高坂穂乃果に弟がいたならば   作:naonakki

11 / 43
第11話 すべての始まり

ことりサイド(~半年前~)

 

「楽しみだね、海未ちゃん♪」

 

「ふふ、そうですね。」

 

学校が終わった放課後、私と海未ちゃんで仲良くお出かけです!

残念ながら穂乃果ちゃんはお店番なので一緒に行くことはできなかったけど・・・。

穂乃果ちゃんには美味しいお菓子のお土産を買ってあげるの!

 

今日は、隣町にできたという大型のショッピングモールに出かける予定です。

私は新しいお洋服を、海未ちゃんは登山道具を見たいんだって。

 

「でも、あまり遅くならないようにしないといけませんね。

今から行くところは、夜になると治安が悪くなるという噂ですし。」

 

しっかり者の海未ちゃんは、そう注意してくれる。

 

「うん、わかった!」

 

私はそう言うと早く目的地に着きたいと、少し速足ぎみに歩を進めた。

新しいお洋服が私を待っているとなると、どうしても興奮を抑えられない。

 

「あっ、ことり。あまり急ぐと危ないですよ!」

 

「あはは、ごめんね。楽しみでしょうがなくて。」

 

そんな私を海未ちゃんは、「まったく」と言いながらも、特に私を咎めることもなく同じく歩む速度を早めてくれた。

 

なんやかんや最後には私に合わせてくれる海未ちゃんは本当に優しい、だから大好き!

あ、もちろん穂乃果ちゃんもね!

・・・友達としてだよ?

 

私と海未ちゃんは、電車に乗ってようやく待望の目的地に着いた。

 

でも・・・

 

「す、すごい人だね。」

 

「ええ、これほどとは・・・。」

 

辺りを見回しても人、人とすごい反響ぶりだった。

オープンして一週間もたっていないから多少は混むと思っていたけど、平日の夕方にここまで人がいるなんて。

 

「どうしますか?

こう人が多いと、目的のお店を満足に見られるかどうか・・・。

いっそ、今日はあきらめて後日穂乃果も含めてくるというのもありかと。」

 

と、海未ちゃんがそう提案してくれる。

 

確かに海未ちゃんの案もいいけれど・・・

 

「今から帰る人もいるだろうしとりあえず行ってみない?」

 

そう、既に時間は夕刻間近。

今から多少人も減っていくだろうと思い、そう提案してみる。

何より、新しいお店をみてみたいという欲求が勝ってしまった。

 

「まあことりがそう言うなら構いませんが・・・。」

 

「うんうん♪じゃあいこっ!」

 

そう言って私ははぐれないように海未ちゃんの手を握ってショッピングモールの中に進んでいった。

海未ちゃんは多少恥ずかしそうにしたが、意図が伝わったのか手を握り返してくれた。

 

「じゃあ、まずはあのお店に行こっか!

今日は海未ちゃんにたくさん着せ替え人形になってもらうからね♪」

 

「な!? ことり諮りましたね!?

着せ替え人形にしないことを条件に来たはずです!」

 

「忘れちゃった~♪」

 

知ってる?

海未ちゃんっていろんな服が似合って、とっても可愛いんだよ?

 

「ことり~~。」

 

嫌がる海未ちゃんを引っ張って無理やり目的のお店に入っていく。

 

さあ、今からことりのおやつタイムです♪

 

そこから時間が経つのも忘れ、夢中になり海未ちゃんに色々な服を着せていった。

途中から海未ちゃんはぐったりしていたがそんな海未ちゃんも可愛いから問題はなし!

 

「は~、ことりは満足です♪」

 

このために生きていると言っても過言ではないよね。

 

「うぅ、酷いです・・・。」

 

一方海未ちゃんはしくしく泣いていた。

・・・ちょっぴり罪悪感が。

 

「あ~海未ちゃん?

今から登山道具を見に行こっか?」

 

と、私が言うと

 

「行きましょう!

さあ、ことり! 時間は限られていますよ!」

 

と、完全復活した海未ちゃんは私の手を引っ張り元気よく歩き出した。

 

こういう元気な海未ちゃんも可愛いよね!

