高坂穂乃果に弟がいたならば   作:naonakki

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第28話 そして今へ(過去編最終話)

ピピピ・・・

 

朝の7時、設定していたアラーム音が私を夢の世界から現実へと引き戻す。

いつもは、うるさく感じるこのアラーム音も今日だけはこの音を聞くと心躍ってしまう。

その理由は無論、夏樹だ。

最近避けられていたが、昨日はたくさん喋ることができたし、照れた夏樹を見ることもできました、これで嬉しくないわけがありません。

しかも、今日は私の家でお泊りです!

つまり、横を見れば夏樹がいるというわけで・・・

まったく、最高の朝ですね!

 

私は、期待を胸にゆっくりと、夏樹が寝ているはずの布団に目を向ける。

 

そこには、

 

夏樹がいた、

 

・・・ことりに抱き着かれて寝ている夏樹が。

 

前言撤回、最悪の朝です。

なぜか夏樹は、ぐったりしているように見えますが、ことりの幸せそうな顔ときたら・・・。

まあ、ババ抜きに負けたからこれに文句を言う筋合いはありませんが、もう朝ですから起こしてあげないといけませんよね?

 

 

 

はあ、眠いし、おでこは痛いし、今からにこにーとの特訓とか・・・。

 

結局ことりさんに抱き着かれた俺は、ほとんど眠ることができなかった。

おまけに、何故か海未さんが、鍋におたまを思いきり打ち付けながら俺たちを起こしに来るという荒業をしてきたのだ。

そのせいで、とことりさんは、びっくりして飛び起きてしまい、その勢いのままお互いのおでこを思い切りぶつけてしまったのだ。

朝一から、俺とことりさんは、激痛に悶えるという最悪のスタートを切る羽目になった。

・・・マジで頭割れるかと思ったぜ。

 

「くそ、あんな起こし方するとか、人間じゃねえよ・・・。」

 

「うぅ、おでこ痛いよう~。」

 

「普通に心臓止まるかと思ったよ。

二度とこんな起こし方はごめんだよ・・・。」

 

ことりさん、さらには目覚めの悪い姉ちゃんでさえも、飛び起きたようで、各々ぶつくさ文句を垂れていた。

・・・しかし、これは姉ちゃんを起こすのに使えるかもしれんな。

 

「アラームで起きないあなた達が悪いんですよ。

さあ、早くにこの家に行くためにも朝ごはんを食べに行きますよ。」

 

海未さんは悪びれた様子は一切なく、むしろ機嫌が悪そうにそう言って部屋を出ていってしまった。

 

「俺たち何か悪いことでもしたのか?」

 

「「さあ?」」

 

結局海未さんがなぜ怒っているのかは分からなった。

生理にでもなっていたのだろうか?

 

その後、俺たちは朝食を摂り、にこにーの家に向かった。

姉ちゃんもみんなが行くならという理由で一緒について来た。

なぜかことりさんは、持ってくるものがあると一旦家に帰ってしまった。

 

ところで朝にまっきーからラインがあったが、これどういう意味なのだろうか?

 

真姫 『今日、海未とことりの前で私にしゃべりかけないで頂戴。消されるから。』

 

・・・昨日何があったんだ、まっきー。

 

気にはなったものの、寝不足の頭では深く考えることができなかったので、この件は横に置いておくことにした。

 

ちなみに今日は人数が多いということで、姉ちゃん達が通う学校で集まることになった。

そして、ついに目的地に到着した、到着してしまった。

 

ふ~ん、これが姉ちゃん達が通ってる、学校か。

・・・普通だな、特にぱっとしない、ごくごく一般的な学校だな。

前に雪穂がパンフレットで見てた、UTXとかいう学校は凄かったのにな・・・。

 

「ここが私たちの部室だよっ!」

 

姉ちゃんと海未さんに案内されて部室に入ったが、おそらくアイドルであると思われるポスターやDVDがたくさんあり、その光景に圧倒されてしまう。

 

すげーな、これ全部スクールアイドルなのか?

 

「ふふふ、ちゃんと来たわね?」

 

俺が、部屋のアイドルグッズに目を奪われていると、いつの間にか俺たちの目の前にいた、にこにーが、嬉しそうにそうにそう言ってきた。

まだ、集合時間まで10分ほどあるが、それより前に既に来ていたようだ。

見るからにやる気ありそうだが、こっちは寝不足なのだから、お手柔らかに頼みたいものだ。

 

「さあ、今日はあんたにアイドルのなんたるかをみっちり叩き込んでやるわよっ!」

 

俺の想いとは裏腹ににこにーは、そう言ってストレッチをし始めた。

何が起こるんだ・・・。

 

その後、絵里さん、まっきーも揃った後、俺たちはというと・・・

 

「だからね?

