アインクラッドからの転生者   作:アルシャ

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別視点 キリト 1

「あんたも自分の正体が知られるのは不味いよな? だから、勝負しないか?」

 

「勝負?」

 

 これは、賭けだ。

 もしこいつが、俺のブラフに気づいて、問答無用で排除しにかかって来たら、管理者権限を持つであろうこいつには絶対に敵わない。

 システムという絶対的な力が、相手の背後には備わっているんだから。

 

「ああ、1vs1のデュエルだ」

 

 それでも、こいつが持っている情報は、このアインクラッドの攻略に絶対に役に立つ。

 それに、こいつをこのまま放置するわけにはいかない。

 

「もしあんたが勝ったら、このことは誰にも言わない、フレンドにも俺の勘違いだったと説明する、だが、もし俺が勝ったなら、あんたの持っているアインクラッドの情報をよこしてもらう」

 

 目の前の男は少し悩んでいる様子だ。

 だが、こいつには選択肢はないはずだ。

 

 こいつは、俺を殺したらすぐに俺のフレンドがこの男の情報を漏らすと思っているはずだ。

 だからこいつは、俺を殺すことができない、こいつだって、目的の為に正体をバラされたくは無いはずだから。

 

 だがそのとき、目の前の男は、まるで全てを理解したかのような表情で、笑った。

 

 その瞬間、俺の背筋に悪寒が走った。

 

 なんだ、この嫌な予感は、俺は何かを見落としているのか? 

 ……いや、大丈夫だ、こいつが俺の嘘を見破れる要素はない。

 それに、こいつは俺を殺すわけにはいかない筈だから。

 

 なら、俺を殺さずに無力化してから、先にフレンドを殺してしまえばいいのでは? 

 いや、大丈夫だ、俺のフレンドか誰かなんて、こいつに分かるはずが……管理者権限……っ! 

 

 その瞬間、俺は最悪の可能性に思い至ってしまった。

 相手は管理者側の人間なんだ。なら、俺のフレンドを調べることも不可能ではないのでは? 

 つまり、俺のフレンドリストを調べて、その中の誰かを俺よりも先に殺してしまえば、俺の脅しの効果が無くなる。

 

 いや、誰かなんて一目瞭然だ。

 だって俺のフレンドリストには、たった1人の名前しかないんだから。

 

 クラインという、この世界で初めて出来た友人の名前しか。

 

 目の前の男は、そのことに思い至ったのだろう。

 だから笑ったんだ、俺の策の甘さを見抜いて。

 

 最悪だ。

 俺は目の前に見つけた一筋の光に釣られて、とんでもない事をやらかしてしまった。

 俺は直葉に、母さんに、オヤジに会いたいという衝動のあまり、自分でも気付かぬうちに焦って、軽率な行動をしてしまった。

 その軽率な行為が、クラインまでも危険に晒してしまった。

 

 なんで俺はもっと慎重に考えなかったんだ! 相手は管理者側の人間なんだから、もっと万全の対策を練ってから挑むべきだったのに! 

 

 本当にすまない、クライン、巻き込んじまって……

 

 っ、嘆くのは後だ! まだ取り返しがつくかもしれない! 

 考えろ、考えるんだ! まだ、まだ何かあるはずだ! ここから逆転する策が! 

 

「ふっ、いいだろう」

 

 っ、なんだって? 

 いい、といったのか? デュエルを受けると? 

 

 っ、落ち着け、動揺を悟られるな、平然と行動しろ。

 

 俺は動揺を全力で押し殺し、剣を左手に持ち替え、右手でメニューを操作しながら、全力で思考を回し始めた。

 

 落ち着いて考えろ、何故こいつはデュエルを受けた? 

 もしかして、気付かれていない? 

 もしくは、この男が与えられている管理者権限の中には、相手のフレンドを調べる権限がないのか? 

 

 ならさっきの、全てを理解したかのようなあの笑みはなんだ? 

 まさか、俺のブラフに気付かれたか? 

 それで、デュエルで俺を殺すつもりなのか? 

