海未さんは、容姿端麗、学業優秀、運動万能、と完璧超人だ。
ただ、ことりさんと違い、少し人見知りの為、皆に分け隔てなく接するわけではない。
そのため正直、周りから高嶺の花のように扱われていてる感はある。
しかしその凛とした立ち振る舞い、これこそ大和撫子と言わんその見た目に、周りからの人気度は決して低くない。
そんな、海未さんだが・・・
「ふふふ♡式はどこかいいですかね、夏樹?
いえ・・・あなた//」
・・・どうしてこうなったのか。
正直原因は分からない。
半年ぐらい前だろうか、急にこんな感じになったのだ。
それまでは普通の仲の良い幼馴染だったと思うが・・・。
そういえば、ことりさんが俺と例の会議をするようになったのもその頃だった気がする。
「・・・あの、海未さん?
何度も言ってますが、俺たちは恋人じゃないですよ?」
「ふふふ、知ってますよ?そういうの、最近ツンデレって言うんでしょう?まったく、夏樹も素直になればいいのに♪」
「デレてませんし、最近の言葉でもないですよ。」
いや、正直海未さんのような綺麗な人に好意を向けられるのは悪い気はしない、むしろ嬉しい、すごく、だ。
朝一でこの会話はキツイが・・・。
「あの、海未さん、前から言ってますけど、俺には心に決めた人がいるので。」
そう、確かに海未さんの気持ちは嬉しいが、その気持ちには答えられないのだ。
何を隠そう、実は俺には既に好きな人がいるのだ。
それを、ずっと海未さんに言い続けているのだが・・・
「だから、その好きな人というのは私のことでしょう???」
この有様だ。
「海未さんじゃない人です。」
「じゃあ、誰なんです??」
「それはちょっと・・・。」
言うわけがない。
理由?
そんなの、みんなにからかわれる絶好のネタになるからだ。
俺の好きな人を知っているのは、まっきー(真姫さんのことね)と絵里さんだけだ。
それ以外には、俺の好きな人どころか、好きな人がいることも知らせていない。
だからこそ、海未さんに俺に好きな人がいることを教えるかどうか迷った。
しかし、これだけ好意を向けられているのだ。
流石に有耶無耶にするのも申し訳なく、好きな人がいると伝えたが、まったく信じてもらえないのが現状だ。
「ふむ、本当は他に好きな人がいないから、言えないのですね?まったく、もう少し素直にならないと私も悲しいですよ?」
どうしろと。
誰が好きか言えば、信じてもらえるだろうか?
・・・いや、多分信じてもらえないだろうし、好きな人を言うのは恥ずかしすぎる。
まあ、そのうち諦めてくれるだろう。
そう思いつづけてもう半年経つわけだが・・・。
「そう言えば、昨日はラインをしても中々返事をくれませんでしたが、何か用事でもあったのですか?」
俺が、一人悶々と悩んでいると、海未さんが話題を変え、そう聞いてきた。
「あー、昨日はことりさんの家にいってたんですよ。」
「・・・ほう、早速浮気ですか?」
なんでやねん。
これまで、デレデレしていたのに一転、いきなり鬼のような表情を浮かべ詰め寄ってくる海未さんに思わず希さんのようなツッコミをしてしまう。
ていうか海未さん怖い・・・。
将来海未さんと結婚する人は大変だな。
「海未さん、ことりさんとはそんな関係じゃないですよ?
だってことりさんは、姉ちゃんが好きなんだから。レズですよ、レズ。」
とんでもない誤解を受けているので、俺がすぐさまその誤解を解く。
ていうか、なんでことりさんのお母さんにしても、俺とことりさんがそういう関係と勘違いしてるんだ?
「・・・はぁ、ことりはまだそんなことを言ってるのですか?」
俺の言葉を聞いた海未さんは、何故か呆れたように俺にそう聞いてくる。
どういうことだ?
