CRY'sTAIL   作:John.Doe

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歪み乱れる格率
歪み乱れる格率-1


 実った麦畑のような黄金色の空。金や銀に鈍く輝く巨大な歯車があちらこちらに浮かび、それぞれ同期しているのか分からないようなリズムを刻んで回っている。

 途切れ途切れに年輪の様に浮かぶ足場の中央に鎮座する、幾重にも連なった歯車の巨大な塊。ひときわ目立つ「それ」が、この旅のひとつの終着点になるはずだった場所。

 

「ここが……再生の歯車……」

 死んだ人間が生まれ変わるまでの、最期の旅路の最果て。辺獄という所在地名に反し、どちらかと言えば仏教に寄った概念の機構であり、辺獄を駆ける代行者にとってはヨミガエリのタイムリミットを示す機構でもある。

 

 

 再生の歯車。死んだ魂が辺獄を通りここへ辿り着くと、魂は浄化され次に生まれるのを待つことになる、らしい。浄化された魂には原則として生前の記憶は残っておらず、稀にエラーのような状態で残滓が転生後も認識できる。そんな程度だ。

 即ち、所謂輪廻転生をベースにした思考が馴染む機構であり、ヨミガエリそのものはキリストの復活に近しいものはあるだろうがその他については少し理を外れる。そんな辺りが、私の認識だ。

 

 尤も、メフィスとフェレスが100の事実を私達に伝えているとは思えないし、そうする必要性が彼女達にとっても無いであろうことから、あくまで私個人の認識でしかない。

 それに、如何に正しい認識をしていようが、最早私には関係のないことだ。これが、院長先生をまだ信じていたり、ちー姉ぇの魂を殺し切っていなければ、最重要項目だったかもしれないが。

 

 

「うむ、無事に辿り着いたようじゃな」

「メフィス……今日はフェレスは不在?」

「今は別の代行者のところへ行っているが故な。まあ大した用でもない。こちらの話が終われば、ワシも向こうを追うことになろう」

 こほん、と咳ばらいを挟んで、メフィスは続けた。

「先刻承知の通り、お主らがここに辿り着いたのは誰かをヨミガエリさせる為ではない。幽鬼の姫を追うという、ある種恨みつらみに起因するものじゃ。ワシらから提供できる情報もほとんどない」

「相変わらず肝心な時に役に立たねぇな」

「そう言ってくれるな。ヤツは力を付けすぎた。それこそ、ヨミガエリするには過分な程。ワシらも長いこと辺獄を管理してきて、初めて遭遇するレベルのイレギュラーでな」

 監視する事さえ意味を成さない程のイレギュラー。そういう意味で、もう1人の代行者の方へ向かうということなのだろう。まあ、居ても役に立たないのなら、戦力として力を振るってくれる久遠さんの為にもご退場頂く方が私も有難いけれど。

 

「とは言え、じゃ。ワシらとしても、ただお主らを放り出して終わりというのは管理者としての名折れ。一時的にじゃが、お主らの携帯電話を手元に呼び出せるようにしておいた」

「こちらから連絡が取れる、ということ?」

 うむ、とメフィスは頷いた。確かに、普段こちらから辺獄の管理者(メフィスとフェレス)に連絡を取る手段はほぼ無いと言って差支えない。何かトラブルがあった時も、向こうが気づくのを待つほかないのだ。

 そういう訳で、私達から彼女らにコンタクトが取れるというのは、かなりの進歩と言える。口振りからしてそれなり以上にイレギュラーな対応だろうから、それだけ彼女らも本気ということだろう。

 

 

「電話、メッセージ双方共繋がるはずじゃ。何か手がかりが見つかり次第連絡を貰えれば、そこからワシらしか知り得んことから分かる事があれば伝えよう」

「……分かりました。一先ず、私達は最奥、再生の歯車を目指す形で幽鬼の姫を探す。これでよろしいですか?」

「ああ、アタシも異論はないよ。気長に行くべき目標だが、小目標は迅速に、だ」

 天音さんに視線を向けると、二つ返事で肯定が返ってきた。付け足されたことも尤もなので、私も早速心意気を改め、進行すべき方角を見据える。

 

