金属の割れる、音がした。
「――くっ」
日輪刀は鬼に対して有効である、というだけの日本刀。切れ味を求め薄く鋭く鍛えられた刀。それが強度の違う金属塊と真正面から全力で打ち合ったのだ、折れるのは当然だった。
煉獄は膝をつく。体力が底をつこうとしている。呼吸を整えて……無理だ、化け物の顎が近付いてくる。最早これまでか、と覚悟を決め――。
――いやー呼吸なんとかなったね! 突然の練習申し込みだったけどありあっしたー!
怪物はぐい、と器用にその顎を使い煉獄の上体を起こした。その目はすでに殺気は無い。それどころかこちらの体調を心配されているような……そんな気がする。
「誰カ話ヲ聞イテ……クスン、くわぁー」
「斎賀、元気出セッテ、ナ?」
翼で目を押さえシクシク泣く鎹鴉と、それを慰める煉獄の担当の鎹鴉。
「…………なんと?」
先程まで死闘を繰り広げていた化け物に心配され、鴉が話を聞いてと泣く。
様々な修羅場を潜り抜けてきた煉獄でさえも意味がよくわからない光景が広がっていく。これには首をかしげるしかなかった。
そうして妙な光景を眺める中、はっと折れた刀のことを思い出す。
「……っ」
新たな任務へと向かっていた最中、この怪物に襲われ、本気を出し――そして刀を折ってしまうという不覚。柱としての名折れだ。新たな刀を用意して……それは無理だ。時間がかかりすぎる。十全な状態からは程遠いまま、鬼を倒しに行かねばならない。
普段と様子が違う炎柱を見た斎賀、何があったのかを尋ねる。すると帰ってきたのは、炎柱が受けていた新たな任務についてだった。
命からがら逃げてきた猟師の話曰く、『森の中にいた鹿のような頭を持つ植物の化け物が村を襲った』とのこと。襲われたその村は壊滅状態にあり、一日経たずにこれほど事態を起こした強力な鬼を倒すには柱が適任だ――とまだ話が終わってないにもかかわらず、そこまで聞いて斎賀の涙腺はぶっ壊れた。
「くわー、任務ノ邪魔シテゴメンナサイ……ゴメンナサイ……」
「斎賀! オ前ガ謝ル必要ナイカラ、ナ! ダカラホラ泣クナッテ!」
――あれっなんだろう、俺そいつ知ってる気がするんだけど。えっアレもいるの? マジで? 混ざりすぎでは? うん。これ俺が責任取るしかなくない?
刀が折れてしまった柱の代替え品として、ディノバルド、出陣するってよ。
それは、鳥居の上にいた。
「(……何、アレ)」
紫色をした蜥蜴の化け物が、鳥居の上に器用に寝そべっている――その事実を柱である彼が全く気が付かなかった。それが問題だった。
出目金のように飛び出した二つの目が無一郎を捉えたが、ふああと欠伸をして直ぐに目線をずらした。
――無一郎に興味が無い。それだけの事だ。
少しだけムッとした無一郎だったが、斬りかかる程の怒りではない。何かこちらに害を加えようとしたならば、それ相応の対応をするだけだ。
それは長い舌を伸ばし、社に供えられていた供物を丸ごと絡め一口で飲み込む。満足そうに喉を鳴らすと……どこか痒いのか、足で身体を搔く。長い年月を経て劣化していた鱗の破片がパラパラと地面に落ちる。紫色をした、不思議な鱗だ。
「霧、いや……霞……?」
何処からともなく発生した霞と共に消えゆく紫色。消える、と言っても移動しているわけではない。身体が透き通っていくようにして消えているのだ。
身体を透明にして消せる生き物など、とんと聞いたことがない。はてさて一体全体何なのだろう、と考えている間に紫色は完全に消え、それに伴い霞も薄れていく。
「――無一郎ゥーッ! ドコ行ッテタノカシラ? 私心配シテタノヨ!」
慌てた様子で飛んできたのは無一郎の鎹鴉。いつの間にかはぐれていたようだ。
「…………神隠し? まさかね」
人知を超えた何かが、ほんの気まぐれに見せた非現実的な世界。駄賃でもくれてやる、とばかりに落としていった鱗。拾い上げたそれからは鬼とは違う力を感じる。
「ソーヨッ! 大事ナ話ガアルノヨッ!」
ぐるぐると忙しなく無一郎の周囲を回る鎹鴉。
「鬼ノヨウナ強サヲ持ツ、デモ鬼デハナイ謎ノ生キ物ガ発見サレタッテ連絡ガアッタノヨ! シカモ一体ノミデハナク、複数体確認サレタソウヨ!」
「ふうん、そうなんだ」
あ、むきむきねずみは謎の猫たちに出会いカルチャーショック!してニャンターへの道を歩みだしました。
この場合ニャじゃなくてチュウター?それともチュンター?どっちにしろ語呂が死んでるぅ