アインクラッドからの転生者   作:アルシャ

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第1話 アインクラッドからの転生者

 かすかな風の音と共に、コツ、コツと音が聞こえてきた。

 振り返ると、1人の男が、長剣と十字盾を構えて、この尖塔の屋上にやってきていた。

 男は闘志を燃やしており、ただならぬ雰囲気だ。

 

「……ここは、この城の中で一番高い場所、つまり、一番いい景色を見れる場所だ、そう思わないか?」

 

「……」

 

 全天燃えるような夕焼けだった。

 どこまでも続くような夕焼け空。鮮やかな朱色から血のような赤、深い紫に至るグラデーションを見せて無限の空が果てし無く続いている。

 

「景色を眺めにきた……と、言うわけでは無いのだろう?」

 

「勿論だ」

 

「そうか……考え直す気は」

 

「無い」

 

「……俺もだ、だから、この鍵は渡さない」

 

「渡してもらおう、この先に進むために、その鍵を、例え、お前を殺してでも」

 

「渡さない、この世界を守るために、この鍵を、例え、お前を殺してでも」

 

 男は腰に下げていた2本の剣を抜き、両手に構えた。

 

「ここを、クリフの墓場とする、この先はない」

 

「いや、私は先を進んで行く、だから今日が、お前と、この城の最後だ」

 

 ……

 

「ハァァァァア!!!」

 

「うぉぉぉぉぉ!!!」

 

 ガキン! 

 剣と盾がぶつかり合い、火花が散り、二人の顔を一瞬明るく照らす。

 金属がぶつかり合うその衝撃音が、戦闘開始の合図だったとでもいうように、一気に加速した二人の剣戟が周囲の空間を圧した。

 

 戦いの火蓋は、切って落とされた。

 

 

 ──────────────────

 

 

 チリリリリン! チリリリリン! 

 

「っ、もう朝か」

 

 俺は目覚まし時計によって、夢の世界から目覚めさせられた。

 

 随分と懐かしい夢を見た。

 俺がこの日本で生まれる前の、前世の夢を。

 

 突然だが、俺には前世の記憶がある。

 ……待て、俺は頭の痛いやつでは無い、と、思う。

 いや、前世の記憶がある時点で頭の痛いやつなのかもしれないが。

 何故前世の記憶があるのかは知らん、あるんだから仕方ない。

 

 前世では、戦いの日々だった。

 戦って、戦って、先を知るために登り続けた。

 何度も傷つき、死にかけて、数々の敵を、人を殺して、4人で駆け上がって行った。

 先を知るために、この先に何があるのかを知るために。

 そして最期には……

 

 そんな激動で、毎日が死と隣り合わせの血なまぐさい人生を送って来た俺が、今では平和な日本の学生だ。

 俺は今だに、この平和にあまり馴染めていない。

 まだ身近に知らない生物の気配を感じると、つい腰に手が伸びてしまうくらいだ。

 

 別に俺は戦闘狂ではない、と思う。

 勿論、クリフやカズヤに比べれば、脳筋ではあったが。

 

 前世では毎日が闘争の日々だった。

 だから平和に馴染めないのも仕方ないのかもしれない。

 

 しかし、もう十数年間生活していて未だに馴染めないのは、やはり前世に心残りがあるからなのかもしれない。

 いや、今だに夢に見るくらいだ、間違いなく心残りのせいだろう。

 

 だが、前世は前世、今生には一切の関わりがないことだ。

 そう、自分に何度言い聞かせても、いつまでも忘れることができなかった。

 

 平和だ、本当にこの国は平和だ、平和が過ぎる。

 だって、まだこの十数年あまりの人生で、たったの二度しか命の危機が無かったくらいなのだから。

 まあ、その内1回は5歳の頃だったから、結局途中で力尽きたんだが。

 だからあれは俺の力ではなく運良く助かっただけだ。

 

 目覚まし時計は、6時半を指している。

 そして、ゆっくりと針が進んで行く。

 だが、俺の時は、きっと前世で止まったままだ。

 

 

 ────────────────ー

 

 

「おはよう、詩乃」

 

「おはよ、お兄ちゃん」

 

 俺は妹が用意してくれた朝飯を食いながら、ついていたテレビを見た。

 

 テレビにはナーヴギアと言うものが写っている。

 ナーヴギアとは、2022年5月に発売された、頭から顔までをすっぽりと覆う、流線型のヘッドギアで、これを被ると、ゲームというものが遊べるらしい。

 

 しかも、普通のゲームというものではなく、ゲームという世界の中に行けるらしい。

 フルダイブだとかなんとか。

 

 と、テレビが話している。

 

 正直、何を言っているのか分からなかった。

 確かゲームと言うものは、ボタンを押すと絵が動く不思議な玩具だったと思うのだが、あのヘルメットを被ってどうやって遊ぶのだろうか? 

 

 分からない。

 

 それからもテレビは、信号素子がなんとか、電気信号がなんちゃら、脳がどうのこうのと、訳のわからないことを話していた。

 

 多分、クリフやカズヤならわかるのだろうな。

 あいつらは頭がいいから。

 もしかしたら、キズナもわかるかもしれない。

 

 分からないのは俺だけか。

 いや、分かろうとしないだけか? 