 

 デュエルにはHPがゼロになるまで戦う《完全決着モード》の他に、どちらかのゲージが半減した時点で終了となる《半減決着モード》、さらにはクリーンヒットが一発入った時点で終わる《初撃決着モード》が設定されている。

 

 このモードの選択権はデュエルをリクエストされた方が決定できるため、俺に選択権はない。

 

 もし、これで相手が《初撃決着モード》、又は《半減決着モード》を選んだのなら、少なくとも俺のブラフには気付かれていないことになる。

 

 だが、もし仮に《完全決着モード》を選んだなら、こいつは俺の嘘を見抜いているということになる。

 

 ……いや、《完全決着モード》を選ぶ可能性は、低いはずだ。

 

 俺は、デュエルの申請を目の前の男に送った。

 

 一度冷静になって考えてみると、こいつが俺を殺す可能性は元々低いと思う。

 例え、こいつは死んでもリアルの体は無事だとは言え、俺たちプレイヤーは違う。

 ここでの死は、リアルでの死と変わらない可能性がある。

 

 そして、もし本当に死ぬのなら、こいつがその事を知らないはずがない。

 だから、こいつが俺たちを殺すという事は、殺人になってしまうという事だ。

 

 少し前に、コペルに殺されかけたから、思考が物騒になっていた。

 勿論、コペルという実例がある以上、こいつが人を殺そうとする可能性はあるが、コペルとこいつでは、持っている情報量に差がある。

 

 俺たちプレイヤーは、ここで死んだ場合リアルでも死ぬ、という情報は与えられていても、実際にリアルでの生死を確認できる手段はない。

 だが、こいつは、事実を知っているんだ。

 その差は、かなり大きいはずだ。

 ここでプレイヤーを殺せば、人殺しになるかもしれない、と、人殺しになる、では、天と地ほどの差がある。

 

 だから、大丈夫なはずだ。

 

 よく考えてみれば、こいつがあの森で俺たちを助けたのは、純粋に目の前で人が死んでほしくなかったからかもしれない。

 俺は穿って捉えてしまったが。

 

 いや、茅場に協力している時点で、それは楽観視が過ぎるか。

 

 1万人ものプレイヤーが死ぬ可能性のある計画に協力しているんだ、だからこいつにまともな神経を期待するのは、辞めるべきだろう。

 

 だが、少なくとも俺のブラフに気付かれていないなら、《完全決着モード》は選ばれないはず。

 

 つまりこいつは、《初撃決着モード》か《半減決着モード》を選択するはずだ。

 どっちだ? どっちを選択する? 

 

 そして、目の前の男が選んだのは。

 

《完全決着モード》だった。

 

 っ!? なんで!? まさか、俺のブラフに気付かれている!? 

 

 そして、俺の視界に、

【asada sirou へのデュエル申請が受理されました】

 という文字と、60秒のカウントダウンが始まった。

 

 あさだ、しろう、本名か? いや、間違いなく偽名だろう。

 いや、そんなことより! 

 

「……何故、分かった?」

 

 俺の発言が嘘だと。

 

「目を見ればわかる、俺が気づかないと思っていたのか?」

 

 目を見ただけで、俺の発言が嘘だと分かったのか!? 

 目は口ほどに物を言う、と言う言葉があるが、それにしたって勘が鋭すぎる。

 

 待て、こいつは《完全決着モード》を選んだ。

 つまりこいつは、俺を、殺す気だ。

 

 その瞬間、俺は背筋が凍るような衝撃を覚えた。

 本当に、俺を殺す気なのか? 

 

 信じられなかった。目の前の男は、俺を殺そうとしている。

 MPKなどの間接的な手段ではなく、直接その手で、俺を。

 

 体が俺の意思に反して勝手に震え出した。

 

 っ、落ち着け、まだ俺が死ぬと決まったわけじゃない、デュエルで勝てばいいんだ。

 だが、ここで取り乱したら、間違いなく死ぬしか無くなる。

 

 冷静に考えれば、この状況は悪くない。

 これで、クラインは巻き込まれずに済む。

 

 それに、問答無用で俺を管理者権限を使って殺さなかったと言うことは、こいつにそれだけの管理者権限が与えられていないのか、もしくは自分の腕に絶対の自信を持っている、と言うことだろう。

 

 俺に負けるはずがない、と思っていると言うことか。

 舐められている。

 だが、今の俺には、その油断につけ込む事でしか、活路は見出せない。

 

 だから、今から考える事は、こいつにどう勝つか、だ。

 

 俺はデュエル開始までの残り時間を確認したのち、冷静に目の前の敵を観察した。

 

 目の前の男は、防具を何もしていない、初期装備のままだ。

 それは、絶対に相手から攻撃を受けないと言う自信の表れなのか、単に防具を買うコルが無かったからなのかはわからない。

 

 いや、武器を買ってない以上、コルはあるはずだ。つまり、自信の表れだろう。

 もしくは、死の危険がないからかも知れないが。

 

 そして、レベルは俺と同様くらい、いや、若干俺の方がレベルが高い可能性がある。

 拳と武器、しかもソードスキルを使っている俺と、目の前の男では、間違いなく敵を倒す速度は俺の方が早かったはずだ。

 だからレベルは俺の方が有利、もしくは同等と言ったところだろう。

 

 そして、武器は拳、リーチは圧倒的に俺の方が……いや、腰に剣を下げている? 

