CRY'sTAIL   作:John.Doe

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悪魔の存在証明-8

「そう……敵とは思っていたけど、想像以上に悪辣にやってるみたいだね」

「……その。実は、今まで受け取った記憶だと、他にも悪魔達が裏で糸を引いていたようなんです」

 前回の世界の記憶は、まだ2人に伝わり切っていない。更に言えば、その前回の世界の記憶も、私が直接見聞きしたのではなく、千さんから漏れ聞いた程度のことも多く含む。だが。

「とすれば、あたし達が巻き込まれた事件は一連の大きな事件で……それを全て悪魔達が操っていた可能性がある、と」

「その可能性は高いと思います。私も全体からすると断片的な情報しかないので、断定は出来ませんが」

 あの悪魔達がそういったことをやりそうか、やりそうでないか、で言えば。まあ私達の共通認識は一瞬でやりそう、に一致した。

 

 

 

「事実を確かめるにも、事実だった場合に対抗するにも、結局のところ久遠を追うしかない、ってところは変わらないかな?」

 ちー姉ぇの確認に、私も千さんも頷いて返す。私はそもそも、久遠さんを追うつもりだったのもあるが。

 

「あたしは……いや、あたしも同行すべきだろう。先の話を聞く限り、どうにも何か大切なものを取りこぼしかねない話のようだからな」

 そう言った千さんは、私に向けて右手を差し出してきた。久しくしていなかったこともあり、それが握手を求める仕草だと気付くのに一拍の間を必要とした。本当に一拍で済んだかは分からないけれど。

 

「改めて、よろしく頼む。あたしはこの辺獄で正義を掴みたい。その為には、あたしは傍にいて見届ける必要がある。多分、だが」

「こちらこそ、よろしくお願いします。私としては先達の手を借りてばかりで恐縮ですが……」

「先の戦いを見る限り、相当に実力者だとあたしは認識しているよ。久遠、という人を追うには頼もしい限りだ」

 そう言えば、千さんは久遠さんと会ったことは無いのだった、と割とどうでもいいことに気づきつつ解放された手を戻す。

 

 

 

「さて、今後の計画について出来れば聞いておきたいんだが」

「はい。最終的には、悪魔達の討伐と久遠さんの追跡、この2つが目的になります。ですが悪魔達も久遠さんも、直に追跡することが出来ないので……」

「まずは久遠の姉、幡田 零を追うことになる。と言っても、これはどちらかと言えば千さん頼りだけど」

「あたし? ……ああ、あたしと零の縁を使おう、という話か」

 心苦しい話ではあるが、全くその通りだった。というか、そのために千さんを引き入れようと動いていた訳なので、打算ありきも良いところだ。

 

 それ(打算)に気づいたのか、ふむ、と少し考えるそぶりを見せる千さん。やや間を置いて再びこちらに視線を戻し、口を開いた。

「あたしとしては問題ないが……強いて言うなら、あたしを頼るなら、零よりも幽鬼の姫の方が繋がりは強い(追いかけやすい)と思う」

「そうなんですか?」

「あたしは、母を喪った。お前も知っているあのバス事故でな。その事故を引き起こした、言わばあたしにとっての復讐相手が幽鬼の姫、ということだ」

「あの事故、やはり幽鬼の仕業だったか……よりによってアリストテレス(幽鬼の姫)とはね」

 

 

 アリストテレス――幽鬼の姫。私達にとっても、無関係ではない幽鬼だ。極めて強力な幽鬼であり、私達にとっては天音さんの仇敵という印象も強い。それが、千さんにとってもそうだ、とは考えてもみなかったが。

 これは完全な推測だが、幽鬼の姫についても、悪魔達が何らかの形で手を出しているのだろう。唆されたのだとすれば、院長先生と同じで元の性格が善良なのかは怪しいところだが。

 

 

「自分で言うのも何だが、怒りは感情としてかなり深い部類だ。仇敵たる幽鬼の姫の方が、追いやすいのは確かだろう」

 そう口にした千さんの表情はしかし、怒り一辺倒というわけではない複雑な表情だった。幽鬼の姫が持つ何らかの事情が、そうさせているんだろうか?

 

「幽鬼の姫を追うなら、天音と合流することになるかもしれないのだけは嫌だけど」

「確かに、合流してくれるなら戦力の増強としてもとても心強いです」

「私は遠慮したいんだけどなぁ」

 本気で嫌がっている風には聞こえない声色でちー姉ぇがぼやく。まあ、この辺りの機敏は今まで散々見てきた中で把握しているので、勝手知ったるというやつだ。会えば勝手に息を合わせてくれることもあって、今私にするべきことは無い。

 

 

 

 

「では、とりあえず方針を纏めますが。まずは幽鬼の姫、追えるなら直接幡田 零さんを探して、久遠さんや悪魔の足掛かりにする」

「最初の一手目はあたしだな。縁を辿ると言うのは初めでだが……何とかしてみせる。結果を2人に連絡する、でいいんだな」

「はい。最初から千さんありきになってしまって申し訳ないですが」

「あたしとしても、目的は近しい。戦力が増えるならメリットだよ」

 辺獄の区切り、姿見の前で最後の打合せを終えて、一足先にと千さんが現世へと帰還する。光が散るように私達の前から姿を消したのを見届けて、ちー姉ぇもまた現世へ。それを追うように、私も現世へと帰還した。

 

 

 現世に戻ると、いつも通り景色は私の私室に一転する。既に陽が落ちかけ、薄暗くなっている室内に灯りを灯して、ようやく一息つける場所へ帰ってきたのだと実感した。

 自分で言うのも何だが、私は人とのコミュニケーションは得意ではない。姉だと知る前のちー姉ぇや天音さんと話すのだって緊張するし、今日は学校の卒業以来会っていなかった千さんとの会話で尚のこと精神的な疲労があった。

