ウィンドウは他人には見えていないものだと思っていましたが、内容が見えていないだけで、ウィンドウ自体は見えていました。
自分のミスです。すみません。
「あんたは、このSAO開発者の一員、だな?」
「……?」
キリト少年の口から出た言葉は、俺が予想していた言葉と違った。
「あんたはこのSAOの開発者の一員であるから、内部のモンスターの情報を持っていて、システム外スキルも知っていた、そしてなにより、βテスト以前からモーションのテストやデバックなどをやっていたから、あれだけの動きができた、そうだろう?」
……え? キリト少年は何語を話しているんだ?
そうだろう? と言われてもな。
「いや」
すまん、何を言っているのかわからない。
そう続けようとしたが、途中でキリト少年に遮られた。
「隠さなくったって良い、俺はあんたに危害を加えるつもりはない、あんたも、巻き込まれたんだよな? 俺の予想では、あんたは開発者の一員ではあったが、プライベートでもこのSAOをやろうとしたんだ、デスゲームになることを知らずにな、あれだけの動きが出来るんだ、かなり練習をしたんだろう? それだけやり込んでいたのなら、プライベートでもSAOをやろうとしても不思議じゃない」
「……」
この感じは、あれだ、あの故郷の街での亡霊の話を思い出す。
こっちが全く理解できていないのに、どんどん話を進めていく、あの亡霊のようだ。
「確かに開発者の一員だと知られれば、こんな状況だ、どんな目に合うか分からない、だけど、あんたが持っている開発者側の情報は、このSAOの攻略に役立つはずだ、だから協力してほしい、このデスゲームから抜け出すために!勿論、あんたのことは絶対に誰にも言わない、約束する」
……何か、キリト少年は俺のことを勘違いしていないか?
そんな気がする。
「すまんが、キリト少年が何を言っているのか、分からないな」
「あんたが持っている開発者側の情報があれば、助かる命は数え切れないくらい増えるはずなんだ! それに、このゲームに囚われる時間だって、短くなるかもしれない! だからどんな些細な情報でもいい! 頼む!」
そう言って、キリト少年は俺に頭を下げた。
「だから、キリト少年が何を言っているのか分からないと言っているんだが」
もうちょっと分かりやすく、ゆっくり教えて欲しい。
キリト少年が俺になにを頼んでいるのか、しっかり理解できなかった。
「……そう、だよな、分かってた、そんなうまい話があるはず無いよな、開発者側の人間が、プレイヤーにいるなんて、な……すぅ……ふぅ……」
キッ!
キリト少年の目が、キリリと輝いた。
そして、少年は剣を抜いて、ゆっくりと構えた。
「なんの真似だ?」
俺と戦いたいのだろうか?
「分かってたさ、本当は、最初からあんたが茅場側の人間だってことはな」
「なに?」
茅場とは、あの亡霊のことか?
俺が、亡霊側の人間?
確かに、一度死んだことがあるから、俺も亡霊側だといえば、そうなのかもしれない。
「まず、俺はあの茅場のチュートリアルの前に、あんたを見たことがあるんだよ、《はじまりの街》周辺の草原でな」
「それがどうしたんだ?」
「とぼけても無駄だぜ、その時のあんたは、今のアバターと何にも変わりがない、おかしいよな? 俺たちプレイヤーは手鏡の効果でチュートリアル後は全員リアルの姿になっているはずなのに」
頼む、もっと分かりやすく教えてくれ。
「だが、あんたのアバターは一切の変化が見られない、最初は自分のリアルの顔に出来るだけ似せてアバターを作ったのかとも考えた、だけどな」
キリト少年は、少し溜めて、
「あんたの顔、作り物に見えるぜ!」
キリリっとした顔でそう言った。
キリト少年が、キリリっと。
「……ふっ」
やばい、面白い。
「つまり、あんたのアバターはリアルの顔ではない、作り物の顔だ、プレイヤーは全員リアルの顔になっているはずだから、あんたはプレイヤーじゃない事になる、勿論、証拠はそれだけじゃないぜ」
そう言えばさっきも、キリト少年の目が、キリリと輝いていたな。
「ふっ……」
やばい、キリリとしたキリト少年、っ、くくっ。
「あんたと《ホルンカ》の西の森で顔を合わせた時、互いに驚いていたよな? 俺はあんたのアバターに見覚えがあったから驚いていたが、あんたが驚いた理由はなんだ? 最初は分からなかった、もしかしたら、リアルの俺を知っているやつなのかもと思った、だが、違うよな、このゲームの中で、あんたも俺に見覚えがあったんだよな?」
っやばい、最後以外殆どなにも聞いていなかった。
なんだったか、確か、森の話をしていたような。
それで、キリト少年に見覚えがあったか、だったよな?
