次の日、姉ちゃんとまっきーのお見舞いに来ていた。
まっきーは、今日も学校を休んだらしい。ラインを入れたところ、「心配なし」と帰ってきたので大丈夫だと思うが、一応の確認だ。
現にデートの日も大丈夫と言ったまっきーは風邪を引いていたわけだからな。
「真姫ちゃん、大丈夫って言ってたけど本当に大丈夫かな?」
姉ちゃんにもまっきーから大丈夫との連絡は来ているようだが、流石に一週間も休んでいることもあり、少し心配している様子だ。
「・・・それはそうと夏樹、何持ってるの?」
ここで姉ちゃんが気を紛らわすためか、俺が手に持っている紙袋が何なのかと質問を投げかけてくる。
「お見舞い品だよ、手ぶらっていうのもなんだしな。」
「ほむまん持ってきたから別によかったのに。ちなみに中身は何なの?」
姉ちゃんの何気ない質問に対し俺は、少し気まずげに視線を逸らし、
「・・・ケーキだよ。」
と答えた。
姉ちゃんはそんな俺の態度に違和感があったのだろう、俺を怪しむような目つきになり
「・・・何ケーキ?」
「・・・にんにく入りチーズケーキ。」
「やっぱりぃ!! だめだよっ! そんなものを病人にあげたら! 真姫ちゃんショック死しちゃうよ!!」
昨日、実際にこのケーキを食べた姉ちゃんによって全力で止められる。
しょうがないじゃん、余ってんだし。姉ちゃんも結局一口しか食べてないし、その一口も吐いたけど。
・・・ていうか、ショック死て、そこまで酷い味なのだろうか?
「まあまあ、まっきーなら大丈夫だよ。」
面倒だった俺は、そう言って姉ちゃんから逃げるようにまっきーの家に向かっていった。
姉ちゃんも「待ってよぉ~」と言いながら後を追ってきた。
ほどなくして、俺たちはまっきーの家に到着した。
相変わらず美人なまっきーのお母さんによってまっきーの部屋に案内された。
一週間ぶりに訪れた部屋には、ベッドに横たわる部屋の主であるまっきーがいた。
俺たちが家に来たことは既に気付いていたのだろう、横たわっているものの起きてはいるようで、俺たちを待っていたようだ。
「あ、真姫ちゃん!お見舞いに来たよっ! 体調は大丈夫??」
まず姉ちゃんが第一声にそう大きな声でまっきーに呼びかけながら、てててと駆け寄る。
「穂乃果・・・声が大きいわよ。」
まっきーは困ったように、しかしどこか嬉しさも滲みだしながら姉ちゃんを受け入れていた。単純にお見舞いに来てくれたことが嬉しかったんだろう。
まっきーはこう見えて結構寂しがり屋だからな。
「だって~、久しぶりだもん!心配だったんだよ~!」
「それはごめんなさい。」
姉ちゃんに顔をすりすりされて、少し鬱陶しそうにしながらも、一週間も学校を休んでいることに申し訳なささはあったのか、素直に謝っている。
「ううん、真姫ちゃんが元気そうでよかったよ! 明日からは学校に来れそうなの?」
「ええ、もう完全に熱は引いたから大丈夫よ。今日は安全をとって休みを取っただけよ。」
「よかった~。」
「そいつはよかったよ、熱が下がったようで。本当に。」
ここまで空気と化していた俺がそう言いながらまっきーのほうへ向かっていった。
まっきーは気まずそうにしながら
「あ、あら・・・夏樹も来ていたのね。」
と苦し紛れにそんなことを言ってきた。
・・・最初から気付いていたくせに。
デートの日にやはり体調が悪かったことがばれて、怒られるのではと言いたげに顔の半分を布団で隠しながら、ちらちらとこちらの様子を伺っている。
「あ、そうだ。お見舞い品にほむまん持ってきたんだけど、真姫ちゃん横になってるみたいだし、お母さんに渡してくるね!」
と、このタイミングで姉ちゃんがそう言って部屋から慌ただしく出ていこうとする。
「あ、それならケーキも一緒に・・・」
バタンッ!
