槌の勇者が大王様   作:血糊

17 / 24
異世界勇者様方も参戦。今回の主人公の存在の為に必要かな……と。三勇者は論外。


巨悪との戦い

 「ああフレイアちゃん! 今丁度服が完成した所よ、ってその服どうしたの!?」

 

 「ありがとうございます、今デデデさんが不味いので急いでるので、いくらですか!?」

 

 「あー、何かあったみたいね。銀貨四十枚でいいわ」

 

 「ありがとうございます!」

 

 

 目に隈ができていた洋裁屋は、一晩で作り上げた服の解説をしようとしていたが、フレイアの様子でただならぬ状態だと察知した為に余計なことは言わなかった。

 

 代金を払うとフレイアはその場でボロボロの服を脱いで赤の大きなリボンのついたワンピースをかぽっと着る。それとついでに作ったという靴と長手袋を身につけた。

 

 

 「その服、一応仕立て直しててもいいわよ」

 

 「是非お願いします! それでは」

 

 

 フレイアはボロボロのワンピースを預けるとすぐに店を飛び出した。そこには一緒に来てくれていた水色の髪の女冒険者が居る。

 

 

 「テリスさん、私に乗って下さい。道を教えてくれたらそこまで飛べます!」

 

 「分かったわ」

 

 

 女冒険者改め、すでにフレイアには自己紹介していたテリスが、フィロリアルクイーン形態になったフレイアに飛び乗る。フレイアの真紅の翼がはばたいて、不安を感じさせるような曇天の空へと飛び立った。

 

 

 

 

 

 ☆宝石人、鳥娘移動中……★

 

 

 

 

 

  フレイアはテリスの指示に従って向かった先にあったのは、おおきな白い建物だった。上にはおそらくシンボルなのだろう、弓と剣と槍を組み合わせたなんとなく十字架っぽいものがあった。

 

 フレイアは着陸してテリスをおろしてから人の姿になると、小首をかしげてテリスにたずねる。

 

 

 「この建物、一体なんですか?」

 

 「教会よ。悪いものを祓うのなら、こういう神聖なところがうってつけなんだからね」

 

 「へえ……私もまだまだ知らないものが多いですね」

 

 「これから知っていけばいいのよ」

 

 ちなみに、テリスのフレイアに対する認識は『世間知らずの箱入り娘』という感じだ。というかフレイアを見た人たちのほとんどがそう思っている。フレイアの雰囲気がまさにそんな感じだからだ。

 

 教会の扉の前に待っていた冒険者らしき者がフレイアとテリスを見つけると、声を張り上げる。

 

 

 「皆さんが向かったのはここですよー!」

 

 「あら、やっぱりね」

 

 「え、もしかして何も行く場所について教えられてなかったんですか?」

 

 「そうね。でも大体行く場所といったらここしか思い浮かばないし」

 

 

 推測だけに頼っていたことにフレイアは愕然としたと同時に、尊敬の念を抱いた。

 

 

 (推測だけで場所を当てるなんて凄いです……)

 

 

 協会の存在を知っているものであったら当たり前だろというが、フレイアにとっては凄いことだと思えた。

 

 兵士が扉を開けたので、待たせるわけにはいかないと、フレイアとテリスは開かれた教会の扉を潜り抜けた。

 

 教会の最奥部に続く広い通路にはレッドカーペットが敷かれている。その途中にたくさんの冒険者達の背中があった。大きな背中たちにふさがれ先の様子は見えない。

 

 フレイアは飛べばいいかと思ったが、それよりも先にテリスがソプラノの声を冒険者達の小さな話し声の聞こえる教会堂に響き渡らせた。

 

 

 「ラルク! 来たわよ」

 

 「お、やっと来たかー」

 

 

