こんなことしてるせいでめっちゃ遅くなりました。すみません。
「バカな……もう目覚めるだと? 半日は目覚めないように追い出される直前にデデデの意識に干渉したはずだぞ!?」
明らかに動揺した声を上げるダークマター。ついに戻ってきてくれたデデデ大王はしてやったりとでも言わんばかりににやりと笑った。
「貴様は勘違いしているのだ、ダークマター」
「俺が、勘違いだと?」
フン、と目覚めた大王が鼻で笑う。
「ワシは何度も貴様ら暗黒一族に操られてきた! もはやお約束と言われるくらいにな! だが、流石にワシにだってもう素直に操られるつもりはないわい! 貴様のそのギリギリの状態で掛けた干渉程度、捻じ伏せることなど今のワシには造作もないぞい」
そう自慢げに笑うデデデに、ダークマターは信じられないと言わんばかりに声を荒げる。
「ふざけるな!! 俺は暗黒一族の中でもデデデ、貴様にもっとも長くそばにいて、そして取り付いてきたのだ! 貴様の支配など、ほかの同胞に比べても簡単にできる!」
「何を言っているのかぞい? 長く取り付いてこられたからこそ、対処の仕方も判ってきたんだぞ」
「嘘だ! あのおバカでどアホで大雑把なデデデがそんな器用なこと出来る訳がない! さてはお前、ブラデだな!?」
「誰が偽者じゃい!」
まあ実際成長はしているだろう。カービィを倒すために場外に投げ出されると感電するリングや、ハンマーにミサイルを放てたりエンジンを搭載したりと、色々やっている。普通に強くなっている。
「ワシは貴様に比べれば、失敗を糧にしてしっかりと成長しているぞい!」
だん! とデデデが黒ずんだ床を蹴り、ダークマターに突っ込んでいく。ダークマターは応戦しようとオレンジの弾幕を張る。
フレイアは飛行して避けた。それはフレイア自身の地の力はそこまで強くないからだ。それに対してデデデの足はそこまで速いとはいえない。だがその代わり、怪力だ。ならば、デデデは自分に被弾する弾は避けるのではなく、ハンマーで叩き落としたり、起動を逸らすことで対処する。
「おりゃっ、どおりゃっ、フンッ! ガーッハッハッハ! ダークマター、貴様の本気はその程度かぞい!?」
「くそ、面倒な……ッガ!?」
デデデの打ち返したオレンジ弾がダークマターに直撃。呻きながら地面に落ちたダークマターは、物凄くぐったりとした様子でデデデの方へと目を向けて、苦し紛れのダークレーザーを放った。
まあ所詮は苦し紛れ。予備動作の時間が長い攻撃など、動きの鈍いデデデが横に転がっても避けれるレベルだ。
人と同じ顔があればきっ苦虫を噛み潰したような顔だっただろう。そのような声でダークマターが呟く。
「クッ……今の状況だと分が悪いな……」
数的にも、実力的にもあちらが上なのは明白。このままでは負けて、滅ぼされかねない。
ダークマターの逆境を見たデデデは、ふむ、と何かを思いついたようだ。
「……貴様はゼロやゼロツーのような暗黒物質の中の上位の奴とは違うぞい。カービィの力がなくとも、貴様程度ワシの手でぶっ潰せるぞい……だが、ワシは貴様らとは違って慈悲深いわい。今ここで、武器を収めて宇宙に帰れ。そして二度とここに来るな。死者は居ないみたいだし、そうしてくれりゃ、今回は特別に見逃してやるぞい」
デデデが構えていたハンマーを下ろす。デデデの言い方は傲慢も聞こえるが、これはデデデなりの降伏勧告だ。ここで下がってくれたら、もう追うつもりはないという嘘偽りなき本心。
……ダークマターが何なのか、それはデデデ自身よく分かっている筈だ。その上でこの様なことを持ち掛けるのはやはり、『悪いヤツでも一緒にゴハンを食べて、一緒におひるねすればもうおともだち』という呆れ返るほどに平和な、物凄く平和ボケした辺境の星に住んでいたデデデだからこその、心を砕いて砕いて、それでも残ってしまったほんの少しの甘さなのだろう。
「大王よ……貴様は本当に愚かだな。そのような誘いを俺が受けるとでも思ったのか?」
だが、意思を持った悪意は、その善意すらも踏みにじる。
「だろうな……貴様なら一蹴するだろうとは思っていたが……」
返されるだろう答えに大体察しが付いていたデデデは残念そうに言う。
そして、降ろしていたハンマーをもう一度構えた。
「貴様がその気ならば、もうこれ以上は何も言わんわい。もう降参は受け付けんぞ」
「望むところだ」
そう言ったダークマターが、突如変形する。
目の下まで隠せるくらい襟の大きな灰色のマントを羽織り、目にスリットのある細い仮面を付け、光沢のない黒髪のなびかせる、男。それを見たフレイアが戸惑ったような声を上げる。
「あれって……」
