アインクラッドからの転生者   作:アルシャ

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今回の話は、途中で一度三人称視点に切り替わります。


第8話 多対1

 口植物は見た目よりも足が速い。

 だから追いかけているときに少し距離を離されたが、見失いはしなかった。

 

 そして、遠くに沢山の口植物が集まってるのが見えた。

 

「やはりか」

 

 恐らく、誰かが口植物の実を割ったのだろう。

 あの実を割ると、変な匂いが広がり、それに群がるように沢山の口植物がわらわらと寄ってくるからな。

 数は目測で約30以上、それなりの数だ。

 

 口植物が群がっているのが2ヶ所なため、襲われているのは恐らく2人。

 場所が少し離れているから、仲間ではないのか? いや、この口植物に引き離された可能性の方が高いか。

 

 俺はその場所に急ぎ向かいながら、出来るだけ状況を確認するように努めた。

 

 遠くに見える口植物達の隙間からは、囲まれていながらも懸命に戦っている2人の姿が見えた。

 

 1人は、故郷の街で見た、逆立った赤髪の親切な男と一緒に広場を抜け出していた黒髪の少年で、もう1人は、まだ見たことがない、真面目そうな少年だ。

 

 不思議なことに、黒髪の少年も、真面目そうな少年も、体の節々が赤く光っている。

 

 そして、2人とも服はボロボロで、所々に穴が空いている。

 おそらく、口植物が口から出す腐蝕液を食らったのだろう。

 その割には、動きに痛みを我慢する様子が見られない。

 あれだけ服や防具がボロボロなのだから、怪我をしていてもおかしくは無いはずなのだが。

 

 もしかしたら、あの2人も痛みを感じられなくなっているのだろうか? 

 

 2人の顔がチラリと見えたが、どちらも必死な表情で、前世の俺たちのように笑いながら相手をできるだけの余裕はなさそうだ。

 

 つまり、助けに入った方がいいだろう。

 

 だが、2人の間には少し距離があるため、すぐに援護出来るのは片方だけだ。

 

 それにしても、2人の体の赤い光はなんなのだろうか? 

 ボロボロの服、装備、それに合わさって見える赤色が、俺には血のように見える。いや、もしかしたら、血なのか? 

 だが、血が流れている様子は見られない。

 ただ赤く光っているだけだ。

 もしかして、あの2人は人間じゃない? 

 

 いや、今はそんなことどうだっていいことか。

 

 とにかくあの赤い光が血のようなものだとしたら、黒髪の少年より、真面目そうな少年の方が危なそうだ。

 

 真面目そうな少年は、まだ元気に動き回ってはいるが、体というのは急に限界を迎えて、いきなり動かなくなるものだ。

 2人も痛覚を感じられなくなっているのなら、いきなり力尽きてもおかしくはないだろう。

 

 だからまずは真面目そうな少年の援護に入ろう。

 だが、黒髪の少年からも出来るだけ口植物を引き付けた方がいいか。

 

 なら、あれだな。

 

 俺は息を大きく吸い込み、全力の殺気を込めて咆哮をあげた。

 

「うおぉぉぉぉおおおああああ!!!」

 

 その声に反応して、真面目そうな少年を囲っていた、殆どの口植物の動きが止まり、こちらに振り返った。

 黒髪の少年の方は見ていないが、何匹かは釣れただろう。

 

 モンスターは知能が低く、本能で動いているものが多い。

 だから、殆どのモンスターは自分にとって脅威となる存在に目がいく。

 だから基本的には、目の前の攻撃をしてきた人に襲いかかるが、ようはそれ以上の脅威だとモンスターに思わせれば、モンスターはこちらに標的を変える。

 そして、殺気とは、相手の本能に恐怖を、危機感を抱かせるものだ。

 

 だから、俺が全力で殺気を浴びせたこの口植物たちは、俺に狙いを変えた。

 ただ、咆哮は当たり前だが声だ。

 声に乗せて殺気を伝えているため、距離が近ければ近いだけ殺気が直に伝わるが、距離がひらけば開くほど、殺気も相手に伝わらなくなる。

 だから、黒髪の少年の方からは、あまり引きつけられないだろう。

 

 それでも、俺はこの真面目そうな少年の周りにいる口植物を全て引きつけるつもりで咆哮を上げた。

 だが。一部の口植物は、今だに少年を狙っている。

 

 思ったよりも効果が薄い。

 

 たとえ目の前の人間と戦っていたモンスターであろうと、この俺の殺気を込めた全力の咆哮を近くで聞いて、無視をするモンスターがいるとは思わなかった。

 

 やはり鈍っているな。

 戦いから遠ざかって十数年、俺の殺気も温くなったということか。

 

 っ、不味い! 

