「えへへ、どこに行く?」
天使が満面の笑みで俺と絢瀬さんにそう問いかけてくる。
亜里沙さんとならどこでもいいさ・・・。
ていうかその笑顔を見てると浄化されて召されそうになるからあんまり見ると危険だな。
まさかの展開に俺は最高に幸せだ。
勉強頑張ってよかった・・・。
「そうね、とりあえず駅前にでも行きましょうか?」
「ハラショ~、じゃあ早速行こう!」
というわけで、俺たちは駅前に向かうことになった。
元気で楽しそうな亜里沙さんを見てるだけでテンションが上がってくるね。
でもハラショ~ってなんなんだ?
日本語じゃないよな?
そういえば、この二人は明らかに日本人じゃないけど何人なんだろうか?
「ねえ、絢瀬さんって日本人じゃないんですか?」
「・・・私たちにはロシア人の血が入っているのよ、クオーターよ。」
まだ、この状況に納得がいっていないのか不満そうな絢瀬さだったが、一応そう答えてくれた。
なるほど、通りで日本人離れした綺麗な顔だと思ったよ、納得だ。
「ねえ、どうして夏樹君はお姉ちゃんのことを名字で呼んでるの?」
急に亜里沙さんがこちらに振り向きそんな質問をしてきた。
絢瀬さんのことを名字呼びしているのが気になったのだろう。
なんでと言われてもな・・・。
「・・・なんとなく?」
「え~だめだよ!
せっかく仲がいいんだからちゃんと下の名前で呼ばないと!
もしくは、あだ名とか!」
仲がいい?
どこを見てそう感じたのかは分からないが、天使がそういうなら逆らうわけにはいかない。
・・・ふむ、じゃあ
「じゃあこれからは、おねえtyっ!?」
「そ・れ・い・が・い・よ?」
「・・・じゃあ、おねえ様は?」
「却下」
「・・・絵里さんと呼ばさせてください。」
「よろしい。」
凄くいい笑顔のまま、俺の顔を鷲掴みしてきたよ、しかもだんだん力を込めてくるもんだから・・・。
今までで一番怖かったかも・・・。
「ふふふ、二人は本当に仲がいいんだね?」
亜里沙さん、一回眼科に行った方がいいかも・・・っは!?
俺は天使になんて失礼なことを。
亜里沙さんが黒といえば黒なんだ!
だから俺は絵里さんと仲がいいんだ、きっと!
「そうなんだよ~、絵里さんとは本当に仲がよくてね~!」
俺が、「ね~」と絵里さんに同意を求める為振り向くと、
「なに言ってるの?」
無の表情でそう言われてしまった、ですよねー。
しかしここで、亜里沙さんがズイッとこちらに迫ってきて、
「もうお姉ちゃん!
せっかく夏樹君がこう言ってくれてるのに、酷いよっ!
ねえ夏樹君??」
絵里さんにぷりぷり怒った亜里沙さんは俺にそう同意を求めてきた。
なんてこった・・・。
「え~・・・その・・・。」
ちらりと絵里さんの方を向く。
絵里さんは特に何をするでもなく、じっとこちらを見ていた。
これは、試されている!?
もう一度亜里沙さんの方を見てみる。
「ねえ、夏樹君もちゃんと怒らないと、ね?」
・・・・・。
「そうだよっ絵里さん!