「ッいけません槌の勇者様! 今すぐお下がり下さい、その姿のダークマターは例え勇者様であろうと、敵う相手では」
「貴様は黙ってろぞい」
突然のダークマターの変化に戸惑うフレイア達のなかで、錫杖の男……教皇がデデデを制止するが、デデデはそれを遮った。
今のデデデの顔には、初めて緊張というものが浮かんでいた。彼が見ているのはダークマター自身ではなく、ダークマターが持っている、虹色に光り輝く剣。
「どうして貴様が……それを持っているんだぞい?」
「さあな? まあこれなら、デデデを相手にしても負ける気がしないな」
地面に初めて自ら降り立ったダークマターが、片手にあるその剣……かつてダークマターを倒す為に桃球が使った虹の剣をデデデに向ける。その佇まいはまさに闇の剣士。勇者の前に立ち塞がる脅威たるものに相応しき姿に、冒険者達には見えたことだろう。
「これは俺の奥の手、これ以外の策はない。さあ、決戦の時間だぞ大王様」
「カービィがいなくともワシはここで、貴様の因縁に決着をつけてやるぞい」
大王と暗黒剣士の、本当の戦いが始まった。
ダークマターが大王に切りかかる。
「フンッ!」
「そこだ」
上段からの斬撃をハンマーで受け流すが、そこでダークマターのスリットの奥にある瞳が閉ざされる。
先程まで体を隠していた灰色のマントがふわりと広げられ、ダークマターの胴体……闇のエネルギーの集合体に浮かぶ目がカッと見開かれ、そこから黒い稲妻が放たれる。
「ダークサンダー!」
「ぐああああああああっ!?」
闇と雷がデデデの体内を一瞬のうちに駆け巡る。その刹那だけは意識が飛んでしまったが、すぐに気がついた。
即座にデデデは反撃しようとする。だが、その前にダークマターは溜めを終わらせていた。スリットの中の瞳が開かれ、二次の剣を突き出す。
「まだまだ! ダークビームラッシュ!」
「くううう……がっ!!」
デデデはハンマーで捌いていくが最後の一撃が腹に当たってしまい、吹っ飛ばされる。
ダークマターの怒涛の攻撃は止まらない。デデデが地面に接触する前に一瞬で背後に回り、虹の剣を振り上げる。このまま斬られると致命傷は免れないだろう。
だが、そこは歴戦を制してきた男。間一髪のところで逆向きのだいしゃりんを起こし、顔面に当てた。
即興ゆえに威力は低いが、ダークマターを怯ませて攻撃をキャンセルさせるには十分の威力。ダークマターはたたらを踏みながらも後ろに後退すると、はは、と乾いた笑いを上げた。
「流石だな……そんな無茶な攻撃、普通はできないぞ」
「ワシの力だからこそ出来る芸当だわい。あんまりワシをなめるな」
デデデもやられてばかりではない。次はデデデの番だ。大きな一歩を踏み込んで、ジャイアントデデデスイングをかました。
ダークマターは剣でガードするが、力負けしてしまい、そのまま弾き飛ばされる。背後の水槽を貫通して十字架の石像に激突する。
「……教会の被害がぁ……」
錫杖を支えにしながら青い顔で戦いを見ていた男……教皇が崩壊する石像をみてついに崩れ落ちた。
瓦礫の下敷きになったダークマターが、力任せに剣を一薙ぎして瓦礫を吹き飛ばす。吹き飛ばされた瓦礫のひとつが煌びやかで鮮やかな、いかにも金がかかってそうなステンドグラスに当たり、ガッシャアアアアアン! と派手な音を響かせて粉々になった。
「ぐうっ、この馬鹿力めが……!」
思わず悪態をつくダークマター。対してデデデは、何かを思案するような顔をしていた。
(せっかくだし、ここらで『すきる』を使ってみるかぞい。何だかんだで今まで一度も使ってないしな)
その時のデデデは以前ナオフミに教えてもらったステータス魔法の機能を使ってスキル一覧を見ていた。
『エアストハンマー』『セカンドハンマー』『ゴーストクラッシュハンマー』……と沢山のスキルが並んでいる中、デデデが選んだのは。
(これにするかぞい)
「スキル、ミョルニル!」
ワルキューレの槌のスキル『ミョルニル』……それは北欧神話の善神トールが武器としていた雷槌。
神が使っていた武器ということだけでも、どれほどの強さを誇るかなんて、すぐに分かるだろう。
デデデがスキルを詠唱すると、ハンマーは青い電気を帯び始める。
その様子を見たデデデは、落胆したような表情になった。
「なんかショぼいぞい。あ、そうだ」
何かを思いついたような顔になって、あポチッとな、とデデデがハンマーの根っこらへんについてる小さなボタンを押した。
すると、ハンマーに搭載された機能が起動される。エンジンが展開され、ジェットが異常なほどの音と炎を上げて吹き上がる。
(ま、不味いぞい!)