 

 正直に言うと、あまり興味がない。

 別に、これに限ったことではないが、俺は今生では物事に対する興味が薄い。

 

 それは、今だに前世を忘れられないからだと思う。

 いくらこの世界に、日本に転生したと言っても、俺の心は、魂は今だに、前世のアインクラッドに囚われ続けているのだろう。

 

 テレビに興味を失った俺は、朝食を食べることに集中した。

 

「……美味い」

 

「そう」

 

 

 ──────────────

 

 

「なぁなぁ、ソードアートオンライン、みたか!? ヤッベっしょ! まじで!」

 

「マジヤベーよな!? パナくない!?」

 

 学校で、席について窓の外をボーッと眺めていると、クラスメイトたちの声が聞こえてきた。

 

「俺あのPV見てマジやりたくなったわー」

 

「じゃあテスターの応募したん?」

 

「したにきまってんだろモチノロン! だけど1000人とか少なすぎだわマジで、俺たち日本人何人いると思ったんだよ、72億だぞ! 72億人! その中の選ばれし1000人とか、マジ無理無理」

 

「だよねー、えっと、72億分の千だから、72万分の1くらい? うっは、宝くじ!」

 

「あー、1億円ほしーわー、どっちがいい? 宝くじ1億円と、ソードアートオンラインのβテスター!」

 

「「「「「1億円!!!」」」」」

 

「お金には勝てなかったよ……」

 

「因みに、ナーヴギアの総販売台数が約20万なので、最高でも20万分の千、つまり倍率200倍程度であり、72万分の1ではない、何より72億の千分の一は720万、そして、日本人は約1億2600万人程度であり、世界人口が約」

 

「ところでさ、モチノロンって、言い換えるとヤバない? モロの」

 

 ガラガラガラ

 

「席つけよー」

 

 教室に先生がやってきた。

 

「「「「「はーい」」」」」

 

 

 ──────────────────

 

 

 今日も、代わり映えのしない平穏な1日が終わった。

 ずっと、この平和な日々が続くのだろうか? 

 続くんだろうな。

 

 俺は漠然と、そう考えていた。

 

 

 ──────────────────────

 

 

 それから、数週間の時が過ぎ去った。

 

 今、世間では、ソードアートオンラインというものが流行っているらしい。

 

 クラスの人間も、街の中の人間も、テレビの人間もみんなソードアートオンラインと、ナーヴギアの話ばかりをしている。

 

 あまり詳しくは知らないが、魔法という不思議なものがない世界で、武器一本を頼りに駆け抜ける物らしい。

 

 魔法がある世界というのもよく分からないが。

 

 なんとなく、面白そうではある。

 前世では、ずっと戦っていたからな。

 もしかしたら、楽しいかもしれない。

 だから、少し興味を抱いた。

 

 だが、そのゲームをやるには、宝くじを当てないといけないらしい。

 そして、宝くじとは、72万分の一の確率で当たるらしい。

 確かクラスメイトがそう話していたのを覚えている。

 

 ちょうど通学路の近くに宝くじ屋があったので、学校の帰りに寄ってみた。

 

「いらっしゃい、一口200円だよ!」

 

 200円、72万分の一で当たるものが、1回200円、つまり、1億4400万円分くらい宝くじを買わなければソードアートオンラインは出来ないのか。

 

 俺は鞄の中の財布を開いた。

 財布の中には2154円しかなかった。

 

「……無理か」

 

 ソードアートオンライン、面白そうではあるが、諦めるか。

 俺は宝くじ屋を後にした。

 

 そうして家に帰っている途中、街中で一つのポスターが目に入った。

 

 そのポスターには、空に浮いた鋼鉄の城が書かれていた。

 俺は何故か、それから目が離せなかった。

 

「これ、は」

 

 心臓の鼓動が早くなり、街中の雑踏の音が遠ざかっていった。

 

「ま、さか」

 

 俺はこれを見たことはない、はずだ。

 なのに、見たことがある気がする。

 俺はこれを知らない、はずだ。

 なのに、知っている気がする。

 

 ………………ま、さか、まさか!? 

 あり得ない! なぜ、何故だ!? 

 何で、何でここに、ここにある? 

 

 似ているだけ? 偶々? 

 だが、よく思い返してみれば、前世の幼い頃の朧げな記憶の中に、4人で展望テラスから見上げた景色と、このポスターの絵が重なるところがあった。

 

 これは、この場所は。

 

 そのポスターの隅には、こう書かれていた。

 

 ソードアートオンライン、浮遊城アインクラッド、と。

 

 

 ──────────────────ー

 

 

 俺はしばらくその場に立ち尽くしながら、何故、何故、何故、と考え続けていた。

 

 だが、どれだけ考えても分からなかった。

 ならば、やるしかない、やってみるしかない。

 

 ソードアートオンラインを。

 

 俺は急いできた道を戻った。そして、とある店に入った。

 

「すみません! 宝くじをください!」

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