 

その後は楽しそうに登山道具を見て回る海未ちゃんと楽しく時を過ごした。

 

しかし、服を見ているときもそうだが人が多く、一つの商品を見るだけでも時間を取られ、結果としてかなり時間が経ってしまった。

 

「ふ~、満足しました。」

 

「うん、楽しかったね♪」

 

だが、ここで周りを見てかなり人が減っていることに今更気付く。

スマホで時間を確認すると、

 

「う、海未ちゃんっ!もう8時前だ!?」

 

「え!? あっ本当じゃないですか!これはまずいです!

早く帰りましょう!」

 

「う、うん。」

 

スマホを見ると親と穂乃果ちゃんから連絡が一杯入ってる。

完全に心配かけちゃってる、連絡しておかないと。

 

(穂乃果サイド)

 

「あ、ことりちゃんから連絡帰ってきた。

よかった無事で。夏樹にも知らせたいけど・・・。」

 

ことりちゃん達が七時を回っても家に帰っておらず、連絡も入っていないことからちょっとした騒ぎになった。

夏樹はそれを聞いた瞬間、ショッピングモールめがけて家を出ていってしまった。

新しくできたショッピングモールの周辺は夜になると治安が悪く、心配だと言っていた。

最近女性が襲われたといううわさが学校であったらしい。

それを聞いた私も一緒に行こうとしたが、そのタイミングでことりちゃんから連絡が来たのだ。

 

夏樹にも知らせたいけど、スマホも持たずに行ってしまったので連絡のとりようがない。

 

う~ん、どうしよう?

 

(再びことりサイド)

 

「ねえねえお姉ちゃんたち本当に可愛いね~?何歳?」

 

「こりゃ上物だなw」

 

急いで駅まで向かっていた私達だったがその途中でガラの悪そうな大学生くらいの人たち複数人に囲まれてしまい、細い路地に連れてこられてしまった。

こっそり助けを呼ぼうにもスマホも取り上げられてしまった。

それにさっき親と穂乃果ちゃんには無事だからすぐに帰ると連絡してしまった。

時間がたてば別だが、すぐに助けに来てくれる可能性は低い。

 

こ、怖い・・・。

男の人たちのなめ回すような視線、さりげなく体を触ってくること、ちゃらちゃらした言動、そのすべてが、怖くて気持ち悪かった。

 

こんなことになるなんて、ちゃんと私が海未ちゃんの忠告を聞かなかったからだ・・・。

 

「やめてください!私たちはすぐに帰らないといけないのです!」

 

物怖じ、びくついている私と違って海未ちゃんはそう言い放つが、その声は震えており、明らかに恐怖を感じていた。

相手もそれが分かっているのだろう、

 

「お~怖いね~。

でも声が震えちゃってるよぉ~。」

 

「おい、その女は俺に先にヤラせろよ?

俺は気が強い女が好きなんだよ。」

 

「じゃあ俺はもう一人の子の方をもらおうかなw」

 

なんてことをへらへら言っている。

 

何を言っているのだろう、この人たちは・・・。

言っていることの意味を分かりたくない。

・・・・嫌だ、逃げたい、帰りたい、帰りたいっ!

 

「や、やめてくださっm、むぐっ!」

 

「うるせえな、これ以上騒ぐんじゃねえ!」

 

海未ちゃんが、口をふさがれてしまった。

男の人に力がかなうはずもなく、海未ちゃんは完全に動きが封じられている、その目は完全に恐怖を感じていた。

 

私は、なにもできなかった。

怖すぎて何もできない。

 

気付けば温かいものが頬を伝っているのを感じた。

 

「おいおいこの子泣いてるぜ?可哀想にw」

 

「本当可哀想に、俺が慰めてあげるからねww」

 

男の人たちが何か言っているがもはや耳には何も入ってこない。

 

あぁ、もうなにもかもどうでもよくなってきちゃった・・・・。

 

私は自分の無力感と恐怖のあまり、なにもかもを投げ出してしまいそうになった。

 

その時

 

「うわああああああ!!!」

 

突如、耳をつんざくような大きな叫び声が襲い掛かってきた。

私は思わず耳をふさぎ、声のしたほうを見る。

 

するとそこには、大声を出し続ける、夏樹君がいた。

 

な、なんで・・・。

 

私が何が起こっているか分からず混乱していると、

 

「こ、このガキ、いきなりなんだ!」

 

「くそっ、うるせえ!」

 

男の人たちも突然の大声に戸惑っているようだが、すぐに態勢を整えると、

 

「このっ、舐めるな、このクソガキッ!」

 

と、一人の男がズカズカと夏樹君に向かっていく。

 

対する夏樹君は、何もしない、ただ大声を上げ続けているだけだ。

 

「黙りやがれっ!このクソガキ!」

 

男はそう言いながら夏樹君の顔を思い切り殴った。

 

っ!

