例えば鉛筆の家凸から始まるラブストーリーとか(本編完結)   作:マクバ

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今回は全部楽郎視点で行きやす。トワの心情はみなさんで妄想しましょう。
人気投票はみなさんどう投票しましたか?私はペンシルゴンに入れました。過去編ってよりは前にTwitterに氏が上げたような番外編へ期待しながら。


横のコイツは花火が似合う

 人混みの中を間を縫うようにして駆け抜ける。といっても手を繋いでいるし、全力疾走なんて出来ないから小走りでだけど。

 

「ちょっと……止まってよ……疲れた」

 

 息を切らしながらトワがそう言ったのが聞こえて、俺は右手でトワの左手を握りしめたまま立ち止まった。

 

「悪い衝動に身を任せてしまった」

 

「女の子をエスコートする上で最悪のセリフだね。特に今この場面では」

 

 トワはジト目でそう言った。まて……女の子? そんな俺の内心を知ってか知らずか

 

「24歳はまだまだ女の子ですぅー!」

 

「ならもうひとっ走りしとくか?」

 

「んーっ、それは遠慮しとくよ」

 

 俺がからかい交じりにそう言うと、トワは苦笑しながらそう言った。そして暑かったのか空いてる右手で襟元をパタパタと扇ぎ始めた。身長差の関係で、俺はそれを上から見てしまった。スレンダーなモデル体型故か、平均よりは小さいがそれでもあるにある女性的な部分がだ……。俺は思わず息を飲んだ。

 

「なに? 楽郎君」

 

 目敏くトワは俺の動作に気づいたらしい。そして状況を理解すると、

 

「ほーん。君も男の子だねぇ。気になっちゃった?」

 

 そう言い、よく見る意地の悪いにやけた笑みを浮かべ始めた。俺は思わず俯いて黙り込む。さっきまでのと合わせて、今は何を言っても勝てる気がしなかったし、これ以上ボロが出るのが嫌だったから。でもなぜ繋がっている手だけは離さなかった。自分から離したら、この状況を負けだと認めたようなもんだと思ったからかもしれない。

 

「モモちゃんとかの方が全然おっきいからあんまり自信なかったんだけどなぁ」

 

 ニヤニヤとトワは俯いている俺の顔を下から覗き込んでくる。

 

「……見たい?」

 

「……っ!」

 

 繋がった俺の手を少し引っ張りながらそう言ってくる。これは罠だ。間違いない。数多のクソゲーの地雷を踏んできた俺にはわかる。それにありとあらゆる手段で俺とカッツォをからかってくる女だ。イエスといえばその瞬間にグループのSNSが荒れるのは必死。そういう意味じゃラブクロックのヒロインなんて目じゃないくらいには厄介だ。フェアカス? あれは女ですらないから別。

 

「見ねーよ! 飲み物買ってくる!」

 

 俺は繋がっていた手を振り離して、視界にあった自販機に向かった。これは逃走ではない。戦略的撤退なのだ! 

 

「別に1人で行く必要なくない?」

 

「残念。魔王からは逃げられなかったよ」

 

 トワは普通に着いてきた。俺の予想ではじゃあ私のもー! って言ってくる読みだったんだが……

 

「魔王ってリアルで言うのは止めてよ。これだけ混んでるのに別れたら合流するの大変でしょ」

 

「それもそうだ。というかゲームならいいのか」

 

 周りを改めて見る……周囲には人、人、人。いくら連絡する手段があるとはいえ1度別れたら簡単には合流出来ないだろう。そんなことも気づかないくらいには俺は動揺していたらしい。トワが魔王ムーブというか、悪役ムーブをしがちなのはリアルでもゲームでも変わらないから別にいいと思うんだが……

 

「んでトワは何飲むんだ? おしるこでいい?」

 

 俺は自分の分のスポーツドリンクを買ってからそう聞いた。流石に自販機にはライオットブラッドは無かった。いやあっても今は買わないけどさ! 

