うぅ、最悪だよ、まさか上映中に寝ちゃうなんて・・・。夏樹君は全然気にしていないって言ってくれているけど・・・。
昨日はなるべく早く寝たつもりだったけど、最近の衣装づくりと部活で疲れが溜まってたのかな・・・こんなこと言っても言い訳だけど。
でも何が一番最悪だったって、寝顔を見れたことなんだよね~あぁぁ本当に最悪だよぉ~//
で、でも可愛いて言ってくれたのは、ちょっと嬉しかったけど//
私は羞恥と嬉しさから悶絶していてすぐに気付かなかったけど、映画館入り口辺りに来たところで夏樹君が立ち止まっていた。
「どうしたの夏樹君?」
夏樹君が立ち止まっていることに気付くのが遅くなったので、振り返る形で夏樹君に問いかける、が、夏樹君の視線がある一点を見つめていることが分かり、私もその視線を追っていく。その視線の先には・・・え、絵里ちゃん??それに絵里ちゃんの妹さんの亜里沙ちゃんもいる。
「わあっ、夏樹君にことりさん!! こんばんは!」
「こんばんは、亜里沙ちゃん♪」
亜里沙ちゃんは、元気いっぱいの満面の笑みで手を大きく振りながらテテテと走ってきた。相変わらず亜里沙ちゃんは明るくて可愛いなぁ~、私が作った衣装とか着てくれないかな~♪ と、私が呑気なことを考えていると夏樹君が
「あ、あああ亜里沙さん!?」
ん? 夏樹君??
聞いたことがないくらい緊張と焦りを混じらせた夏樹君の言葉に違和感を覚える。
・・・どうしたんだろう?
「うん♪ 夏樹君も久しぶり! 夏樹君達も映画を見に来たの??」
「ゴホン・・・そ、そうそう実はそうなんだ、はは。」
夏樹君は呼吸を整えるためだろう、一度大きく咳ばらいをし、それでも尚緊張を隠し切れない様子で何とか亜里沙ちゃんに返事をしている。その顔は、心なしか少し赤くなっている気がする。
・・・どういうこと?
私が疑問に感じたのは会話の内容ではなく、夏樹君の態度だ。
・・・夏樹君のあんな嬉しそうで照れくさそうにしている顔見たことがない。
「あ、亜里沙ちゃんと夏樹君は知り合いなの?」
何となく亜里沙ちゃんと夏樹君が仲良く話し合っている様子を見続けることができなくなってしまい、そんな質問を慌てて横から投げかけてしまう。
「はい! 半年くらい前に夏樹君と会って、公園で仲良くなりました。ね?」
「そ、そうだね。」
私の質問に亜里沙ちゃんが変わらない笑顔でそう答えてくれた。夏樹君も認めていることから半年前に知り合ったのは本当らしい。
半年ってあの事件があった時だよね・・・。そういえば、夏樹君が勉強をしだしたのもそれくらいだったけ・・・。
「こ、こんばんは二人とも・・・はぁはぁ。」
そのタイミングでなぜか疲労困憊になっている絵里ちゃんがやってきた為、私の思考が中断される。
「絵里さん・・・大丈夫ですか? またいつものあれですか??」
「ええそうよ。まじで吐きそうよ・・・うぅっ。」
「・・・お疲れ様です絵里さん。でも映画館で吐いたらだめですよ、まじで。」
「・・・がんばるわ。」
夏樹君が絵里さんを何やら労うような会話をしているが何の話だろう?
・・・まあ、それはいっか。それよりも先ほどの夏樹君と亜里沙ちゃんのことが気がかりだ。
「あ、え~と、じゃあ亜里沙! 早く映画を見にいくわよっ!」
「ふぇ? あっ、そうだよ!もう上映の時間だよ!じゃあ、お二人ともまた会いましょう!」
しかし、ここで絵里ちゃんが慌てた様子で亜里沙ちゃんを引き連れて「また」と言葉を残して映画館の中へ消えていった。
ことり達の様子を見てデートをしていると判断して邪魔にならないようにしたんだろう。
「はい、また会いましょう!!」
夏樹君は、そう元気よく返事をして手をぶんぶん振っている。まるで、このちょっとした時間だけでも会えたことがとても嬉しいことであるかのように。
「じゃあ、ことりさん行きましょうか!」
今からご飯屋さんに行く為夏樹君がそう私に声をかけてくれる。いつもの夏樹君だ。いつもの優しい表情を浮かべた夏樹君だ。しかしそこには先ほどまで亜里沙ちゃんに見せていた照れくさそうなしかし、嬉しくてしょうがないといった表情は欠片もなかった。
「・・・うん。」
私は短くそう答えた。お店に行く間、今度は手を繋ぐことはしなかった。
何となくそんな気分になれなかった。
その後も夏樹君との食事の間も、中々お箸が進まなかった。会話がない、なんてことはないけど、どこか楽しみきれていない自分がいた。
・・・どうしたんだろう、今日のデートはとても楽しいデートになるはずだったのに。最後は告白してっていう計画さえ立てていたのに。
それもこれも先ほどの亜里沙ちゃんと夏樹君のやり取りがずっと頭の中をぐるぐるしているせいだ。
まさか夏樹君は亜里沙ちゃんのことを・・・。
いやいや、確証も何もないしそれに何より今はデート中、今を楽しまないとね!
