俺が思わず「可愛い」と言ってしまったため、お互い再び沈黙になって、気まずい状況になってしまった。
・・・だって、可愛かったんだからしょうがねえじゃん、ねえ?
あの笑顔は反則だって。
なんといえばいいのか分からないが、ことりさんのような女の子らしい可愛さとは違うのだ。無条件に守ってあげたくなるような可愛さというでもいうのか、まあとにかく可愛い、それは間違いない。
ていうかミューズの人たち、中身はともかくみんな可愛すぎではないだろうか?
その中に姉ちゃんがいるのが、違和感があるが・・・。
それにしてもさっきのかよちんさんの、かっこいいと言っていたのは、何だったんだろうか?
・・・見当もつかん。
しかしどうしたもんか、かよちんさんは、相変わらず顔を真っ赤にして落ち着かない様子だ。
くそう、こんなことなら姉ちゃん達のお泊りに混ぜてもらえば・・・いや、それはないな。
うん、何をされるか分かったものではない、死んでも行ってたまるものか。
結局そのまま何もできずに時間は過ぎ、飲食店が立ち並ぶ道なりに来た。土曜日ということもあり、俺たちとは正反対な賑やかな雰囲気だ。
俺はなんとなく、かよちんさんの方をちらりと見てみた。
すると、何ということでしょう、そこには顔を真っ赤にし、おどおどしたかよちんさんはおらず、目をキラキラさせて何かを夢中に見ているかよちんさんがいた。
どうしたんだ?何を見てるんだ?
俺がかよちんさんの見ている方に視線を向けてみる、そこには
「GOHANYA」
と、書かれた飲食店があった、黄金米で大盛り無料らしい。
いかにも男子中学生や、男子高校生が好んで行きそうな店だ。
・・・ん?
なぜこの店をかよちんさんはそんな子供のような夢中になって見ているんだ?
・・・え、まさか行きたいのだろうか?
さっきあんなに一杯食べたのに・・・。
だが、これだけ期待に満ち溢れた様子を無視するのもなあ、一応確認するか。
「・・・あの、かよちんさん? あのお店行きたいんですか?」
「うん・・・はっ!?
う、ううん、嘘だよ!?
全然そんなことないよ?」
うんって言ったよ、この人・・・。
しかし、すぐに我に返ったのかそう強く否定してくる、遅いけど。
さらにここで、
ぐうぅぅ~
何とも大きなおなかの虫が鳴った、かよちんさんからだ。
見事な音だ・・・。
「「・・・・・。」」
気まず~い空気があたりを支配する。
かよちんさんは、俯いて黙っているが、今の音って・・・。
「あの、いまの・・・」
「はうううぅぅ//」
俺がかよちんさんに声をかけると、突然、今日一の顔を真っ赤にしてそこにうずくまってしまった、よっぽど恥ずかしいのだろう。
・・・悪いですけどちょっと可愛いです。
「あの・・・行きます?」
「・・・うん//」
俺が、そう提案すると恥ずかしがりながらも素直にそう言ってくる。
というわけで、食事パーティー後に「GOHANYA」にいくことになった。
後どうでもいいけど、店のネーミングセンスはどうにかならんのかね。
俺は驚愕していた。
「ごはんおかわり、大盛りで!!」
かよちんさんの食欲にだ。
・・・これで三杯目だぜ、しかも大盛りで。
ちなみに俺は、既にお腹はいっぱいだったので、サイドメニューの豚汁だけ飲んでいた。
「かよちんさん、さっきの食事会で、あまり食べてなかったんですか?」
「うん、真姫ちゃんに悪いけど正直洋食ってあまり得意じゃなくて、特にご飯がないと私だめで!」
とのことらしい。
さっきまでのおどおどした様子はまったくなく、元気いっぱいだ。
「ごはん好きなんですね。」
「うんっ、ごはんとアイドルが大好きなんだっ!!」
まあ、幸せそうなので細かいところは気にしないでおこう。
それより今の雰囲気なら聞けるかもしれない。
「あの、気になってたんですけど、さっき俺のことかっこいいとか言ってましたけど、あれって何だったんですか?
足舐めるとか言ってたんですよ?」
「ん~、だってあれも何か訳があって、していたんでしょ?」
「・・・まあ、そうですけど。」
「その何かのためにあれだけ必死に全力で取り組めることが凄くかっこいいなって思ったの。」
かよちんさんは、ご飯を食べながらもそう饒舌に回答してくれる。
この人ご飯食べさせてたら、何でも喋ってくれるんじゃないか?
それにしてもそういうことか、まっきーにも似たようなことを言われたが、そんなに凄いことだろうか?
自分ではよくわからない。
「・・・特に私、何事もやる前から諦めちゃうことが多いから、余計にそう思ったの。」
ここでかよちんさんが、そんなことを切り出してきた。
「そうなんですか?
でも今は、スクールアイドルしてるんでしょ?
