「で、今からどこ行くの?」
結局着いて来てしまった希さんが俺の顔を覗き込みながら、楽し気に聞いてくる。
・・・いきなり全力疾走したら振り切れたりしないだろうか?
希さんに着いて来てほしくない俺は、そんな企みを思い浮かべるが、
「あ、ちなみに逃げたりしたら、昨日雪穂ちゃんからもらった穂乃果ちゃんと抱き合ってる夏樹君の写真ばらまくからね♪」
「・・・ハハハ、希さんから逃げるわけないじゃないですか?」
雪穂、今度必ず後悔させてやる・・・。
しかしそれは別として、希さんに一方的にマウントを取られているのもしゃくだな・・・。
絵里さんには止められたが、あれやるか・・・
「そういえば、どうして希さんってお母さんと話す時は標準語なんですか?」
俺の言葉に希さんは、ピシッと効果音が聞こえてくるかのように、固まってしまった。
俺も歩みを止めて希さんの方に振り返ると希さんの顔が少し紅潮していた、さらによく見ると全身がぷるぷると震えているのが分かる、恥ずかしいのだろう。
普段、希さんは冷静で落ち着いているイメージがあるので、これだけでも俺の嗜虐心をくすぐるのには十分だった。
「いや~、でも標準語の希さん可愛いかったな~、どんなだっけ~??
確か、私~ミューズのみんなととっても仲良しだよ! だっけww」
俺が笑いをこらえきれず涙目で希さんに聞くと、希さんの表情はさらに赤さを増していき、恥ずかしさのあまりか、目尻には涙さえ見える。
その目でキッと睨んでくるが、その目には力強さはなかった。
・・・き、気持ちい。普段からかわれてしかいなかった希さんをからかっているという快感・・・、たまらねえぜw
前に、偶然町中を歩いていたら希さんを見つけて、挨拶をしようとしたら急に電話越しで標準語でしゃべりだした時はびびったが、まさかこんなことになろうとはな・・・ふふふ。
あの時、とっさに動画を撮った自分を褒めてやりたいね。
俺はさらに希さんの正面に立ち直り、
「なあなあ、なんで希さんは標準語で喋らへんの~??w
なあなあ、なんで~??w」
と、恐らく俺は最高に人を馬鹿にしたような表情を浮かべながら、わざとらしい関西弁で希さんに食い掛るが、ゆでだこのように赤くなった希さんがくわっと俺の方に向き直ると・・・
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「お~い、夏樹く~ん、ってあれ? 希ちゃんもいたんだ?」
声のしたほうを向くとそこには、手をぶんぶんと振りながら小走りで近づいてくる花陽さんの姿があった。その隣には、同じく手を振りながら近づいてくる凛さんの姿があった。
「やっほ~、夏樹君に希ちゃんも・・・って、どうしたの夏樹君? 頬に思い切りもみじの跡がついてるけど?」
「いや、別に何もないんで、気にしないでください・・・。」
凛さんが俺の顔を見るなり少し驚いたようにそう言ってくるが、そんなに跡くっきりついてるのか・・・。
まさか、ビンタされるとは思わなかった・・・。
フルスイングでビンタだぜ? まじで首とれるかと思ったよ・・・。
何事も調子に乗るのはよくないことを実感したわ、ほんまに。
「夏樹君が用があるのは花陽ちゃんに凛ちゃんやったんか。
それよりも夏樹君のもみじとかどうでもいいやん? 二人はなんで夏樹君に呼ばれたん?」
希さんは、笑顔で、しかしまだ怒っているらしく俺の足をわざとらしく踏みながらそんなことを凛さんと花陽さんにそう質問を投げかけている。
・・・足をぐりぐりするのはやめてもらえないだろうか。
「・・・あの~、恋愛相談があるって聞いて呼ばれたの。」
花陽さんは、俺と希さんの間に何があったのか気になっているようで、あっさり今日の目的を希さんにばらしてしまう。
・・・凛さんと俺以外には内緒って言ってたのに。
まあ、ここまで来たら希さんにばれるのも時間の問題なので諦めるか・・・。
「・・・ほほ~う、なるほど、なるほど? それでこの二人を呼んだんか~、納得やな。」
今度は、希さんがにやにやしながら俺にくいついてくる。くそっ、こうなるから嫌だったんだ・・・。
「この二人は恋愛に関しては大先輩やもんな?」
「・・・まあ、そいうことです。」
「そ、そんなことないよぉ~//」