そう自分を無理やり納得させ、デートに臨もうとした。
しかし
私のそんな儚い希望は粉々に打ち砕かれることになった。
誰でもない私が世界で一番大好きな夏樹君自身によって。
「俺、亜里沙さんのことが好きなんです。」
・・・・・え
・・・・・え?
いま・・・なんて・・・?
二人とも提供された食事をほとんど平らげたところで、夏樹君から話があると真剣な雰囲気を漂わせながら切り出してきたので、こちらも真剣に聞く態勢をに入ったのだが、先ほどの第一声で頭を思い切り殴られたように私の頭の中が真っ白になる。
「あ・・・え?・・・あ・・り・・さ・・ちゃん?」
あまりの衝撃に口が震えてうまく喋ることが出来なかったが、ゆっくり、そして確実になんとか言葉を紡ぐことができた。そしてこの問いに対して、夏樹君は全てを語ってくれた。
衝撃のあまりすべてを覚えていないが、要約するとこうらしい。
半年前に亜里沙ちゃんと出会い、一目惚れした。しかし絵里ちゃんに勉強もできないような人に亜里沙を渡せないと言われた。だからこの半年間必死に勉強をしていた、と。今まで黙っていたのは、本当のことを言うとからかわれると思ったからという理由らしい。
・・・・・なに、それ。
私が夏樹君に勉強を必死に教えていたのも遠回しに夏樹君の恋を応援してたってこと?
そんな、ひ、酷いよ・・・。
・・・いや、本当は分かってる、いつまでも穂乃果ちゃんを好きなんて嘘をつき続けていた私がそんなことを言える筋合いはないことを。本当のことを今まで黙っていた理由についても自分が確実に悪い、確かにこの半年間夏樹君にちょっかいを出し続けてたのも事実だし、そう思われても仕方がないだろう。後悔、反省といった重圧でつぶれてしまいそうだった。
その後も夏樹君とは何か会話をした気がするが、ほとんど覚えていない。覚えている事といえば、夏樹君が近々亜里沙ちゃんに告白すること、そしてなんとか最後まで涙を出さずに我慢できたこと。
本当は映画館で夏樹君と亜里沙ちゃんとのやり取りを見ていてた時から自分の中ではこのことに気付いてたのかもしれない、だって今までで私にあんな顔を見せてくれたことなかったもんね・・・。
私は気付いたら家の前にいた。どうやって夏樹君と別れたのか、最後に何か会話をしたのか、まったく記憶になかった。私はほとんど無意識状態のまま家に入っていった。
「そろそろ、ことりが帰ってくる頃かしらね?」
ことりに先を越される前にお風呂に入り、ビールを片手にくつろぎながらそんなことを呟いた瞬間だった。
ガチャッ
「あら、噂をすればなんとやらね。」
今日は夏樹君に告白すると言っていたこともあり、結果を早く知りたく、出迎えることにする。そう思い、玄関に向かう。
「お帰りことり。・・・何してるの? 怖いわよ?」
玄関に行くと、何故か顔と腕を下にだらんと項垂れさせて、突っ立ている娘の姿があった。見方によっては貞子に見えないこともない。
普通に怖いわね、髪もだらんってなってるし・・・。
「う・・」
「う?」
ことりがなにやら呟いた、まさかバイ〇ハザードみたいにゾンビにでもなったのかしら!?
などと考えた次の瞬間
「うわあああああああああん!!!」
「えぇっ!?」
「うわあああああああああん!!!」
「・・・・・。」
娘、大号泣である。恥も外聞もなく、幼子のように泣くことりがそこにいた。
・・・そっか、だめだったのね。
それだけですべて悟った私はことりをそっと抱きしめ、頭をよしよしと撫でてあげた。
普段はこんなことをしたらビンタの一つでもして去っていくが、今だけは大人しく抱きしめられ、泣いている。その体はとても小さかった。ふふ、小さいころと全然変わっていないんじゃないかしら?
「・・・今はたくさん泣きなさいことり。」
つづく
第33話読んで頂きありがとうございます!
個人的には大変心痛む回でした・・・。
次話も早く更新できるうようにします、では!