 デデデを気絶させていた鳶色の鎌の冒険者はラルクというらしい。呑気そうなセリフと比べて声色はどこかこわばっている気がする彼はどうやら先頭に居たようで、空気を読んだ冒険者達がフレイアの為に左右に分かれて奥へ続く道を開けてくれ先に、その先には鎌を持った状態でこちらを見ていた彼がいた。

 

 フレイアと共にその道を歩いていくテリスの顔は進むにつれて引きつっていく。

 

 

 「……ラルク。これって一体?」

 

 「取り憑いたのを追い出す儀式らしい」

 

 

 テリスの言う『これ』とは、ラルクの背後で行われている異様過ぎる儀式の事を指していた。

 

 今のラルクは気分がとても悪そうだった。それも、仕方がないことだろう。

 

 目の前で自分と良く似た人間が大勢の信者たちによって大きな水槽に沈められているのだから。

 

 

 「万が一水槽が壊れた場合の為に臨戦状態で居てほしいって言われたんだ……でも、本当にこれで追い出せるのか?」

 

 「私に聞かれても困るわよ。でも、これで助けるべき槌の勇者も最終的に溺死する結果で終わったら私達は呪われただけの罪のない勇者の処刑風景を見ていたことになるわ。事故っていってもこんなんじゃ故意的にしか見えないんだから」

 

 

 実はテリスとラルクにはデデデに憑いているダークマターの存在が見えていた。黒く、時々赤い目がふっと現れるもや。名前こそ知らないが、何かに取り憑かれていることは分かっている。

 

 あの水槽の中にある水は最高品質の聖水らしい。確かにそのもやはデデデから離れてはいっているが……もう瞳はかなり虚ろになっている。早く引きずり出さないと不味いだろう。

 

黒いもやだけではなく、半開きの口から暗い紫色の液体も流れてきて、冒険者達がどよめいた。あの液体自体は見えているようだ。これであの体にはやはり何か異常が起こっていたと確実に分かってくれるだろう。

 

 

 (『証人』は沢山いる。国でも呪いに侵された勇者の呪いの浄化をすると先に明言していた以上、する前に勇者自体が死んだら流石に問題になるはず。浄化するなど言っていないとシラを切ってもここまで沢山の証人が居るならそれも無駄になる)

 

 

 流石にそれくらいの事はあっちも分かるはず。だが、あんな状態でも全く心配する素振りを見せずむしろ邪悪にも見える笑みを露骨に浮かべているのはどうしてなのだろうか、いや分からないわけがない。

 

 呪いを解くなどといいながら、実は殺すつもりじゃないのかと。詳しいことを話されていないのもあり、ラルクとテリスを含めた冒険者達にはそんな疑心と不安だけが募るばかり。しかし、フレイアだけは違った。

 

 

 (悪い奴は、今のデデデさんを押さえてる人たちにほんの少しだけ干渉してるんですか)

 

 

 あの笑顔には『邪悪さ』がある。この世界の住人ではないが故にダークマターを見れるラルクとテリスをもの目を欺いたダークマターの策略をフレイアは見抜いていた。

 

 本当にたちの悪い奴である。人の良心に訴えかけるような表情をわざと作り出して、それで見ていられなくなった冒険者達に助けてもらう魂胆なのだ。フレイアは顔をしかめる。

 

 

 (皆さん、汗が出てる。きっと、支配されないように必死に戦っているんですね。だから何も言えないんでしょう)

 

 

 彼らは話さず、動かない。話せず、動けないのだ。ダークマターによる支配から必死にココロを守ろうとしているのだ。フレイアは拳を握り締める。

 

 

 (あの人たちはデデデさんを救おうと頑張ってるんです。デデデさんを最も救いたいと思っている私がここで動かず、どこで動くんですか)

 

 

 自分の願いでこんなに頑張ってくれている人が居るのに、自分自身が動かないというのはおかしい。自分のやるべきことを、今ここでやらずにどこでやる? フレイアは翼をはばたかせ、水槽の前に立つほかの信徒とは服装が違う、錫杖を持った男へむけて滑空する。

