槌の勇者が大王様   作:血糊

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フレイアがついに最終形態に!


貴方は私のご主人さまじゃない

 フレイアの飛行速度は、他の飛行系の魔物と比べてもかなり早い。そのために、あっという間にメルロマルクの王都付近に到着した。

 

 影はさっきから様子のおかしい槌の勇者を心配していたが……

 

 

 「監獄だらけの星とは別のところなのは分かったが……どうにも、違和感が残るな。どこかで見たことがあるんだが……」

 

 「勇者様、先ほどから何を?」

 

 「いいや、気にするな。フレイア、さっさと降りろ」

 

 「……」

 

 

 フレイアは槌の勇者が可笑しくなってから、彼の発言に物凄く不服そうだが、ちゃんと言うことを聞いている。

 

 地面に降り立った影、フレイア、槌の勇者の目の前には、王都と外を隔てるゲート。そこに、立ちはだかるようにして警戒した面持ちの門番が二人居た。

 

 

 「だ、誰だ!」

 

 「私は女王の使者です。そして、この方は槌の勇者様です」

 

 「槌の勇者? 本当にそうなのか? ……ふん、まさか。そう言ったってこのメルロマルク一の鬼門番の目はごまかせないぜ!」

 

 

 門番の一人は何も言わないが、もう一人は面倒くさい奴だった。

 

 影が使者であることの証明書を取り出す前に、強硬手段を使うことにした槌の勇者は、怪しげな光をたたえた瞳で門番を睨んだ。

 

 睨まれた門番はビクン! と体を震わせると、構えていた剣を落とした。

 

 

 「トーザデさん!? 一体どうしたんです?」

 

 「ク―フォ……この人は本物だ。申し訳ありません、どうぞお通りください」

 

 「は、はぁ……」

 

 「行くぞ」

 

 

 ゆっくりを剣を拾った門番は不自然なほどに坦々とそう言って退いて、それを見たもう一人の門番も困惑した様子ながらも同じように退いた。

 

 妙な違和感があったが、槌の勇者の様子を見ていなかった影には何も分からなかった。

 

 が、通る際にひとつ問題が起こった。

 

 

 「あの、勇者様……」

 

 「そういや、フレイアの見た目は結構目立つな」

 

 

 目立つから、間違いなく注目を浴びるだろう。さっきみたいに絡まれる可能性も否定できない。

 

 だからと門の前に置いておくという選択肢はないに等しい。万が一にも奪われるわけにはいかないからだ。

 

 どうしたらフレイアを目立たないように連れて行くことができる?

 

 

 「せめて人だったら良かったんだがなぁ」

 

 「言われなくたって出来ますが?」

 

 「「えっ?」」

 

 

 槌の勇者が愚痴ると、冷ややかな女の声が背後から返ってきた。

 

 影と槌の勇者が振り返ると、燃えるような赤の羽を広げた赤髪金眼の美女が胸の前で腕を組み、仁王立ちしていた。

 

 裸で。

 

 

 「いやああああああ!?」

 

 

 影が叫びながら予備のローブを広げながら投げつけたことで、振り向くのが遅れた槌の勇者にかろうじてその裸体が見られることは無かった。

 

 

 「わっ、影さん、突然何するんですか? ビックリしたじゃないですか」

 

 「ビックリしたじゃないですか、じゃないですよ、この痴女! 公衆わいせつですよ!?」

 

 

 覆面の上からでも分かるほど顔が赤い。ここで初めて取り乱した影は思わず両手で顔を覆って叫んだ。

 

 そんな影にむすっとふてくされた子供っぽい表情を浮かべた女は、不機嫌な声音で冷静に言い返す

 「誰が痴女ですか。私はあなたの知っているフレイアですよ」

 

 「フレイアちゃんは貴方みたいな痴女ではありません! そもそもフレイアちゃんは大きな赤い鳥です!」

 

 「ええ、そうですね。でもその姿が目立つからフレイアは人に変身したんですよ?」

 

