「だから、そもそもここの計算が分からないって言ってるんだよ!」
「はあっ、何がわからないのよっ!?
そんなところ、ちょちょいのちょいで計算できるでしょ!!」
「そのちょちょいのちょいを教えろって言ってんだよっ!!」
「夏樹あんた生意気なのよ!?私年上よ!もっと敬意を払いなさい!」
「そういうのなしってまっきーが言ったんだろうが!!」
共闘関係を結んだ後、早速まっきーの家で勉強を見てくれるとのことだったので見てもらっているのだが・・・。
教え方がへたくそすぎる。
まっきーは賢い、それは何となくわかる。
だが、それ故に俺の様に賢くない者がいったいどこで躓いているのか分からないらしい。
そのせいで、いちいちどこが分からないかを一から説明するというところから始めなければいけない。
それでもまっきーは、何が分からないか理解できない部分が多いらしく、このようにお互い口調を荒くしているというわけだ。
結局その後も出会った当初の時の様にお互い言い争いながら勉強を進めていき、何とか夜の8時になろうかというところで終わった・・・。
「・・・滅茶苦茶疲れた。」
「・・・こっちのセリフよ。」
その後は、相談したいことがあったら連絡をしたいからと連絡先だけ交換して別れた。
何気に海未さんとことりさん以外で連絡先を交換した女の人は初めてだった。
・・・こんなのが初めてなんて。
それにしても、まっきーの家でかいな~、お母さんも美人でいいよなぁ・・・。
その母親からは何を勘違いされているのか、「楽しそうに遊んでたわね?」と、少しからかうような笑顔でそう言われた。
全然楽しくなかったとは、何とか言わずに堪えた。
まあ何はともあれ、まっきーのおかげで何とか宿題を終わらすことはできた。
これで、絢瀬さんにもちゃんと顔向けができるというものだ。
(次の日)
「え、本当に全部宿題をしてきたの?」
「おい待てどういうことだ?」
日曜日、早速絢瀬さんに死ぬ気でこなしてきた宿題を提出した。
しかし、絢瀬さんは「えっ、まじでしてきたの」と言いたげにその宿題を受け取ったのだ。
その証拠に、つい言ってしまったとばかりに、あっと、口に手を当て、冷や汗をかいている。
「絢瀬さん、まさか元から無理な量の宿題を押し付けていた、なんてことはありませんよね?」
「・・・そんなわけないでしょ?
こんなのできて当然よ。さあ今日も早速続きをするわよ。」
「・・・ほう。」
冷や汗だらだらさせながら言われても説得力がなさすぎる。
・・・この人案外ちょろいのでは?
・・・カマをかけるか。
「あーっ!!ゴキブリだっ!!」
「ええっ!!
どこっ!?ちょっとどこっ!?」
「嘘です。」
「・・・・・。」
やはり、以前棘がなくなったと感じたのは正しかったんだ。
この人表面上だけ冷たく装ってたが、中身はポンコツくさいぞ。
ソファの上に飛び乗り、シャーペンと赤ペンを両手に構えゴキブリを迎え撃とうとしている絢瀬さんを見て確信した。
・・・シャーペンと赤ペンでゴキブリをどうするつもりだったのか。
「どうしてそんな嘘をついたのかしら。」
「絢瀬さんが先に嘘をついたからです。」
「・・・私は嘘なんて「ついてますよね?」」
「・・・・・。」
俺にまっすぐそう言われた絢瀬さんは顔を俯けて黙ってしまった。
しかし、すぐに顔をあげると、
「だってそうでしょ??
可愛い妹を、この前まで馬鹿の極みみたいな点数を取っている男に奪われそうになっているなんて看過できるわけないじゃない!
最近は頑張ってみるみたいだけど、今だけかもしれないじゃない?
それで、ちょっと心が折れるレベルの宿題を出してみたのよ、そしたら化けの皮がはがれるんじゃないのかって!!」
・・・なるほど。
うん、何も言い返せねえわ。
馬鹿の極みってのは少し傷ついたが・・・。
全てをぶちまけてくれた絢瀬さんの言葉はもっともだった。
俺だって、もし逆の立場で雪穂や姉ちゃんが、と考えると納得できる話だ。
「話は分かりました。
でもこれで俺が本気だってわかったでしょう?」
「・・・まあとりあえずはね。」
よし、何とか絢瀬さんには俺が本気だってことが伝わったようだ。
それにあのあり得ない量の宿題をこなしたことで、かなりの学力アップにもつながったはずだ。
そうだよ、いい風に考えるんだ。
俺の恋は着実に前に進んでいるんだ!
しかしここで予想外の出来事が、
「ただいま~」
玄関の方から、俺がずっと待ち望んでいた声が!
忘れるわけない、この声は、亜里沙さんだっ!
え、でもなぜだ?
絢瀬さんと勉強をするときは、亜里沙さんが家にいないことが条件だったはず。
3位をとるまで、亜里沙さんとは会わせないと絢瀬さんが頑なだったためそうなったのだ。
俺も家に亜里沙さんが家にいると落ち着かないので了承したが、その亜里沙さんが帰ってきたぞ?