そんなことしてたら友達いなくなるぞっ!」
「うんうん!」
・・・言ってやった。
いや、これが正しいんだ。
亜里沙さんも可愛くうんうんと言ってるじゃないか。
これでよかったんだ・・・。
「・・・あはは、ごめんね二人とも私ちょっとどうかしてたみたい、ごめんね、夏樹~?」
絵里さんは、心の底から笑ってるかのように楽しげに俺の両肩に手を置き、そう言ってくれた。
「うん、やっぱりみんな仲良くしないとね♪」
「ふふふ、そうね、私達みんなずっと仲良しよ。」
絵里さん、その仲良しの夏樹君の肩を物凄い力で握りしめちゃってますけど。
めっちゃ怒ってるぞ、これ。
「夏樹、集合。」
俺の考えを裏付けるように、耳元で小さく、そして感情を含まないとても低い声でそう呟いてきた。
思わずゾクリとしたね、ちょっとちびったわ。
その後すぐに、絵里さんは亜里沙さんにちょっと待っててねと言って、俺を路地裏に連れ込んだ。
そして
「・・・さてと、何か言いたいことは?」
「本当にごめんなさい。」
壁に押し付けられて、手を壁に付き俺の逃げ道をふさぎながらの尋問だ。
いわゆる壁ドンの状態だが、まさかされる日が来るとは思わなかった。
ていうかシンプルに怖い、殺られるのでは?
・・・文句言えんけど。
「・・・はぁ、亜里沙が可愛いのはわかるけどちょっと舞い上がりすぎよ?」
てっきり、ボコボコにでもされるのかと思いきや絵里さんは呆れたようにそう言ってくる。
・・・ていうか薄々感じてはいたが、絵里さんって相当のシスコンっぷりだな。
まあ、あんな可愛い妹がいたらそうなるか。
「仕方がありませんよ、だって亜里沙さんが可愛いすぎるんだから。
俺だって言いたくて言ってるんじゃないんですよ?
あの純粋な目で「ね?」て言われたら、そりゃあもう・・・。」
「・・・・・。」
絵里さんは、何とも言えなない表情で俺の言葉を聞き、黙っている。
否定しきれないのだろう。
「とにかくっ!
今みたいな、態度をずっと取るようだったらもう勉強見ないから、そのつもりで!」
と、絵里さんは強引にそう言いまとめると、亜里沙さんのところに戻ろうとしてしまう。
・・・そんなっ、無理じゃん!?
勉強見てもらえないのは困るっ!
「ちょっと、絵里さん!
そんなイジワル言わないでくださいよ。
俺たちずっと仲良しじゃなかったんですか??」
「うるさいわねっ!?
それこそ仕方なく言ったことよ!」
取り付く島もないとはこのことだろう、そのまま亜里沙さんのところに戻ってしまった。
やばい、何とかしないと。
急いで絵里さんの後を俺だったが、絵里さんの様子がおかしいことに気付く。
何だかキョロキョロ辺りを見渡している。
「絵里さん、どうしたんですか?」
追いついた俺は絵里さんにそう質問する。
「亜里沙が見当たらないのよ・・・。」
「大事件じゃないですか。」
俺は、急いで辺りを見渡す。
くそっ、どこに行ってしまったんだ??
何も無ければいいが・・・。
全力で走り回り、そしてついに見つけた。
・・・見つけてしまった。
・・・・・。
・・・・・。
・・・・・ヤクザに絡まれてね?
20メートルほど離れたところに亜里沙さんと、そしてサングラスをかけ、スーツ姿の明らかにそっちの人だとわかる大男の二人が対面していた。
・・・どういう状況なんだ!?
とにかく急いで向かおうっ!
そう遠くない距離にいたため、すぐに亜里沙さんの姿が鮮明に見えてくる。
そしてそれと同時に話声も聞こえてくる。
「ハラショ~、これが日本のヤクザですか~、すごい迫力です!」
「・・・嬢ちゃん、そいつは俺に言ってるのかい?」
「はい♪」
あーーーー、亜里沙さあああんん!!!
はい♪じゃあねえよおおお!!
後、ハラショ~、ってなんやねえええん!!
俺が心の中で全力でツッコミを入れながらなんとか二人のいるところに到着した、いやしてしまった。
「亜里沙さんっ!!」
「あ、夏樹君!