そうだな、故郷の街で亡霊が出てきた後、広場を冷静に離れていくキリト少年を見ていたから見覚えはあった。
「……ああ」
「茅場のチュートリアル前、あんたは草原で俺を見たんだ、そして、俺に姿を見られていたことも知っていたんだろう? だから、あの森で顔を合わせた時、驚いていたんだよな? 草原で顔を見られた相手に、こんなに早く再開するとは、アバターが変化していない事に気づかれてしまう、ってな」
ん? 草原? いや、草原ではキリト少年は見ていないが。
「待て」
「分かってるさ、それだと説明がつかない所があるってことは、そう、俺は手鏡の効果でチュートリアル以降はリアルの顔になっている、だから、草原の時と森の時では、俺の顔は変わっている」
何にも分かっていないじゃないか。
「だけどな、あんたは俺の顔を見て判断したんじゃない、俺のプレイヤーネームを見て判断したんだ」
そう言って、キリト少年は少し溜めて、
「浮かんでいるんだろう? 俺のアバターの上に、プレイヤーネームがな」
キリリとした顔でそう言った。
「……くっくっ」
やめろ、俺を笑わせないでくれ!
分かっている、キリト少年が真面目な話をしているのは、雰囲気で伝わってくるから。
だけどそのキリリとした顔はやめてくれ!
笑いをこらえるのが辛い。
だけど、大声で笑うわけには行かない。
こんなにキリト少年は真面目に話しているんだから。
今はよく理解できないことばかり言っているが。
「あんたとここであった時、一瞬、俺の上を見たよな? それは、俺のプレイヤーネームを確認するためだったのだろう?」
上を見た?
ああ、キリト少年と会った時に、咄嗟に名前を忘れてしまって、一瞬考えた時に、無意識のうちに顔が上に向いていたのか。
だが、プレイヤーネームの確認? なんだそれは?
「普通のプレイヤーが相手の名前を確認する手段は、パーティを組んだりする必要があるが、茅場側のあんたは違う、あんたは管理者権限の一部を与えられているんだろう? だからプレイヤーネームがあんたにはアバターの上に浮かんで見えるんだ、そうだろう?」
キリリッ!
「ふっ……っっ!」
その顔をやめてくれ!
「それに、俺たちが[リトルペネント]に囲まれている際、システム外スキルを使ってまで躊躇なく助けに入ったのは、自分の腕に絶対の自信を持っていたから、だけじゃないんだろう? 命の危険があるのなら、いくら自信があったからと言って、あれだけの数を前に、なんの躊躇もなく敵のヘイトを集めるなんて出来るはずがない、だが、茅場側のあんたは、俺たちプレイヤーと違って、命の危険はないんだよな? だから躊躇いもなく助けに入れたんだ」
内容が頭の中に入ってこない。
「助けた理由は推測できる、あんたは茅場側の人間だ、プレイヤーに紛れ込んだ、な、つまり、どこかで裏切るように言われているんだろう? その裏切りを劇的にするために、俺たちを助け、信用を得ようとした、そうだな?」
キリリッ!
「……ふっ、ふふ」
「つまり、あんたは茅場の演出の一つというわけだ、あのチュートリアルで、茅場は自分の事をこの世界をコントロールできる唯一の人間、と言っていた、だがそれは、あんたの存在を隠すための嘘、あんたもある程度コントロール出来るんだろう? 管理者権限の一部を与えられている、あんたならな」
キリリッ!
キリト少年は、キリリっとした顔でそう告げた。
もう、我慢の限界だった。
「ふっ、ふふふ、ふはははっ、ふーっはっはっはっはっは!」
ダメだ、笑いをこらえることが、出来ない!
「あーっはっはっはっは!!! ……っ! クックック、ふっふっふっあっはっはっ!」
「何がおかしい?」
キリト少年は鋭い目つきで俺を睨みつけている。
それどころか殺気まで感じられる。
それはそうか、大真面目に話していたのに、いきなり聞いている人間が大笑いなんてしたら、キレても仕方ないだろう。
「いや、すまなかったな、キリト少年」
「どうやら、図星みたいだな」
ん? なんの話だ?
「俺を殺しても無駄だぜ? この話はすでにフレンドに伝えてある、そして、ここでもし俺が死んだら、その瞬間フレンドは全プレイヤーにあんたの情報を発信する手はずになっているからな」
なぜ俺がキリト少年を殺す話になっているんだ? いつの間に?
むしろ大笑いした俺が殺されそうなものなのだがな。
「あんたも自分の正体が知られるのは不味いよな? だから、勝負しないか?」
自分の正体? 前世のことか? いや、だがキリト少年は何か変な勘違いをしていたような?
「勝負?」
「ああ、1vs1のデュエルだ」
デュエル、決闘か?