 

「こんな暑い日に人混みの中に居て飲むわけないでしょ。ていうか今の時期にあるんだねぇ」

 

 こりゃ今度魔王ムーブ知ってるやつが会うことがあったらご愁傷さまってやつだな。多分被害に合うのはカッツォ。そしてスレが加速する。慧×おしるこは間違いなくこの夏のトレンドになるだろう。

 

「私は普通にレモンティーかな。おしるこはカッツォ君にあげよう」

 

 賛成多数によりカッツォの飲み物はおしるこに決まった。この場にはいないけど。俺は自販機にお金を入れてレモンティーを買う。

 

「はいよ」

 

「ありがとね〜」

 

 別にペットボトル1本で奢りマウントを取るようなことはしない。ていうかしたら器が小さすぎる。煽られるだけだ。

 

「そういや花火ってどこから見るんだ?」

 

 俺がそう聞くと待ってましたと

 

「やっとそれを聞いてくれたねぇ。な ん と」

 

 トワは腰のポーチに手をやると

 

「じゃじゃーん! お仕事で貰った花火大会の優待席ぃ〜」

 

 おぉそれはすごい。でも

 

「それで入ったらバレないか?」

 

 俺がそう聞くと

 

「そんなの人混みの中で見てても変わらないよ。なら1番いい場所で見たいじゃん」

 

「まぁ確かにそうか。そんじゃ行こうか」

 

 行くまでの途中には出店もあるし、色々買って行っても良さそうだ。優待席ならある程度なら食べ物だって広げられるだろう。

 そう思って俺が歩きだそうとすると

 

「君はさっきみたいに急に鉄砲玉になるからさ」

 

 そう言ってペンシルゴンはさっき俺がしたように、俺の手をとって繋いできた。別にまだ付き合っている訳でもないのに、忘れるように努めていた、さっきまでのやり取りがまた頭の中をぶりかえす。

 

「そんなんリアルじゃそうそうならねーよ」

 

 なんと説得力の無い言葉だろうか、さっき急に走り出したやつのセリフとは思えない。トワも同じことを思っているのか、こちらを見るその目は冷たい。だが俺がこの繋いだ手を離さないところで察して欲しいのだ。彼女の耳が少し赤くなっているように、俺も今、信じられないほど心臓が早鐘を打っているのだ。

 

「にしても出店っていうのは、ずっと昔ながらのままらしいね」

 

 そこにはVRやARのような最新技術はなく、威勢のいいおっちゃん達が喧しくも、どこか懐かしい客引きをしていた。急な話題の転換によって、俺は流されるままに手を繋ぎっぱなしにしていた。

 

「これもある意味文化なんだろう。この会場がARとかで埋まってたらそれはある意味祭りの出店じゃないし」

 

「それもそうだね。味気がない花火大会になっちゃうかもね。あ、おじさん、これ1つ!」

 

 トワが買ったのはタコ焼きだった。出店のタコ焼きは当たり外れが激しい。なんせタコを入れ忘れたりなんてのがザラにあるからな。お、美味そうなのがあるじゃん! 

 

「ごめん。これ1つ!」

 

「楽郎君ってそういうのも好きなんだね」

 

 俺が手にしていたのはリンゴ飴だ。だってこれってこういう出店でしか食べる機会なくない? 

 俺がそう言うと

 

「まぁ確かにね。でもかなり甘ったるいじゃん? あんまり好きじゃないんだよねぇ」

 

「別に1年に1回食べるかどうかなんだからそこまで気にしなくていいだろ。毎日食えって言われたら苦痛だとは思うけど」

 

 こんな感じで出店の商品をあぁでもない、こうでもないと言いながら練り歩く。花火をより良い所で見るために場所取りをしている人たちを尻目に、その集団の脇から俺たちは優待席の入り口に向かい、そのまま中に入った。

 人混みの中で押し合いながら場所取りに苦戦しているのを前から悠々と見れるのは素晴らしいな。

 

「いいねぇ。こうやって苦労して並んでいる人たちを見下ろすように前に行くのは」

 

「その気持ちは分かるがあんまり言わない方がいいぞ。俺も滅茶苦茶思ったけど」

 