 

 

 「大丈夫ですか?」

 

 「……にげ、なさい。あなたも、あやつられて」

 

 「私のするべきことを、教えて下さい。私は光魔法が使えます!」

 

 

 錫杖を支えにして立っていた男は、冷や汗を垂らしながらフレイアに息も絶え絶えに警告する。だがその警告には意味がない。フレイアはたとえどんなに止められようとも行動をやめるつもりなどないのだから。

 

 揺るがぬ決意を宿らせた真紅の瞳に見据えられた男は、歯を食いしばって、そしてポツリと言った。

 

 

 「つかえる……ならば」

 

 「行きます! ファスト・ライト!」

 

 

 フレイアがすでに詠唱していた魔法を唱えると、水槽の壁に手をついたダークマターの目の前で、閃光が炸裂した。

 

 

 『――――――!』

 

 

 水槽内で目を押さえてダークマターは絶叫する。ぼこぼこと肺に残り続けていた空気が吐き出されていく。ダークマターが怯んだことにより、信者達に掛けられていた支配が解ける。その機を逃さず、男が叫んだ。

 

 

 「フレイアさん、あの男を止めていてください。その間に私たちが儀式魔法を詠唱しますので!」

 

 「分かりました!」

 

 

 フレイアがフィロリアル・クイーン形態に変身して水槽の中に飛び込む。大きな水飛沫が上がり、初めての水中で重い体を動かして、普通のフィロリアルよりも長い翼でダークマターを捕まえる。

 

 暴れるダークマターのパワーはとてつもなく強かった。でも、フレイアは元の力だけではなく、デデデを助けたいという願いで、必死に抱きしめて逃がさないようにする。

 

 あの桃色の星の戦士ほどの無限のチカラを出せなくとも、それでもその思いはダークマターの力をも上回るチカラをフレイアに与えた。

 

 ……フレイアはただのフィロリアル・クイーンではない。とてもお人好しで洞察力があって食い意地の張っていて、よく滅亡の危機に晒される星で桃球とよく喧嘩をし、時には共闘し、何度も宇宙や色んな星の危機を救ってきた自称大王に手ずから育て上げられた、古代のフィロリアル。普通の奴とは違うスペックを持っているのは当たり前なのだ。

 

 フレイアは大王譲りの洞察力で状況を見抜き、そして大王譲りの怪力で抑え込めていた。

 

 

 「フレイアァァァ……ッ!!」

 

 「私の全てをかけた、私自身の戦いなんです。絶対に負けてたまるものですか……!」

 

 

 呪詛の如きダークマターの己の名を呼ぶ声に怯むことなく、フレイアは動きを止めるのに全神経を注ぎ続ける。

 

 凛とした錫杖の男の声が、響く。

 

 

 「皆さんの魔力で、これから儀式魔法を使います! さあ、共に祈りましょう!」

 

 『『『力の根源たる我らが祈る! 森羅万象を今一度読み解き、悪しき存在を彼の者から追い出す、聖なる星の光を!』』』

 

 

 信者達が両手をかざし、錫杖に光が集まる。光はプリズムに通したかのように虹色に輝く。

 

 ダークマターが驚愕したような声を上げた。

 

 

 「あれは……まさか!」

 

 「「「トリプルデラックス・ビックバンスター!」」」

 

 

 フレイアは閃光を覚悟し、目をぎゅっと瞑る。

 

 暗闇に閉ざされたはずのフレイアの瞼の裏は白に染められていた。そして、直後、耳が痛くなるようなハスキー音の絶叫が聖堂内に響き渡った。

 

 奇跡の光のチカラは、ダークマターを確かに、デデデから追い出した。

 

 白が黒に染まり切ったのを見計らい、フレイアはデデデを抱えて水槽から飛び出し、地面に着地するとブルブルと水に濡れた後の犬のように体についた水を振り払った。

 

 

 「デデデさん、大丈夫ですかー?」

 