絢瀬さんの方を振り向くと
「え、え、ど、どうしよう。」
わたわたしていた。
どうやら絢瀬さんにとっても予想外らしい。
前までのクールな絢瀬さんはなんだったんだ・・・。
でもよく考えたら、姉ちゃんとスクールアイドルをしている影響なのかもしれないな。
というのも実は姉ちゃんについて尊敬している部分が一つだけある。
それは他人に対する影響力、つまりはカリスマ性だ。
どこまでもまっすぐな姉ちゃんと関わればどんな人間だってそのまっすぐさに心を動かされるものだ。
姉ちゃんは相当スクールアイドルに熱を入れているそうだし、絢瀬さんがうちの姉ちゃんに影響されていたとしても不思議ではない、むしろこの数カ月での変わりようにも合点がいく。
絢瀬さんを見て俺はそう考察していたが、次の瞬間そんなことはすべて吹き飛んだ。
「ただいま~、お姉ちゃん!
・・・ってあれ?
あなたは、公園で会った!」
女神降臨である。
・・・あぁ、まさかまた会えるなんて。
数カ月たっても、その美しさ、可愛さは何も変わっていなかった。
しかも、おれのことを覚えてくれているとか、
生きててよかった・・・。
俺が歓喜に打ち震えていると、
「ん?お~い?」
はっ!?
危ないせっかく亜里沙さんが話かけくれているのに無視してしまっているじゃないか!?
急いで、返事をしなくては!
「あ、そ、そそそそうですね。おおお久しぶりです。」
・・・だめだ、緊張しすぎてうまく喋れない。
こんな気持ち悪く喋ったら亜里沙さんに嫌われる!?
「うん♪久しぶり♪
二人とは仲良くできましたか?」
ところが俺のキモイ喋りを特に気にすることもなく、それどころか俺が悩んでいたことについて心配をしてくれている。
・・・もう嬉しすぎて死にそうだ。
「・・・はい、おかげで仲直りできました。」
「えぇっ、なんで泣いてるの!?」
おっと、いかんいかん、感動のあまり涙が出ていたようだ。
亜里沙さんに変に心配させるわけにはいかない。
「いえ、両目にゴミがはいってしまって、今取れましたのでご安心を、ははは」
「な~んだ、なら安心ですね、ふふふ。」
この純粋さ、眩しすぎるぜっ!
「ちょ、ちょっと亜里沙、今日は友達と遊ぶんじゃなかったの?」
絢瀬さんはようやく、落ち着きを多少取り戻したようで亜里沙さんにそう確認をとる。
「うん、そうだったんだけど、用事があったみたいで早めに帰ってきたの。」
「そ、そんな。」
友達さんよ、ナイス用事!
「でもどうして二人が家にいるの?
二人はお友達?」
「「・・・・・」」
・・・なんて答えたらいいんだ?
亜里沙さんに告白するためにお姉さんに勉強を教えてもらってます♪なんて言えるか!
絢瀬さんもどう説明したものか困っている様子だ。
「あ~、実は勉強を見てもらってたんですよ。
うちの姉ちゃんと絢瀬さんが知り合いだったみたいだからそのつながりでね・・・。
ね、絢瀬さん?」
「え、ええ、そうなのよ亜里沙。」
嘘は言ってない、嘘は。
「そうだったんだ~、あ、私は絢瀬亜里沙と言います!
あなたは?」
そういえば自己紹介できてなかったっけ。
こちらが一方的に知っていた状況になっていることに今更気付く。
「俺は高坂夏樹と言います。
中学3年生です。」
「え、じゃあ私と同じ年だったんだ。
じゃあこれで、お互い敬語じゃなくてもいいよね♪」
・・・・・え、亜里沙さんにタメ口でいいと?
何俺、今日死ぬの?
「あ、せっかく久しぶりに会えたんだし三人でどこかに出かけない?」
「行こうすぐに。」
断るわけがない。
「よ~し、じゃあ早速出発しよう!」
「いぇ~い!!」
よっしゃいくぜ!
勉強?知るか!!
「ちょっと!!」
ところが、ノリノリの俺たちに対して絢瀬さんがストップをかける。
「どうしたのお姉ちゃん?」
「そうだよ、どうしたんだよお姉ちゃん?」
「・・・ちょっとこっちに来なさいっ!」
なぜか、力づくで隣の部屋に連行されていく俺。
すぐに戻るよ~と言ったら「うん♪」と言ってくれた、可愛いなあ。
「で、どういうつもり?」
なぜか俺は隣の部屋で正座をさせられ問い詰められていた。
「質問の意味がわかりません、お姉ちゃん。」
「そのお姉ちゃんっていうのやめなさいっ!」
「痛いっ痛いっ!わかったやめます、やめますっ!」
頭を拳でぐりぐりされちったよ、いってぇ~。
「なんで三人で遊びに行くことになってるのって聞いてるの!!」
「いや、そんなこと言われても・・・。」
「とにかくやめよやめっ!
今日は勉強をするためにきたんでしょ!
勉強するわよ、勉強!」
そう言いながら、リビングに戻ろうとしてしまう。
「亜里沙さん、がっかりするだろうな~、せっかく三人で楽しくお出かけできると思ってるのに・・・。
しかもその原因が実の姉だなんて。
これは絢瀬さん嫌われるかもな~。」
「よ~し、亜里沙~っ!!
すぐにお出かけする用意をするから待っててね!」
「は~い♪」
絢瀬さん、ちょろいぜ。
つづく