槌の勇者が大王様   作:血糊

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大王様がんばれー


冤罪にかけられた二人目の勇者(自業自得)

 「そうです……変なもやに包まれたと思ったら、突然襲い掛かってきて……」

 

 「そうかいお嬢ちゃん。もう大丈夫だからね」

 

 「はい……」

 

 

 フレイアの助けを求める叫びによって一時的に混乱に陥った宿内。だが、夜明けにはそれもやっと収まり、一階にて宿屋のほとんどの利用者と主人と従業員が集まっていた。

 

 ガタイのいい冒険者の後ろに隠れて、泣いてはいないが怯えた様子のフレイアと、他の人々の敵意のこもった眼差しの先には、特殊な魔法付与をされた枷を付けられ拘束されたダークマターが居た。

 

 

 「この赤い悪魔が……」

 

 「黒い悪魔のあなたには言われたくありませんがね」

 

 

 邪悪な本性を隠そうともしなくなっているダークマター。もう依り代としている体も不味いことになっている。すでに瞳はどす黒く濁っていて元のマントは赤かった布地は暗い紫色になり、青かった髪と盗賊の服はすでに黒一色に染まっている。おまけに肌も黒ずみ始めていて、闇にかなり侵されていることがよく分かる。

 

 このままだと不味いことは明白だ。それは冒険者達や主人や従業員、そしてフレイア自身も分かっている。そしてフレイア以外の者達はこの状況を打開する方法を知っていた。

 

 「悪いけど、従業員いるとはいえ俺は宿あける訳にはいかないからさ、お金負担するから行ってくれるかい?」

 

 「ああ、まかせろ。まずはこいつを気絶させないとな。ああ、そこのおっさん。念のためにそいつ捕まえといてくれ」

 

 巨漢の男二人に強引に立たされ、二人がかりでの羽交い絞め。普通の人なら、こうされればそう簡単には振り切れないだろう。それこそ、勇者でなければ振り切れない。

 

 しかし、今のダークマターの体は勇者の体なのだ。そして、その体は大王に相応しき力と頑強さを持っている。

 

 コキコキと手を鳴らしている鳶色の髪の冒険者はダークマターのその様子を見て、怪訝に感じた。

 

 

 「なんで笑ってる?」

 

 「この枷で弱体化してても、貴様に俺を気絶させることなど不可能だからだよ」

 

 

 冒険者は眉をひそめる。自分と良く似た見た目である、目の前の男にどうしてそのような確信があるのか見当もつかなかったが、その理由はフレイアが苦々しい顔で話した。

 

 

 「……その人は、勇者なんですよ。だから、そう簡単にはやられないと思います」

 

 「勇者だと!? 確かになんか禍々しいハンマー持ってるなとは思ってたが……」

 

 「そういうことだ」

 

 

 ダークマターは余裕の笑みを浮かべていた。この人間どもに、俺を倒すことなぞ出来ないと、確信していた。

 

 しかし、その余裕は簡単に崩される。

 

 

 (――いい加減に、しろ)

 

 「っ!?」

 

 

 かすかに残っていたデデデの意思が、そこで牙を剥いたのだ。

 

 不意を突かれたダークマターの闇の力と、勇者たるデデデの意思の力が中でぶつかり、相殺させることで、一時的にデデデの精神的な頑強さが失われる。

 

 肉体の頑強さが残っているが、それだけなら冒険者の攻撃力でぎりぎり貫けるだろう。しかもついでにダークマターの意思が薄れ、デデデの自我が戻った。かすかなその自我が消えないうちに、光の戻った瞳にはっきりとした意思を宿らせて、デデデが伝える。

 

 

 「……い、まだ」

 

 「ッデデデさん!!」

 

 「嬢ちゃんちょっと離れてろ! いくぞ、オラァッ!」

 

 

 デデデの自我が戻ったことにいち早く気づいたフレイアが叫ぶのと同時、冒険者の全力のアッパーカットがデデデのみぞおちに綺麗に入った。固定されていたので吹き飛ぶことはなかったが、がくりとデデデの体から力が抜ける。ちゃんと気絶したようだ。

 

 フレイアの顔には、さっきの敵意の表情は消え、泣きそうな、嬉しそうな顔になっていた。

 

 

 「デデデさん……まだ生きてた」

 

 「そりゃ良かったなー嬢ちゃん……にしても、結構痛いな」

 

 「はい……」

 

 「よし、次に会うときまでには悪いやつを絶対に追い出そうな」

 

 「っはい! 本当にありがとうございまッタ!?」

 

 「お礼言うのは解決してからだぞ!」

 

 

 豪快にも背中を叩かれた。ハハハ、と笑う彼を見て、どうしてか張り詰めていた何かが解れる感じがした。

 

 

 「鎌のお兄さん、近くの教会ならもしかしたら勇者様の様子がおかしくなった原因が分かるかもしれませんので、行ってみたらどうですか?」

 

 「確かに教会なら何か分からなくもないかもな。よし、まずはそこに行くぞ」

 

 「分かりました!」

 

 「おっと、嬢ちゃんはここで待っとけ」

 

 「え? 何でですか?」

 

 「今の服装だって。そんな服で外歩いてたら危ないからな」

 

 「服なら、洋裁屋さんで作ってもらってます! 今日にはもう完成させると言ってました!」

 

 「じゃ、その服を着てからのほうがいいだろうな」

 

 

 そういえば服を着たまま自傷行為をしたせいで服も主に袖のところがびりびりに裂かれていた。胴体も小さいが裂いた後がなくはないので着替えた方がいいだろう。

 

 

 「じゃあフレイアちゃんには私が同行しておくから、先に行ってて。後で合流しましょう」

 

 「おー、頼むぜ」

 

 

 鎌の冒険者と顔見知りらしい、水色の髪の女冒険者がフレイアに同行し、服を洋裁屋から貰ってから教会で合流することになった。




次回、ダークマター戦! 三勇者も参戦!
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