CRY'sTAIL   作:John.Doe

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悪魔の存在証明-7

「ふーっ……ヘーゲル!」

 大きく息を吐き出し、自分の中にある激情を直視すると共に、その名を呼ぶ。傍らに浮かび立つ、半透明ながら確かな存在感を持つ、竜のような鱗を纏った大男。千暁さんと千さんもそれぞれの代行者を傍らにホッブズと相対する。

 

「後ろは私が詰める。小夜と千、貴女達は何も考えなくていい」

「承知した!」

 威勢の良い返答を返す千さんよりも一拍早く、私は地面を蹴り飛ばして突っ込む。ヘーゲルを傍らに呼び出した瞬間から、私の頭の中はいつ突撃すればいいのかを今か今かと待っていた。

 お預けされていた突撃が解禁され、身体がグンと前へ加速する。ハルバードが刃に纏った魔力を炎に変え、叩きつけるように斧刃を振るう。勢いも魔力も威力に変えた一撃が、確かにホッブズの巨大な頭部を捉えた。

『ぐ、ァ……!?』

 苦悶の声が漏れたが、致命傷には程遠いようだ。だけど、理念開放をしたのは私だけではない。私の背後から飛び上がった千さんが、畳みかける様に両手の双刃で幾度も斬りつける。

 

 先程までより、格段にダメージがダメージとして通っている。ただ、押し切れる程かは分からない。ホッブズがどの程度のタフネスを持っているかも、怒りが冷めるという時間切れまでのリミットも、数値化するのは難しいから。

 ただ、今できるのは倒し切る為に攻撃を続けることだけだ。難しいことを考える必要も余裕も私には存在しない。ただ、今はこの感情に身を任せて刃を振るうだけ。

 

「シッ!」

 目にも止まらぬと言うべき一閃が、ホッブズを挟むように2回閃いた。代行者と距離を取っての、別行動とも言える絶技は相変わらずの冴えを見せ、しかし僅かにいつもよりも疾さに欠け威力に長けていたようにも見える。その理由は、私だってよく分かっているが。

『クちが……開かない……!』

 2筋の剣閃は、それぞれ麻痺の呪いを宿していたようだ。ダメージは少なかったようだが、多少なりとも動きを鈍らせているように見える。今なら。今だからこそ。

 

 

「指し示すは万象の事解──」

 右から横薙ぎに刃を走らせ、逆の刃で返し斬る。そのままハルバードの柄を回し翻した斧刃でもう一撃。円を描くように、炎の斬撃が躍る。

「其が行き着くは真なる精神──」

 手繰り寄せながら鉤刃で斬りつけ、脇へ戻ったハルバードの穂先を突きつける。刃で抉るように抜き去りながら、後ろへ身体を捻りつつ下がる。刃からあふれる炎が複雑な軌跡を描いて幽鬼の体を焼いた。

「我が成すは自らの意志! 絶対精神(アブソルチュア・ゲイスト)!!」

 身体を軸にハルバードを1回転、飛んだ勢いも乗せて渾身の刃を叩き込む。全ての攻撃は炎を供に、私という代行者が持てる最大の威力を以て敵を襲う。

 

『か、ァ……! 馬鹿、ナ……マだ……全然、食ベて……』

 私だけではなく、ちー姉ぇと千さんもまた、理念開放を行った際の特権である、いわば必殺技とも言えるそれを叩きこんでいた。流石に、3人の代行者による最大火力の同時攻撃に耐えきることは出来なかったようで、ホッブズは早回しのビデオ映像のように急速に萎れ、枯れ倒れていく。

 

「倒し、た……?」

「ああ。ああ。私も胸のつかえが一つとれた気分――」

「まだ思念は残ってる、気を付けて」

 肩から力と気が抜けていくような感覚を覚え始めた途端、戒めるようなちー姉ぇの言葉にハッとして幽鬼が消える時の煙を意識する。思念の存在を忘れていた訳ではないが、気が抜けていたのもまた確かだ。

 

 

 

 

 

『さて、経過はどうかの?』

 ふと聞こえた声に、半ば反射的に視界がそちらを向く。光源を背に、見下す様に浮遊する人影が2つ。顔が陰って見えないものの、正体は「いつもの2人」だということは考えるまでもなかった。

『まだ意識は結構残ってるみたいだね。本人の強度か、それともボク達が温かったのかな』

 何事か喋っている人影に、返すべき反応は浮かばない。喋っていることは分かるが、音として聞き取れても意味が入ってこなかった。外国語どころか異星人の言葉を聞いているような気分だ。

 

『ぉ……あ……?』

 口を開こうにも、思ったように動かない。喋ろうとすると言語の体を成さず、乳児のクーイングよりも酷い有様なのが自分でも分かる。だが、何を喋ろうとしたのかまるで思い出せない。たった今のことだと言うのに。

 

『おや? 割と上辺だけだったかな。これはこれでやりすぎちゃったかなぁ?』

『あるいは揺らいでいるのか。暫く様子を見るべきとみるが』

 

 

 

『やあ、まだ生きてるかな?』

『生きてはおらんじゃろ』

『あはっ、それもそうだったね。でもボクらにとっての生死の定義は――――』

『魂の生き死に、じゃろ。さて、本人を蚊帳の外にするのは後じゃ』

『は……ひゃ……』

 "前回"からどれだけの時間が経ったのかは分からないが、意識を向けられたと分かった途端、乾いた笑い声のような音が自分の口から洩れた。ような、というよりはそのものだったと思う。

 

『前回よりはマシじゃな。これならば使えるじゃろう』

『そうだねぇ。そろそろあの子も勘づくんじゃないかな』

『……そう言えば、もう1組の方。あれも縁があった筈じゃな』

 何事かを喋りながら、2つの人影がゆっくりと歩き寄ってくる。こみ上げてくる根源的な恐怖と、歓喜。相反する筈の感情が、自分の中で同時に沸いた。

 そんな混沌とした感情など知る由もなしとばかりに、歩み寄ってきた2つの人影がこちらへ手を翳す。止まれ、というハンドサイン等ではない。もっと別の、恐ろしく悍ましい何かの為の動作で――――

 

 

 

 

 

「今のは……」

「小夜、もう大丈夫なの?」

「あ、はい。ただ、奇妙な点が1つ。あと、やっぱりかという点が1つ」

「……聞かせてくれるか。あたしも、今は色々断片的なことしか分からない」

「勿論です。現状、まだ久遠さんは目的を果たしていないようですね」

 

 久遠さんがやり直すことを選んだ、久遠さんにとって4回目の世界――私にとっては前回と呼ぶべき世界では、私と会った千さんは状況を概ね把握していた。つまり、まだ久遠さんが事を成し遂げていない今はそうではない、ということか。

 兎も角、まずは共通の目標をアップデートしなくては道行も定まらない。あの思念が持っていた、走馬灯めいた記憶に写っていた、2人の悪魔のことを。

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