四霊星(デデデのいる盾勇世界)に向かう太古の宇宙船ローア。
何の異常もなく悠々と銀河を飛ぶ様子とは裏腹に、船内は……
メタナイトは頭を抱えていた。
仮面のスリットにはいつもの黄金の目はなく、空虚な漆黒しかない。彼が悩んでいる証拠だ。
そして彼が悩んでいる理由は、この空間にあった。
「………………」
「………………」
船内のモニター前で、せわしなくコントロールパネルを叩くマホロアをはじっこからじーーーーーっと静かに見つめる、幽霊の如く佇むローブの者。
狂乱の魔術師・ハイネス。マホロアの昔の知り合いなのだという彼は今、まるで『ずもももも……』という擬音が似合うような雰囲気を漂わせていた。
ハイネスの威圧には気づいているだろうマホロアは平然としている……と思いきや半眼で、パネルを殴るように叩いていた。
二人の間にある一触即発の空気は、全く関係ない者達にまで及んでおり、船内の雰囲気は最悪だった。
今回のデデデ救出作戦で、メタナイトは複数回を想定してその上で作戦に適したメンバーを選んだ。その中に、マホロアとハイネスの二人が居たのは、本当に偶然だった。
メタナイトはしくじっていた。この二人は犬猿の仲だと分かっていたはずなのに、四霊星の現象『災厄の波』に間に合わせる為に焦っていたことで、そのことをまるっきり忘れ、任意的ではマホロアしか操縦できないローアを移動手段に、四霊星に突入した後の指示用としてハイネスの一族でしかつかえない通信機を使用することにしてしまった。
ミスに気づいたのは準備を終え、仮眠を取った後だった。
(くっ……銀河の首脳会議の代理に出席した時のあの襲撃で寝不足だったせいで、判断力が落ちていたか)
一年程前から、銀河は珍しく大荒れだった。自国の領地を別の星にまで広げようと戦争をしている国が多く、一年に一回開かれる銀河中の王が集まる首脳会議でも、王から国、星の現状を聞きだし攻めようとする輩ばかりだった。(ちなみにメタナイトはデデデの代理として毎回出ている)
勿論それを止めようとするメタナイトを代表とする重鎮たちも居る。今回は説得及び公にはいえないあくどい手をも使って、平和条約を結ぼうとした。
だがその時に、規模の大きい宇宙海賊が襲撃してきたのだ。
勿論ドロッチェ団ではない。彼らはメタナイトとは一応友人関係にある。それに、あのネズミは狡猾だ。あんな数だけに頼った連携も何もないような安易過ぎる作戦をするような奴ではないし、何より彼が欲しいと思うような宝などない。
後にその宇宙海賊達は、平和条約を結ぶのを阻止する為に反対派の大国が金で雇った者だと自白し、結果的にその大国は銀河中から大バッシングを受け、得ていた全ての信頼は失墜した。しかし、メタナイトが寝不足になったのは、丸一日にわたる戦闘及び、尋問云々の雑用を寝る間も与えられずにやらされたからである。
実の所、本来ならまだやるべき雑用があった。だがそこは、部下のメタナイツらの独断の行動によってやめられた。
はぁ……と後悔の溜息をついているメタナイトの背後に、歩み寄る二人の姿。
ふりむくと、自分の部下であるソードナイト、ブレイドナイトが居た。
二人がばっと頭を深々と下げる。
「申し訳ありませんメタナイト卿! 私達の判断が遅れたばかりに……!」
「気づいた時に、すぐにでもやめさせるべきでした。このようなことになったのは卿のせいではありません。事を重く見なかった私達の責任です!」
本当に申し訳無さそうな声音で、ちゃんとあの二人にばれないような小さい声で謝罪した。
二人は何も悪くないと言うのに、自分の認識の甘さが彼らに責任を持たせてしまったのだろう。元々あった罪悪感が膨らんでいくのを感じながら、メタナイトは二人に言葉をかける。