 

 さっきの咆哮で、真面目そうな少年まで動きを止めてしまっている。

 まだ少年を狙っている口植物がいるというのに、だ。

 

 俺は、口植物達と距離を詰めていき、そして、口植物の横に生えていた木を蹴り、三角飛びの要領で高く飛び上がった。

 

 そのまま俺は口植物を足場として、口植物達の上を通り過ぎていき、今まさに背後から真面目そうな少年を攻撃しようとしていた口植物に向かって飛び蹴りをかました。

 

「っ、な!?」

 

 間に合った。だが、少年は死地にいるというのに、思考の切り替えが出来ていない。

 

「戦場でボサッとするな! 死にたいのか!」

 

「っ!」

 

「生きたいのなら武器を振るえ! その剣は飾りでは無いのだろう!」

 

 俺は、今だに状況を理解しきれずに動きが固まっていた少年に喝を入れた。

 

 そして、俺はすぐさま少年と距離をとった。

 あのまま少年の近くで戦っていれば、少年が攻撃に巻き込まれてしまう恐れがあるためだ。

 

 ここまで手助けをしたんだ、後の数体は自力でなんとかしてほしい。

 

 さて、久々にここまでの数の敵がいる状況だ。

 昔ならばいざ知らず、数十年の歳月で勘が鈍った今の俺には、余裕があるかはわからない。

 

「……」

 

 口植物達は、まっすぐ俺に向かってきている。

 もともと本能に忠実なモンスターだ、取り囲むように動いたり、仲間と協力をするような奴らじゃない。

 ある程度の仲間意識はあるだろうが、戦略的な戦い方はしないだろう。

 つまりこの状況は、戦闘勘を取り戻すのに最適な状況というわけだ。

 

 今後、間違いなく多対1の戦闘が増えていく。

 だからこの程度、軽く突破しなければならない。

 

 多対1の戦闘で重要なのは、位置取りだ。

 特に今回は武器も防具も盾も何も無い状態での戦闘、つまり、敵の攻撃を防ぐということはできない。

 

 そのため、攻撃は避けるしかない。

 しかし、人間には背後に目は付いていない。だからどうしても背後からの攻撃は避けられないし、当然、全方位を囲まれてしまい、一斉に攻撃されてしまえば、逃げ場はない。

 だから生き残るためには、常に冷静さを保ちながら、敵を背後に回らせないように動き回り、敵同士が動きを邪魔し合うように誘導して、時には敵を盾に、時には敵に隠れながら、敵の攻撃を見極め、常に1方向または2方向からの攻撃しか来ない位置取りで戦うのが賢い戦い方だ。

 

 

 

 

 

 

 

 だが、俺はある程度少年と離れたら、まっすぐ口植物に突っ込んでいった。

 

「……ふ」

 

 賢い戦い方? 生き残るためには? 重要なのは位置取り? 敵を誘導? 攻撃を見極め? 冷静さを保つ? 

 

「知らん、知らんなぁ!!」

 

 俺に、そんな賢い戦い方ができるとでも思っているのか! 

 そんな賢い戦い方で、この俺が生きられるとでも思っているのか! 

 

 背後からの攻撃は避けられない? 

 全方位を囲まれれば、逃げ場はない? 

 そんなことを誰が決めた!? 常識か!? 

 

 知らん、知らん知らん! 知らん! 

 全方位を囲まれれば生き残れない程度の実力なら、第百層到達など成し得られるわけがなかろうが! 

 逃げ場がないなら作ればいい! 避けられないならとっとと死ね! 

