10月最後の投稿となりますが最後まで読んで頂けますと幸いです。
今回は2話と同じ位の長さです。
読みにくく申し訳ありません。
午前9時46分 時計塔 学生寮 初の部屋
初はいつもの日課である瞑想を終えゆっくりと立ち上がった。自身が瞑想中に部屋を訪れた際は遠慮なく叩いて構わないと、ライネスに伝えていたので、叩かれるのではないかと思っていたが叩かれる事はなかった。黙って目の前に居る事もなかった。黙想チャペルの調査から2日が過ぎた今日は、コービット屋敷の調査をする事になっていた。
「特に問題はなさそう…だな」
左腕を見ながらポツリと呟いた。左腕には包帯が巻かれていたが動かす分には支障はない様である。荷物の確認など終えると自室を後にした。足早にライネスの部屋を目指していた。すると、グレイとばったり出会った。
「初さん…おはようございます」
「おはようございます、グレイさん」
朝の挨拶を交わすとグレイの視線が初の左腕へと移った。どうやら心配してくれている様だ。
「お怪我の具合はどうですか?」
「すっかり良くなりましたよ。グレイさんと師匠のおかげです」
初はそう言いながら包帯が巻かれた左腕を見せて軽く振り回したりした。その様子を見て安心したのかグレイは柔らか笑みを浮かべていた。
「そう言えばお礼がまだでした。ありがとうございます、グレイさん」
「い、いえ…拙はライネスさんの指示に従っただけですので、お礼はライネスさんに伝えて下さい」
初が頭を下げて感謝の意を伝えると、グレイは少々照れ臭そうにしていた。
「妬けるな~、我が弟子」
2人が他愛のない会話をしていると、突然背後からライネスの声が聞こえ、初はビクッと体を震わせた。慌てて振り向くとニヤニヤと笑みを浮かべているライネスの姿があった。
「まるで化け物でも見た、と云う顔をしているな」
「あっ…おはようございます、ライネスさん」
「おはよう、グレイ。ご機嫌如何かな、我が弟子?」
「はい、すこぶる調子がいいです」
初が元気そうに返事をすると、ライネスは「どれどれ~」と品定めする様な視線を初の左腕に向け、ぎゅっと掴んだ。
「────ッう…!!」
痛みのあまり声にならない声を漏らし、蹲った。蹲りながら「ひ、酷いですよ…師匠」と涙目でライネスに訴えた。グレイは慌てて初に駆け寄り心配そうな表情を浮かべていた。肝心なライネスはと云うと、うんうんと頷きながら軽く笑みを浮かべていた。
「その元気があれば今日の調査は大丈夫そうだな」
痛がる初を余所にライネスは毒づいた。本心ではとても心配していたのである、本心を知るのはライネス自身だ。毒づくは弟子に対する愛情表現の裏返し言えるだろう。
これ以上言い返そうとは思わず初は立ち上がった。グレイだけではなくライネスにも多大な心配をかけた。これくらいされても構わないと思ったからである。
「ライネスさん、その…初さんにご無理をさせない様…に…」
「分かってる、分かってる」
「グレイさん、大丈夫ですよ。師匠は常に気遣ってくれる優しい方なので」
「君……さらっと頬が熱くなる事を言わないでくれたまえ……///」
グレイの心配に対しライネスは適当に返事をしていた。傍からみれば本当に適当に返事した様に見える。しかし、そうではない事をグレイも初も分かっていた。だが、敢えて初が口にしたので照れたのかライネスは頬を僅かに赤く染めていた。
「さて、調査に行くとしよう。準備はいいね、我が弟子?」
「はい、分かりました」
「お2人とも、どうかお気をつけて……」
グレイの言葉に2人は頷き時計塔を後にした。その背中をグレイは静かに見送った。
午前10時36分 コービット屋敷
2人はコービット屋敷の前に居た。コービット屋敷はレンガ作りのバンガロー風の建物だった。両隣はもっと背の高い新しいビルになっているので、その間で縮こまる様に建っている。屋敷の正面は道路に面している。
「この屋敷だけ過去に取り残されている感じがしますね」
「あぁ。それに屋敷が両隣のビルの陰になっているせいか、目立たない存在だな」
目立たない上、カーテンのかかった何の飾りもない窓が、中にあるものを頑なに隠している様な、と云う印象を受けた。さらに、何か不吉なものがあると感じた。尤もそれが何なのかは分からないが、初の陰陽師としての経験とライネスの魔眼が語っていた。
正面のドアには1つの鍵がかかっていて、その他にも4つの差し錠で閉められていた。差し錠の方はこの1、2年の間につけられたものの様であった。また、全ての窓が内側から釘付けにされている事に気がついた。
「異様なまでに鍵が多いですね…」
「あぁ…まるで外界との交流を断ち切っている様だ」
そう言いながらライネスは家主から預かった鍵で開錠した。玄関から真っ直ぐに伸びた廊下があった。玄関付近には階段がないので恐らく廊下の突き当たりに2階と地階に続く階段があるのだろうと考えていたらライネスは屋敷の間取り図を出してきた。
「ふむ、現在地がここだな。いきなり地階の調査は危険だろう、この階から順番に見ていこう」
「はい、分かりました」
2人は玄関を背面にして左手側の手前の部屋から調べてみる事にした。この部屋は物置部屋であり色々な箱の類やサビついた水槽や古い自転車の様なガラクタが置いてあった。
「ここは物置部屋だな。目ぼしいものと云えば……あの戸棚の中かな」
ライネスが部屋の右側にあった戸棚を指差した。中には何か入ってそうな雰囲気があったが、板を張って封印されていた。
「中を調べるには、この板をどうにかするしかなさそうですね。釘抜きか何かあれば良いのですが……」
