ライネス師匠と   作:煉獄の師匠・清盛

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今回でこの章は終わりますが、話はまだまだ続いていきます。

最後まで読んで頂きますと幸いでございます。


第6話「悪霊の家(下)」

午後1時22分 コービット屋敷1階

 

 2人と1体は地階へと続く階段の前に居た。下りる前に傍にあった階段を照らすであろう電気のスイッチを入れてみたが切れている様で灯りが付かなかった。

 

「踏み外したら下へと真っ逆さまだ。気を付けて進むぞ」

 

 ライネスは初とトリムマウに注意を促すと先頭をきって、地階へと続く階段に足を踏み入れた。すると、階段はミシミシと音を立てた。グラグラとも揺れるので目を凝らして見ると、階段は壊れたものを簡単に直しただけの状態になっていた。慎重に下りて行き何とか着いた地階は、あまり大きくもない部屋で物置部屋になっており、道具類、鉛管、木材、釘、ネジなどが散らばっていた。横の壁はレンガだが、突き当たりの壁側と、階段の直ぐ下にある小部屋の壁は木で出来ていた。

 

「先ずはこの部屋を探してみようじゃないか。ガラクタ以外の物も見つかるかも知れんしな。そう─────埋葬された、ウォルター・コービットがね。まぁ尤もこの()()では、その可能性が低いと思うけどね」

 

「それは木の壁で出来た部屋に居る、と云う事ですか?─────ん?」

 

 初がガサゴソとガラクタを漁りながらライネスの言葉に返事をした時、ある物を見つけた。それは、握りの部分にゴテゴテとした飾りのついた古いナイフで刃は異様に厚いサビで覆われていた。

 

「師匠、ナイフを─────」

 

「伏せろ、初!!」

 

 ライネスの方へ振り向きナイフを見つけた事を報告しようとした時、初の言葉はライネスの警告により遮られた。初は意味が分からなかったが、ライネスは意味もなく大声を出さないと思い、その場に倒れる様に伏せた。その時、頭上を何かが掠めた。過ぎ去ったのを確認すると、起き上がり、それを見た。それは空中に浮かぶナイフだった。

 

「ナイフが空中に?これは……」

 

「間違いなく、ウォルター・コービットの仕業だろうさ」

 

「何とかしないと……」

 

「私に妙案がある。君は力を使わなくても大丈夫。ただ、見ていればいい」

 

 ライネスと初が作戦会議をしていると、ナイフの切っ先がライネスの方へ向いた。どうやら獲物の標的が決まった様だ。

 

「分かりました」

 

 初が静かに返事をしたと同時にナイフはライネスの方へ勢いよく飛んで行った。狙われているライネスは慌てる事なく不敵な笑みを浮かべ、ただ一言─────。

 

「トリムマウ」

 

「Yes,Master」

 

 トリムマウがライネスを覆う様に壁になり、ナイフはトリムマウへと吸い込まれた。ライネスはトリムマウが壁になってくれた事により無事であり、ナイフは水銀で出来ているトリムマウの身体の中で勢いが殺され静止した。当然トリムマウは無事だった。何人も液体を破壊する事は出来ないのである。そして、ナイフを身体から取り出しライネスに差し出した。ライネスもトリムマウも無事でその上、ナイフも回収する事が出来た。

 

「随分とサビついている、と思ったが、これは血だ」

 

「それだけ多くの犠牲者が……」

 

「あぁ。だからさ、私と君で犠牲者の無念を晴らそうじゃないか、我が弟子?」

 

 ライネスの言葉に初は黙って頷いた。

 次に調べる事にしたのは階段の下にある小部屋だ。早速、中を覗いてみたが空き部屋で何も見つからなかった。

 

「さて、次はこの壁だな」

 

 再び元居た部屋に戻り木の壁の前にライネスは立ち腕を組んでいた。

 

「師匠、強行突破をする気ですか?」

 

「勿論だとも♪」

 