「え? もしかして楽郎君って性格悪い?」

 

「トワに言われたくないわ!」

 

 思わずキレ芸の如くツッコミを入れる。頭をどつかなかった俺を褒めて欲しい。スーパーカリスマモデルの頭を叩く度胸はなかったともいうし、リンゴ飴のせいで手が塞がってたのもある。

 そんなこんなで俺たちの分の席を見つけ、そこに座る。ここで俺たちは久々に手を離した。おかえりマイレフトハンド。

 

「ふふふっ、やっば君とこうして居ると楽しいね」

 

「まぁ退屈はしないかな。俺も」

 

 俺たちはそこから少しの間見つめあった。俺は特に意味は無いが真顔のままリンゴ飴をかじる。

 

「いやなんでここでリンゴ飴!?」

 

「そろそろ食べようかなって」

 

 それを聞いて呆れたようにトワが笑った。俺も釣られて笑っていた。

 

「んじゃあ私もタコ焼き食べよっかな〜」

 

 トワは横でタコ焼きを開け食べ始めた。それを見てると腹が減ってきた。あぁなんで俺リンゴ飴なんか買ったんだ? 片手が完全に塞がるせいで追加でなんも買えやしなかった。その視線に気づいたのかトワが

 

「食べる?」

 と聞いてきた。俺は人間の三大欲求に抗えず、くれ、と答えた。そしてトワからタコ焼きのパックを受け取ろうとした。が、

 

「あの〜」

 

「なに?」

 

「くれよ」

 

「あげてるじゃん」

 

 トワが差し出したのはパックではなく、箸で挟まれたタコ焼きだった。いや、あの〜

 

「この前のお客さんのほぼいない店の陰とかじゃなくて、ごごバリバリの人混みの真ん中なんですけど」

 

 彼氏彼女でもないのにこんなんやる? そこまでして俺を恥ずかしてようっていうのか!? 羞恥心とかないの? 

 

「ねぇ〜腕疲れるんだけど」

 

「なら下ろしてくれていいよ」

 

「はーやーくー」

 

 最近こんな感じでトワに押し負けることが多くなった気がする。いや元々会った当初からそうだったか? 

 

「分かったよ」

 

 あーと言わんばかりに口を開ける。

 

「もう遅いよ。まったく」

 

 そう言いながらトワは俺の口にタコ焼きを放り込む。買ってから暫く歩き回ってて放置していたからだろう。舌を火傷するような熱さはなく普通に美味しかった、と思う。なぜ曖昧かって? 

 

「どう? 美味しい?」

 

 食べてる時にそう聞いてきたトワの目に見蕩れていたからだ。そのせいで俺は、今飲み込んだタコ焼きの味を全く思い出せなかった。吸い込まれるようにその目を見てしまいそうになる。慌てて視線を外して、俺はスポーツドリンクを飲んだ。そしてその蓋を閉めた後に

 

「美味かったぞ」

 

「まぁ作ったのは私じゃなくて、出店のおじさんだけどね」

 

 いや確かにそうなんですけど、ここで言います? いや普段のペンシルゴンって感じはするが、最近のトワって感じはしない。よく分からない違和感を感じた。少し寂しさを覚えるような、そんな違和感だ。まぁトワには決して言わないが。

 

「リンゴ飴ちょうだいよ」

 

「え? タコ焼き1個でリンゴ飴持ってくの!?」

 

 とんでもないレートだ。悪徳商人だってもうちょい優しい。そんなことを思っていたら

 

「違うよ。1口だよ」

 

「一応モデルやってるからね。そんなカロリーの塊を丸々1個なんて食べないよ」

 

 まぁそれもそうか。傍若無人な振る舞いが多い、ていうかしかないけど、そういう所には気を使ってるのね。

 

「まぁ全部でもやるけどさ」

 

 そう言いながら俺はトワにリンゴ飴を渡した。彼女は、うーん久々に見たなぁとクルクルと手元で回すように少し見たあとにリンゴ飴を舐めた。

 

「リンゴ飴って思ったより固いよね。中々齧れないや」

 

「いやまぁ俺もそんな気はしてた」

 