 

「さぁ貴様ら! 上でも下でも全方位からでも、何処からでもかかってこい!!」

 

 俺は、少しだけ上がった気分に身を任せ、口植物の群れの中へと殴り込みをかけた。

 

 

 ────────────────────

 

 

 朝田士郎の周囲には、口植物、正式名称[リトルペネント]がひしめいていた。

 [リトルペネント]達は、背後から、横から、上から、ツタを、腐蝕液を使って絶え間なく朝田士郎に攻撃を仕掛けている。

 

 だが、朝田士郎はそのことごとくを紙一重で避け続けていた。

 そして、近くの[リトルペネント]を手当たり次第殴り、蹴り、足場にして、[リトルペネント]達に囲まれた、この狭い空間を縦横無尽に駆け巡っている。

 

 何故、朝田士郎はまだ一度たりとも攻撃を食らっていないのか? 

 それは朝田士郎が、本能で生物の気配と殺気を感じ取っているからだ。

 

 生物には必ず気配というものが存在する。

 それは例え植物でも、虫でも、そして、ゲームの中の存在であろうとも、必ずだ。

 朝田士郎はその生物の気配を感じることで、敵の位置を本能的に把握しているというわけだ。

 

 そして、どんな攻撃にも、たとえ意識していなくとも、殺気は乗っている。

 殺気、つまり他者を攻撃する意思が、[リトルペネント]のツタや腐蝕液に乗っているため、朝田士郎はその殺気を感じとることで、攻撃の軌道や速度、攻撃を行う瞬間を本能で理解しているのだ。

 

 [リトルペネント]はモンスターだ。

 気配を抑えたり、ましてや殺気を込めずに攻撃するなどということはしない。

 本能の赴くままに、朝田士郎を攻撃し続けている。

 

 つまり朝田士郎にとって、この[リトルペネント]は相手にしやすい敵というわけだ。

 

 

 ────────────────────

 

 

 目の前で敵が砕け散った。

 そして俺は背後から勢いよく迫っていたツタを見ることもなく避け、そのまま掴んで、ツタが前方に伸びる勢いを利用し前方に飛び、途中でツタを離して目の前の敵に跳びついた。

 その跳び付いた敵をひたすら連続で殴り、殺気を感じた瞬間、敵を蹴り後方に跳んだ。

 そして、地に足がついた瞬間、そのままの勢いで体を丸めて後転をし、腐蝕液とツタを避けながら背後にいた敵を蹴り上げた。

 

 久しぶりだからか、敵の気配が捉えづらい。

 だが、それでも口植物から攻撃をもらう気は全く無い。

 

「ふ、ふは」

 

 思わず口から笑い声が溢れてきた。

 そうだ、そうだ! これだ! 久しく忘れていたこの高揚感! 臨場感! 爽快感! 

 これこそ、これこそが戦場だ! 

 一つでも間違えた瞬間命が潰えるこの感覚が、一瞬一瞬で、どんどん研ぎ澄まされ、磨き上げられていく本能が、敵の殺意を一身に受け続けるこの心地よさが、ひどく懐かしく、気分を高揚させていく。

 

 ああ! 今! 俺は生きている!! 

 

 だが、まだだ、まだ足りない。

 強さが足りない、危険が足りない、痛みが足りない! 絶望が足りない! 敵が足りない! 

 足りない、足りない足りない足りない! 

 

 この程度か? まだだ、まだだろう? この程度のはずがないよな! そうだろう! 

 

 だが、この場にいる敵に、これ以上の強さを持つものもおらず、これ以上数が増えることもなかった。

 

 いつの間にか、俺の目の前には敵がいなかった。

 

 戦闘は、終わってしまった。

 

「……ふぅ、久しぶりの本格的な戦闘で、ほんの少し熱くなっていたか」

 

 まあ、この程度の相手ではそれほど熱くはなれなかったが。

 もっと歯ごたえのある相手で、武器があったならよかったのだが。

 

 ま、いいか。

 そういえば、途中から完全に忘れていたが、あの少年達は無事だろうか? 

 俺は周囲を確認した。





因みに、真面目そうな少年、コペル君の動きが固まってしまっていたのは、主人公の咆哮のせいです。
つまり主人公が全て悪い。

主人公の咆哮で、動きが固まってしまって危機に陥ったコペル君を主人公が助ける。
マッチポンプというやつですね。
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