俺は宝くじを買って家に帰った。
「ただいま! 詩乃! 詩乃! 居るか!」
俺は帰ってすぐに詩乃を呼んだ。
「なに? どうしたのいきなり、お兄ちゃん何かあった?」
詩乃が驚いている。声が大きかったのかもしれない。
「ああ、すまない、詩乃、これ」
俺は買ってきた宝くじを詩乃に渡した。
「え? 宝くじ? お兄ちゃんが買ったの?」
「ああ、どうしてもやりたくなったんだ!」
ソードアートオンラインを!
「そ、そう? まあ、お兄ちゃんのお金だし、いいんじゃないの?」
「これからどうすればいいんだ?」
どうすればソードアートオンラインが出来るのだろうか?
もちろん、初めから72万分の1が当たるとは思わない。
だが、宝くじを買ってから、なにをすればいいかが分からなかった。
だから、本をよく読んでいて色々と詳しい詩乃に聞いて見た。
「えっと、多分ネットとかで当選番号が発表されるんじゃない? 日付は、9月16日ね」
詩乃は宝くじを見ながらそう答えた。
「そんなに先なのか?」
「そうみたいよ」
「そうか」
「……お兄ちゃん、何かあったの? なんだかいつもと雰囲気が違うみたいだけど」
「ああ」
雰囲気が違う、か。
確かにそうだな。
今まで俺はほとんど惰性で過ごしてきた。
自分の意思で動いたことなんて、体を鍛えること以外では、二度の命の危機以外ではほとんどなかった。
やらなければならないことだけ、俺は行ってきた。
それは、俺が未だに、前世を引きずり続けているからだ。
そんな生き方は生きているとは言わない、ただ死んでいないだけだ。
だから、前世となんらかの繋がりがあるかもしれない、ソードアートオンラインというものをやれば、前世の未練を晴らすことができるかもしれない。
もしくは、踏ん切りがつくかもしれない。
そうすれば、俺は今生を十全に生きられるようになる、そんな予感がする。
そのため、俺はなんとしてでも、ソードアートオンラインをやらなければならない。
もしかしたら、俺が生まれ変わったのは、この世界のアインクラッドと関わりがあるのかもしれない。
前世との繋がりを見つけることができて、目の前に道が広がった気分だ。
だから雰囲気が違って見えるのだろう。
「俺はようやく、見つけたんだ、きっと、俺はこれを求め続けていたんだ、もしかしたら、俺はこれをやるために生まれてきたのかもしれない」
「そ、そうなの?」
「ああ、ずっと灰色だった人生に、ようやく色がついた気分だ、俺は、これに出会うために生まれてきたんだ、間違いない」
そう、ソードアートオンラインに、出会うために。
「そんなに、宝くじをやりたかったんだ……」
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結果は、ハズレだった。ソードアートオンラインは、当たらなかった。
だが何故か、2000円が当たったらしい。
抽選結果というものを見ても俺には何が何だかわからなかった。
だから詩乃に確認してもらったのだが、何故2000円?
俺は2000円を払った。なのに2000円が帰ってきた。
……なんで?
「なあ、詩乃、なんで2000円が帰ってきたんだ?」
「え? 5等が当たったからでしょ?」
「その、5等? というのが当たると、お金が帰ってくるのか?」
不思議だ、買い物にはお金がかかるのに、お金が帰ってくるなんて。あまり商売に詳しくはないが、これは商売にならなくないか?