ねえ見て!この人ヤクザだよ!」
「うんうんうんうん、そうだね、分かったから指を差すのはやめようか、まじで。」
きゃっきゃと楽しそうにはしゃぐ亜里沙さんを必死になだめる。
なんだろう、心の中に黒い感情が・・・。
「・・・おい、にいちゃん。」
ヤクザさんの方からドスのきいた、声でそう呼びかけられる。
・・・兄さんって俺のことだよね?
「は、はい・・・。」
俺が、ギギギとヤクザさんの方に顔を向ける。
そこには、俺を見下ろすグラサン姿の大男が。
・・・俺死ぬのかな?
「この子は兄ちゃんの連れか?」
「・・・はい、ずっと仲良しの関係です。」
「・・・よく分からねえが、お前も男なんだろ?
女一人くらいちゃんと見ててやれよ。」
「・・・はい。」
そう言うとヤクザさんはゆっくりと歩いて去って行った。
・・・・・。
・・・あれ、目から水が出てきたようだ、視界がぼやけてきた。
・・・こ、怖かったぁ。
前のチャラ男たちとは比べ物にならない本当の恐怖をあの人からは感じた。
あれが本物だということなんだろう。
「わ~なんか迫力あったね~、
やっぱり凄いんだね、ヤクザって!」
「・・・そうだね。」
楽しそうで何よりだよ、俺はそれだけで幸せさ、ぐすっ。
・・・でもやっぱりってどういう意味?
「あの・・・、大丈夫?」
俺が恐怖のあまり膝から崩れ落ち、その場で身動きがとれないでいると、いつの間にか来ていた絵里さんが気まずそうにそう尋ねてくる。
「・・・大丈夫そうに見えますか?」
「・・・見えないわ。」
「・・・ヤクザって怖いんですね、初めて話ましたよ。」
「・・・そうみたいね。」
「・・・頼むからちゃんとそういうところ教えてあげてくださいよ。」
「・・・10回くらい言ったわよ?
わたしも夏樹の今の気持ちすごくわかるもの。」
「・・・そうですか。」
どうやら、絵里さんも経験済みらしい。
苦労してるんだな、なんか一気に親近感湧いてきた。
「・・・亜里沙はね、どうやら心の底から人類みんなを友達だと思ってるらしいのよ。」
そこで俺は初めて顔を上げて絵里さんの顔を見た。
絵里さんはとても遠い目をしており、すべてを諦めている顔をしていた。
「・・・絵里さん、今度勉強を教えてもらうときついでに色々話聞きますよ?
溜まってるようですし。」
俺がそう提案すると、絵里さんの目に生気が戻ってきて、
「本当に?」
と、短く確認をしてくる。
「・・・ええ、これを一人で抱えるのはよくないですよ。」
「・・・ありがとう本当に。」
「いいんですよ、これくらい。」
俺たちは静かに抱き合った、そこには疚しさなんて一切ない、慈愛に満ちた抱擁だった、と思う。
「二人とも、やっぱりとっても仲良しさんだね!」
と、亜里沙さんもとてもご機嫌だ。
これがハッピーエンドってやつか・・・。
「じゃあ、早速再出発しよう!」
「「え」」
その後、俺たちは片時も亜里沙さんから目を離さず、緊張を保ったまま一日を過ごすことになりとても疲れた。
絵里さんもそうなのだろう、最後の方なんか10秒に一回レベルで溜息をついていたよ。
毎回こうなのかと思うと本当に同情する。
しかし収穫はあった。
それは、
亜里沙さんの沢山の笑顔。
そして、絵里さんとの強い絆だ。
つづく
ここまで読んでいただきありがとうございます!
書いてて思ったんですが、過去編、長いですね・・・。
全然終わらない・・・。
自分の中ではとっくに終わっている予定だったんですが・・・。
というより最初は20話もあれば完結するかなと思ってました(笑)
ちなみに今の感覚だと話の流れ的には今の時点で真ん中くらいかなーと思ってます。
(また色々あって長くなるかもしれませんが)
ちょっと過去編が長いですが、引き続き読んでいただければ、と思います。
では!