詳しくは知りませんけど、結構人気も出てきてるらしいじゃないですか。
それって、かよちんさんもスクールアイドルに全力で取り組んでいるってことじゃないんですか?」
それに、ご飯を食べているかよちんさんは本当に幸せそうだった。
きっと、スクールアイドル活動に取り組んでいる時のかよちんさんも楽しそうに、そして全力で取り組んでいるに違いない。
「違うよ・・・、それは周りが凄いからだよ。
私なんて、みんなの足を引っ張ることが多くて・・・。
凛ちゃんにだって助けられてばかりだし。」
そう言って、かよちんさんは、ご飯を食べる手を止めてそう悲しそうにそうつぶやいた。
「そんなことないと思いますが・・・
そうだっ、ミューズのライブの映像とかないんですか??」
この人が、本気でスクールアイドルに取り組んでいるかは、そのライブ映像を見ればわかるはずだ。
本気そうじゃなかったら・・・うん、それはその時考えよう。
でもなんとなくだが、大丈夫な気はする。
「え? う、うん、スマホで見られるけど・・・。」
俺の意図が分からず戸惑っていたが、そう言いながらスマホを取り出し、少し操作してからそのスマホを渡してくれた。
画面はすでにタッチすれば動画が再生できる状態になっていた。
「ありがとうございます、あ、でも店内で再生するわけにもいかないか・・・。」
そう、ここは店内だ、周りにも少なくないお客さんがいる。
流石にこの状況で音を出して動画を見る訳にもいかないだろう。
「あ、だったらイヤホン持ってるよ?」
「・・・貸してくれるんですか?」
「うん、どうぞ使って?」
「・・・ありがとうございます。」
かよちんさんは、ピンク色の可愛らしいイヤホンを渡してくれた。
「・・・・・。」
なんだろう、これを耳につけるの凄く恥ずかしいんだけど!?
姉ちゃんや、雪穂からイヤホンを借りてもなんとも思わないが、というか勝手に使ったりするけど、なんでこんなに恥ずかしいんだ??
俺が、貸してくれたイヤホンを手に持ちフリーズしていると、
「・・・どうしたの?
聞かないの?」
「あぁ、いえ、今聞きますっ!」
そう言って、俺は急いでイヤホンを自分の耳に装着した、してしまった。
「・・・・・。」
あぁ、かよちんさんのイヤホンを装着してしまった・・・。
なんか今までのイヤホンより、いい気がする!
なにがいいかは知らん!
ってこんなこと思ってたら気持ち悪いな、気持ちを切り替えよう、今は動画を見ることが先決だ。
そう言って、俺は動画の再生ボタンを押そうとする。
・・・そういえば、ミューズのライブを見るのは初めてだな。
姉ちゃんが踊ってるというのがどうも気恥ずかしく、今まで敢えてスルーしていたが、まさかこんな形で見ることになるとはな。
そんなことを考えながら、俺は再生ボタンを押した。
「・・・君、夏樹君?どうしたの?
もう動画終わってるよ??」
「・・・え、あぁ、そっか、もう終わってたか。」
あれ、なんだ?
俺は今、ミューズのライブを見てていた。
そして、俺は今、動画終わったことに気付かずぼうっとしていた。
なんでそんなことに・・・?
・・・いや、理由は簡単だよな。
ライブが想像を遥かに超える素晴らしいものだったからだ。
動画を見た瞬間、俺の何もかもがそのライブに引き込まれた。
9人のメンバーの一人一人の魅力を次々と見せつけられ、その魅力に取り込まれているうちにいつの間にか動画が終わっていた。
・・・こんなに凄かったのか、ミューズは。
正直言うと、舐めていた。
アイドルなんて、興味もなかったし、そもそも初めて数カ月やそこらで人気が出る程度の世界くらいにしか思っていなかった。
しかし、蓋を開けてみると、今日変人だと思っていたミューズの人たちのみんなのスクールアイドルに対する熱意と情熱がびしびしと伝わってきた。
「それで、どうだった?
僕らのLIVE君とのLIFEっていう曲なんだけど。」
かよちんさんが少し不安そうにそう聞いてくる。
それに対し俺は、
「・・・がっかりですよ、かよちんさん。」
本当にがっかりだぜ、かよちんさん。
「・・・え、そ、そうだよね、やっぱり私なんて。」
俺のそのセリフを聞いたかよちんさんは、ショックを受けたのか、その瞳にどんどん涙がたまっていっている。
「ええ、これだけ素晴らしいライブをしていて、何を迷うことがあるんですか!!」
「・・・え、素晴らしい?」
予想外の言葉だったのだろう、間をおいて、きょとんとしてそう聞き返してくる。
「そうですよ!!
動画が終わっても感動していて、動画が終わったことに気付かなかったんですから!
かよちんさんは、どう見ても全力でスクールアイドル活動に全力で取り組んでいます。
そしてミューズの魅力を形作っている確かな存在であることが、伝わってきましたよ!
これでなぜ自信を持てないのか逆に謎ですよ!」
そんな俺の怒涛のセリフをずっと目をパチパチして聞いていたかよちんさんは、
「あ、あ、うぅぅ。」
泣き出してしまった。
や、やばい、強く言いすぎたか!?