結局アイドルには、キャラが必要なのよ!!

そして、今アイドル界の頂点にいるのが、アライズと言って―――」

 

「・・・ふむふむ。」

 

アイドルとは、うんたらかんたらという話を既に1時間は聞かされていた。

今までアイドルになんて興味はなかったが、にこにーが楽しそうにアイドルの魅力などを語ってくれるので、何となくこっちまで楽しい気分になってきて普通に話に夢中になっていた。

もしかしたら、昨日ミューズのライブ映像を見たことで、アイドルのことを知りたいと思う気持ちが出ていたせいかもしれない。

 

・・・でも、マジで眠くなってきた。

結局1時間くらいしか眠れてないもんな・・・。

 

ちなみに俺以外のみんなは、にこにーのことは、無視して雑談を楽しんでいる。

みんなここに何しに来たんだよ、まっきーは俺が無理やり巻き込んだだけだけどさ。

しかし、にこにーはそれを特に気にしている風もなく、俺にどんどんアイドルについての話をつづけた。

 

そして、それから間もなくして、

 

「夏樹、あんたはやっぱり見込みがあるわね!」

 

と、結局最後まで話を聞いていた俺に、にこにーが、勢いよく立ち上がり、嬉しそうに俺にそう言い放ってくる。

 

まあ、こちらも聞いていて結構面白かったし、案外ここに来たのも悪くなかったのかもしれない。

 

そしてにこにーは続けて、こんなことを言ってきた。

 

「あんたには、特別にこの私がマンツーマンで「にっこにっこに~」を教えてあげるわ!」

 

・・・え

 

・・・何を言っているんだこの人は?

まんつーまん??

・・・確実に死んでしまう、もうマジで眠いし、そもそもメンタル的に持つだろうか、いや持たない。

 

しかし、ここで今まで雑談をしていた海未さんが、俺たちの会話を聞いていたのか

 

「ちょっと、にこ!

夏樹とマンツーマンとはどういうことですか?

そんなこと許しませんよ!」

 

と、偶然にも俺のマンツーマンは嫌だという意思と海未さんの抗議内容が一致した。

いいぞ、頑張れ海未さん!

 

「うるっさいわよ!

あんた達ずっと雑談してただけじゃない!

ほら、行くわよ夏樹!」

 

と、俺の腕をつかみ部屋から出ていこうとするにこにー。

 

冗談じゃない、もっと頑張ってくれ海未さん!

 

俺は必死に海未さんにアイコンタクト送る。

 

「まあまあ、海未ちゃん、にこちゃんなら心配ないと思うよ?」

 

「ですが・・・、いえそうですね、それよりも―――」

 

しかし、なぜか、海未さんは急に俺とにこにーを引き止めるのを諦めたようだ。

 

嘘だろ??

いつものしつこさを今発揮しないでどうするんだ!?

 

結局、俺とにこにーは、二人きりで声が思い切り出せるようにと、屋上に向かうことになった。

 

~30分後~

 

「にっこにっこに~♪」

 

「ちがあぁあう!!

笑顔が足りないわよ!

後、声量も熱意もポーズの切れも全然足りないわよ!!」

 

俺は地獄を体験していた。

 

眠いし、しんどいし、喉は痛いし・・・。

ちなみに、最初は羞恥心があり、メンタル的に死にかけていたが、何回もこれをやることにより、羞恥心なんてどうでもよくなった。

今は、ただただ早く終わらせるために、全力で「にっこにっこに~」をするだけだ。

人間の適応能力は恐ろしいぜ・・・。

 

だが、やはり寝不足だったのがいけなかったのか、もう何回目か分からない「にっこにっこに~」をしている途中に急に目の前が真っ暗になった。

 

 

 

起きた時のように、意識が戻ってくるような感覚があったが、どうなったのか理解できなかった。

しかし、後頭部に柔らかく、そしてほのかな暖かみを感じるのが認識できた。

そして、ゆっくり目を開き、ぼんやりとだが目の前が見えるようになってきた。

俺の目に飛び込んできた光景は、

 

「あ、目覚めた?

急に倒れたから心配したわよ、大丈夫??」

 

心配そうに俺を見つめるにこにーの顔だった。

 

・・・倒れた??

ということは、俺は意識が飛んでいたのだろうか?

 

しかし、ここでそれを考えるよりも先にある疑問が出てくる。

なぜか俺は、にこにーを見上げているのだ。

にこにーは、背が小さく、男子の中では背の低い俺でもずっとにこにーを見下ろす形になっていた。

だが、なぜ今、俺はにこにーを見上げているのだろうか?