 ニヤリと笑みを浮かべたライネスがトリムマウに視線を送った。すると、主人の意図を理解したトリムマウは右腕の形状をハンマーに変化させ思い切り振りかぶり、木の壁に大きな穴を開けた。木の壁に開けた穴に入ると、直ぐ目の前に再び木の壁が立ち塞がっており、人がやっと思いですれ違いが出来る程の幅しかなかった。その分、長さはあったが。

 

「狭いな……。とっとと壁を破壊してしまおう」

 

 ライネスがそう言うとトリムマウが右腕を振り上げた。狭いので巻き込まれない様に初が壁をつたい歩きながら離れた場所に移動した時だった。手に凸凹の感触を覚えたので、じっと目を凝らした。

 

「何をしているんだい?壁はもう壊してしまったぞ」

 

 初が目を凝らしている間にライネスとトリムマウは、壊し出来た木の壁の穴の中へ行ってしまったが、初が来なかったのでライネスが顔を覗かせた。

 

「あ、師匠。偶然ですけど、ここに文字みたいのが彫ってありまして」

 

「文字?」

 

 ライネスは怪訝な顔をしながら初の下に来て、文字が彫ってある壁を注意深く観察した。

 

「も……く……そ、う」

 

 壁に彫られている文字を指で辿りながら声に出し、ゆっくりと読み上げた。すると、初はハッとした表情を浮かべた。

 

「黙想チャペル、ですか?」

 

 初が静かに言うとライネスは黙って頷いた。

 

「ウォルター・コービットと黙想チャペルの関係は私たちの想像以上より深いものかも知れんな」

 

 ライネスが顎に手を当てながら思考を巡らせていると、先程穴を開けた壁の方からトリムマウが声をかけてきた。

 

「お嬢様、ご覧下さい。ウォルター・コービットと思われる方が横たわっていらっしゃいます」

 

「間違いない、ウォルター・コービットだろう。いよいよ奴と対面だな。分かっていると思うが、十分に気をつけたまえよ」

 

「はいっ!!」

 

 初は頷くとライネスに続き穴の中に入った。その中は部屋が部屋が広がっていた。そして部屋の中央に敷いてある藁布団の上にじっと横たわり、死んでいる様に見える、人の姿があった。ウォルター・コービットだろう。恐る恐る近くと、ウォルター・コービットはゆっくりと上体を起こし立ち上がった。

 

「─────!!」

 

 その光景にライネスと初は目を丸くした。

 ウォルター・コービットは身長は約180cm、木で出来ている様な感じの窶れて萎びた体をしていた。痩せていて、裸で、大きく燃える様な丸い目をしていて、鼻はナイフの刃の様に鋭く尖っている。髪の毛は1本もなくなっており、歯茎が減ってしまっているので歯が異様に長く見える。彼の体からは鼻を指す様な、甘ったるい様な、胸のむかつく様な匂いが漂ってくる。

 

「■■■■─────!!」

 

 言葉にならない声を上げながら、ウォルター・コービットはこちらに襲いかかってきた。彼の鋭いかぎ爪が初の胸部を狙い振り下ろされた。

 

「……!!」

 

 咄嗟に半歩下がったのが幸いし、かぎ爪による攻撃は外れ初は無傷で済んだ。ウォルター・コービットの攻撃は大振りだった為、隙が大きく脇ががら空きだった。そこを右腕の形状をハンマーに変えたトリムマウが振りかぶり攻撃を命中させた。攻撃を受けたウォルター・コービットは横へと大きく吹き飛ばされた。

 

「初…君の出番だ。陰陽道を以て奴を退治するんだ」

 

 ライネスの言葉を聞きウォルター・コービットを倒してない事を直ぐに把握し頷いた。初はウォルター・コービットが飛ばされた方を見ると彼は既に立ち上がっていた。尤もトリムマウの攻撃を受けた脇は欠損していた。スーっと息を吸い、ハーっと息をゆっくりと吐き出し、人差し指と中指を手刀と見立て空中へと突き出した。それを見たウォルター・コービットは初の方へと歩を進め距離を詰めて来た。

