高坂穂乃果に弟がいたならば   作:naonakki

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第43話 爆誕 高坂夏子♂

今、何て言った・・・??

 

『亜里沙さんが時間通りに帰ってきた』だって!?

 

状況が飲み込めず、慌てふためく俺に対して絵里さんは、罠にかかった獲物を観察するように、ニヤリと口角を上げた表情を浮かべ、こちらを見つめてきている。

 

ちなみ今日は、19時まで亜里沙さんが帰ってこないという絵里さんから聞いていたので、それまで絵里さんの家で居るという予定だったのだ。流石に亜里沙さんに振られて直後のこのタイミングでお互い会っても気まずいだけだろうから

――まして、亜里沙さんにとっては、自分が振った男と姉が付き合っていたとなれば、亜里沙さんの心中がどうなるかは想像もできない。

ちなみに俺は、絵里さんが彼女になったこともあり、割り切れていてる部分もあるので、そこまで抵抗はないが、それでも振られた次の日に会うというのは、流石にどうだろうと思う。

そのことを絵里さんも当然分かっているはずだが・・・。

先ほどの、絵里さんのセリフと表情から考えてみても、どう見ても絵里さんがこの状況を作り出している。

理由は、皆目見当もつかないが。

 

「ちょっと、どういうことですか!!」

 

当然、俺は絵里さんに理由を問い詰める。

しかし、絵里さんは余裕の態度を崩さず、こんなことを言ってきた。

 

「ふふふ♪ ごめんね、亜里沙が帰ってくる時間が18時半って今思い出したわ♪ でも、このまま大変ね? 亜里沙と鉢合わせしちゃうわね?」

 

「ちょ、笑い事じゃないですよ、何が目的ですか?? このままだと死ぬほど気まずい空気が流れて、誰得状況が出来上がるだけですよ!?」

 

だめだ、絵里さんの目的が分からない??

勿論、18時半ということを今思い出したというのも嘘だろう。

面白半分でこんなことをする訳はないと思うが・・・。

 

「でも大丈夫♪ この状況を打破する方法が一つあるわ!」

 

絵里さんは、そう言って、まるで『あらかじめ』用意していたかのように、何かが入った袋を渡してきた。

相変わらず訳が分からなかったが、とりあえずその袋を受け取る。

袋自体に重さはあまりなく、柔らかい何か布製のものが入っているようだ。

取り出してみる。

 

 

 

取り出したものを見て、思考が完全に止まる。

まるですべての時が止まってしまったかのように

 

 

 

なぜかって?

 

 

 

取り出したものが

 

 

 

女性用の制服に、長い黒髪のカツラだったから

 

 

 

正確には、姉ちゃんや絵里さんが通う音ノ木坂学院高校の制服のものだ

 

 

 

は?

え?

どいうこと?

どうしろと??

 

よほど俺が間の抜けたように見えたのだろう、絵里さんは俺の肩をポンと叩き、こう補足してくれた―満を持したように―

 

「ふふふ、夏樹? 女の子に変装しちゃえば、亜里沙にもばれないわよ?」

 

「ふざけんなおい。」

 

べしっと、制服とカツラを壁に叩きつける。

それを見て「あぁ、酷い!?」と絵里さんは、ショックを受けているようだが、知ったことではない。

 

「な・ん・で、俺が女装しなくちゃいけないんだよ!?」

 

怒り大爆発で絵里さんにそう問い詰めると、絵里さんは少し怯んだ様子を見せ、手をもじもじとしながら、その理由を語りだした。

 

「だ、だって・・・、夏樹って、男の子の割には小柄でしょ? 腕とか足も嫉妬しちゃうくらい細いし・・・。 それに顔も雪穂ちゃんによく似てるし、女の子の格好をしたら似合うんじゃないかな~って、てへ♡」

 

と、舌を出して、所謂てへぺろのスタイルで許しを請うふざけた彼女の姿を見て、思わず、かわえぇ・・・と許してしまいそうになるが、

 

「いやいや、俺に女装が似合いそうとかツッコミどころはこの際置いておいておくとしても、なんでこのタイミングなんだよ!?」

 

「・・・だって、普通に頼んでも絶対女装してくれないでしょ?」

 

「当たり前だ! ていうかこの状況でもしねえよっ!!」

 

「でも、このままだと亜里沙と会っちゃうわよ??」

 

ぐっ・・・、前言撤回だ。やっぱりクソみたいな初デートじゃないか!?

悪魔のような所業を働いた彼女を横目に、何とか状況を打破する方法を考えようとするが

 

ぴん・・・ぽ~ん

 

ここで、再びのインターホンの音。

中々反応がないことに、しびれを切らした亜里沙さんが、もう一度押したのだろう。

さらに畳みかけるように

 

「じゃあ、私は愛する妹を出迎えてくるから、早く着替えたほうがいいわよ? 私の大好きな、『か・れ・し・さん♡』」

 

パチンッと綺麗なウインクを最後に玄関へ向かって言ってしまった。

憎たらしいくらい可愛いな畜生!?

迎えに行く絵里さんを止めたかったが、亜里沙さんを玄関前に待たせるのも悪いと感じてしまい、止めることが出来なかった。

 

というより

 

どうするどうするどうするどうする??