 「……」

 

 「もう大丈夫ですよ。ゆっくり休んでてくださいね。まだフレイアはやることがありますから」

 

 

 デデデは安心したような寝顔をしていた。フレイアはほっと息をつくと、『それ』に向き直った。

 

 

 「ヨクモォ……ヨクモ、ヤッテクレタナアアァァァァァァッッ!!!」

 

 「こいつが槌の勇者についていた化け物か……!」

 

 

 オレンジ色の花弁のようなものを付けた、単眼のついた黒い球体。目を血走らせて本来の姿をさらしたダークマターは怒り狂っていた。

 

 

 「皆さん、この化け物は魔物ではありません。これは意思を持った悪意、ダークマター! 昔この世界を混乱に陥れた存在で、一筋縄では倒せません! しかし、ここで倒さねばメルロマルクは間違いなく滅びます! 一瞬の油断が本当に命取りになります、十分に注意しながら戦ってください!」

 

 「おいこいつ本当に倒せるのかよ!? 何かヤバそうに感じるんだが!?」

 

 「死ぬ気でやらねばなりません! ここに英雄がいなくとも、皆さんの力を合わせて戦えば、必ず活路は見えてくるはずです!」

 

 

 ラルクが顔を青くしながら叫ぶが、それも仕方ないだろう。ダークマターの姿は、見るものに恐怖を与えるのだ。

 

 一国の王であり、鎌の勇者だとしても、まだラルクは若い。圧倒的に強い存在と対峙した経験というものがほとんどない。ましてや相手は宇宙で度々暴れまくって大混乱を引き起こしてきた悪意そのもの、暗黒物質だ。魔物とは格が違いすぎる。

 

 というかあれに臆することなく普通に突っ込んでいくデデデ含めたポップスターの住人がおかしいだけであって、ラルクの反応こそが当たり前なのだ。

 

 

 「ラルク、もうここまで来たら引き返せないわよ! やるしかないわ!」

 

 「だがここで死んだら、目的が……ッいや、テリスの言うとおりだ。世界を守るのは役目だし、どっちにしろ多分必ず戦う相手になるかもしれない。背を向けるわけにはいけないよな」

 

 「鎌の兄ちゃんの言うとおりだな! まあ、この国にゃあ、俺の家族がいるんだ。なら、冒険者としてこの国を守らにゃいかん!」

 

 「そうだそうだ! 皆、死ぬ気でやるぞ!」

 

 『『『おう!』』』

 

 

 全員が武器を構えた、その時だ。

 

 

 「エアストジャベリン!」

 

 「ヌッ!?」

 

 

 若い男の声が冒険者の後ろから聞こえ、緑の光をまとった槍がダークマターの目めがけて飛んだ。ダークマターが不意を突かれたものの、難なくよける。

 

 皆が振り返ると、三人の男が入口に立っていた。

 

 

 「え、誰……」

 

 「待て、まさかあれって四聖勇者じゃねえの!?」

 

 「何!? あれがか!?」

 

 「間違いねえ、あれは槍の勇者と剣の勇者と弓の勇者だ!」

 

 

 金髪赤目の軽薄そうな男に、黒髪青目の無表情の青年に、はねっ毛のある髪の薄緑目の青年。さっきなげられた槍は金髪の男がもう持っていたことからして、投げたのは彼なのだろう。

 

 フレイアは知らない単語を聞き、近くに居たシスターを翼でてしてしっと軽く叩く。

 

 

 「四聖勇者ってなんです?」

 

 「知らないのですか? 剣の勇者様、槍の勇者様、弓の勇者様、そして盾の勇者のことをまとめてそう言うのですよ。人々を守り、世界を救う英雄。それが勇者様なのですよ」

 

 「そうなんですか」

 

 

(盾の勇者のところでなんで様付けしなかったんでしょうか? いや、それよりも)

 

 

 「あの、じゃあデデデさんのような槌の勇者ってどうなるんです?」

 

 「槌の勇者様は七星勇者の一人ですよ。四聖勇者様のような気高い志をもった者が選ばれるのです」

 

 「じゃあデデデさんはやっぱりすごいんですね!」

 

 「そうですね」

 

 

 フレイアはそう聞いたとき、あることを思った。

 

 

 (フレイアも勇者に選ばれてたなら、もっとすぐにデデデさんを助け出せたんでしょうか?)

