・・・まずいわね。
西木野真姫は、現在大ピンチに陥っていた。その理由は、
・・・確実に風邪がぶり返してるわね、意識が吹っ飛びそうだわ。夏樹はしんどくなったら帰れと言っていたけど、任せなさいと言った手前ここでダウンするわけにはいかないわ。
とは言っても、やはりしんどいものはしんどい。最初は頑張って、映画を見ていたが、次第に体のだるさ、寒気が押し寄せてきて、ついには顔を項垂ってしまう。
やばいわ、気の利くことりのことよ。体調が悪そうにしている私を見れば、無理やりにでも帰らそうとするわよね、そうしたら私の正体が・・・。
ていうかぶっちゃけ、家を出る前に体温測ったら、38度あったのよね・・・、やっぱり無理せず休めばよっかたわね。なんで夏樹のためにここまでしてるかしらね?
・・・はあ、もう無理、ごめん夏樹。
なぜ自分がここまで夏樹に協力するか、疑問に感じた部分はあったが、それよりもしんどさが私の思考を強制的に遮断し、そのまま、私は気絶するように眠りについてしまった。
―――はっ!?
急に、意識が戻ってきて私は完全に目を覚ます。急いで辺りを見渡すと、既に明かりがついており、周りにはほとんど人はいなかった。
映画は、とっくに終了している・・・?
冷や汗が、自分の顔を伝うのがわかる。映画館では、明かりが暗いから顔を見られても大丈夫だと思っていたが、明るくなってしまえば話は別だ。顔を見られれば、一発でばれる。そしてこの状況・・・。
隣の席には私の正体を知り、怒っていることりがいるのでは、と恐る恐る振り返ると、そこには予想外の光景が。
・・・寝ている?
隣の席を見ると、そこにはぐっすりと眠ることりの姿があった。いつから寝ていたのかは分からないけど、ばれていないわよね?
・・・そういえば、次のライブが近いから、衣装づくりで忙しいってラインで言ってたっけ。それに土日のキツイ練習後だ、ことりが疲れで眠ってしまっていても不思議ではない。
そこまで考えたところで、本日の計画について思い出す。
やば、計画ではとっくに夏樹と入れ替わっている予定じゃないっ!
計画では、映画が終わる10分前にトイレに行くふりをして入れ替わる予定だったので、今この状況は、計画から大きくずれていることを示していた。急いでスマホを確認すると、
「何かあった?」「お~い」「まさか、ばれた?」などなど、夏樹からいくつかのメッセージが届いていた。すぐに行くと、返信して集合場所のトイレに向かった。ことりは、ぐっすり眠っているため、しばらく放っておいても大丈夫だろう。
ちなみに、体調面はしばらく眠ったおかげで大分楽になった。でも流石に疲れたから海未との映画を見た後は、速攻で帰って寝ないとね。
ついでに今度今日のお礼を夏樹に迫ろう、ふふ、何を要求しようかしら?
何にしようかなと思考を巡らせながら、私は静かに寝息をたてることりをそのままに足早に夏樹との集合場所に向かった。
「あっ、まっきー! 何かあったの!?」
私が夏樹との集合場所にまで、行くと不安で仕方がないといった夏樹が既にそこにいた。
「いえ、ノープロブレムよ。」
そんな夏樹を安心させるように簡潔にそう答えておいた。
「え、でももう映画終わってるだろ? ことりさんは?」
「ことりなら、席で眠っているわ。衣装作りと部活で疲れが溜まっていたんでしょうね。」
「・・・なるほど。でもそんなに忙しいなら別にデートなんてしなければいいのに。」
・・・本当に夏樹って鈍感よね。そんなに忙しくてもデートがしたいくらいあんたのことを好きってことじゃないのよ。・・・夏樹のことを好きになる子は大変ね。
「それより夏樹、早くことりのところに戻らないと目が覚めちゃうわよ?」
「うわっ、そうだわ。後、色々あって海未さんとは今日映画を見ないことにしたから、まっきーは、今日帰っていいよ。帰ってちゃんと休めよ?じゃあ行くわ、ありがとうまっきーまた今度お礼するわ!」
そう言って夏樹は、駆け足で去って行った。今からことりと二人でご飯を食べに行くのよね。
・・・・・。
私も今度、今日のお礼でご飯でも奢ってもらおうかしら?
というか、海未とは映画をみないことにしたって、海未と何かあったのかしら?
