高坂穂乃果に弟がいたならば   作:naonakki

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第21話 自己紹介

や、やばい・・・。

 

あの人に全てをばらされれば、俺はこれから靴を舐める変態野郎として生きていかなければならなくなる・・・。

ていうか、俺ミューズの人と関わり持ちすぎじゃない?

絵里さんにまっきーもそうだが・・・。

 

いや、だが待てよ。

もうあの日からしばらくたつし、あの人も俺のこと忘れた可能性はないか?

・・・そうだよ、その可能性だって十分にあるじゃないか。

 

とりあえず俺はあの人に恐る恐る視線を向けてみる。

 

「・・・・・っ!?」

 

なぜか向こうも俺のことを見ていたようだが、俺が視線を向けた瞬間、すごい勢いで視線逸らされた。

 

あかん、あれは完全に俺のことを覚えてる反応だわー。

いや、そりゃいきなり知らない人から靴を舐めるから勉強を教えてくれとか頼んでくる人いたら忘れないよねー、俺なら死ぬまで覚えてるわ。

・・・どうしたらいいいんだ?

 

「お~君がうわさの夏樹君か~、初めまして、うちは東條希っていうねん、よろしく~。うちのことは希って呼んでくれていいからね~。」

 

俺が、これからどうしようと、頭を抱えて必死に頭を回転させていると、一人の先輩が自己紹介をしてくれる。

変な関西弁は引っかかるが、いい人そうだな。

とにかく挨拶はしなくては。

 

「あ、はい、俺は高坂夏樹といいまsっ!?」

 

俺は自己紹介をしながら視線を希さんに移すが、その時、体中に電気が流れた。

 

・・・なんだこれは。

 

・・・この人おっぱいでかすぎじゃないか?

・・・まったく、けしからん。

こんなの歩くセクハラじゃなないか。

・・・それにしてもでかいな。

 

俺が、その驚愕のサイズに驚きを隠せず、まじまじと見つめていると

 

「ど・こ・を・み・て・る・の!」

 

「いたたたっ、ごめんなさいごめんなさい、もう見ませんからっ!」

 

俺の至福の時間を、絵里さんに思い切り耳を引っ張られる形で邪魔されてしまった。

酷すぎるよ、絵里さん・・・。

 

「まったく、本当に馬鹿なんだから!」

 

「まあまあえりち、うちは別に気にしてないし。」

 

「甘やかしてはだめよ希。」

 

少し見ただけだから何とも言えんが、絵里さんと希さんは仲が良さそうだな。

・・・よかった、ちゃんと友達いたんだね、正直クールすぎて孤立してると思ってたよ。

 

「・・・夏樹、何よその温かい目は。」

 

「・・・いえ、なにも?」

 

「・・・なんかむかつくわね。」

 

「二人ともやけに仲よさそうやけど面識あるん?」

 

俺たちのやり取りを見て、違和感があったのだろう、希さんがそう確認をしてくる。

 

「ええ、以前穂乃果に頼まれて、ちょっと前から夏樹の勉強を見ているのよ。」

 

「ほえ~、そうやったんや。

知らんかったわ~。

夏樹君、えりちの教えは厳しいんちゃうん?」

 

いたずらっぽく聞いてくる希さんに

 

「ええ、あり得ないほど。

以前、規格外の量の宿題を出されて死にそうになりました。」

 

乗っかるようにそう答えておいた。

まあ、嘘ではないしセーフだろう。

 

「うわ~、えりち、中学生の子に容赦ないな~。」

 

「ちょっと絵里ちゃん、うちの弟をあんまりいじめないでよ!」

 

「ち、違うのよ、それには色々あって!」

 

くくく、これ面白いなw

もっとからかってやろうかな?

 

「夏樹、そのことについては本当に申し訳なく思ってるから、後で詳しく話し合って今後のことを決めましょうね?詳しくね。」

 

絵里さんがにっこり笑顔で俺にそう優しく言ってくる。

 

・・・これ、完全に怒ってる時の絵里さんじゃん。

もうからかうのやめよう・・・。

 

俺と絵里さんがそんなやり取りをしていると、後ろから黒髪のツンテールの小さな女の子がトテテとやってきて、

 

「にっこにっこに~♪

初めまして~、にこに~です♡」

 

・・・・・え、なんだ急に。

オリジナルであろう振り付け付きで紹介されたぞ、いやそもそも自己紹介なのか!?

 

「ん~?

聞こえなかったかな~??

もう一度いくね~、にっこにっこに~♪

にこに~だよ~♡」

 

・・・どう反応すればいいんだ!?

痛すぎる、痛すぎるこの人!?