 あの剣は、俺と同じ《アニールブレード》か? 

 

 いつの間に? ……もしかして、最初から? 

 

 その事実に、俺は愕然とした。

 俺は今まで気がついていなかった。

 別に隠れていたわけではない。目の前の男の腰には、堂々と剣が吊るされていた。

 

 ゾッとした。

 今まで相手の腰に下げられた剣に気がづかなかったほど、俺には余裕が欠けていた。

 つまり、周りが全然見えなくなるくらい、緊張していたと言うことだ。

 

 もしこのまま腰の剣の存在に気がつかずに、丸腰の相手だと思って挑んでいたら、一瞬のうちにやられていた可能性が高かった。

 

 もっと考えるべきだった。何故こいつが《ホルンカ》の西の森に来たのか。

 そんなもの、【森の秘薬】クエをやるために決まっている。

 

 だが、俺はこいつの戦闘方法は、素手による体術だけだと勝手に思い込んでいた。

 だからその可能性に思い至らなかった。

 

 しかし、当然ながら素手ではダメージがあまり通らない。

 低階層ならまだ素手でも戦えるのかもしれないが、敵が強くなっていけば素手でなど戦えなるはずもない。

 

 開発者側のこいつが、それを知らないはずがない。

 それに、テストプレイか何かの時、上の階層でもずっと素手で戦っていた、なんて事はよく考えたらあり得ないことだ。

 だって、武器を、ソードスキルを使わずに戦っていたなら、それはもうテストではなくなってしまうから。

 

 なら、実はこいつの本当のメインウェポンは素手ではなく、片手直剣と言うことだろうか? 

 

 なら何故、今まで素手で戦っていた? 

 

 その時、俺は一つの可能性に至った。

 

 ……ただ、遊んでいただけ、なのか? 

 こいつはこのゲームで、縛りプレイをしていたのか? 

 

 この命のかかっているゲームで、縛りプレイなんてしている奴がいることなど、考えたこともなかった。

 

 だが、こいつには命の危険はない。

 だから、遊んでいたのか? 俺たちが命をかけて戦っている横で。

 

 その時、俺はようやくこの男のことが少し理解できた。

 

 

 こいつは、俺たちのことなんて、なんとも思ってないんだ。

 こいつは自分の欲求のために、ただこのゲームを楽しむためだけに、茅場に協力しているんだ。

 俺たちがどうなろうと、こいつにとっては知った事ではないんだ。

 

 あの森でリトルペネントに囲まれていた俺たちを助けたのは、目の前で人が死んでほしくなかったからでも、助けられる命は助けようとした、でもない。

 

 なぜなら、本当に俺たちのことを助けたいと思っていたのなら、茅場の協力者であるこいつは、こいつだけは止めることができたはずなんだ。

 このゲームがデスゲームになることを! 

 

 なのに、こいつは止めるどころか、茅場の協力までしている。

 俺たちプレイヤーの命よりも、自分が楽しむことを優先しているんだ! 

 

 許せない、許せるわけがない! 

 

 こいつだ、こいつのせいだ、こいつのせいで、俺たちプレイヤーはこのゲームに閉じ込められ、今も沢山の人達の命が危険にさらされていて、俺は家族と引き離されたんだ! 

 

 こいつは、敵だ。俺たちプレイヤーの、紛れもなく敵だ。

 負けられない、絶対に、こいつにだけは負けるわけにはいかない! 

 

 もう、俺の頭の中には、こいつから情報をいただくなんて言う考えは消え去っていた。

 ただ、目の前の敵を倒すと言う思考に、頭が支配されていた。

 

「ふ、なかなかに心地良い殺気だな、さあ、どこからでもかかってこい」

 

 そして、カウントダウンがゼロになった。

 

「うおおおおおお!!」

 

 その瞬間、俺は全力で目の前の敵に斬りかかった。

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