「だ、大先輩だなんて//」
俺と希さんにそう言われた二人は揃って照れている。
そう、実はこの二人は夏から付き合っているのだ。
以前、花陽さんから凛さんが好きだと告白を受けてから色々と花陽さんから恋愛相談と称してコキ使われたが、結局凛さんも花陽さんが好きであることが判明したのだ。
そうなると二人が付き合うまでに時間はそうかからない、と思いきや・・・、
二人とも中々奥手で中々行動できずにいたので、俺が陰で色々手を回し、付き合うまでに至ったのだ。
今日は、その時の苦労した恩を返してもらうべく恋愛相談に乗ってもらおうと思ったのだ。
亜里沙さんに告白するにあたって、女性の意見も聞いておくべきだと思ったからだ。
「ふふふ、じゃあうちも夏樹君のためにひと肌脱いだろやん! 恋愛相談、うちも乗ったるわ!」
「いや、別に希さんはいらない・・・。」
「ん? なんて夏樹君?」
「・・・いえ、なにも。」
というわけで、凛さんに花陽さんに加えて希さんの四人で近くのカフェまで行き、恋愛相談会が開かれることになった。
「で、で、夏樹君は誰が好きにゃ??」
「た、確かに気になる・・・。」
「これはうちも気になるな・・。」
三人は興味津々と言った感じで俺の言葉を今か今かと待ちわびている。
・・・こうまで興味を持たれるとなんか言いづらいな。
まあ言わないと話も進まないし、言うけど・・・。
「・・・亜里沙さんが好きなんです。絵里さんの妹の。」
改めて、自分の好きな人を他の人に言うのって恥ずかしいんだな、初めて知ったわ。
そして、俺の言葉を聞いた三人はと言うと・・・
「「「ええええぇぇぇ!!??」
滅茶苦茶驚いていた。
というか周りのお客さんに迷惑っ!
「わ、私はてっきりことりちゃんか海未ちゃんだと・・・。」
「え、凛は真姫ちゃんだとおもってた。」
「う~ん、えりちであってほしかったけど。まさかミューズ以外やとは・・・。」
三者三様の反応をしているが、なぜその四人の名前が??
・・・そんなに亜里沙さんが好きだというのが意外だろうか?
「でも、どうして亜里沙ちゃんが好きになったの??」
「確かに気になる・・。」
「・・・色々あったんですよ。」
「いやいやいや、ちゃんと一から順番に説明してどうやって好きになったか言ってもらわないとな、やっぱり!」
「そうだよっ、ちゃんと言ってくれないと私たちも恋愛相談にちゃんと乗ってあげられないよっ!」
「そうにゃそうにゃ!」
三人はぎらぎらした目で俺を逃がさんと迫ってくる。
嘘だろ・・・どうやって好きになったのか一から説明しないといけないのか??
俺が、突き付けられた現実に全身を震えさせていると、ふと以前姉ちゃんが言っていた言葉を思い出した。
女子は恋バナが大好きだと。
・・・今日は長くなりだぜ、ちくしょうっ!?
~1時間後~
根掘りはぼり聞かれまくって、結局ことりさんと海未さんと気まずくなったこと、亜里沙さんとの出会い、亜里沙さんに告白をするために勉強を死ぬ気で頑張ったことなど全て吐き出さされてしまった。
・・・もうね、ここまで吐き出したら逆に謎の達成感さえあるわ。
「うわぁ~、夏樹君結構青春してるんだね//」
「確かに・・・意外だね。」
「なるほどな~、そういうことやったんか・・・。」
三人もある程度満足してくれたのか、これ以上聞くことはされなかった。
長かった・・・まじで。
この時点で疲労困憊だが、今日の目的は恋バナじゃない、ここからが本番だっ!
「さあ、三人ともここまで話したんだから、俺の恋愛がうまくいくように相談に乗ってもらいますからねっ!!」
自分自身を奮い立たせる意味もあり、立ち上がってそう言い放つ。
「うんっ、任せてよっ!」
「凛達に任せるにゃ!」
「まあ乗りかかった船やっ、任しときっ!」
待ってろよ、亜里沙さんっ!
もう少しで君に告白するからなっ!
つづく
第36話読んで頂きありがとうございます!
実は、凛ちゃんと花陽ちゃんはつきあってたんですよね・・・。
このエピソードについては、特別編みたいな感じで書こうと思ってます、気が向けば。
本編に直接関係ないと判断し、本編には載せない方向でいこうと思います。
では、またはやく更新できるようにしますので、次話で会いましょう!