 

俺が未知との遭遇に戸惑いを隠せずオロオロしていると、

 

「もう、にこちゃん、初対面の人にその挨拶はキツすぎるからやめるにゃ~。

私は星空凛っていうにゃ、凛ってよんでにゃ~。」

 

・・・いや語尾!?

にゃ~って。

助けてもらってあれですけど、あなたも相当変ですよ!?

・・・とは言わないでおこう、面倒そうだ。

「どういうことよっ」とさっきのにこにーと凛さんがぎゃーぎゃ騒いでいる様子を見てひそかにそう決断する。

 

ていうか、もしかしてまっきーが好きと言っているにこちゃんて、あの人のことか?

 

・・・・・。

 

・・・ま、人の好みはそれぞれだしな、俺はとやかく言う権利はないよな。

それにしてもミューズの人たちクセ強い人多くないか?

 

まあでも、とにかくこれで自己紹介は終わりだな、後は姉ちゃんの陰にでも隠れてご飯を楽しもうっと。

 

俺がそそくさと姉ちゃんの近くの席に座ろうとする、しかし

 

「あれ夏樹君?

かよちんがまだ自己紹介していないよ?」

 

・・・余計なことを、この猫もどきめ。

忘れかけていたのに・・・。

 

「え、自己紹介って何のことですか?」

 

「いやだから、かよちんがまだ自己紹介してないよって。」

 

「・・・なるほど、それは大変ですね。」

 

「うん」

 

「まあでもそれは後でということで。」

 

「・・・ん?なんで?今やればいいにゃ」

 

「・・・まあまあまあまあ」

 

「・・・え、どういうこと?」

 

・・・だめだ、もはや何を喋ってるか分からなくなってきた。

もうどうやっても逃げられる気がしない。

諦めるしかないのか??

 

「ほら、かよちん、よくわからないけど、さっさと自己紹介するにゃ。

かよちんで最後だよ!」

 

「ちょ、ちょっと凛ちゃん!?」

 

凛さんは、かよちんさんとやらの背中を後ろから押して無理やり俺の方に連れてきた。

 

変態野郎の前に無理やり連れてこさせるとは、凛さんは最低だな、まったく。

・・・あぁ、俺の社会生命も、後わずかだ。

 

「あ、あの・・・。」

 

かよちんさんは、変態野郎の俺と視線を合わせるのも嫌なのか、目を合わせずオロオロしている。

 

「ん? 二人ともなんか様子がおかしいけど何かあったん?」

 

「確かに、かよちんどうしたの?」

 

「え、ええと、その・・・。」

 

「もしかして、夏樹君と会うの初めてじゃないとか?」

 

・・・だめだ、周りも俺たちの様子がおかしいことに気が付いてきている。

このままでは、すべてがばれるのも時間の問題だ。

・・・どうせ死ぬなら、最後に思い切り抵抗してやるのはどうだろうか?

今みんなは俺たち二人の様子がおかしいことに不信感を抱いている。

その不信感が吹っ飛ぶようなことが起これば、有耶無耶になる可能性はある。

・・・・・。

ええい、もうどうなってもいい、すべてがひっくり返るように思い切りやってやれ!

 

「なっつなっつき~♪

初めまして~、なつき~で~す♡」

 

世界が

 

止まった。

 

 

 

結果から言うと、作戦はうまくいった。

皆不信感なんてぶっ飛んだのか、しばらく固まっていたが、静かに、そして徐々に視線を逸らしていき、無言で各々の席についた。

そしてしばらくしてから雑談をし始めていた、俺抜きで。

かよちんさんは、「え、え、あ、あのよろしく・・・」と戸惑いつつもそう言って、皆と同様に席についていた。

 

・・・なんだろう、うまくいったはずなのに、死にたい。

 

「・・・夏樹、あんた何やってるの?」

 

俺がにこにーポーズのまま固まっていると、リビングに戻ってきたまっきーに不審そうに声をかけられた。

ただし、俺とまっきーが知り合いとばれないよう周りに聞こえないように小さな声で、だ。

 

「・・・まっきー、俺もうだめかもしれない。」

 

「・・・何があったのよ?」

 

「社会的に生きようともがいたら、精神的に死んだ・・・。」

 

「いや、普通にわからないけど。」

 

「・・・もう放っていおいてくれ。」

 

「・・・よくわからないけど、そういう事ならそうしておくわ。

ただ、その馬鹿みたいなポーズは早くやめたほうがいいわよ?」

 

「・・・うん。」

 

俺は静かにそう同意すると静かに手をおろした。

まっきーは、他の人たちのところに合流していった。

 

・・・帰りたい。

 

つづく

 


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