高坂家の朝は騒がしい
「いくぞ、雪穂?」
「いつでもいいよ。」
朝の6時半、俺と雪穂は姉ちゃんの部屋の前にいた。
その理由は至極シンプル。
これから、あり得ないほど朝が弱い姉ちゃんを起こすためだ。
普通に起こしに行っても、布団に引きずり込まれて抱き枕にされるのがオチなのだ。
だから、姉ちゃんをしっかり起こすためにも、こうして毎日二人で作戦を練り、実行しているのだ。
本日の作戦もまさに今、開始しようとしていた。
「よし・・・突入!」
バンッ!!
勢いよく部屋の扉を開け放った。
俺は、中華鍋におたまを激しく打ち付けながら、雪穂はホイッスルを思い切り吹きながらの突入だ!
カンカンカンッ!!ピピピピーッ!!
二つのやかましい音が、姉ちゃんの部屋に思い切り響き渡る。
・・・うるさっ。
実行した本人ですらびっくりの大音量なのだ。
何の前触れもなくこの音を聞かされた当の姉ちゃんはというと
「うわああああああ!?!?」
と、こちらも負けず劣らずの音量で絶叫をあげ、ベッドから転げ落ちていた。
どうやらしっかり起きてくれたようだ。
「早かったね、歴代最高記録じゃない?」
そんな姉の様子を冷静に分析し、そう確認してくる雪穂。
「間違いなく最速だな。ただ、うるさすぎ。」
同じく俺も冷静に、そして素直な感想を述べた。
「う~ん、そうだよね、想像の3倍うるさかったね。」
「やっぱり、何かを得ようとすると、何かが犠牲になるんだな。」
「だね、また作戦の練り直しだね。」
雪穂と本日の反省まで終えたところで、姉ちゃんの部屋から出ていこうとする。
腹減った。
「いやいやいや、ちょっと待ってよ!?何、冷静に分析をして次につなげようとしてるの??普通に死んだかと思ったよ!!」
姉ちゃんが何やらうるさかったが、無視だ。
何せこれは姉ちゃんの為を思っての行動なのだ、文句を言われる筋合いはない。
決して、面白いからやってるわけではないのだ。
同じく無視をしている雪穂も同じ気持ちだろう、双子だから分かる。
ドタドタドタッ
「ちょっと、あんた達!!近所迷惑でしょうが!何考えてるの??」
流石にうるさすぎたようだ、母さんが怒り心頭でやってきてしまった。
「姉ちゃんが悪い」「お姉ちゃんが悪い」
しかしノープロブレム。
双子であることを証明するかのようにきれいにシンクロして長女に指を差しながら、そう言った。
「穂乃果~~!!」
すると思惑通り、母さんは俺たちのその言葉を聞き、矛先を姉ちゃんに向けた。
「理不尽すぎる!?」
姉ちゃんが何か、わめいてたが、そんなことより今は朝ごはんを早く食べることが先決だ。
時間は有限だからな。
そのまま朝一で説教をくらう姉ちゃんを背に、朝食が用意されているリビングに向かった。
「二人とも!もうちょっと普通に起こしてって言ってるじゃん!」
俺たちに少し遅れて朝食の席についた姉ちゃんは開口一番そう抗議してきた。
「いや、お姉ちゃん、普通に起こしても起きないじゃん。」
「そういうこと。」
すぐさま年下の双子に反論され、うぐ、とうろたえる姉。
「だ、だから~、言ってるんじゃん。優しいキスをしてくれたら起きるって♡」
いつも思うが、姉ちゃんは妹と弟に向かって何を言ってるのだろうか?
「・・・前にそう言ってたから、実際に雪穂がキスしたけど起きてなかったじゃん。」
そう、実は、以前にも同じことを言っていたから、実際にキスをしたことがあるのだ。
本当に起きるのか?と。
だが当然、雪穂も俺も姉にキスをしたいわけもなく、じゃんけんで負けた方がキスをしようということになったのだ。
そして、雪穂がじゃんけんに負けたというわけだ。
本当、あのじゃんけん、勝ってよかった・・・。
「ちょっと!それ言わないでって言ったじゃん!」
雪穂が顔を赤くして俺に食いついてくる。
だがそれ以上に、
「え!?え!?いつ??いつの朝??本当に??」
姉ちゃんが、凄い食いていてきた。
「ほら、これがその時の写真。」
「わ、わ!!本当だ、この写真送って!!」
「OK。」
実は、雪穂が姉ちゃんのほっぺにキスをしてるシーンをこっそり撮っておいたのだ。
その写真を姉ちゃんに送ろうとすると、
ガシッ
と、雪穂が俺の腕を凄い力でつかんできた。
痛い・・・。
「・・・その写真、すぐに消さないと、殺す。」
こえ~、あっ、でも送っちゃった♡
画面を押すだけで送信できる状態にしていた俺は、間違えて画面を押し、姉ちゃんに画像を送信してしまった。
雪穂も俺のスマホの画面を確認したのだろう、
顔を真っ青にし、ゆっくり姉ちゃんのほうを向く。
俺もつられて姉ちゃんのほうを向く。
「・・・ふふふふ♡」
そこには、満面の笑みを浮かべた姉ちゃんがいた。
そして、
「じゃ、ご馳走様!学校行って皆に自慢してくる!!」
そう言い残し、勢いよくリビングを飛び出した。
「ちょ!!本当にやめて!!待って!!ちょ、待てー!!」
雪穂は、朝食を一気にかきこみ、急ぎ、姉ちゃんの後を追った。
しかし、リビングをでる直前にこちらに無表情な顔を向け、静かにこうつぶやいてきた。
「オボエトケヨ・・・。」
そして、すぐさま姉ちゃんを追いかけていった。
・・・・・。
さて、学校に行くか!
怖くて震えそうだったが、そう気持ちを切り替えて学校に向かう準備を始めた。
姉ちゃんたちに遅れること5分、俺が家の玄関をくぐると、そこに一人の人物が立っていた。
「おはようございます、夏樹!」
海未さんだ。
「・・・おはようございます、海未さん。」
とりあえず、そう挨拶を返す。
しかし、海未さんは、俺のその挨拶が不満だったのか、少し詰め寄ってきて、こう言った
「まったく、何度も言ってるじゃないですか。海未さんではなく、海未と呼んでほしいと。」
「いや、やっぱり年上の女性には、敬意をもたないと~、なんで?」
姉ちゃん?知らねえよ?
「ふふふ、照れてるのですね?可愛いですね。」
「照れてないです。」
見当違いだと、指摘するが海未さんには届いていないようだ。
「まあ今はいいですが、すぐに慣れてもらわないと困りますよ?」
だめだ、いつも通り何言っても無駄だわ。
俺が、あきらめの境地に入り、反論するのをやめると、海未さんはそんな俺の反応を肯定と受け取ったのか、こう続けた。
「なにせ、私たちはその・・・ふ、夫婦になるのですから//」
つづく