アインクラッドからの転生者   作:アルシャ

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第9話 コペル

 真面目そうな少年は、ボロボロではあるが生きている。

 もう1人の黒髪の少年も、どうやら生き残ったようだ。

 

 黒髪の少年は、こちらに近づいてきた。

 

 そして、薄暗い森の中、初めてお互いが近くで顔を合わせた。

 

「「っ!」」

 

 カズヤ!? 

 

 俺は、黒髪の少年を近くで見たときに、一瞬、前世での仲間の名前が脳裏をよぎった。

 だが、違う、だが、似ている。

 

 いや、カズヤがここにいるはずはないか。

 それに、カズヤはもっと強い。

 少なくともこの口植物に苦戦していたのは子供の頃だけだ。

 

 いや、目の前の少年も、まだ子供ではあるか。

 そう考えると、あの状況を切り抜けたのだから、この少年はなかなかの実力を既に持っているのか。

 

 まあいい、とりあえずは置いておこう。

 

「どうやら、2人とも無事なようだな、良かった」

 

「「……」」

 

 ……ん? どうやら2人の間に微妙な空気が流れている。

 仲間、だと思っていたのだが、違ったか? 

 ああ、そうか、この惨状は片方が実を割ってしまったから起こったことのはずだ。

 

 つまり、片方はもう1人のせいで死にかけ、片方は味方を巻き込んで死にかけてしまった罪悪感を感じていて、そのせいで微妙な雰囲気が流れているのだろう。

 

「そうか、モンスターの赤い実を割ってしまったんだよな? 気にするな、実を割ってしまえば、その匂いにつられて周囲のモンスターが寄ってくるなど、知らなかったのだろう?」

 

「「……」」

 

 ん? さらに微妙な雰囲気に。

 もしかして。

 

「知ってたのか?」

 

「……うん」

 

 真面目そうな少年が、そう答えた。

 

「だが、事故なのだろう?」

 

「……いや」

 

 真面目そうな少年が、そう答えた。

 

 この感じだと、この真面目そうな少年が、実を割ったようだな。

 しかも、分かっていて、故意に。

 

 まあ、俺達も昔はよくやっていたことではあるが、力量差をわきまえなければ、単なる自殺行為だ。

 

「……ごめん、キリト」

 

 そう言って、真面目そうな少年は膝をたたんで地に座り、頭を地面につけて、その横に手を置いた。

 

「僕はまだ、ソードアート・オンラインをゲームだと思っていた」

 

「ソードアートオンラインはゲームじゃないぞ?」

 

 あの亡霊がそう言っていたしな。

 っと、今は2人が話しているんだから、余計なことは口出ししないほうがいいか。

 

「そう、だよね、でもさっきまでの僕にはそれが理解できていなかった、所詮ゲームだと、相手を騙し、出し抜き、奪っても……殺しても、いいと思っていた、僕はまだ他のMMORPGと、このSAOを同一視していたんだ、でも、彼の声を聞いて、死を明確に感じて、やっと理解できたんだ」

 

 彼とは、俺のことか? 俺の声? 

 

「これはもう、遊びじゃないんだって、命を懸けているんだって、だから、その時、やっと自分が何をしてしまったのか、理解できた、僕は、キリトを、人を……」

 

 真面目そうな少年は、心底後悔しているような声色で話している。

 

「結果論なんて関係ない、生きていたから、なんて言うつもりはない、謝っても許されないことをしたのは分かってる、許してもらえるなんて思っていない、だけど……ごめん」

 

「コペル……」

 

 黒髪の、キリトと呼ばれていた少年の顔には、憎しみや怒りの色が浮かんでいない。

 どうすればいいのか迷っている表情だ。

 

 今の言葉の中には何個か理解できない場所があったが、ある程度の事情は分かった。

 

 要するに、コペルと呼ばれた少年が、なんの恨みがあるのかは知らないが、実を割ってモンスターにキリト少年を襲わせて殺そうとしたのだろう。

 

 その割には、コペル少年の方が危ない状況ではあったが。

 何かしらの危機脱出手段を持っていたのだろうか? 

 いや、あの状況で使っていなかったとなれば、うまく危機脱出手段が機能しなかったと言ったところか? 

 

 それで、危うくなったところに俺が助けに入ったと言ったところか? 