時間もない、この状況を打破する方法も見つけることができない。

だが、このまま亜里沙さんと出会ってしまう事だけは、避けたい・・・。

 

 

 

・・・チラッ

 

 

 

俺が思い切りなげつけたことにより、散らかってしまった制服とカツラを見る。

 

 

 

女装・・・か・・・

 

 

 

男としてのプライドが、それだけはやめとけと魂が叫ぶが、どうしようもないこの状況下であることもあり、思わず心の中でそう呟いたとき、廊下の方から絵里さんと亜里沙さんが楽しそうにしゃべり合う声が・・・!?

 

ダッ

 

俺は考えるのをやめて、投げ散らかした制服に飛びついた。

まず、着ていたものを素早く脱ぎ、それを絵里さんの部屋にオーバースローで思い切り投げつけ、ドアを閉めきっておいた。

次は・・・

視線を制服に向ける、一瞬の抵抗があったが、二人の会話の音がどんどん近づいていることもあり、すぐに迷いを断ち切り、制服に手を伸ばした。

 

くそっ、ボタンいちいち止めるの鬱陶しいな・・・。

ていうかスカート短くね?? 普段、皆こんなものを着ているのか・・・。

リボンどうやって止めるんだよ??

苦労しつつも素早く制服を着ていく。

女物の制服を身に付けていくたびに自分の中にある大切な何かが消えていくようだ・・・。

 

最後にカツラだけかぶって女装完了というところで、とうとう半透明ガラスでできている廊下とリビングを繋ぐドアに人影が・・・!?

 

ボスッ!

 

慌てて、鎖骨上にかかる程度の長さまではある黒髪セミロング用のカツラを被り、位置を微調整する。

くそっ、髪の毛が鬱陶しいな・・・もっと短髪のものにしてくれよ。

そんな、不満を呟いた時だ

 

 

 

ガチャッ

 

 

 

「ただいま~! ・・・って、え?」

 

と、元気な一声で部屋に入ってきたのは、亜里沙さんだ、その後ろに絵里さん。

慌てて少し目線を下げ、できるだけ顔を見られないような体勢をとる。

パッツン仕様のカツラだったようで目にかからない程度に切り揃えられた前髪が垂れ下がってくる。

 

亜里沙さんは、リビングに突っ立ている俺を見て、驚いたようにその場に立ち尽くしている。

ちなみに絵里さんも『えっ』という驚きの表情を浮かべこちらを見ている。

あんたがさせたんだろうが、女装を!

 

しかし・・・

 

だめだ、死ぬほど恥ずかしいんだが・・・。

羞恥のあまり、顔が熱くなるのを感じる。

 

ていうか、これ、ばれてるんじゃないか?

だが、無理もない、男らしさ溢れる俺が女装したところで誤魔化せるわけがなかったのだ。

 

そんなことを思いつつも、視線を下げているため、自然と上目遣いで前方を伺うが、どうも亜里沙さんの様子が変だ。

亜里沙さんは、驚きの表情から、だんだん、顔を赤らめていき、ポーと何かに見とれているような目つきでこちらを見つめてきたのだ。

こんな顔を見るのは、初めてだ。

どういう感情なんだ?

そんな疑問を抱いたときだった。

亜里沙さんが「・・・ゕゎぃぃ」と何かつぶやいたように聞こえたが、あまりに小さすぎて聞き取ることが出来なかった。

 

なんて言ったんだ?

女装とかキモイとでも言われたのだろうか?

・・・だとしたら流石にショックだ、二日ほど引きこもるまである。

 

「・・・えっ、えっ、あなた、誰ですか??」

 

俺が最悪の想像をしていると、いつの間にか目の前までに来ていた亜里沙さんが、なぜか興奮しているようで食い気味にそう質問をしてきた。

だが、朗報だ。

まだ俺が高坂夏樹とばれている訳ではなさそうだ。

 

「うわぁっ・・・と、え・・・と・・・。」

 

一瞬びっくりしたものの、質問にどうかえしたものかと迷う。

まさか、正直に言うわけにもいかないし・・・

だが、ずっと黙っているのも亜里沙さんを怪しませるだけだ。

 

「え・・・えぇ・・・と。」

 

とはいえ、中々うまい言い訳が思いつかず、苦しんでいると

 

「その子は高校の後輩よ。仲が良いから勉強を教えてあげていたのよ。」

 

と、絵里さんがここで助け舟を出してくれた。

絵里さんがこの状況を作り出した当の本人であることを忘れて、素直に感謝してしまう。

 

「そ・・・そうなんです・・・。」

 

流石に素で喋ってしまうと声でばれる可能性があるので、できるだけ小さな声で、気持ち声を高めにし、そう答える。

 

「そうなんだ~!!」

 

亜里沙さんはなぜか目をキラキラさせて、奇跡に巡り合えたかのように感激していらっしゃる。

・・・どうしたんだ? 

こんな亜里沙さんを見るのは初めてだ。

そんな疑問を抱いていると、突然亜里沙さんは俺の手をとり、再び質問をしてきた。

 

「名前は?? 名前はなんていうんですか??」

 

と。

 

いきなり手を握られドキリとするも、すぐに冷静にならざるを得ない。

・・・名前・・・だって・・・?

流石に自分の本名をそのまま言うわけにはいくまい。

なんかそれっぽいの・・・。

だめだ、そんなぽんぽん名前なんて思いつかない、でも早くしないと名前聞かれてすぐ答えないとか怪しすぎる。

 

ええ・・・と

ええいっ! もう適当だ!!

 

 

 

 

 

「おr・・・私は、高坂夏子です」

 

つづく

 




ここまで読んで頂いてありがとうございます!

というわけで、次回、高坂夏子ちゃんの活躍をご覧あれ!!

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