし、火球を破裂させることによる爆風、そして炎を纏ったハルバードによる突撃。三段構えの技に、に初見技であることを加えた四段構え。

 流石に、完全な状態でダメージを与えることは出来なかった。火球は見た目がほとんどで、幽者くらいは兎も角幽鬼以上となれば心許ない威力しか出ない。それにしても、本命の攻撃がある事を見抜かれて、真正面からハルバードを交差した刀で防御されかけたのだから驚きだ。

 

「グ……ア……!」

 防がれた、とは言え、ダメージは通った。魔法(スペル)攻撃が魔法(スペル)攻撃や強化(アーツ)攻撃でなければまともに打ち合えないのなら、強化(アーツ)攻撃に対してもまた然りだ。普通の防御行動では、防ぎきれるものではない。

 呻き声をあげて怯むターレスだが、私も大技の後体勢を整えきれず、追撃に移れない。けど、私以外なら。上空で風を切る音と魔力が渦巻く気配を私もターレスも感じ取って、弾かれるように行動に移す。

 

「オラァッ!」

 魔力を帯びた戦鎚と剣が、再び交差された打刀と合口に牙をむく。激しい火花と金属音が、一撃の重さを物語る。魔力を纏った強烈な一撃を、異形化した幽鬼の膂力で以て真っ向から受け止め、一瞬その場のすべてが停滞した。

 

 しかし止まった時間は刹那の間を置いて再び動き出す。一瞬の拮抗を見せた鍔迫り合いはターレスが回転斬りの様に2人を弾き飛ばして呆気なく終わりを迎えた。

 弾き飛ばした隙を狙って、ハルバードを振り抜く。長物による一撃は、無理な姿勢で突き出された2振りの刀を弾き、大きく体勢を崩すことに成功する。

「っ、ここ!」

 振り抜いたハルバードの柄を強引に引き戻し、石突をターレスへ向けて突き出す。脇腹へ石突が食い込み、致命打まではいかないまでも、それなりのダメージが入ったはずだ。初めて、ターレスにたたらを踏ませた。

 

 

 ハルバードの扱い方は、千暁さんが心構えを教えてくれたから習熟出来たことだ。石突を積極的に使えるようになったのは、間違いなくちー姉ぇのおかげである。だから、心苦しさが無いと言えばウソだ。

 けど、心苦しいだけでは無い。ちー姉ぇに教わったことで、理性と呼べるものを失ったちー姉ぇを止める。そこに誇りと使命感を感じているのも、また確かだ。

 

 だから、切り札を切るなら、このタイミングしかない。ダメージを与えた私を睨むターレスは、一時的に私にのみ意識が向いている。だからこそ、私も反撃できる可能性がある。

 

「行きます……!」

 私が何かしようとしている、という気配を察したのか、久遠さんが背後から攻撃を仕掛ける。そこへターレスが意識を向けた瞬間、私もまた距離を詰めコンパクトな横薙ぎの一閃を振るう。

 久遠さんの一撃があまりにも軽い音を立てて弾かれる。そして背後から迫る気配に、そちらが本命かと本能的な勘が認識したのだろう。合口がハルバードとターレスの間に滑り込まされ、金属音が鳴り響く。こちらも、先程よりはマシだが軽い音だ。

「ここ……ッ!」

「が、ぁ……!?」

 ハルバードが弾かれた勢いを利用し、足を振り抜く。攻撃を囮に練り上げた魔力は、至近距離から()()()()()()()()ターレスを打ち据える。付与された出魂の呪いがターレスの身動きを封じた。

 

「っ、天音さん!」

「おう!」

 適切な距離を取る為に後ろに飛びながら、天音さんへ叫ぶ。それだけで意図を理解した彼女もまた、先程見せた出魂の呪いを付与する杭を放つ。

 魔法(スペル)攻撃は、実現できる実力と発想さえあれば、他者の物を真似て使うことが出来る。天音さんがちー姉ぇの技を学んだように、私もまた天音さんからその技を学んで、使った。

 

 二重に呪いに縛り付けられたターレスが、もがこうにも指先1つ動かせずに留まる。これで終わりだ。防御行動さえできない無防備な所へ、強力な攻撃を打ち込む。如何に力のある幽鬼と言えど、そうなってはどうしようもない。

 

 私の右足に、練り上げた魔力が渦巻く。これで。これで、終わりだ。

 

 

 ――――そう、これで終わりなんだ。

 

 

 飛び上がって、今ある魔力全てを纏った右足で蹴りつける。この一撃で、終わる。

「っ、う、ああああぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

 

 ……さ……よ

 

 

 蹴りつける直前。掠れるような声で、そう聞こえた。

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