 

 

 フレイアの考えは少しだけ間違っている。たとえ勇者であろうと、無知ならば何も変わらない。

 

 でもフレイアならそのうちその間違えにも気づくだろう。どこぞの勇者とは違い、フレイアは自分で考えて、そして行動できるのだから。

 

 カチャカチャと鎧が擦れる音が聞こえる。三人の勇者が近づいてきていた。

 

 

 「先ほど、教会を通ろうとしたら、そこから強い光が出てきたんです。なので何があったかと思ったら……」

 

 「こんなところで中ボスが出てくるなんてな」

 

 「ま、この時期なら倒せなくはないだろ。波の前のウォーミングアップとしてさっさと倒そうぜ」

 

 「言っておきますが、協力する気はないですよ」

 

 「俺もだからな」

 

 「はっ、そうだな。俺もお前らと協力するつもりはねぇよ。あれは俺が倒す」

 

 「何言ってるんです? 倒すのは僕で十分ですよ」

 

 「お前らは引っ込んでろ、倒すのは俺だ」

 

 

 律儀にもちゃんと待ってくれていたダークマターの顔に青筋が立った。三人の足元めがけてダークレーザーが放たれる。三人はバックステップでよける。一人で倒せるなんてほざける程度には強いようだ。

 

 

 「会話してる時に邪魔すんじゃねえよ」

 

 「お前らバカなのか!? 今回のボスが特別に手加減してやった俺じゃなかったらお前ら死んでたぞ!?」

 

 

 悪意の塊のくせにゲームのボスのごとく出番が来るまで律儀に待ち、そしてど正論かますのは色々とおかしい気もするが、まあ仕方ないだろう。ダークマターの言ったことはまさにその場にいる皆の内心の代弁なのだから。

 

 

 「なあ、あれホントに四聖勇者なんだよな……?」

 

 「一応本物じゃないかしら」

 

 

 ラルクとテリスが呆れた声を出す。フレイアを除いた者たちも内心溜息をついていた。

 

 一方フレイアは、じりじりとダークマターの背後に近づいていた。翼を前で交差させると、ふっとその場から掻き消えた!

 

 

 「はいくいっくーです!」

 

 「フンッ!」

 

 

 一瞬で放たれる八つの蹴りを、ダークマターは肉眼でも捉えられない速さの動きで回避すると、フレイアの背後に瞬間移動した。

 

 

 「えっ!?」

 

 「そこじゃあ!」

 

 

 ダークマターが矢の如き速さでフレイアに体当たりすると、フレイアは悲鳴を上げながら蹴られたボールのように勢い良く吹っ飛んだ。

 

 「ぎゃうっ!?」

 

 「所詮は図体がでかいだけの小鳥か。俺の敵にはなりえない」

 

 

 絨毯の上をごろごろ転がり、止まったフレイアの口から一筋の真紅の線が垂れているのを見て、ダークマターがほくそ笑む。それを隙と思った槍の勇者が突撃した。

 

 

 「これ以上好き勝手させるか!」

 

 「邪魔だ槍ッ!」

 

 「ガッ!?」

 

 

 嘲笑うダークマターに向けて槍の勇者がスキルを放つ。が、ダークマターは闇のシールドを展開しスキルを防ぎ、逆に花弁のようなオレンジの弾を銃弾の如き速さで槍の勇者に叩き込む。槍の勇者はそのまま吹き飛び、聖堂の年季の入った壁に放射線状のヒビを入れながら激突した。