「まあ、私は敵が減るからいいんですが・・・。流石に見てられませんね・・・。」
「どいうことですか??」
海未さんの言っていることが全然理解できない俺がそう聞くと、
「・・・私が言うのは、筋違いなので言えませんが。
そうですね、強いて言えば、ことりのことをもっとよく見てあげてください。」
「・・・はぁ。」
結局何のことか分からなかったが、それ以上聞いても、海未さんは教えてくれなかった。
「・・・そう言えば、さきほど満面の笑みの穂乃果と必死の形相の雪穂が家から飛び出してきましたが、何かあったのですか?」
「さあ?全然知らないですね。
何かあったんですかね?(笑)」
その後は、こんな他愛もない会話をしながら、歩みを進め、いつもの別れ道まで来た。
そしてそのまま、何事もなく海未さんと別れて学校に・・・
「あ、そうそう、夏樹。
最近遊べていませんでしたから、日曜日に私とデートをしましょう!では!」
行けなかった。
海未さんは、一方的にそうデートの約束を押し付けてきて、颯爽と去っていってしまった。
「え、ちょっと!!
その日は、ことりさんと!!」
急に言われたもんで、反応が遅れたのがいけなかった。
俺が、無理だと伝える間もなく、海未さんは視界から消えていた。
なぜ、みんな俺の意志を無視するのか・・・。
というよりどうしよう・・・。
その日、ことりさんともデートなのに・・・。
そう、昨日のことりさんとの約束で日曜にデートすることになったのだ。
理由は分からない。
姉ちゃんとのデートをセッティングしてくれという頼みならわかるのだが。
昨日ずっとその理由を考えたが、結局ことりさんの思惑を推し量ることはできなかった。
まあ、着せ替え人形にされるより全然マシだからいいけどね。
しかしこれは、ことりさんと海未さんとダブルブッキングじゃん。
・・・・・・。
面倒だ、放課後に考えよう♪
放課後の俺よ、後は任せた!
というわけで、全てから解放された俺は、元気に学校に向かった。
しかし、学校が見える位置まで来たところで、異変に気付く。
学校の門の前に大量の殺気立った男子生徒達がいるのだ。
・・・嫌な予感。
俺は、不安な心を必死に押し込み、門に近づいていく。
すると
「来たぞ!!高坂だ!!」
やっぱり俺かーー。
俺が絶望していると、あっという間に大量の男子生徒に囲まれてしまった。
「や、やあ、おはよう諸君!
どうしたのかな、こんな大勢で??」
俺が、無理やり笑顔で元気よく挨拶すると、一人の男がスマホの画面を見せながらこう言ってきた。
「お前のとこの雪穂ちゃんのツイッターだ。」
雪穂のツイッター?
・・・どれどれ?
その内容はというと・・・
海未さんと夏樹のキスシーンです。
※拡散希望
ということだった、海未さんが眠っている俺のほっぺにキスをしている画像付きで・・・。
・・・どういうことだってばよ。
ていうかいつ、キスなんてされたんだよ!
後、これスクールアイドル的に大丈夫なの??
俺が恐る恐るスマホの画面から目を外すと、そこには、
ゴゴゴゴゴゴ
怒り狂った童貞共がいた。
・・・あぁ、神よ。
「・・・雪穂、確かに姉ちゃんに画像を送信した俺も悪かったけど、あの復讐はえげつくね?」
あの後、フルボッコにされた俺が家で雪穂にそう抗議すると
「・・・お姉ちゃん、あの画像を学校のホームページに載せた上に、学校の放送使って、『妹にキスされちゃいましたー!!』って放送したらしいよ、登校してすぐにね。」
「さっき、お姉ちゃんの同級生の人に、『あらあら、雪穂ちゃん、お姉ちゃんと仲いいのね~』って、例の画像見せられながら言われたよ・・・。」
・・・・・・・・。
俺は、なんて酷いことをしたんだ・・・。
雪穂の顔は・・・死んでいる。
殺したのは・・・俺だ・・・。
「・・・すみません、まじで。」
それしか言えなかった。
「駅前のパフェ。」
雪穂は死んだままの顔でそうつぶやいた。
「・・・御意。」
まあ、仕方ないだろう。
「二杯。」
雪穂は死んだままの顔で再びそうつぶやいた。
「・・・・・・・御意」
さらば・・・俺のお小遣い、うぅ。
つづく