 「いやだから、フレイアちゃんは…………」

 

 「分かりましたか?」

 

 

 ローブを持って前を隠しながら美女はなんとフレイアに変身。しかも無詠唱。

 

 疑いようも無く、この目の前の女はフレイアだということが発覚した。

 

 

 「どうせフレイアに化けてんだろ」

 

 「体型がかなり違う上、魔物に化ける魔法を無詠唱でというのは至難の業です。それに、フレイアちゃんはどこにもいませんし、こんな短時間に連れ去られたというのは考えにくいです。フレイアちゃんが人化したと考えれば納得できる点も多いですから、この方はおそらく本物でしょう」

 

 「……分かってるから、最後まで言わなくていい」

 

 

 饒舌に証明をした影に辟易した様子で槌の勇者は嘆息した。

 

 分かってるならなぜ否定するようなことを言うのだろうか、と影は思ったがそこまで気になることでもないのでその疑問は流した。

 

 

 「でも、この服を着たら変身できませんね……もしも影さんに何かあったらすぐに私は変身しますけど、後が面倒です……」

 

 「うんちょっと待とうか。なんで俺は入ってない?」

 

 「影さん、変身しても破れない服に心当たりはありませんか?」

 

 

 槌の勇者の抗議を知らん顔で無視している。フレイアの中では槌の勇者は居ない扱いになっているようだ。

 

 ちょっと槌の勇者が可哀相なので、フレイアの質問に答える前にフォローすることにした。

 

 

 「勇者様にもう少し優しくしてあげたらどうです?」

 

 「今のこの人の話なんて聞くだけ無駄です」

 

 「酷くねぇ!?」

 

 

 なんとバッサリ切り捨てた。

 

 勇者様、がんばれ……と影は心の中でエールを送った。

 

 

 「この人の扱いは気にするだけ無駄ですから。話を続けましょう、影さん」

 

 「勇者様が不憫ですね……あー、魔法の糸で作った服なら破れませんよ。まずは材料の糸を調達しましょうか。魔法屋のところならそのための器具があるはずです」

 

 「そうですか。なら今すぐに行きましょう!」

 

 「なあなんで? なんで俺のこと無視するの?」

 

 「うざいですよ黙ってて下さい」

 

 「なっ……!?」

 

 

 ローブを着ながら笑顔で辛辣なことをフレイアは言ってのけた。

 

 紅の天使の突然の暴言は槌の勇者の心にクリーンヒット。槌の勇者は呆然自失になってしまった。この様子では暫くは戻ってこないだろう。

 

 だがこれから魔法屋のところに向かわなければいけない。ということで影が申し訳程度で槌の勇者の手を引いて向かうことになった。

 

 

 

 

 

 ☆影、鳥、槌の勇者移動中……★

 

 

 

 

 

 「魔法衣の材料を作るための器具を使いたいのね?」

 

 「はい。魔法に関する道具を扱っているここならあると思いまして」

 

 「確かにあるんだけど……作るために必要な鉱石がないのよね」

 

 

 魔法屋の店に着いた影、フレイア、槌の勇者。

 

 影の推測どおり、魔法の糸を紡ぐ器具ならあった。だが、久しく使われていなかったせいで肝心のものがないままということが判明した。

 

 だが、必要なのは鉱石。鉱石なら、フレイアが卵の時に居た洞窟にあったものがある。

 

 

 「あー、鉱石?」

 

 「これですね」

 

 「あ、ちょ、勝手に取るなよ」

 

 「うるさいですよ」

 

 

 一応復活した槌の勇者は再度撃沈。お構いなしに鉱石を入れている袋を取り出したフレイアは、袋を逆さにして中身を全て机の中にぶちまけた。

 

 

 「この中にその鉱石ってありますか?」

 

 「お兄さんに辛辣ねぇ……あら、あったわ」

 

 「本当ですか!? なら今すぐ作りましょう!」

 