 

 床へと倒れこんでしまった槍の勇者はまだ意識があるようだが、上手く立てないらしい。これでは戦線復帰は望めないだろう。

 

 

 「一人で倒せるとか言いながら、このザマか。元康、お前は今まで何をやってきたんだ?」

 

 「口だけは達者ですね。道化にしか見えませんよ、元康さん」

 

 

 くたばった槍の勇者に呆れた様子の剣の勇者と弓の勇者。

 

 口だけは達者とかお前らが言うなしブーメランだろ、とダークマターがオレンジの弾幕を二人にぶっ放したのは仕方ないのではないだろうか。結局全部被弾した勇者はあっけなく気絶したのだから。

 

 

 「ワドよりザコとかガチのモブやん」

 

 「弱すぎることには全く同意だがいい加減止まれ! 飛天大車輪!」

 

 「というかお前もモブだからな? ミラーズフォール」

 

 

 エネルギー化した鎌が飛ばされるが、ダークマターの作り出した銀色の燐光が混じった闇の障壁に当たると、何と跳ね返った!

 

 その上飛ばした時の大きさの何倍もの大きさにするというオプションをまでついた死神の大鎌がラルクベルクに襲い掛かる。避けるには大きすぎる為、これは武器で受け止めるしかないか、と思ったその時だ。

 

 

 「あぐっ!」

 

 「な、嬢ちゃん!?」

 

 

 ラルクベルクをかばったフレイアの背中に大鎌の大きな切り傷が刻み付けられ、そこから尋常じゃない量の血が噴出した。

 

 ラルクベルクが思わず声を荒げる。

 

 

 「なんで俺をかばった!?」

 

 「私よりも、ラルクベルクさんのほうが、強いから……図体が大きいだけの、私が出来るのは、こうして避けられない攻撃を……盾として、受け止めること」

 

 「ふざけるな! そんなことしたら嬢ちゃんが死ぬだろう!」

 

 「……デデデさんには、悪いですが……それがどうしたんです? あの男の人は、言っていたでしょう、」

 

 

 『死ぬ気でやらないといけない』って。

 

 言い放たれた言葉に、ラルクベルクは戦慄した。

 

 

 (嬢ちゃん……本気で死ぬ覚悟をしてるのか)

 

 

 最初は大事な人を助けたいと思う、変わった魔物の女の子だと思っていた。だが、それは違った。

 

 その為ならば、平気で命を投げ出せる。そんな、危なっかしく、だが世界のために命を散らす覚悟のある……それこそ世界を救う勇者のような、そんな奴だったのだ。

 

 途切れ途切れにも、フレイアは続ける。 

 

 

 「無駄死には、御免ですよ。これは私自身が、望んだことなんです。本来なら、これは、私だけでケリを、つけねば、ならないことです。なのに、皆さんを巻き込んでしまった……だから、せめて私の出来ることを、するんです。皆さんを守る、盾として」

 

 「嬢ちゃんが死んだら本末転倒だろ! 俺達が手を貸したのは嬢ちゃんの力になるためであって、嬢ちゃんに守られるために来たんじゃない! そもそも俺達は巻き込まれたことを迷惑には思っちゃいねえ!」

 

 「え……?」

 

 「頼られて、力になりたいとは思っても、迷惑だとは少なくとも俺を含めた皆は思ってねえよ。思ってたら最初からここには居ない」

 

 

 ラルクベルクは続ける。

 

 

 「巻き込んだのを悪く思うな。むしろこれは頼らないといけないことだ。こんな化け物を一人でどうにかしようとするのがおかしい」

 

 「でも……」

 

 「でもじゃねえ。ああやって嬢ちゃんが俺達に助けを求めたのは、間違いじゃないって事は分かってくれ。そして、俺達が今ここに居るのは、嬢ちゃんとこの国を救うためなんだよ! だから……死ぬな」

 

 