 ガコン、ガコン、と重い音を立てながらリズムを刻む歯車達は、サイズの差だけではなくあちこちで独立するように浮遊し、別々のタイミングで音が聞こえてくる。重く低い音は、その光景も相まって荘厳ささえ感じさせた。

 生命の浄化を行う、という場所であるからして、こういった荘厳さを抱くというのは強ち突飛な感想でもないのかもしれない。辺獄という場所の名前と、そこを管理する悪魔達の性格がそういう神聖な場所だと認識させないのも事実だが。

 

 

「見るに、中心……再生の歯車至近まで近づくには、途切れ途切れの年輪を右往左往しながら徐々に中心へ近づくほかない……ということですよね」

「ああ。でもって、ここをうろつく幽鬼や幽者ってのは、再生の歯車に耐えるほど強力だ。だから、アタシらが挑んだ時は、大体3回くらいに分けてアタックした。姿見(区切り)もあったし、そういう想定なんだろうな」

 

 3回のアタック、つまり攻略までに2度は帰還を挟んだ、ということ。ペースとしては、他の層の攻略と大差ないといったところ。それは平常時のペースを保つことで焦りを押さえる意味合いもあるのかもしれない。

 アタシは千暁のおかげで大分ラクをしたけどな、なんておどけながら歩く天音さんの表情は、伺うことが出来なかった。けど、その背中からにじみ出るのは、寂寥感ではなく闘志のようなものだったのは、間違いではないだろう。

 

 

「すみません、お待たせしました」

「いえ。私も周辺の偵察等をしておきたかったので」

 最初に辿り着いた広場では、既に久遠さんが私達を待っていた。待っていた、ということは、久遠さんの言う偵察には一区切り着いた状態なのだろう。

 

「軽くですが周囲を見渡したところ、これといった異常はありません。幽者、幽鬼共に数は少ないですが、個体としては強力なものが大多数のようですね」

「やっぱり前と変わんねーか。ま、こっちにはそれと同等以上の幽鬼(久遠)とそれに食らいつける代行者なわけだ。質じゃ負けてねぇ」

「つまり、天音さんが言っていた、3回に分けてのアタックでどこまで疲労を敵に回さないか。そういうことですね」

 ああ、と頷いた天音さんが、得物たる戦鎚を肩に担ぐ。彼女の視線を追えば、この広場から伸びる唯一の進行方向にある広場に、数体の幽者がうろついていた。倣うように、私と久遠さんもハルバードと直剣を、持ち運びの体勢から戦闘に備えた構えに移す。

 

「ま、アタシや久遠がどんだけここの幽者が強いっつっても、体感しなきゃ分らんだろ」

「同感です。いえ、私も実際に戦ったことは無いので、この辺りで感覚を矯正するつもりですが」

「掛け値なく心強い味方で嬉しい限りです。本当に。では、よろしくお願いします」

 

 

 

 魔法(スペル)攻撃2回、強化(アーツ)攻撃1回。これが、私が2体の幽者を倒すまでに要した、リソースの必要な攻撃回数だった。強い、という感想が真っ先に頭を埋める。単純にタフネスに優れ、そして攻撃も重い為攻め手を減らさざるを得ない。

 確かにこれは、数回に分けてのアタックが必要だ。素直にそう思った。リソースもそうだが、精神的に大分キツい。壊れない壁を殴り続けるような感覚に陥った。

 

「……これ、天音さん達が攻略した時もこんなにタフだったんですか……?」

「いや。多分、アタシん時より強力な奴が増えた。変な事の前触れじゃなきゃいいんだけどな」

 導入(イントロ)としては非常に幸先の良くない答えだ。天音さん達ですら苦戦した幽者達が、更に強くなっている。しかも、天音さんは当初より力をつけた状態でそう感じるわけだ。気が滅入るのも仕方ないことだと思う。

 

 目的は誰かのヨミガエリから幽鬼の姫を追うことに変わったとは言え、制限時間が不可視である事に変わりはない。つまり可能な限り急ぐ必要があるが、こうも幽者達が手強いと一筋縄ではいかない。ハルバードを握る力が思わず強くなる。そうしたからと自分がいきなりパワーアップするわけではないが。

 

 ああ、しかし思装を見直すのは良いかもしれない。ちー姉ぇから受け取った思念とは、まだ真っ向から向き合えていない。これが絶好の機会で、最後のチャンスだ。

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