 

 

 しょんぼりしている槌の勇者に後で慰めてあげようか、と苦笑いで魔法屋は考えながら、フレイアと一緒に必要な鉱石を持って、器具のある部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 ☆鳥、魔法の糸製作中……★

 

 

 

 

 

 「出来ましたー!」

 

 

 きゃいきゃいと子供のように喜ぶフレイア。いや精神年齢は子供だった。

 

 

 「良かったですね」

 

 「はい! あとは、これを布にして、服を作るんでしたよね」

 

 「そうね。近くに洋裁屋の店があるから、そこで作ってもらいなさい」

 

 「……」

 

 

 今まで存分に可愛がっていたフレイアにぞんざいに扱われた槌の勇者は、魔法屋の慰めを受けてもへこみ続けている。

 

 椅子にうな垂れながら座る様子はなんとも哀れみを誘うが……フレイアが「あれでいいんですよ」と謎の威圧を込めて言ったので、これ以上は何も出来ない。

 

 ちなみに今フレイアは魔法屋が譲ってくれたお下がりの空色のワンピースを着ている。影のローブを着ているとはいえ、何らかのアクシデントで前がはだけたら目も当てられない。

 

 

 「それじゃあ、洋裁屋さんのところに行きましょう!」

 

 「ちょっと待ちなさい。この際だから、魔法適正の検査をしないかしら?」

 

 

 

 魔法の糸をリュックの中に入れ、意気揚々と店を出て行くフレイアを魔法屋は呼び止めた。

 

 

 「魔法適正ですか?」

 

 「ええ、そうよ。どういう魔法が使えるかが分かるの。ここに座って」

 

 「分かりました」

 

 

 実は魔法というものをほとんど知らないフレイア。でも気になるので魔法屋の言うとおりに、水晶玉の置いてある机の前の椅子に座った。

 

 対面するように座った魔法屋は、水晶玉に手をかざす。

 

 すると、赤と白が浮かんできた。

 

 

 「フレイアちゃんの魔法適正は火と光ね」

 

 「火と光、ですか」

 

 「火属性と光属性の魔法が使えるということですよ。例えばファスト・ファイアやファスト・ライト等ですね」

 

 「ファスト・ライト……力の根源たるフレイアが命ずる。理を今一度読み解き、光よ、辺りを照らせ

 

 「えっ」

 

 

 何かを呟いたフレイアが、突然槌の勇者の方を向いて、手を突き出す。

 

 

 「ファスト・ライト!」

 

 「うぎゃああああああっ!? 目が、目がぁーっ!」

 

 「「フレイアちゃん!?」」

 

 

 槌の勇者の目の前で閃光が炸裂。槌の勇者は目を押さえて絶叫した。

 

 もちろん影と魔法屋もびっくりして止めに入る。

 

 

 「何をしているの、そんなことをしちゃ駄目よ!」

 

 「これくらいしないと私の気が収まらないので」

 

 「俺、お前の気に触るようなことしたか!?」

 

 「しましたよ?」

 

 「嘘だ!! 絶対嘘だ!!」

 

 

 槌の勇者は目を押さえながら否定するが、なぜか嘘っぽく聞こえる。なぜだろうか。

 

 

 「この人の事はほっといて、魔法屋さん。ありがとうございました。代金はどれくらいですか?」

 

 「理不尽に聞こえるような聞こえないような……鉱石も持参してくれたんだし、銀貨50枚でいいわ」

 

 「ありがとうございます。それじゃあ、さようなら!」

 

 

 なんとも酷い扱いだが、槌の勇者を見ると何故かその扱いが納得できてくる……本当に不思議だ。

 

 スキップで出て行くフレイアの様子を、やっと光の衝撃から回復した槌の勇者が見ていた。

 

 

 「勇者様……どうしてあんなに嫌われてるんです?」

 

 「俺が聞きたいよ……」

 

 

 泣きそうな声でそう言った槌の勇者の手を引いて、影は歩いてフレイアの後を追う。

 