「そんな道具なんて必要ないさ。トリムマウ」
ライネスが得意気に言うと試験管から水銀を垂らすとトリムマウを召喚し強引に板を引き剥がさせた。「なっ?」とライネスは同意を求めているが初は反応に困った。他人の屋敷の物を壊した様なものだったからである。
「と、取り敢えず…中を調べてみましょう」
初が戸棚を開けると、中に3冊の表紙のついたノートの様なものが入っているのを見つけた。それを持ち出しライネスに見せすると「どれどれ」と物色し始めた。
「ふむ、これは日記だな。そして、これを書いたのは屋敷に住んでいた、ウォルター・コービットだ」
「因みに…その日記には何が書かれているんですか?」
「あぁ…召喚などの魔術儀式だよ。尤も全部には目を通してない上、癖がある字だからな…把握には時間がかかる。今は関係ない、これは後回しだ。他の部屋を調べよう」
続いて調べる事にしたのは、先ほど調べた部屋を背面にし直ぐ左手にある部屋だ。内部には主に壊れた家具などで、薪にして燃やすほかには使い道がないくらいに壊れた物ばかりが置いてあった。ここも物置部屋の様であった。特に気になる物がなかったので他の部屋を調べる事にした。
次に調べる事にしたのは、先ほど調べた部屋を背面にし直ぐ左手にある部屋だ。この部屋は土間の様で、オーバーコートを掛けたり、ゴム靴、帽子、傘などを置いておくところだった。石炭の袋も幾つか置かれていた。
「この部屋も外れか…次だ、次」
少し落胆気味なライネスは部屋から出ると間取り図を取り出し見始めた。
「ほう、居間・食堂・キッチン…壁をぶち抜いて1つの部屋にしているのか」
「正面に見える部屋ですよね?廊下の端から端までとは…とても広そうですね」
「そうだね。じゃあ、調べてみようか」
最初に調べた部屋の反対側、玄関を背面にして右手側にある扉が居間への入り口で入室した。居間は一般家庭と変わらずあるべき物があった。ラジオ、ソファー、クッションのついた椅子、棚には見かけ倒しの安い置物が並んでいた。
「妙だな……そうは思わないかい、弟子?」
「何がでしょうか……?僕には普通の居間にしか思えないのですが」
ライネスの質問の意図が分からず初は首を傾げて自信無さげに答えた。すると、ライネスはある物を指差した。
「アレだよ、アレ。十字架に聖母マリア像。君たち日本人には殆ど馴染みない物だと思うがね」
「確かに…あまり馴染みない物ですが。でも、カトリック教徒の方からしてみれば当たり前の物だと思います。それが、何故妙なのでしょうか?」
「部屋を見渡せば分かると思うがね、異様に多いんだよ」
初はライネスに言われた通りに部屋を見渡した。すると、直ぐに気がついた。十字架、聖母マリア像以外にも、その他カトリック教関係の品物が異様に多い事に。
「理由は定かではないが、ウォルター・コービットにしろマカリオ夫妻にしろ敬虔なるカトリック教徒が居たと云う事だろう」
居間を調べ終えたので、居間とキッチンの間にある食堂を調べ始めた。食堂には長いマホガニーのテーブル、作り付けのサイドボード、椅子が7脚あった。テーブルの上には3人分ののテーブル・セットされているが、使われた形跡はない様であった。鍋の中の様子が気になった初が蓋を開けた時だった。
「うッ……!!」
中には腐っているスープが入っていたが、何とも形容し難い匂いに初は嫌悪の表情を浮かべ、口と鼻を手で覆い急いで蓋を閉じた。危うく胃の中身を戻すところだった様だ。
「災難だったな~、我が弟子。大丈夫か~?」
悶絶している初に対してライネスはクスクスと笑いながら、気遣う言葉を投げかけた。大丈夫じゃない、と言わんばかりに首を横に振った。それを見て、ライネスはニヤリと小悪魔的な笑みを浮かべた。
「これを兄上のお土産にしようじゃないか」
「他人の家の物ですから、それはダメだと……」
「おや?君が真に気にするのは兄上の体調ではないのかな?」
「真にって……その言い様ですと体調を崩させようとしているのですか?」
「無論、そのつもりさ。言ったろ?私はね、他人の不幸が大好きなんだ」
何とも言えない笑みを浮かべたライネスに対し初が困っていると…「冗談さ、他人の不幸が大好きだが…兄上の体調をこんな物で崩そうとは思わないよ。それに見え見えの罠が通用する程、兄上は阿呆じゃない」と言った。
「気を取り直して、キッチンを調べようじゃないか、我が弟子」
食堂の奥にあったキッチンへと歩みを進めた。見た限りキッチンは普通だった。冷蔵庫、レンジ、オーブン、それに貧弱な食料品置場がついていた。中にはまだ食べられる物もあった。缶詰のスープ、肉、米、数種類のパスタ、自家製のワインなどがあった。野菜などで腐っていなかったものは、ネズミの足跡が残っている為ネズミが食べてしまった様だ。
「君が好きなワインもあるぞ、飲むかい?」
「師匠、先ほども言いましたが他人の家の物ですから…」
「本当は飲みたいんだろう?
ライネスの言葉に初は目を輝かせた。その反応に「やはりな」と笑みを溢した。そう言われ慌てて目を逸らすが遅かった、「帰ったら乾杯だな」と追撃をかけられたので素直に頷いた。
キッチンでの調査を終えた2人と1体はキッチンの扉から廊下に出た。直ぐ右手側には2階と地階へと続く階段があった。
「さぁ、次は2階を調査するぞ」
2人と1体は階段を上り2階へと足を踏み入れた。
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次回の投稿は11月となります。
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