 フレイアはラルクベルクの言葉に、呆然として……そして、人の姿になる。

 

 

 「……ありがとう、ございます」

 

 「まあ、責任を持つのは悪いことではないけどな、それでも俺達は嫌々やってるんじゃないっていうのは分かっておいてくれ」

 

 「はい……分かりました」

 

 

 駆け寄ってきた使徒がフレイアに回復魔法を掛ける。フレイアの深い切り傷が治されていった。

 

 フレイアは使徒にお礼を言うと、ゆっくりを後ろの、ダークマターの方に向き直る。

 

 

 「本物の勇者がここに居るじゃん……王道じゃん……さっきの三馬鹿勇者とは大違いじゃん……」

 

 「何眩しいものでも見るかのように目を眇めてるんです?」

 

 「眩しいに決まってんだろうがぁ……というかここからが本当の戦いだ、みたいな空気じゃんかぁ……熱い展開になりそうじゃんかぁ……」

 

 「そうですね。ラルクベルクさんに死ぬなと言われてしまいましたが、なら私は、命を無闇に捨てないように戦うだけですよ。見ているだけの守られるだけの人では居たくないので」

 

 「そうかい……」

 

 

 カッ、と最早白い所が真っ赤になった目が大きく開かれる。

 

 

 「この主人公系キャラどもめ! ここの空気読まなきゃいけんのなら俺負けないといけなくなるじゃんか!」

 

 「だったら空気読んで負けてくれませんか?」

 

 「だが断る!」

 

 

 ダークマターの周りに沢山の闇のエネルギーの塊が現れる。

 

 きっとダークマターに口があれば三日月形を描いていたことだろう。その代わり、目がいやらしく細められる。

 

 

 「処刑確定フラグ折ったるわぁ!」

 

 「フラグ回収乙ーにしてやります!」

 

 

 デデデよ、なんて言葉をフレイアに吹き込んだのだ。

 

 極太のダークレーザーが無数に放たれるが、フレイアは高速で飛翔し、ダークレーザーの合間合間を縫うように飛んでいく。

 

 ダークマターに大分近づいたところで、フレイアは両手を突き出す。生えていた魔力の爪が、一層鋭くなる。ダークレーザーが収まった所を見計らい、ラルクベルク達が援護する。

 

 

 「私達も黙っては見ていないわよ! 輝石・紅玉炎!」

 

 「飛天大車輪! 合成スキル、紅玉大車輪!」

 

 「俺達もやるぞ! ドライファ・ファイア!」

 

 

 炎属性の魔法が、技が合体すると、巨大な炎の龍へと姿を変えた。

 

 フレイアは、頭の中に浮かんだ詠唱を叫ぶように読み上げる。

 

 

  『力の根源足るフレイアが命ずる。森羅万象を今一度読み解き、炎龍よ、我が願いに応え、我が爪に悪を断つ浄化の炎を纏わせ、巨悪を喰らい焼き尽くせ!』

 

 

 「ドラゴストーム・クロー!」

 

 

 魂を燃やし、全身全霊のチカラを込めたフレイアの炎龍の爪が、ダークマター目掛けて飛んでいく。ダークマターが極厚の障壁を展開し、衝突した。

 

 

 「はああああああああああああああああああああああっ!!」

 

 「お前にこの障壁は壊せまい……む!?」

 

 

 フレイアの雄叫びを上げながらのドラゴストーム・クローの炎が、フレイアの絶対に倒すというココロと共鳴し、勢いを増していく。火花を散らしながら障壁に刺さろうとする爪が、ついに絶望の壁に希望のヒビを入れた。

 

 フレイアは全ての魔力と体力をこの一撃に注ぎ込み、爪はダークマター以上の大きさまで成長する。ピシピシとヒビが広がり、深くなっていく。

 

 

 「そんなバカな……!?」

 

 

 ダークマターが愕然とした声を上げた時、障壁が砕け散る。

 