こういう時つい熱くなってしまう自分の性格が恨めしい。
ほらぁ、周りのお客さんも俺のことをごみを見るような目でみてきてるぅ。
「あ、あの、すみませんでした。
こんなにキツク言うつもりじゃなかったんです。」
「う、ううん、違うの、そんな風に言ってくれて嬉しくて・・・。」
どうやらキツク言ったから泣いたわけじゃなくて、嬉しかったようだ。
できればすぐに泣き止んでほしいが・・・、ほらあのおっちゃんなんか俺のこと露骨に睨んでるよ!?浮気ばれたとかじゃないですよ~。
それから、5分程度、かよちんさんが泣き止むまで周りの客に睨まれる地獄の時間が続いた。
「ごめんね、泣いちゃって?」
何かスッキリしたように、そう謝罪してくるかよちんさん。
「・・・いえ、いいんですよ。」
ゲッソリしながらそう答える俺。
「・・・おかげで私自分に自信がもてたよ!」
何はともあれ、丸く収まってよかった。
「あ、それからかよちんさんじゃなくて、かよちんでいいよ♪」
と、そんなことまで言ってくれた。
ここに来るまでのかよちんさん、いや、かよちんからは考えられないくらい、明るくそして自信に満ちた表情だった。
「ありがとう、かよちん。
それと、改めて自己紹介してもいいですか?
あの時は有耶無耶になっちゃったし。」
まあ、有耶無耶になったのは、俺のせいだが。
ていうか地味にかよちんの本名知らないんだよな・・・。
凛さんがかよちんって言ってたからそれで呼んでたけど。
「ふふ、そうだったね。
私は、小泉花陽です!改めてよろしくお願いします!」
「俺は、高坂夏樹です、こちらこそよろしく、かよちん!」
「うん!
・・・それから、せっかく夏樹君から自信ももらえたし、もうひとつ、私のしたいことにも取り組むことにするよ!」
と、ここでかよちんは、気になることを言ってきた。
やりたいこととはなんだろうか?
「はあ、ちなみにそれって何か聞いてもいいですか?」
「そうだね、じゃあ夏樹君だけに特別に言うね?
・・・私ね、好きな人がいるんだ。」
思ったより、爆弾発言が飛んできたな。
好きな人か、かよちんがいい寄ったら大抵の男は落ちるんじゃないだろうか?
「そしてね、その好きな人はね・・・」
と、そのタイミングで俺に顔を思い切り近づけてきた。
・・・え、なんだいきなりっ!?
今日このパターン多くね??
というか、え、まさか、かよちんさんが好きな人って・・・
「凛ちゃんが好きなの!」
・・・・・ん?
「すみません、誰が好きって言いました?」
「凛ちゃんが好きなの!」
「・・・・・。」
またこのパターンか~い!
とりあえず、俺のドキドキを返してほしい。
流れ的に俺のことを好きとかいう流れかと思ったよ!
イヤホン借りてドキドキしてた俺バカみたいじゃん!?
・・・まあ、俺には亜里沙さんがいるからね?
残念とか思ってないよ?本当だよ?
「そうですか、頑張ってください。
じゃあ、そろそろ帰りましょう。」
俺が、豚汁を飲み干し、急ぎ帰り支度を進めると、
「でね?
正直私はこの気持ちをずっと抑えるつもりだったの。
だって女の子同士だし。
でも、夏樹君にここまで言われちゃったから頑張ろうってなったの!」
俺の帰ろうという提案なんて無視で話を続けてきた。
・・・おどおどしたままの方がよかったのではないだろうか?
「・・・できれば、その思いは墓場までもって行ってほしかったです。」
「だからね、私のこと応援してくれないかな?」
「オコトワリマシマスッ!!」
「・・・私のこと応援してくれないかな?」
「オコトワリ「応援してくれないかな?」・・・はい。」
「ありがとう、夏樹君!」
・・・なぜこうなった。
まっきーの物真似をして断ったのがいけなかったのだろうか・・・。
こうして、かよちんの恋を応援することになってしまった。
「じゃあね、夏樹君!
また、色々相談するからね?」
「・・・うい。」
その後店から出て、分かれ道でそう言って、意気揚々と帰っていった。
しっかりラインまで交換させられたよ・・・。
・・・ブロックしたら怒るかな?
はぁ、まあいいや、今日はもう帰ってゆっくり休もうっと!
ピコンッ
ん? 海未さんからライン?
海未『今から私の家に集合です、お泊り会ですよ!
ちなみに無視したら、後悔しますよ?」
「・・・・・。」
ダレカタスケテーーー!!
つづく
25話読んで頂きありがとうございました!
というわけで、花陽ちゃん回でした。
もうあれですね、みんな可愛いですわ(笑)
今回は夏樹が初めて、ミューズの素晴らしさを知った回でもありました。
いい曲ですよね、僕らのlive 君とのlife・・・。
というわけで、次回はお泊り編になります!
もしよければ感想やコメントをお願いします!!
ではっ!