結局希さんがお見舞いに来てくれた次の日には、体調もすっかりよくなり完全復活を果たした。
風邪が治った俺は、いつも通り学校に行った。
そしてその放課後、
俺は、今、絢瀬家の前に来ていた。
俺は、これから絵里さんに会うことにした。
急だったが絵里さんも予定が空いていたのか快く承諾してくれた。
よし、いくか・・・。
ちょっと緊張するな・・・。
ぴん、ぽ~ん
のんびりしたインターホンの音が静かな空気に心地よく響き渡る。
ほどなくして、足音がトトトと近づいてくる。
「は~い♪」
明るい声で快く迎え入れてくれたのは、絵里さんだ。
ラフな部屋着に身を包んだ絵里さんだが、そんな服の上からでも分かるスラッとしたスタイル、日本人にはない輝くような金髪、蒼い瞳はそれこそ芸術作品のようだ。
当然、周りからの人気も凄い。
相変わらず美人だなぁ・・・。
何度見てもその美貌には魅入ってしまう。
「どうしたの、夏樹?
私の顔に何かついてる??」
「・・・えっ、あ、いや、なんでもない。」
「そう?」
あぶね~、見とれてた・・・。
これだから絢瀬家は恐ろしいんだよな・・・。
その後、部屋に案内された俺は、綺麗に整頓されたリビングで用意してくれていたお菓子と紅茶を飲みながらしばらくしゃべることになった。
「そういえば、今日希さんどうだった?」
昨日、マザコン標準語の希さんの一部始終が記録された爆弾動画を姉ちゃんのスマホからミューズ全員のグループラインに送った実行犯としてその成果を聞く。
「ふふふ、今日の希はみんなにからかわれて、一日中顔真っ赤だったわよ?
とても可愛かったわ~。」
それは何より(笑)
いつもおれをからかってくる希さんに一泡ふかせたことに心の中でガッツポーズをしていると
「でもああ見えて、希は恥ずかしがり屋さんだからあんまりからかったらだめよ?」
「・・・は~い。」
からかったらだめ?
そんなわけにいかないなぁww
「そういえば、希が次に夏樹に会ったら、生まれてきたことを後悔させてやるって言ってたわね。」
・・・しばらく希さんには近づかないでおこう。
「でも希が学校をさぼってまで夏樹の家に行ったっていうことは何かあったの?」
と、絵里さんがもっともな疑問を投げかけてくる。
「さあ?俺もよく分からなかった。」
結局希さんの言ったことの意味は最後まで分からなかった。
・・・なんか最近こういうの多い気がする。
「ふ~ん、まあ困ったことがあったらいつでも言ってね?
力になってあげるから♪」
と、ウインクをしながら言われた。
惚れてまう・・・。
ていうかウインクが様になるな・・・、姉ちゃんとは大違いだ。
「それで夏樹?ここに来たっていう事は、また勉強を教えてもらいに来たんじゃないの?」
その後も、しばらく雑談を楽しんでいたが、
会話もそこそこに絵里さんがそう切り出してくる。
心なしか、そう聞く絵里さんは少し楽しそうだ。
「ふふふ、今日は違うよ、その必要がなくなったんだ。
今日はその報告に来たんだよ。」
俺が待ってましたとばかりに、不敵な笑いとともに絵里さんにそう伝える。
そう、今日ここに来た真の目的はこの報告の為なのだ。
「え・・・それってつまり。」
絵里さんは俺のその言葉で、俺が何を言いたいのか察したのだろう、ひどく驚いている。
まあ、無理もないだろう。
「この前の中間テスト・・・学年3位だった。」
俺が、今日渡された成績表とともに絵里さんにそう伝える。
そう・・・俺が3位だ。
半年前は、ほぼビリに近かった俺がだ。
「そっ・・・か・・・頑張ったのね。」
俺の報告に絵里さんは、感動してくれてるのか、途切れ途切れにそう言ってくれた。
でも、気のせいだろうか、絵里さんがとても寂しそうな表情をしているような?
・・・ま、気のせいだろう。
きっと、俺の成長を嬉しく思ってくれているのだろう。
・・・いっぱい勉強教えてもらったもんな。
本当に絵里さんには感謝している、後この場にはいないが、ことりさんにも、だ。
「・・・半年かかったけど、あの時の約束、覚えてるよね。」
俺が、珍しく真面目な口調でそう絵里さんに確認をとる。
俺だって真面目な時は真面目なのだ。
「・・・・・ええ、もちろん、よ。」
さっきから絵里さんはえらく歯切れが悪いな?
そんなに俺が3位を取ったのが、驚きなのか?
まあ自分でもびっくりだけどさ。
それより、とうとうあの絵里さんもこの俺を認めてくれた・・・!
やっとだ・・・、やっとこの時が来たのだ。
どれだけこの時を待っていたか・・・。
「よし、じゃあ、俺行くよ!
今日はその報告が目的だったし、あんまり長居しても悪いしね。」
そう言い、俺は立ち上がる。
さあ、ここからやることはいっぱいあるぞ!
「・・・・・。」
だが、ここで絵里さんは急に黙ってしまった。
どうしたんだろうか?
「絵里さん?どうしたの?」
少し心配になり、そう尋ねる。
「え、ああ、なんでもないのよ!
ただ、夏樹がよくここまで成長したなって感動してたのよ!」
と、いつも通りの絵里さんがそう明るく答えてくれた。
よかった、様子がおかしそうだったのは気のせいだったのだろう。
「うん、本当に絵里さんには感謝してるよ。
今まで本当にありがとう。」
そう言い、俺は深く頭を下げた。
これは俺なりの誠意だ。
「ううん・・・私こそこの半年間は楽しかったわ。
・・・また遊びに来てね?」
と、絵里さんは寂しそうにそう言ってくれた。
半年前のことを思い出すとなんだかその言葉だけですごく胸にくるものがある。
「きっと遊びに来るよ・・・おねえ様?」
「・・・ふふ、もう、気が早いわよ?」
少し困ったような絵里さんの顔を見たのを最後に俺は、絢瀬家を去った。
次回は、半年前のお話になります。