・・・ん? おいおい、まさか、

 

にこにーに膝枕されている!?

 

「あっ、すみませんっ!」

 

状況を把握し、慌てて起き上がろうとする。

 

「・・・あれ?」

 

しかし、体はうまく動かず、意識もまだぼんやりしているようで、うまく起き上がれなかった。さらに、

 

「ほら、まだ起き上がっちゃだめよ!!

あんた、倒れたのよ!」

 

と、俺を再び膝枕して、横になるように強制されてしまった。

 

正直、凄く恥ずかしいが、流石に自分でも体調が悪いことが認識できたのでここは、にこにーに甘えることにしよう。

 

俺がそう決断し、しばらく横になっていると、にこにーが申し訳なさそうな表情を浮かべて

 

「・・・その、ごめん。

自分の話をしっかり聞いてくれたことが嬉しくて、ついつい熱くなってしまったわ・・・。

夏樹が体調悪そうだったのにも気づかないくらい。」

 

と、謝罪をしてきた。

別に、体調が悪かったのは、ことりさんのせいなのでにこにーは悪くないのだが、俺が倒れたのは自分のせいだと、責任を感じているようだ。

 

「いいですよ、体調管理できていなかった俺も悪いですし。

それに、にこにーの話も面白かったですしね。」

 

「にっこにっこに~」の練習は地獄でしたけどね・・・。

と、心の中で付け加えておいた。

 

これを聞いたにこにーは、少し目を見開いた後に、

 

「ふふ、ありがとう、そう言ってもらって嬉しいわ。」

 

と、今までの様に作った笑顔ではなく、素の心からの笑顔で、はにかみながらそう言ってきた。

 

・・・まっきー、なんとなくにこにーのことを好きになった理由が分かった気がしたよ。

最初は、変人だと思っていたが・・・。

ちなみに、にこにーの不意の笑顔に少しドキッとしたことは内緒だ。

 

その後、しばらく休憩した俺たちは、部室に戻った。

 

「ただいま戻りました~。」

 

俺が、部室のドアを開けるとそこには、ことりさんや海未さんがいたわけだが・・・

 

「ことりさん、その沢山の衣装はどうしたんですか?」

 

恐らく、スクールアイドル用の衣装なのだろうものを、多数部室の机の上に広げていた。

もしかして、これを持ってくるために一度家に帰ったのか??

 

「今から、夏樹君が着るものだけど??」

 

「ははは、ことりさん、腐ったチーズケーキでも食べましたか?」

 

「・・・夏樹君、何でも言う事聞くって言ったよね?」

 

「いやいやいやいや、結局一緒に寝たじゃないですか!!??」

 

「知らないっ!

私、おでこを思い切りぶつけたことしか記憶にないもんっ!!

だから無効ですっ!!」

 

・・・うそ、だろ。

これ、あまりにも俺が可哀想じゃね?

 

その後、俺の猛抗議も虚しく、無数の衣装を着せられ、写真を撮られてと、生きてきた中でもダントツの地獄を味わう羽目になった。

それと同時に俺の男としての尊厳もその日に消えてしまった気がした。

最後はもうヤケクソでめっちゃポーズをとってやったわ。

撮られた写真は近いうちに全て抹消しようと、心に誓いその日は、幕を閉じた。

しかし気のせいか、皆の間に流れる空気が微妙にぴりついていたような・・・。

 

 

 

その後、俺はことりさんや絵里さん、たまに海未さん(勉強を教えさせろとうるさいので)に力を借りながらも勉強を続け、期末テストでは、15位の成績を残し、夏休みに入った。

夏休みにもいろいろあったが、それはまた今度な?

 

学力も確実に身についている自信があった俺は、二学期には、絵里さんと約束した3位以内をとれる自信はあった。

つまり、俺の恋はもう少しで動き出すのだ。

待ってろよ、亜里沙さん!!

 

つづく

 




28話読んでいただいてありがとうございます!

どうでもいい余談ですが、私も部活動をしているときに気絶したことがあります。
しかし、意識が戻って、視界に入ってきた光景は、プロレスラーのようなゴツイ顧問の先生の心配そうな顔でした(私が無事だと分かると、爆笑してましたが)
自分もミューズの誰かに膝枕されたいものです・・・。

さて、余計な話は置いておいて、とうとう28話にて、長かった過去編終了になります!
いや~・・・本当に長かった。

次回から時系列的には、7話の続きからになるのですが、皆さん覚えてますかね(笑)

ここまで、たくさんのお気に入り登録者数や感想、コメントありがとうございました!
これからもどんどん更新していきますので、引き続きお楽しみいただければと思います!

ではっ!!




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