「……よせ、二人に悪い所などない。大体悪いのはそう判断させられる行動ばかりするデデデ大王だ。だが私も、二人の様子の変化には気づいていたが、無視していたんだ。私にも責任はある」
「いいえ! あの時、ワドルディ船員がデデデ大王の失踪を伝えてきた時、私達は迷ってしまいました。またどっかにふらっといったのかもしれない。卿の手を煩わせるまでもないことだと思っていました。すぐに伝えていれば、卿が寝不足になる事も、マホロアとハイネスを同行させてしまう事もなかっ」
「おい馬鹿ソード!!」
「はっ……あ……」
熱くなって声を大きくしてしまっていたソードナイトが口を手で覆った。その時には、二人の視線はソードナイトに移っていた。
「……ふーん。そうナンダ。ベツに、ワザとじゃなかったンダんダネ」
「ふぅ~む……わざとだったらワタクシもぉ、ただではぁ、おきませんでしたがねぇ……会議で寝不足だったのなら仕方ナイですねぇ」
ソードナイト、地雷回避成功。
目を細めた双方は、ふいっとソードナイトから目線を外した。
一瞬向けられた強烈な殺気が消えたことで、ソードナイトはその場にへたり込んでしまった。
「……っは……よかった……」
「メタナイト卿、ソードを奥で休ませてきても宜しいでしょうか」
「構わない。しっかり休ませてやってくれ」
「はい。ソード、立てるか。無理なら俺の背中に乗れ」
「う……くそ、立てない。すまないブレイド、乗せてくれ」
「ああ」
彼もメタナイトの部下だけあって相当の戦士。だからこそ、感じ取ってしまった死の恐怖で腰が抜けてしまったようだ。
ソードナイトをおんぶしたブレイドナイトが仮眠室に向かった後。
メタナイトはいい加減にこの状況を打破しなければと、決意したように拳を握り、未だにマホロアに向けて殺気を向けているハイネスに声を上げた。
「ハイネス。これから死地に向かうんだ。君がそんな様子じゃあ、こちらも休めるものも休めない。だから、ポップスターに帰還するまでの間でいいから、カービィの前のときと同じように接してくれないか」
「は?」
「っ……」
ハイネスにギロッと睨まれ、メタナイトは思わずたじろぐ。
だが、そんなメタナイトの方にぽんと黄色い手が置かれた。
「メタナイト様の言うとおりですわ。貴方がたの因縁は存じ上げませんが、そんなにピリピリしていては、休めるものも休めませんわ」
ハルトマンワークスカンパニーの秘書を務めている、スージーが腰に手を当てて、溜息混じりに言った。
「マホロア様、ハイネス様。我がハルトマンワークスカンパニーが製作したリラックス作用のある紅茶を飲んで下さいませ」
どこからか上品な装飾のついたカップとポットを取り出し、ハイネスの方に向かう。
紅茶をカップに注ぎ、取り出した皿に載せて、差し出した。
「……別に、いりませんよ」
「そう殺気を周囲に放たれていたらワタクシたちが迷惑なのです。やることがないならさっさとコレを飲んで、来るべき時に備えて寝てもらいたいのですわ」
「それがアナタのぉ、本音なのですねぇ……」
辛辣な本音をストレートに本人に言う辺り、かなりムカついているようだ。
ハイネスは、ちいさく溜息をつくと、ふらりと仮眠室に向かいはじめた。
「アア、ボクもいらないヨ、スージー。デモ、アイツを追っ払ってくれて感謝するヨォ」
「……ただそこに居るだけであんなに殺気を向けられるなんて、貴方、ハイネス様に一体何をしたんですか?」
本当にせいせいしたといわんばかりのマホロアに、総員の言えなかった疑問を、スージーがついに言った。
言った瞬間、船内がしん……と静まり返る。
本当に静かだと耳が痛くなるということを身を以って実感しながら、全員はマホロアを見つめ続ける。
お前は一体何をしたんだ、と。
「……昔のことダヨ。ボクの一族が、ハイネスの一族を銀河の果てに追放したンダ。ハイネスは長いこと封印されて、その間に朽ちナカッタ、マア、所謂一族の数少ない生き残りダヨ」