 

 2人がどのような関係で、どんな事情があったかは分からないが、これは当人同士で解決するべき問題で、俺が口を出すべきではないだろうな。

 ここで横から出しゃばって、問題をなあなあで済ませてしまうより、当人同士でしっかり話し合ってもらった方がいいだろう。

 

 幸い、キリト少年には怒りや憎しみの感情が顔に出ていない。

 ならば、悪い結果にはなるまい。

 

 だが、2人ともボロボロだ、傷ついたままいつまでもここにいるのはよくないだろう。

 

「済まんが、ここでは余計な邪魔が入る恐れがある、だから、村に帰ってから、そこで2人ゆっくり話し合った方がいい」

 

「そう、だな」

 

「……だけど、僕は」

 

 キリト少年は頷いたが、コペル少年はまだ難色を示している。

 

「済まんが俺も急ぎの用があるのでな、いつまでも時間を潰すわけにはいかんのだ、だからと言ってここで別れて、村までの帰り道で2人が死んだとなれば目覚めが悪い、村までは同行するつもりだ、そこで2人ともゆっくり話し合い、傷を癒せ」

 

 俺も早くあの村の子供の病を癒す薬の材料を取って来なければならんのでな。

 

「……分かった」

 

「よし、ならば、行こうか」

 

 

 ──────────────────

 

 

 村に戻るまでの道に、モンスターは出なかった。

 

 俺は2人を村まで送り、そのまま、また森に入ろうとした。

 

「待ってください!」

 

 その寸前で、俺はコペル少年に呼び止められた。

 

「どうした?」

 

「あの、先ほどは助けていただき、ありがとうございます」

 

 そう言ってコペル少年は俺に頭を下げた。

 

「気にするな、それに、そんな堅苦しくなくていい」

 

「いえ、でも……うん、ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 感謝を伝えることは難しくもあるが、大切なことだ。

 それが出来るのだから、この少年の心根は、きっと悪くないはずだ。

 だから、キリト少年を殺そうとしたのは、きっと魔がさしただけだろう。

 

 なら、話し合いで解決できるはずだ。

 俺達のように、武器を持って殺しあう、などとはならないだろう。

 

「あの、お礼になるか分からないけど、これ」

 

 そう言って、コペル少年は光る球体を差し出してきた。

 

「これは?」

 

「《リトルペネントの胚珠》です」

 

 リトルペネント? 胚珠、もしかしてこれは、薬の材料か? 

 

「いいのか?」

 

「うん、本当にありがとう」

 

「こちらこそ、感謝する」

 

 これで、あの子供が元気になってくれるといいのだが。

 

「僕は《コペル》です」

 

 コペル、外国人か? 顔立ちを見る限り日本人だと思っていたが。

 いや、ハーフ? 

 もしくはこの世界の現地民かも知れないか。

 

「俺は朝田士郎だ、ではな、またどこかで会おう」

 

 俺は、胚珠を持って、急ぎ村の奥に向かった。

 

「え? ……あの、それってリアルネームじゃ」

 

 

 ──────────────────

 

 

「あの男、アバターが変化していなかった、それに、異常なほどに戦い慣れている、間違いなくニュービーじゃない、だが、もしβテストにいたなら、あの実力だ、話題になっていてもおかしくはないはず……まさか、いや、流石に早計か? だが、あの男、俺を見て驚いていた、直ぐに平静を装っていたが、と言うことは……そう考えると……だが……それに……」

 

 

 ──────────────────

 

 

 俺は村の一番奥の家に入った。

 

 そして、かまどで何かを煮ているおかみさんに近づき、胚珠を渡した。

 

「これを」

 

 すると、おかみさんは一気に20歳ほど若返って見えるほどに顔を輝かせ、胚珠を受け取り、俺に感謝をしてきた。

 

 そして、胚珠をそっと鍋に入れたおかみさん改め若奥さんは、部屋の箱から赤い鞘の長剣を取り出し、再度の礼とともに剣を俺に差し出した。

 

「ありがとう」

 

 俺は剣を受け取った。

 

 剣だ。俺の目の前には、今、剣がある。

 また俺の体を金色の光が包んだが、そんなことが気にならないくらいに俺は気分が高揚していた。

 

 今直ぐに強敵と戦いたい、血がたぎるようだ。

 

 だが、俺はそれを抑え込み、鞘を腰に引っ掛けて、椅子に座った。

 

 もし、これで、あの薬になんの効果もなく、娘さんの体調が良くならなかった場合、俺はただ剣をもらっただけになってしまう。

 

 せめて、少しでもよくなったかどうかを確認するべきだ。

 そして、もし少しも良くなっていなかったのなら、また薬の材料を取ってこよう。

 それが、責任というものだろう。

 

 そう思い、しばらく俺はその家から離れなかった。

 

 そして、若奥さんは鍋の中身を木製のコップに注ぎ、大切そうに奥の部屋に向かって歩き出した。

 

 その後、先程まで時折隣の部屋から聞こえていた、こんこん、という娘さんの咳の声が聞こえなくなった。

 そして、しばらく時間が経ち、若奥さんは奥の部屋から戻ってきた。

 

 その顔と、明るい雰囲気を見るだけで、聞かなくてもどうなったかはわかった。

 

 きっと、娘さんは良くなったのだろう。

 なら、俺がここにいる意味はもうないな。

 

「世話になった、この剣は大切に使わせてもらう」

 

 そう言って、俺は家を立ち去った。

 

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