フィトリア「そういえば、この世界を滅ぼしに来たって最初言ってたよね」
ギャラ「あれは単に格好つけ」
フィトリア「本気になった私がバカだった」
「さて、お前の話とやらは何なんだ?」
夜ご飯を食べた後、影が取ってくれていた宿のダブルベッドの一室に槌の勇者が入る時には、すぐに夜ご飯を平らげて、槌の勇者を置いてさっさと宿屋に戻っていたフレイアはベッドの端に腰掛けていた。
こちらを猜疑するような瞳を向けてくる彼女を見た槌の勇者は、もう隠す意味もないと判断し、厚い面の皮を自ら剥ぐ。邪悪な本性を現すような表情へと一変させた。
「……あなたなら、分かっているんじゃないですか?」
「まあな。でも、たかが40程度のお前が、俺を殺せるとでも本当に思っているのか?」
「私は鳥ですが、それくらいは理解できますよ。あなたにはタイマンでは勝てない」
「お前、たった三日程度で結構俗な言葉使うようになったな」
「話をすり替えないでもらえませんか。正面からのぶつかり合いでは勝てなくとも、弱点さえ叩けばいいだけでしょう。生物には一つ以上は弱点があるというのは不変の理です」
「お前どっからそういう知識覚えたんだよ」
「答える必要はありません。ここで私があなたを殺すんですからッ!」
フレイアの華奢な手に魔力の爪が生成された。真紅の翼をはためかせて、飛び掛る。
槌の勇者――否、ダークマターは余裕の笑みを崩さずにシールドを展開し、フレイアの引っ掻きを遮った。
「この程度の壁すら壊せないんじゃ、俺の首を取る事はもっと出来ないな」
「あなたの弱点ならもう知っていますよ。ファスト・ライト!」
「な、うぐああぁああぁっ!?」
ダークマターの目の前で炸裂した閃光は、一時的に目をくらませるには十分だった。フレイアはダークマターに飛行して近づく。触れたせいで位置を察知させない為だ。
(首を取る、と言いましたね。なら今のうちに首を取ります!)
首を取るということは、頭部と胴体をつなげている首を切断する必要がある。
正直に言えば首を簡単に刈り取れる道具でもあればいいなぁと思うけど、そんなことより今のうちにとどめを刺さないと。
しっかりを狙いを定め、爪を一閃する。
「させ、るかァッ!」
紙一重でシールドに斬撃を防がれたフレイアは後ろに飛び、舌打ちする。
「耐性をつけていたんですか……厄介ですね。これは搦め手でも難しそうです」
「お前マジで俺の首取る気みたいだが、この体が誰のものか、分かってるはずだろ?」
「デデデさんのものでしたね。だから私はデデデさんを出来るだけ傷つけずにあなたを殺すんです」
「だから何で殺す前提なんだよ」
「だって、もうデデデさんは……」
決意を抱いたような顔から一変。腕を下ろして悲しげな顔になったフレイアをみたダークマターは察した。
(この子、勘違いしてたのか)
「別にデデデ自体は死んでないぞ。俺が乗っ取ってるだけ。中身を殺して成り代わったとかお前思ってたな?」
「へっ? そうなんですか?」
「そーだよ。というか、お前主人を殺した後どうするつもりだよ、お前生まれて間もないんだぞ?」
「デデデさんを殺したあなたを殺して私も死にます」
「愛が重い」
予想以上に覚悟と愛が重い。大切な人のためなら自分も命を捨てるとか……
(いや、違う。まだこの子にはそうした選択しか思い浮かばなかったのか)
ちゃんと後の事を考えられる程度には頭が回る。多分、一人が嫌とでも思ったのだろう。実際死というものは後に何もないから楽とは言える。でも、その楽ではなく、まだ肉体に追いついていない幼い精神がその選択をさせたのだろう。
(どうしよう……万が一この体が死んでも1UPあるから問題ないけど、この子の場合復活までの時間の間に自殺しかねないんだよな……かといって復活するっていったらこれが無限ループになる……)
ちなみにダークマターには未だにデデデに体を返すつもりは全くない。まだまだこの体に好き勝手するつもりだ。なのでその選択肢はないにも等しい……だが、実のところ、デデデの意思を完全に飲み込むことは出来ていない。でもかなり朦朧としているレベルなので、あまり派手なことをしない限りは大人しかったのだが、大事なフレイアを殺すようなシーンを認識してしまった場合、デデデの気が狂わんばかりの怒りでこっちの意識が間違いなく飛ぶ。
そしてもしもそのようなことが起こった場合、ダークマターはどうなるかというと。
(間違いなくぶっ殺される!!)
いやデデデはダークマターが未だに中に居る事を知らなかったし、どこにいるかも多分これからも分からないだろうが、でも多分そう早くないうちに見つかって殺られる気がビンビンするので、ダークマターは怖かった。
まだ目と体とは仲良くしてもらいたいダークマター。フレイアを宥めた上で、このままデデデの中に居続ける方法はないかと心中で模索していた。
「どうとでも言っていいです。あなたは私に死んで欲しくないのでしょう?」
「……まさか」
「あなたならあそこでカウンターだって出せたでしょうに」
「手加減してるだけだっての。フレイア、あんま俺を舐めてると、痛い目に合うぞ?」
「さて、それはどうでしょうか……?」
不適に笑ったその時、フレイアは信じられない行動に出た。翼を大きくはためかせ、勢い良く後ろに飛んだのだ。その後ろには木の枠が嵌められた窓がある。
フレイアはあろうことか、わざと背中から窓に激突したのだ。もちろんガラスは派手な音を立てて砕け、フレイアはひしゃげながらも何とか外れなかった木の枠によって外に投げ出されることはなかった。
一体、どういうつもりだ……と困惑するダークマターをよそに、フレイアは痛みで顔をゆがめながらも、自身の爪で体のいたるところに急いで傷を付け始めた。時々深く切って、血のあとがはっきりと服に出来てしまう。
今のフレイアの姿を何も知らない奴等が見れば、ダークマターがフレイアを酷く傷つけたように見えるだろうと思考が思い至った時に、やっとフレイアの狙いに気づいた。
(あいつ、まさか人を呼ぶつもりか!?)
ここまで派手だと、注意のために宿屋の主人が来るだろう。この娘、どうやら周りに助けを求めて、追い出す方法を見つけるつもりか。
(くそ、一度意識を刈り取るか)
バッとダークマターはフレイアに向けて手を突き出す。しかし、闇の力が放たれるよりも先にフレイアは出口のドアにむけて飛んでいた。
「すぱいらるっ、くろー!」
「っ!? 待て貴様ぁ!」
ドリルのように体を回転させながら宙を飛んでダークマターの横をすり抜け、爪でドアを吹き飛ばす。そのまま床に倒れるが、そのまま頭を上げて……
「誰か、助けて! 殺される!」
王手を宣言する言葉を、フレイアは叫んだ。
フレイアには乗っ取られたデデデさんの取り返し方はまだ分かりません。
でも今日、周りの人は色んなことを知っていることをフレイアは学べました。
なら、こうやって周りの助けを仰いで、デデデさんを乗っ取っている悪いものを、追い出す方法を見つける。これがフレイアの答えです。