「……お兄ちゃん、宝くじって何か分かってる、よね?」
「知らん」
「え? ……あれ? この間、宝くじをやるために生まれたとか……まあいいか、あのね、宝くじっていうのは」
それから、妹に宝くじの説明をされた。
よくわからなかったが、とりあえずこの券の番号と、同じ番号があれば、お金がもらえるものらしい。
「そうか、なら、ソードアートオンラインは何等だ?」
「はい?」
「ソードアートオンラインは1等か?」
「なんでいきなりソードアート・オンラインの話が出てきてるのよ」
「クラスメイトが話していたぞ? 宝くじで72万分の1でソードアートオンラインが手に入るって」
「……お兄ちゃん? まさか、そんな話を信じたの?」
妹が信じられないようなものを見る目で俺を見てくる。
「違うのか?」
「当然じゃない、まさか宝くじを買ったのって」
「ソードアートオンラインをやるためだ」
「……お兄ちゃん、偶に少しズレてるとは思ってたけど、ここまでなんて」
「?」
「どうしてそんな訳のわからない話をお兄ちゃんのクラスメイトが言っていたかなんて知らないけど、ソードアート・オンラインはゲームなんだから、ゲーム屋さんで買えるんじゃない?」
「ゲーム屋さんというところで買えるのか、よし、そのゲーム屋さんというものを探してくる!」
俺は家を飛び出した。
「あ、待って! ソードアート・オンラインって、まだ発売前だったはず……行っちゃった……でもお兄ちゃん、生き生きしてた、あんなお兄ちゃん初めて見たかも……ソードアート・オンラインか、ゲームにはあまり興味はないけど、ちょっと調べてみようかな」
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俺は、街の人たちに、ゲーム屋さんの場所を聞きながら、ゲーム屋さんを探し回った。
ああ、懐かしい、前世ではよく新しい街に行ったら同じようなことをやっていた。
右も左も分からない場所で、街の人たちに聞きながら目的の場所を探して。
クリフやカズヤ、キズナは真っ先に地図を買い求めていたが、俺は地図なんて読めないから、毎回足で探していたんだった。
あの新しい場所を、なにも知らないところを、自分の足で歩いていく醍醐味が、アイツらはなにも分かっていなかった。
地図なんてなくても、人さえいれば目的の場所にたどり着けるというのに。
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結局、ゲーム屋さんについたのは結構時間が経った後だったが、まだソードアートオンラインは売られていないらしい。ゲーム屋さんに発売日を聞いたから、その日にまた来ようと思う。
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そして、発売日。
俺はゲーム屋さんに向かった。だが、ゲーム屋さんの前には、大行列ができていた。
結論から言うと、俺はソードアートオンラインを買えなかった。
どうやら、3日前から並んでいる人間達だけが、ソードアートオンラインを買えたらしい。
知らなかった。
その3日前から並んでいる人間に聞いてみると、どこの店も同じようなもので、今から行ってもすべて売り切れだろうと言っていた。
ソードアートオンラインが、出来ない。
やっと見つけた道が、目の前から消えたような気がした。
ああ、俺はこのままいつまでも、死んでない人生をこの世界で送り続けることになるのだろうか?
前世を永遠と、引きずり続けるのだろうか?
そう、なりそうだ。
俺は、落ち込みながら、足を引きずり、家に帰った。
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「ただいま」
「おかえり、どうだった? って、その顔じゃ聞くまでもないか」
その顔、俺は多分、今絶望している顔なのだろう。
だって、今の俺の気持ちは、どん底だから。
「……ダメ、だった」
「そうだと思った、はい、これ」
ん? 詩乃が何かよく分からないものを差し出してきた。
「……なんだこれは?」
「なにって、ソードアート・オンラインよ」
「……」
一瞬、詩乃が何を言っているのか分からなかった。
「あの人気じゃ、普通にゲーム屋では買えなさそうだったから、通販で買っといたのよ、感謝してよ? それにしても、まさか数秒で売り切れるなんて思わなかったわ」
「……」
これ、これが、ソードアートオンライン。
「……お兄ちゃん?」
これが、これが、これが!
「……詩乃!」
俺は感極まって、思わず詩乃を全力で抱きしめた。
「ちょ、お、お兄ちゃん!? く、苦しいよ!」
「ありがとう! ありがとう! 本当に! 本当に! ありがとう!」
「……どういたしまして」
「ありがとう! ありがとう!」
その後、俺は詩乃を抱きしめながら、ずっと感謝を伝え続けた。
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その後、俺は、詩乃にソードアートオンラインのやり方を聞いてきた。
ソードアートオンラインをやるには、ナーヴギアというものが必要らしい。
それを一緒に詩乃と買いに行き、詩乃が起動方法や、初期設定の仕方を調べてくれた。
そして、詩乃に言われるがまま、ナーヴギアを装着して体をぺたぺた触った。
なんの意味があるのかは知らないが、何か意味があるのだろう。
……うん、そうだ、全部詩乃がやってくれたようなものだ。
「詩乃、本当にありがとう、詩乃のおかげだ、詩乃がいたから俺はソードアートオンラインをやれる、本当に、ありがとう」
「も、もう、なんども聞いたよそれ、……どういたしまして」
「じゃあ俺は、ソードアートオンラインを、やる」
ここで、俺はきっと何かを見つけられるはずだ。
それがなんなのかはわからない。
だが、それがいいものでも悪いものでも、俺は今よりも先に進めるはずだ。
今日から、俺の中の止まった時が、動き出すはずだ。
そういう予感がする。
俺は、ゲームを起動するための言葉を発した。
「リンク・ス」
「あ、ちょっと待って、ソードアートオンラインって、正式サービスはまだみたい」
……もう少し、俺の時は止まったままのようだ。