まあ、体調悪いから、私は助かるからいいけど。そうと決まれば早く帰らないと、倒れでもしたら夏樹に心配かけちゃうものね。
「えーと、ことりさんは、と。」
ことりさんがいるはずの席を見ると、確かにぐっすりと気持ちよさそうに眠っていることりさんがいた。ことりさんに近づき、改めてことりさんを見る。
・・・やっぱ、ことりさんって可愛いよな。なぜこんな人がうちの姉ちゃんなんかを?
俺がじろじろみていたからかどうかは知らないが、ことりさんが「うぅん」と小さく声を漏らしながら、閉じていた目をゆっくり開けていく。
「・・・ふぇ? あれ、え・・・もしかして私寝てた?」
目を覚まし周りを見渡し、状況を把握したのか、そんな質問を投げかけてくる。その表情は、少し青ざめている。映画に誘った側なのに寝てしまったことに罪悪感があるのだろう。俺的には、全然気にしなくてもいいのだが、ていうか、一緒に見てたのまっきーだし。しょうがない、ここは冗談の一つでも交えてやるか。
「ええ、ぐっすり眠ってましたよ。ことりさんの可愛い寝顔を見れたのでラッキーでしたよ。」
・・・言っておいてなんだが、流石にセリフがキモすぎたか?
俺が姉ちゃんにこんなこと言われたら、確実にデコピンコースだね。
そんな俺の言葉にことりさんは、ゆでだこかと疑うくらいに顔を急速に真っ赤にし、しかしすぐに申し訳なさそうに
「うぅ、ごめんなさい。私から誘ったのに・・・。」
と、泣きそうな顔になり、そう謝罪の言葉を消えそうな声で言ってきた。
「まあまあ、ことりさん最近忙しいんでしょ?しょうがないですよ。それにさっきも言いましたが、ことりさんの寝顔を見れたのでむしろラッキーと思ってますよ?」
俺が、そう言うとことりさんは、再び顔を真っ赤にし
「うぅ~もう、分かったから! あんまり寝顔寝顔っていわないで!」
寝顔を見られたことがよっぽど恥ずかしかったのか、ぷんぷん怒りつつも、しかし罪悪感から、あまり強くは言えないと言った感じで、ことりさんが少しむくれてしまった。正直そんな姿も可愛いと思ってしまったが、それは口には出さないでおいた。あまり言いすぎると後が怖いからな・・・。
「じゃあ話もまとまりましたし、ご飯食べに行きましょうか?」
「・・・うん。」
というわけで、これから俺にとっては2回目の夕食を摂るために、映画館の出口に向かった。
ふ~、色々あったけど後はことりさんとご飯を食べて終わりだな、って、んん!?
あの、目もくらむような、神々しい金色の髪はまさか!?
(少し前)
「よかったね、お姉ちゃん! みんな仲直りしてくれて!!」
「・・・えぇ、そうね。」
私、過労で倒れないわよね・・・?
結局亜里沙を止めることはできず、喧嘩のど真ん中に躊躇なしの特攻を決めた亜里沙が、「みんな、喧嘩はだめです!! 仲よくしましょう!」と、叫んだことをきっかけに、喧嘩をしていた人たちは、一瞬呆気にとられたように動きを止めて、皆恥ずかしそうに喧嘩をするのを辞めてくれた。
よかったわ、亜里沙の言葉をくみ取ってくれるいい人達で。・・・いや、いい人ならあんな町中で喧嘩はしないわね、訂正よ。
「やっぱり、私たちは警察になんか頼らくなくても大丈夫だね!」
「亜里沙、お願いだからその考えだけはすぐに投げ捨てなさい。日本の警察は凄く優秀よ?」
「あ、大変、お姉ちゃん! もうすぐ映画が始まっちゃう!! すぐに行こ!」
そう言って、愛しの亜里沙は映画館の方に猛然とダッシュしていった。
・・・リードでも付けたほうがいいのかしら。
最早叫ぶのは無駄だと判断した私が無言で亜里沙のことを、同じくダッシュで追いかける中そんなことを思ってしまった。
(映画館)
「ハラショー、ここが映画館、楽しみっ!」
「ぜーぜー、それはよかったわ・・・。」
行きも絶え絶えにそう答える私。確実に上映中、爆睡コースね。
・・・って、あら? あのとさかは見覚えが・・・ことり? と、その隣にいるのは、夏樹??
つづく
第32話読んで頂き有難うございます!
もうすぐ、年明けですね~、早いもんです・・・。
今年は本当に一瞬でした。
さて、来年も引き続き、どんどん更新していきますので、来年も読んで頂ければ嬉しいです!
では、皆さま良いお年を!!