「もしあんたが勝ったら、このことは誰にも言わない、フレンドにも俺の勘違いだったと説明する、だが、もし俺が勝ったなら、あんたの持っているアインクラッドの情報をよこしてもらう」
アインクラッドの情報? 前世のか? 別に勝負などしなくとも、そのくらいならいくらでも話していいんだが。
いや、違うな。
この瞬間、察しのいい俺は全てを理解した。
キリト少年は、最初から俺と決闘がしたくて、ここまで俺を追いかけてきたんだ。
恐らくあの口植物たちが出る森で、俺の強さを感じ取って、俺と戦ってみたくなったのだろう。
だが、素直に決闘してくれと頼むのは恥ずかしくて、つい色々訳のわからない話をしたんだろうな。
俺と戦う理由が欲しくて。
つまり、アインクラッドの情報は、単なる理由付けでしかなく、ただ俺と戦いたかったのだろう。
分かる、分かるぞ、その気持ち。
自分より強い奴を見ると、戦いたくなるものだよな。
俺は戦闘狂ではないが、恐らくキリト少年は戦闘狂なのだろう。
「ふっ、いいだろう」
俺は少年の要求を飲んだ。
すると、キリト少年は剣を左手に持ち替え、右手を振るった。
その瞬間、キリト少年の前にいきなり紫色に光る板が現れた。
・・・あれは・・・昔、どこかで見たことが・・・
そう考えていたら、俺の視界にいきなり、
【キリト から1vs1デュエルを申し込まれました。受託しますか?】
という文字と、その下に、Yes/Noというボタンとそのほかにいくつかの文字が浮かんできた。
少し驚いたが、視界に文字が映ることにももう慣れてきた。
今だに訳は分からないが。
とりあえず、なんだ? これはイエスを押せばいいのか?
俺はイエスを押した。
キリリトさんキリトしててカッケー!
なお、全て勘違いの模様。
そして主人公にも変な勘違いをされている模様。
因みに、キリト君はフレンドに情報を伝えていると言っていますが、これはキリト君得意のブラフです。
鼠のアルゴがすでにフレンドなら、アルゴに伝えて、アルゴに情報を集めてもらったり、アルゴから体術のエクストラスキルの話を聞いて、体術のスキルモーションを担当した人間なのでは?という勘違いを引き起こせましたが、この時点ではまだキリト君はアルゴとフレンドではありませんからね。
でも、こうでも言わないと、管理者権限で問答無用で消されかねないとキリト君は思っていますから。
因みに、チュートリアルの手鏡が主人公だけ発動していないのは、アイテムストレージを確認していないからです。
自分は、手鏡の発動条件は、アイテムストレージを確認してから何秒後かだと思っています。
確か、アニメでは白い光に包まれた瞬間がみんな少しずつバラけていた為、それはアイテムストレージを確認した時間が少しずれていたからだと解釈しています。
最初は、手鏡のオブジェクト化が条件かとも考えましたが、多分みんながオブジェクト化するかと言われると、しない人間がいてもおかしくないので、アイテムストレージの確認が条件だと思っています。
だけど、実際はどうなのかが分からないので、最悪この作品の独自設定ということで。
この手鏡を使わないことは普通にプレイしていたら不可能です。
アイテムストレージの確認を縛るということは、アイテムが使用できなくなることと同義ですから。
そして、最初期の、SAOにフルダイブした時のアバターの生成なのですが、主人公は何も変更せずにそのまま、決定を押しました。
自分はこれでアバターがランダム生成されると思っています。
もしこれでリアルの自分の体になっていたら、茅場のチュートリアルでの手鏡のインパクトがなくなってしまいますから。
それに、アバターの生成画面で、パラメーターを変更するときに、いきなり自分の顔が浮かんでいたら、よほど鈍くなければ、あれ?ってなりますからね。
そして、絶対に1万人の中には、あ、ピトフーイが居ないから最高でも9999人か、その中には絶対にアバター生成を面倒臭がってか、他の理由でかは分からないですが、デフォルトでやる人がいるはずです。
もしそんな人が百人居たら、百人同じ顔で同じ体型の人間がゲーム内に存在してしまうので、デフォルトの場合、アバターの生成はランダム、という設定になっているんじゃないかな、と勝手に妄想して居ます。
これも、原作のどこかに別のことが明記されて居たら、独自設定になります。
一応、手鏡で、チュートリアル後はリアルな体型、顔になるから、アバターはデフォルトの場合全部同じでもいい、と茅場は考えて居たかも知れませんが、少なくとも最初は普通のゲームを装っていたので、こういったところも手を抜かないんじゃないかと。
そして、主人公が未だに自分の体が変わっていることに気づいていないのは、まだ鏡や水面を覗き込んで自分の顔を確認していないのと、たまたまランダム生成されたアバターが、自分の身長や体格と似ていて、同じような色の服をリアルでも着ていたからです。
主人公、服装なんて無頓着ですし。