ついでにニンニク入りチーズケーキも一緒に持って行ってもらおうとしたが無慈悲にも部屋の扉を閉められてしまった、持って行ってくれる気はないらしい。
そんなにだめだろうか・・・うん、普通にだめか。
まあいい・・・ちょうどまっきーと二人きりになれたわけだし。
「・・・まっきー、やっぱりあの日体調悪かったんだな。」
早速俺は、そうまっきーに切り込みを仕掛ける。
まっきーは、気まずそうにしながらさらに顔の大部分を布団で隠しながら
「・・・その、嘘をついたのは悪かったわよ。・・・ごめんなさい。」
と、叱られた子供の様に目を伏しながら謝ってきた。
「こっちこそ、ごめんまっきー。」
謝罪を行ってきたまっきーに対し俺も謝罪を持って応えた。
これにはまっきーも意表を突かれたように目をぱちくりと見開き、こちらを見てきた、どういうこと?と言わんばかりに。
「俺もまっきーが体調悪そうにしてたのは、何となく気付いてたのに結局自分の都合でまっきーの優しさに甘えてデートの身代わりをしてもらったから・・・。」
結果的にまっきーがそこまで体調が悪くなっていなかったからよかったものの、もし倒れるなんてことになったと考えると、自分がとんでもないことをしたのだと思い知ってしまう。
しかしここでまっきーが、予想外の行動に。
「それは違うわよっ!! 夏樹は悪くないわよ!」
がばっと、勢いよく起き上がり声を荒げて食い掛ってきた。
その顔は怒りに包まれていた。
その勢いに俺は、思わず「お、おう」と、たじたじの状態である。
「あれは私がしたくてしたの! 夏樹は悪くないわよっ! 私はね、夏樹の為ならなんだってするわよっ!!」
「・・・そ、そうね。」
な、なにを怒られているんだ俺は??
俺がびっくり仰天の状態で呆気にとれれている様子を確認し、少し冷静になったのか、まっきーは「あ」と、声を漏らし、急激に顔を真っ赤にさせていき、ぼふんと布団に倒れるように戻って、顔ごと布団の中にもぐってしまった、亀みたいだ。
「・・・とにかく、夏樹は何も気にする必要はないから。」
と、布団の中からくぐもった声が聞こえたきり布団から出てくることはなかった。
姉ちゃんが戻ってきてもその状態は変わらず、お見舞いに来たのに長居するわけにもいかないので、その日はそれでお暇することにした。
・・・何だったんだろうか、本当に。
まあ元気そうだったしいいか、釈然としないが・・・。
「真姫ちゃんが元気そうなのも確認できたし、じゃあ帰ろうか!」
「・・・あー、ちょっと今から用事あるから先に帰ってて。」
「え? あ、そうだったの? 誰かと会うの?」
「・・・まあ、ちょっとね。」
誰と会うのかをあまり知られたくなかった俺は、誤魔化しながらそう返事をしたが、姉ちゃんは、特に気にした風もなく
「そっか、じゃあ先に帰ってるね! 気を付けてね!」
と、何故か駆け足で家に帰っていった。
・・・本当に無駄に元気だな、姉ちゃんは。
さて、俺も行くか・・・。
あっ、そういえばニンニク入りケーキ渡せなかったな・・・いらねーな、これ。
俺が、そんなことを考えていると、
「やっほー夏樹君やん、何してるんこんなとこで?」
ぎぎぎ、と首を後ろに回すとそこには今会いたくないランキングトップに間違いなくランクインする希さんの姿が・・・。
「希さん、お疲れ様です。じゃあ僕は用事があって急いでるんでこれで!」
できるだけ爽やかにそう言い放ち脱兎のごとく逃げようとするが、
「まあまあ、そんな急がんでもいいやん。で、用事って何なん?」
首根っこを捕まれ、逃げることが叶わなかった、声をかけられた時点で既に詰んでいたらしい。
希さんの表情はおもちゃを見つけた子供の様に、満面の笑みである、怖すぎる。
・・・やべえ、今からの目的だけは、希さんには知られたくねえ。
「いや、本当に何もないので、まじで、本当に。」
と、できるだけ希さんから逃れようとするが、その俺の態度が裏目に出たのか、
「・・・ふ~ん、うちに知られたくない用事なん??」
「は、は、はあああ!? ち、ちげーし、いや、まじで!!」
鋭すぎるんだよ、この人は!
思い切り動揺しちゃったし!!
「そっか、じゃあ、うちもついていこうかな、その用事とやらに?」
と、面白いものが見れることが確定と言わんばかりについてくるという希さん。
だめだ、何とかして阻止しないと!!
「・・・希さん、あんまり人のプライベートに首を突っ込むのはだめだと僕は思います。」
と、ちょっと怒ったような表情を作り、希さんにそう言い切る。
怖いが、これで少しでも怯んでくれたらその隙に逃げれるっ!
「う~ん、確かにそうやね~。例えば、人の動画を盗撮してそれをグループラインでばらまいたりしたらあかんよね~?? そんなことされたら、キツイお仕置きをしないとあかんよな??」
希さんの顔は笑っていたが、目はまったく笑っておらず、返答によっては「わかってるよな」と言わんばかりのオーラが漂っていた。
「是非わたくしめの用事にご同行をお願い致します。」
「おっけ~♪」
やはり、希さんから逃げようなどと淡い夢だったららしい。
なんで一週間前の俺は標準語の希さんの動画なんてバラまいてしまったんだよぉ・・・。
つづく