 

「朱雀・玄武・白虎・勾陳・帝台・文王・三台・玉女・青龍」

 

 単語毎に手刀で空中で四縦五横の格子を描き九字を切った。格子は1本1本が鋭い刀になっており、それがネット状のもので、こちらに迫ってきたウォルター・コービットと接触し、彼をバラバラに切り裂いた。そして、バラバラになった体は塵となり消えてしまった。

 

「見事だ、我が弟子♪」

 

「ありがとうございます、ししょ……ぐふッ────!!」

 

 ライネスが初に対し称賛の言葉を投げかけ初もそれに応えようとした時、吐血し卒倒してしまった。

 

「くッ。私としたことが失念していた。トリムマウ、初を頼む。急いで戻るぞ」

 

「Yes,Master」

 

 

 

午後6時52分 アーチゾルテ邸

 

 

 初が目を覚ますと、白い天井…ではなく、茶色の天井が視界に入った。ゆっくりと上体を起こし、手を頭に当て、ぼんやりと倒れる前の事を思い出すのと同時に今の状況を把握した。彼はベッドに寝かされていた。すると、ガチャリとドアを開けライネスが入ってきた。

 

「目が覚めた様だね、気分はどうだい?」

 

「えぇ、落ち着いています。その……ご迷惑をおかけしました」

 

 目を伏せ俯きながら初は謝罪の言葉を述べた。「気にするな」とライネスは言いながら初と話しをしやすい様に椅子をベッドの隣に置き座った。

 

「私の方こそ…すまなかったな、君の体調を把握していたのに関わらず」

 

「いえ。僕の体調は生まれつきのものですので。師匠が気に留める必要はありません」

 

「そう言ってもらえるとこちらとしても助かるよ。さて、君が倒れていた間に何があったのか情報を共有しておこう。結果から言うと依頼は達成、家主は大喜びさ。報酬は頂いた上、君が飲みたそうにしていたワインも手に入れたぞ」

 

 依頼達成、と云う言葉を聞いて初はほっと胸をおろしたが、ワインを手に入れた事に関して苦笑いをしていた。

 

「それと────」

 

 急にライネスは声色を変えて初に迫り1枚の写真を差し出した。

 

「真意は分からないが…()()は君に近いものだろう?」

 

天宮図(ホロスコープ)、ですね……。六壬占と呼ばれる陰陽師にとって必須の占術。その占術で使う天地盤に等しい関係にあります」

 

 初は写真に写し出された天宮図を覗き込み、さらに口を開いた。

 

「これを天地盤に当てはめれば、多少は天意を知る事が出来るかも知れません。今すぐ調べますか?」

 

「いや、今はいい。今は素直に依頼を達成した事を喜び乾杯しよう。調べるのは、また今度だ」

 

 ライネスが柔らかい笑みを浮かべると、初は頷いた。そして、トリムマウにワインを持って来させ乾杯した。尤も倒れたばかりの初は1杯しか飲まなかった。酒豪であるライネスは初を気遣い自身も1杯しか飲まなかった。

 

「今日だけは泊まっていくといい。ゆっくり休みたまえよ、我が弟子」

 

「はい、お言葉に甘えさせて頂きます」




最後まで読んで頂きありがとうございます。
今回の話は如何だったでしょうか?

劇中で初が力を使ったので紹介したいと思います。

ズバリ九字切りです。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」で有名なアレです。
ただ、文言を土御門家ver.にしております。
そして、九字切りには…聖なる九字を唱えながら、両手で手印を結ぶ『剣印の法』と、手刀で空中に四縦五横の格子を描くことで九字を切る『破邪の法』がありますが、初が使ったのは後者です。

では、初が倒れた訳ですが…詳しい事は今はまだ言えませんが、力を1日で複数回使うと倒れたりします。何故そうなったのかはいずれまた。

次回の投稿は12月。内容は番外編となります。
皆さまからの感想・質問・リクエストをお待ちしております。

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