 そういえば、槌の勇者の魔法適正の検査をしていないが、多分しようとしていたらフレイアが間違いなく邪魔していただろう。

 

 

 

 

 

 ☆影、鳥、槌の勇者移動中……★

 

 

 

 

 

 洋裁屋のところに向かい、服の製作を頼んだ所。

 

 

 「分かりました! 超特急で明日までには完成させます!」

 

 

 と意気揚々に言ってくれた。とても楽しそうに。

 

 ただしフレイアの体の採寸の為、槌の勇者は一度店から追い出された。流石にこの程度では槌の勇者はへこたれないが、フレイアに「いっそ魔法屋のおばさんの所まで離れて下さい」という遠回しで近づくんじゃねえと言われ、結局へこんだ。

 

 まあ、何にせよフレイア裸問題は解決したも同然だ。

 

 ということで、明日まで待つことになった。もうすぐ日が落ちるので、別にやることもなく宿をとることにした。何気にここに来てからちゃんと宿を取るのは初めてである。

 

 しかし、ここで問題が発生した。そう……

 

 

 「これから私は城に行かなければなりませんので、ここでお別れです」

 

 「そんなぁっ!?」

 

 「ここでかよっ!?」

 

 

 影にもスケジュールというものがある。なので、ここで影が離脱することになったのだ。

 

 驚愕にガーンと落胆している二人に、影はどこか焦りながら、話しを続ける。

 

 

 「宿の予約は取っておきました。あと、これは援助金です。私が出来るのはこれくらいですが、頑張って下さい」

 

 「なんかお前急いでないか?」

 

 「いえ別に城への到着予定の時間をすっかり忘れていたとかじゃないですよ」

 

 

 予定の時間が迫っていたから、別れも早急だったようだ。

 

 だが、色々としてくれていたようで、大変なのに本当にいい人だ。槌の勇者は影からの援助金を受け取った。

 

 

 「それでは、これで」

 

 「はい! また会いましょう!」

 

 「色々助かった、ありがとうな」

 

 「はい。また会いましょうね」

 

 

 軽く会釈をした影は、転移したかのようにそこからふっと消え去る。

 

 人通りの少ない所でのお別れで、フレイアはなんとなくしんみりとした気分になっていた。

 

 ……いつのまにか、影が仲間のような認識になっていた事に気づいたフレイアは、別れが悲しいことだということを知った。

 

 それに対して、槌の勇者は別れに何も感慨を抱くことは無かった。色々と手を貸してくれたことには感謝しているが、悲しいとも辛いとも思うことは無い。

 

 だが、哀という感情が槌の勇者にないのは当たり前なのだろう。そもそも、彼に嬉しいや楽しいという感情はあっても、相手に関する情という物を抱く事は絶対に無いのだ。

 

 フレイアに抱いているのは、ただ愛でたいという気持ち。だが命を掛けてでも守りたいとは思わない。

 

 

 「……宿に、行きましょうか。影さんは宿に近い場所で別れるように仕向けてくれていましたみたいですから」

 

 「そうだな」

 

 「……私は貴方の事が嫌いです。宿に戻って夜ご飯を食べたら、話すことがありますので」

 

 

 宿屋の方へ踵を返してから、炎を連想させる容姿とは真反対な冷ややかな声音で、フレイアはそう告げた。

 

 今まで育ててきたペットが人になった途端に露骨に嫌っている。不可解であるとともに、それは不快でもある。だから、槌の勇者はその気持ちを乗せた言葉を、フレイアに投げかける。

 

 

 「……そこまで、俺の事は嫌いか」

 

 「何を言ってるんです? 大嫌いに決まってるじゃないですか。デデデさんを殺した貴方のことは」

 

 

 振り返らずに拒絶の言葉を返したフレイアがいつの間にか握り締めていたその拳には、血が滲んでいた。




死んだ人はもう戻らない。なら、せめて……
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