 即座に二枚目の、もっと厚い障壁を張るが、それもあっという間にヒビが入り、黒水晶のようなきらきらとした欠片へと成り果てた。

 

 

 「小癪な……!」

 

 

 三枚目、全力の障壁が展開される。綺麗な青の火花を散らし、紅の天使の大爪が闇を切り裂こうとする。

 

 だが、やはりそれはダークマターが全力で張った盾。そう簡単には割れそうもない。雲行きが怪しくなったのを感じて一同が顔を曇らせる。対照的にダークマターが目を細め、くぐもった笑い声を上げる。

 

 が、その声も止まる。ダークマターの本能に、唐突に恐怖が芽吹いた。障壁に注がれていた闇のエネルギーが一瞬途絶え、ほんの一瞬脆くなったことで一気に崩壊の道に繋がる無数の線が引かれる。

 

 不味い、と思ったそのとき、ダークマターは見た。フレイアの真紅の瞳に星が浮かび上がり、黒と青の色へと染まったのを。その姿が、にっくきピンクの悪魔と重なったのを。

 

 

 「うううううああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっ!!!!」

 

 

 そして、ついに暗黒のシールドは砕け散る。そのままフレイアの爪が、ダークマターの目に深々と突き刺さった!

 

  

 「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 

 ダークマターが絶叫する。大きな火柱が上がり、煤まみれになったフレイアが着地した。

 

 きっとこれでやったはず。だがデデデはそれを言ったらフラグになるといっていたから、言わなかった。

 

 そう。いうつもりはなかったのだ。

 

 

 「やったか!」

 

 「ラルク何フラグ立ててんのよ!!」

 

 

 ラルクベルクがフラグを立ててしまった。テリスが叫んでラルクベルクの後頭部をスパァンとおもいっきり叩いた。

 

 ラルクベルクが後頭部を押さえる。その時、火柱が黒い風に吹き飛ばされた。

 

 

 「フラグを立てられたからには、まだだ、まだ終わらんよ!」

 

 「ほらー! フラグ回収しちゃったじゃない!」

 

 

 巨大化したダークマターが、黒いもやを纏い始める。間違いなくヤバイのが来るだろう。

 

 フレイアはもう力を使い果たしてしまった。おそらく決定打はもう与えられない。一気に絶望に叩きつけられた各々は、ただただそれを見つめることしか出来なかった。

 

 ……そして、ついに彼の出番が来た。

 

 

 「ゴブアッ!?」

 

 

 ダークマターが唐突に横に吹き飛び、壁に叩きつけられる。

 

 勿論全員、何が起こったのかすぐには分からなかった。あんなにも自分達を圧倒したダークマターがまるで蹴られたボールの如くぶっ飛ばされたのだから。

 

 だが、犯人はすぐに見つかった。

 

 煤で真っ黒になった絨毯の上。先程までダークマターの居た所に、彼は佇んでいた。

 

 聖水に漬けられていたせいでぐっしょりと濡れてしまっているファーの付いた真っ赤なガウンを羽織り、円の面に星のマークがあるハンマーを肩に置いて、顔に張り付く濡れた蒼穹の髪を剥がそうともせず、顔には青筋を立てていた。

 

 まさに王のような風格を醸し出す水も滴るいい男ならぬ、水に濡れた旦那の目が、驚愕に目を見開くダークマターを見据えた。

 

 

 「よくもワシの体で好き勝手してくれたなぁ……そのツケは今ここで、貴様の体で払ってもらうぞい、ダークマター!!!!」




まさかの10000文字突破ですよ、ハイ。

『この一撃に桃玉レボリューション』ドラゴストーム・クローのとこではそれが。

『王位の復権:D.D.D.』最後のところでは私の脳内でそれが流れていました。

もはやラスボス戦にしか感じないダークマター戦。次はマジバトルが始まります。
また更新遅くなるでしょうが、気長に待ってくださいませ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。