アインクラッドからの転生者   作:アルシャ

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第10話 キリト

 俺は早速、剣の使い心地を確かめるために村を出た。

 

「良し」

 

 剣を持つのは前世以来だから、十数年ぶりか。

 

 俺は、腰に下げた鞘から、剣を引き抜いた。

 

「……ん?」

 

 おかしい、剣が思ったよりも少し重い。

 軽々しく扱える程度の重さしかないと思っていたのだが。

 見た目よりも重たいのか? 

 

 いや、材質を見る限り、特別な物は使われていなさそうではあるし、剣の芯や柄、握りの部分に重さを追加するような細工が施してある様子もない。

 

 もし細工してあった場合、剣の重心がずれるため、握れば簡単に分かる。

 だからそれはあり得ない。

 この剣の重心は、見た目通りの位置にある。

 

 なら、なんだ? 

 

 俺は考えた。

 そして、ある可能性に思い至った。

 

「……もしかして、俺の筋力が衰えている? いや、この世界の物が全体的に重たいのか?」

 

 俺は天井を見ながら考えた。

 

「……ダメだ分からん」

 

 まあいいか。

 原因など考えたところで分からん。

 事実は事実として受け止めよう。

 

 とにかく、この剣の重さに対して、俺の筋力が足りていない事は間違いない。

 だから、体をもっと鍛えなければな。

 

 別に、重い剣が扱えないわけではない。

 重たい剣も、軽い剣も使った事はあるし、十分に戦えはする。

 だが、人それぞれに最も扱いやすい重さというものがある。

 

 カズヤはどちらかといえば重めの剣を好んでいたが、俺はカズヤと比べると軽めの剣を好んでいた。

 

 軽い剣、重い剣ともにそれぞれ利点、欠点があるため、状況や敵によって最適な武器の重さは変わってくるものではあるが、好みは別だ。

 

 剣は、重ければ重いほど、上手く扱えるのであれば威力は上がっていく。そして丈夫だ。

 だが、その分軽い剣よりも斬撃の速度、移動速度、取り回し易さ、正確性が下がるのと、体力の消耗が激しくなる。

 そして、扱う人間にとって剣が重すぎる場合、逆に威力が下がってしまう。

 

 力とは、速さと重さだ。

 いくら重かろうとも、速度が出なければ威力は無いに等しくなる。

 

 体全体を使って振り回せているのなら大丈夫だが、重い剣に振り回されているようなら、当然威力も精度も速度も何もかもが下がる。

 

 そして、軽い剣は、斬撃の速度や取り回し、扱いやすさ、正確性、疲労度、移動速度などが、重い剣よりも優れている。

 

 しかし、軽めの剣は耐久度に難があり、そして何より、レイピアなどの突きを主体とする武器では無い限り、どうしても威力が足りない。

 人間の骨程度の硬さなら、たとえガラスのように軽い剣であろうとも断ち切れる自信はあるが、モンスターは人間の骨などとは比べ物にならないほどに硬い敵が多い。

 

 そんな敵に対して斬撃を繰り出し、威力が足りずに体内で剣が止まってしまった、となれば致命的だ。

 

 前世では何度もあった。

 

 剣が一本だけ敵の体内に嵌っただけなら、まだもう一本あるから大丈夫なのだが、2本持っていかれたときは本当に辛かった。

 

 敵が素直に返してくれるわけもなく、隙を見て剣を引き抜こうにも、一度敵の体内で止まってしまった武器は本当に硬くて、引っ張ってもビクともしないため、そうなってしまえば、拳で戦うしか無くなってしまう。

 

 ただでさえ硬い敵なのに、武器を手放さざるおえなくなると、途端に有効打が消えてしまう。

 だから、地道に拳で敵の体内に衝撃を伝えて、ゆっくりと敵の体を破壊するしかなくなってしまう。

 

 っと、思考が逸れていたな。

 

 とりあえず、しばらくはこの重さで戦うか。

 

 そして体を鍛えて、少しでもこの剣が軽く感じられるようにしていこう。

 

 ──────────────────

 

 