 

私は思わず目線を逸らしてしまう。

 

だが、

 

夏樹君の大声は未だ、聞こえてくる。

呼吸をするため、一瞬声が途切れる時があるが、ずっと大声を上げ続けている。

 

「このっ、黙りやがれっ!」

 

そんな夏樹君を見て、他の男も夏樹君に向かっていき、何度も何度も夏樹君の顔や体を殴り続けた。

 

鈍い音があたりに響きわたる。

 

そのたびに夏樹君の声は途切れるが、その一瞬後、すぐにまた大声を上げ続けた。

腕で口をふさがれても、噛みついて腕を振りほどき、大声を上げ続けた。

 

やめて、もうやめて・・・。

 

顔がパンパンに膨れ上がり、血で染まっている夏樹君を見ると、胸が張り裂けそうになる。

 

何度殴っても声を出すのをやめない夏樹君相手に不気味さを感じたのか男たちは、

 

「お、おい、こいつなにかおかしいぞ。」

 

「なんなんだこいつは!」

 

さらに、夏樹君が大声を上げ続けたことで人が集まってくる気配がする。

遠くからはサイレンの音も聞こえてきた。

誰かが通報したのだろう。

 

「ちっ、おいこれ以上はまずい。いくぞ。」

 

この状況はまずいと判断したのか、その一言を皮切りに男たちは路地の奥へ消えていった。

 

私はそれを確認したことでその場にへたりこんでしまった。

襲われそうになった恐怖からの解放、夏樹君がこれ以上痛い目にあわないことによる安心感などいろいろな感情がぐちゃぐちゃになり、大粒の涙が目からあふれてきた。

 

私が泣いていると夏樹君がよろよろした足取りでこちらに近づいてきた。

 

・・・泣いてる場合じゃない、謝罪と助けてくれてありがとうと言わなくちゃ。

 

私が泣きじゃくりながらもなんとか声を出そうとした、その瞬間

 

「大馬鹿野郎っっ!!!!」

 

既に声はガラガラだったが、さっきまでの叫び声よりも一層大きい声で、そして本気の怒りを私達に浴びせてきた。

 

「・・・ぇ。」

 

私も海未ちゃんも状況を飲み込めず呆然としていると、

 

「こんな時間に!!何を考えているんだ!!!」

 

こんなに怒っている夏樹君は初めてだった。

あの優しい夏樹君がここまでに怒るなんて。

 

そして、そんな初めて見る夏樹君は、とても怖かった。

 

「ご、ごめん、う、ぐすっ、ごめん、なさい・・・。」

 

私は、怖くて思わず俯きながら、そして声を詰まらせながらなんとかそう言葉を紡いだ。

海未ちゃんも同じように泣きながら謝罪をしていた。

 

「もう二度と、こんな時間にこんな場所にくるな!!!」

 

重ねて投げかけられたその言葉に私は、ただ俯いて小さく謝罪の言葉を言うことしかできなった。

 

夏樹君は私達を助けてくれるために、体を張ってくれた。

悪いのは100%私達だ、怒られるのももっともだ。

 

でも、少しくらい優しい言葉もかけてほしいよ。

本当に怖かったのだ。

ちょっとくらい、一言だけでもいいのに。

 

しかし、ここで夏樹君からの怒りの言葉がパタリと止んだ。

それが気になった私は、夏樹君がいる方を向いた。

 

夏樹君は、

 

泣いていた。

 

私たち以上に。

 

そして

 

「よかった、二人が無事でぇ・・・。」

 

と、もはやほとんど聞き取れないようなガラガラの声でそう呟き、その場でうずくまって泣いてしまった。

 

そしてそのタイミングでちょうど警察が到着したのか、何人かの警官がこちらに駆け寄ってきて、私たちは保護された。

 

つづく

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。