 

「……疲れた」

 単純に強力な幽鬼と戦闘した後だ、ということもあるのだろう。押し寄せる疲労感に、思わずベッドへ身体を投げ出す。思い返してみれば、こうして疲労で生活上必要な動作さえ億劫になることが増えた。

 

 辺獄での戦い、というのは肉体的な疲労はそれほど大きくない、と思う。現世と違う世界での行動だからというのが主な理由だろう。

 

 では、疲労の主である精神的な疲労は何なのか。やはり一番大きいのは、命がけの戦いであるという点に尽きる。少なくとも、今の日本において私のような一般人が味わうことは無い緊張感に、辺獄にいる間ずっと晒されるわけだ。

 そう考えると、ちー姉ぇが辺獄で体と心を擦り減らし、命を落としてしまったという結末も……納得できるものではないが、理屈として理解することは、できる。人間の体はオーバーワークし続ける状況に耐えられるようには出来ていない、と嫌でも理解してしまう。

 

 

「お腹空いたな……先にご飯にしよう」

 ぼうっとベッドに寝転がったまま天井を見上げる私の口から、ほぼ無意識にそんな呟きが漏れた。辺獄で代行者として活動を始めてから、こうして独り言を漏らす事が増えた。独り暮らしだと独り言は増える、とよく聞くけれど……誰かと会うようになってからこうなるのは、なんというか少し皮肉な話だ。

 

 あるいは、誰かと話すことのないこの部屋に戻ってきたことを、少しは寂しいと思っている……のかもしれないけれど。

 

 

 台所で一口大の鶏肉と野菜を煮込みながら、ふと手元のスマートフォンに視線を向ける。画面は真っ黒、何らかの通知を示すランプも沈黙中。つまり私の意識は今、能動的に、私からのアクションを起こすべきか迷っている。

 確信が持てない。ちー姉ぇは繋がった。けど、もう1人。私には、連絡を取るべき人がいる。哀川 天音……天音さんだ。

 

 そもそも食事しながら、あるいはその用意をしながら電話を掛けるのは無作法に過ぎると気付いて、一先ず煮込み終えた主菜と米、あとは作り置きのキンピラゴボウを副菜に食事を終え、食器をシンクで水に浸しておく。

 ふう、と1つ大きく息を吐く。テーブルにポツンと置かれたスマートフォンは、通話を待機する画面のままジッとしていた。意を決してスマートフォンを手に取り、画面の通話ボタンに触れる。

 

 

 

『……もしもし?』

「突然すみません。天音さん」

『誰……いや、小夜。小夜か』

 3、4コール程で繋がった相手からは、最初は訝し気な声色が聞こえてきた。多分、その時は私と天音さんは「繋がって」いなかったのだ。そして私が名前を呼んだ辺りで「繋がった」んじゃないか、と思う。

 本来であれば辺獄で鉢合わせた時に、繋がったことを認識してそれでおしまいだったと思う。けど、これは私の、人としての義理というか、けじめだ。

 

「えっと、本当に突然ですみません。でも、やっぱり話を通すのが筋だと思ったので」

『辺獄関連の話、ってことは何となく分かった。詳しく聞いて良いか?』

「はい。結論から言うと、厚かましい話ですがまたご協力いただけないか、と。メフィスとフェレスをブン殴りに行くので」

『ハ、そんな面白れぇ話じゃ乗らないワケにゃいかねぇな。今、小夜と話したから分かったんだろうが、奴ら随分と舐めた真似してくれたみたいだしな』

 顔が見えないはずの電話口の向こう側で、獰猛な笑みを浮かべた天音さんの顔が見えた。気持ちは分かる、というよりは私も当事者なので、まあ概ね同じベクトルの気分ではあるのだけど。

 

 

「現状については、ちーね……千暁さんとは無事合流しました。それともう1人、千さん、恵羽 千さんとも合流出来ました」

『恵羽……ってーと"前回"最期にお前が会った、って奴か』

「はい。その節はお見苦しいところを……」

あいつ(千暁)もアタシも似たようなモン見せてんだ、気にするこたぁねぇよ。』

 苦笑いを浮かべているのが想像できる声色が帰ってきて、こちらも釣られるように苦笑いが浮かんだ。刺々しいというか、ラフなというか、そういう語調ながらも、やっぱり優しい人だと思う。頼れる姉御肌、と言えばいいのだろうか。

 

 

 それから、実務的な……千さんからの連絡待ちであることや現状の最終目的について情報を渡し、今の天音さんが仕事や学業を気にしなくてよい状況にある事を聞くと言った打ち合わせを終えた。そのまま千さんとちー姉ぇに、天音さんが合流する旨を伝えて、今晩するべきことを一通りやり遂げた。

 

「ふー……ふふっ、ちー姉ぇ、予想通りのリアクションだったな……」

 疲労感に身を任せ、ベッドへ仰向けに転がりつつ呟く。げっ、という声も、言葉と裏腹にそこまで嫌そうではない声色も、ほぼ十割予想していたリアクションだった。

 

 反応が未知数であった千さんについても、幽鬼の姫を追っている人だという説明に納得したらしく、また同情というか、同感だとでも言いたげなリアクションで概ね合流には好意的だったのは良かった。

 思い返すと、千さんが辺獄にいる理由はよく知らなかったが……彼女もまた幽鬼の姫関連なのだろうか。被害者だとすると、ちょっと辻褄の合わない様子が見えるけど。

 

 

「いずれにせよ、これでまた一歩、近づける。今度は、今度こそは、納得できる終わり方(ハッピーエンド)に……絶対に」

 決意表明の代わりに、誰に聞かれるともなく口にする。幽鬼の姫

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