 さっき自分で食べててと思ったのだ。リンゴに辿り着くまでが中々大変だ。というか俺もまだリンゴまで到達してないし。

 トワは暫くリンゴ飴を舐めていたが、やがて1口齧り

 

「んーリンゴまでいけたよ。でも確かに1年に1回と思えば美味しいね」

 

 そう言って俺にリンゴ飴を返した。だが俺はこのリンゴ飴の艶が、さっきまで俺が持っていた時と同じ、飴によるものだけとは思えなかった。彼女の唇を思わず見てしまった。口紅は付けていないし、グロスも対して引いてるようには見えなかった。だがこのリンゴ飴は確かに、トワに渡す前とはまったく違うリンゴ飴にしか見えなかった。

 

「その評価だとあまり美味しいって感じがしないんですが」

 

「……いや、美味しいよ。ホントにさ」

 

 なるべく普段通り、飄々と返す。というかこっからイジられる最近のパターンにはもう入りたくはなかった。だが俺は中々リンゴ飴を食べ進められなかった。横のトワはパクパクとタコ焼きを食べている。さっき俺も使った箸でだ。

 この前のパスタだってこうだった。流石に2度も負けるのは……。

 そう思ってリンゴ飴を齧る。なんとなくさっきまでと違う味がしたような気がした。

 

 俺がそんな阿呆な葛藤をしながら食べている間にトワはタコ焼きを食べ終え、俺をじっと見つめていた。黙り込むなんて珍しい。

 

「お、もうすぐ始まるみたいだよ」

 

「良かった。ちょうど食べ終えたよ」

 

 流石にリンゴ飴ずっと片手に持っていたくなかった。持っているだけで意識しそうだったからだ。

 ゴミはきちんと持ち帰りましょう。タコ焼きの入っていた袋にゴミを入れて、俺の脇に置いておく。

 

 そして花火大会が始まった。いくつも打ち上がる花火は上がる度にこの場にいる人間から、感嘆の声を生じさせる。

 

「いいねぇ〜。たまやー!」

 

 横のトワはとても楽しそうだった。刹那主義のこいつにとって花火ってのは恐らくは大好物なのだろう。普段のプレイスタイルが花火職人みたいなもんだし。

 

 気づいたら俺は花火そっちのけでトワばっかり見ていた。なんとなく実年齢より幼く見えるその笑みに俺は見とれていた。最近トワに見とれることが多い。ゲームではよく見るが、リアルで会うようになったのは最近だし、トワの顔はやっぱり整っている。当たり前だけど。

 

 ぼーっと見ていると急に右手が何かに包まれた。そっちに視線を向ける。トワの手が俺の手の上に重なっていた。

 そのまま目線をあげる。トワがこちらを見ていた。さっき花火を見ていたその笑顔のままで。

 

「いいじゃん? 今日はずっとこうしてたんだし」

 

「いやいいけどよ」

 

 いくらトワとはいえ、流石にそろそろ俺も勘違いするよ? そう言おうと思ったが飲み込んだ。言ったら一生煽られそうだと思ったからだ。

 

「 」

 

 トワが何かを言ったが、生憎デカい花火が打ち上がって聞き取れなかった。

 そこからは花火をずっと見ていた。いや右に顔を向けれなかった。ただ、右手の感触だけで、花火の景色と音よりも意識を持ってかれていた。こっからトワと別れてからの帰り道もよく覚えていない。気づいたら家にいた。

 正直、花火自体はそんなに楽しんでいない。ただ今までの俺が知っているペンシルゴンとは違う、天音永遠という存在が俺の中に刻まれた日になった。流されるようにトワと呼んでいたが、どこかでペンシルゴンだと意識していたのが、天音永遠であると。

 




やっばりアバター自体が本人なのもあって、あの顔のまんま外道で楽郎君にはインストールされてそうだと思いながら、それが変わるまでの花火大会でした。
ペンシルゴンって花火のイメージが強いからもうちょい上手くそこんところ書ければよかったかなと思いますが、それはまぁ別の人にお願いします。
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