 しばらく素振りをして、感覚を掴んだ俺は、早速モンスターと戦うために移動を開始した。

 そして、遠くに、猿型のモンスターを2体見つけた。

 2体のモンスターは、それなりに近い距離ではあるが、どちらも向こう側を向いている。

 

 ならば背後から近寄り片方の首を即座に切り飛ばそう。

 

 俺は気配を殺し、足音を立てないようにに猿に向かって走った。

 

 ただ、森の中では木の枝や枯葉など、踏むと音を立てるものがよく落ちているため、小さな音は出てしまうが。

 

 それでも、俺はあと一歩で剣が届く場所までバレずに近づけた。

 その瞬間、慌てて猿が振り返るが。

 

「遅い!」

 

 俺は剣を水平に振り、その刃は寸分たがわず猿の首に直撃し、首を切り飛ばした。

 

 ……はずだった。

 しかし、目の前の猿の首は、まだ繋がっている。

 

「何!?」

 

 その瞬間、猿は地面にギリギリ届かないくらいの長い2本の手を縦に振り回しはじめた。

 俺は驚きで一瞬止まった思考をすぐさま立て直し、即座に半歩下がり、地を踏みしめて、伸びてきた手を切り飛ばした。

 

 今度は切れなかったなどとはならず、猿の手は俺の後方に飛んでいった。

 

 そして、猿の体は青い光となり爆散した。

 

 そして、すぐにもう一体の猿が、今度は体をコマのように回転させながら突撃してきた。

 

 俺は横に大きく動き、その突撃を見送った。

 

 その攻撃は悪手だ。

 あれだけ回転しているのなら、周囲がうまく見えないだろうし、音での判断も難しい。

 戦いの最中に敵から目をそらすなど、殺してくださいといっているようなものだ。

 

 俺は気配を殺しながら、背後から猿に近づき、回転が止まった瞬間に、猿の首を切りつけた。

 

 だが、やはり猿の首は繋がったままだ。

 

 よく見ると、俺の斬撃の後には、赤い光が走っている。

 

 これは、あの口植物に囲まれていた2人の少年の体にあった赤い光と同じものか? 

 

 とりあえず、俺は猿が振り返る前にもう一度切りつけた。

 その切りつけた場所には、赤い光が浮かんでいる。

 そして、猿の体は前の一体と同様に爆散した。

 

 やはり、あの赤い光は傷、もしくは血なのだろう。

 

 それにしても、まさか首を切られて生きている生物がいるとは思わなかった。

 

 久しぶりに剣を使う戦闘で、少し舞い上がっていて、残心を忘れていたな。

 

 例え敵が青く爆散したとしても、倒したと思っていても、すぐに油断するのは不味い。

 俺の知覚外から奇襲をされるかもしれないし、青く爆散しても何らかの手段で攻撃を行ってくる敵がいるかもしれない。

 

 敵を倒した瞬間や、勝ったと思った瞬間が、一番気が緩んでしまうものだ。故に残心は決して忘れてはいけない。

 

 なのに、そんな当たり前を忘れてしまっているとは、こんな体たらくでは、すぐに死にかねない。

 気をつけよう。

 

 

 ──────────────────

 

 

 そうしてしばらく進んでいると、周囲に敵が見当たらない場所についた。

 

 警戒心を解く気はないが、ここで少し休むとしよう。

 

「……ふぅ」

 

 疲れた。

 当然か、今日は色々あったし、もう夜だ。

 

 ついつい剣を手に入れたことによる感動で、すぐに村を飛び出してしまったが、あの村でどこかの家に泊めてもらい、朝になるのを待つべきだったのだろう。

 

 俺は天井を見ながら、木に背をつけ、少し体を休めた。

 

 この世界は今、夜だ。

 元の世界も今は夜なのだろうか? 

 

「元の世界、か」

 

 詩乃は、大丈夫だろうか? 