「ぐぬぬぬぬぬ……! くそ、水に漬けられてたせいでイカれたのかぞい!?」
重いこの体すらも簡単に振り切れるようなほぼ一瞬で作られた今までにないような勢いに体が持っていかれないようにデデデは両腕両足に全力を入れて踏ん張る。
前に飛ぼうとするのを必死に止めるが、勢いは完全には殺しきれずに引きずられていく。
そんなデデデの様子を見たダークマターは大きな瓦礫を壁にしようと前に積み上げていた。
「もうちょい積み上げて、後は虹の剣振れば即席砲弾になりそうだな……へくちっ、あーさっむ」
水浸しな状態でくしゃみを上げながら準備をしていた。この戦いの後は風邪で寝込んでしまうに違いない。
ちゃっちゃと瓦礫の壁を積み上げている所で悪いが、ついにデデデの力の限界が訪れた。
「ぐううう……っ!? ぬ、わあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
ジェットエンジンを元気に噴かせながらデデデがついに飛んだ。蒼雷の残滓を残しながらダークマターの積み上げた瓦礫の壁に突っ込もうとする。
「よっしゃ今だ「飛天大車輪っと」いってぇ!?」
虹の剣を振ろうとしたダークマターの頭にサクッとエネルギーで出来た鎌が刺さった。
狙って放ったスキルが見事にヒットし、ラルクは小さくガッツポーズをしたのと同時にデデデのハンマーが瓦礫の壁に接触した。そのときだった。
ドゴォッ! ドガァバチバチバチバチッ!!
「「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――!!!!」
何ということでしょう! 特大の放電が炸裂し、びしょ濡れだったデデデもろともダークマターを感電させたではありませんか!
雷雨の時に起こる落雷の電圧は一億ボルト。AEDの電気ショックは1200~2000ボルトなので、これだけ見ても雷が生身の人間に落ちた場合の結果は大体予想できるだろう。
そして今デデデとダークマターに流れている電気は例えるとすればまさしく雷。そして二人は共に全身電気を通しやすい水でずぶぬれだった。
つまり、人が死にかねないような電気が、水の力で全身をまんべんなく回って、デデデとダークマターの体にダイレクトに大ダメージを与えたということだった。
幸いだったのは、デデデは元々人間じゃないし、ダークマターは人ではなく暗黒物質だった為、死者は出なかったことだろう。二人にとっては幸いでも何でもないが。
「デデデさあああああん!!? 大丈夫ですか、死んでないですよね、ねえ死んでないですよね!?」
「嬢ちゃんちょっと落ち着け」
「これが落ち着いていられるですか!? フレイアはデデデさんとずっとお別れはもう嫌なんですよぉっ! 起きてください、デデデさん!! うわあああああああん!!!」
白目を剥いて真っ黒コゲになったデデデを見たフレイアがパニックになってしまった。ラルクが宥めようとするが、敬語がおかしくなるほどに取り乱したフレイアは落ち着くどころか泣き叫び始める。強制的な別れはフレイアにとってはもはやトラウマのようなものなのだから仕方ないことではあるが……
首のところのファーを引っ掴んでガクガクさせてるフレイアの腕をラルクとテリスが掴んで止める。
「フレイアちゃん、デデデさんは死んでないからやめてあげて!」
「ほら起きてるだろ!? 白目ちょっと剥いてるけど!」
ラルク、最後のは余計だ。
確かにデデデは生きてはいる。ただ血の気が引いていてずっと口と四肢が痙攣していて震えていて物凄く危ない状態なだけで。いや全然大丈夫じゃないだろこれ。
「勇者様の処置はこちらでします!」
「頼むわ」
「デデデさん助かるんですよね!?」
「大丈夫ですよ。今度も必ず私達が槌の勇者様をお助けします」
「分かりました……デデデさんをお願いします」
三勇教信者達がデデデの周りに駆け寄り、一斉に回復魔法を掛け始める。
「あ、ダークマターはどうなったの!?」
テリスがやっと忘れ去られていたダークマターのことを口に出したことで、皆が一斉にダークマターの方を見る。
……ダークマターは撃沈していた。ピクピクと震えるだけで動かず、仰向けに倒れていた。血管が浮き上がった目は白目を剥いていた。
どうやらダークマターは倒せたらしかった。
「……どうするの?」
「燃やすか?」
「残りの方々は『聖域』の準備をお願いします」
そうして教皇の指示によって発動された儀式魔法『聖域』によってダークマターは天に召されていった。
そして残った虹の剣。
「……どうするんだ?」
「昔の資料で似たようなのを見たんですが、元々はダークマターを倒す為の伝説の武器だったはずです」
「……フレイアちゃんにあげましょうか」
桃球、暗黒物質に続いて、虹の剣の新しい使い手はフレイアになった。
なぜダークマターが虹の剣を持っていたのか……それはまだ分からない
きっとデデデ大王は深くは考えようとはしないだろう。この謎も記憶の隅っこに置かれるに違いない
それでも、この謎はいつか解かれるときが来る。なぜなら、謎を解く鍵を握る少女が今そこに居るのだから……