 

 まあ、大丈夫だろう。

 詩乃はしっかり者だからな、俺がいなくとも何の問題もないだろう。

 

 むしろ俺がいない方がいいまであるかもしれない。

 食事の用意が少なく済んだり、洗濯物が少なくなるしな。

 

 それに、幼い頃はとても嫌われていたし、今はそれなりに仲良くはなったとは思うが、それなりだ。

 勿論、ある程度心配をかけてはいると思うから、無事を伝えたくはある。

 だが、少なくとも十数年はこのアインクラッドにいることになるだろうからな。どうしようもないか。

 

 まあ、それだけ時間が経てば俺のことを忘れるだろう。

 

 元の世界に戻った時に、詩乃に「どちら様ですか?」と言われたら、流石に悲しいとは思う。

 

 だが、いつまでも心配をかけ続けるよりも、忘れてもらっていた方がいいか。

 

 そう言えば、俺は考え事をする時、上を向く癖があると、詩乃に言われたことがある。

 

 確かにそうだ。

 現に今、俺は天井を見上げている。

 

 まあ、だからなんだ、と言うわけではないが。

 

「ん?」

 

 誰かが近づいてきている、敵か? 

 

 俺は天井から目を離し、少し警戒しながらそちらを見た。

 するとそこには、黒髪の少年がいた。

 

「……見つけた」

 

「お前は……キリト少年か」

 

 一瞬目の前の少年の名前をど忘れして、考えてしまった。

 しかし、すぐに思い至ったから大丈夫だろう。

 

 だが、キリト少年は、目つきが鋭くなった。

 忘れていたのがバレたのか? いや、そう言えばこれはコペル少年が言っていただけで、まだ自己紹介はしていなかったか。

 

 もしかしたら、キリトとは親しいものが呼ぶあだ名のようなもので、俺が呼ぶのは失礼だったかもしれない。

 

「……そう言うことか」

 

 ん? キリト少年の口に、一瞬笑みが浮かんだような? 

 

 何なのだろうか? 

 

「なあ、あんたに少し聞きたいことがあるんだ」

 

「なんだ?」

 

 そう言えばさっき、見つけた、と言っていたか。

 と言うことは、キリト少年は何かを聞くために俺を探していた、と言うことか。

 

「あんた、βテスターか?」

 

 ベータテスター? ん? なんだそれは? 

 いや、どこかで聞き覚えがあるような無いような? 

 ああ、昔クラスメイト達の会話の中に、ベータテスターの応募がどうのと言うのが、あったような、なかったような? 

 いや、それは一億円の話だったか? 

 

 まあ、少なくとも何かに応募した記憶はないから違うんじゃないか? 

 

「いや、違う」

 

「そうだよな」

 

 と思う。

 そう続ける前にキリト少年の言葉に遮られた。

 

「俺はβテスターだった、だが、少なくともあんたのような戦い方をする奴は見たこともなければ聞いたこともない、あんたのように、強くて特殊な戦い方をする奴は、十分話題になっていてもおかしくはないはずだからな」

 

 よく話が理解できなかった。

 褒められているのだろうか? 

 

「なら、あんたはニュービーか?」

 

 ニュービー? なんだそれは? 少なくとも俺はそんな言葉を聞いたことはなかった。

 

「違うよな? あんたは戦いに慣れすぎている、動きが完全に熟練者のそれだ、それに何より、[リトルペネント]の実を割ったら周囲のモンスターが群がってくるなんて情報、ニュービーが知っているはずがないもんな」

 

 あー、そんな早口でまくしたてられても、ちょっと待ってくれ。

 

 えっと、やっぱり俺はキリト少年に褒められているのだろうか? 動きがいいと。

 リトルペネントっていうのはあれか、口植物のことか。

 あいつらの実を割ったら口植物が群がってくるなんて、前世では常識なんだが。

 

 何だろうな? やっぱりキリト少年は俺を褒めるために追いかけてきたのだろうか? 

 

 しかし、その考えは、次のキリト少年の言葉で吹き飛んだ。

 

「つまり、あんたは、俺たちよりもずっと前からアインクラッドを知っていたんだろう?」

 

「な!? 何故、それを!?」

 

 何故キリト少年は、俺の前世のことを!? 

 

 俺は驚きのあまり、立ち上がった。

 その瞬間、キリト少年の雰囲気が、さらに鋭くなった。

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