「封印?」
「ソウ。カービィが復活したナイトメアを封印しなおすよりも遥か昔、夢の泉に封印される前のナイトメアがボクとハイネスの一族を襲った。でも、その時はハイネスたちが追い払ってくれたンダ。……追い払ったって、
「思い込まされた、って……それじゃ、追い払ってはなかったってことなのサ?」
先程までつまらなさそうにテーブルのチョコクッキーを頬張っていたマルクが、戸惑ったように言う。
マホロアはあくまでも淡々と、感情を気取らせないような声で語り続ける。
「ナイトメアはハイネスの一族のミンナを操ってボクたちも手中に収めようとした。多分、ハイネスの一族だけじゃなく、ボクの一族のチカラもあれば、銀河中の生き物達に悪夢を見せられると踏んだんダロウネ」
「じゃあ、その洗脳を解けば良かったんじゃないのか?」
「アー……それがね、長の手違いで洗脳の解除じゃなくて、封印シチャッタんダヨ」
「「「「「はぁ!?」」」」」
全員の予想の斜め上の展開に、思わず全員が叫ぶ。
マホロアが額に手を当てながら、憂鬱そうな声をだす。
「ボクもその時、その場に居たんだけどネ、ナイトメアが操っていたハイネスの一族の中で、一番の実力を持つ魔術師経由で、ボク含めた何人かが封印されたンダ。ボクがまだこの時代でも生きてるのはそれが理由」
「ああ、だから……」
「デ、ハイネスは長い時間を経て、ボクよりも結構遅く、封印から目覚めた。その時にはもうカービィが夢の泉にナイトメアを封印した後だったカラ、洗脳は解けていたンダ。デモ、ハイネスは多分、洗脳時の記憶はなくても、封印直前の記憶は覚えてたんダロウネ。だから、ボクの一族が封印したことを覚えてて、それで封印した一族の一人であるボクの事を恨んでるんだと思う」
そう、つまりは……
「ナイトメアがゼーンブ悪いのサ!」
「確かにそうだが、どうしてそのことをハイネスに説明しないんだ?」
「……こんな、フザケてるような理由を、ズットボクの一族を恨んでいたハイネスが聞き入れるとは思えないンダ」
「それでも、一応言っておくべきだ。もしかしたら、信じてくれるかもしれないぞ」
「……考えておくヨ……スージー、やっぱり紅茶チョウダイ」
「分かりましたわ」
とくとくと透き通った茶色の液体がカップに注がれていく。
ハーブのいい匂いが、ただよってきた。
「ふむ。スージー嬢、何の香料を入れてるんだ?」
「未知の機械が生き永らえ続けていることで有名な星であるホログラムスターにのみ生息する、プライムリーフを使った紅茶ですわ。メタナイト様もどうぞ。ワタクシの渾身の作品なのですわ!」
「ほう……」
紅茶に興味を示したメタナイトに、待ってましたとばかりにスージーが丁度紅茶を入れきったカップを差し出す。
「エ、マッテ。ボクのハ?」
「メタナイト様が先ですわ」
「酷ッ!?」
「アッハハハハハwww」
床を転げまわって笑うマルクに、ムカついたマホロアがエネルギー弾を放つ。
四霊星でダークマターの放ったエネルギー弾と比べることすら無粋なくらいの強大な力の込められた、まともに受ければただではすまなそうなそれは、マルクの体が真っ二つになったことで発生したブラックホールに吸い込まれた。
毒々しい緑の粘液を残してまた元通りに戻ったマルクはどんまーい! とばかりにニヤニヤしているが。
「……ローアは一応ボクのだからネ? 掃除しないと宇宙にほっぽりだすヨ?」
「えっ!? い、嫌なのサ」
「さっさとしないと、締めるヨ?」
「ヒィッ! わ、分かったのサ!」
マホロアの有無を言わさぬ迫力にマルクは撃沈した。
「ここは外じゃないから、地面に吸い込まれることはないって分かってなかったみたいなのね。全く……」
呆れたように溜息をついたタランザは、糸でテーブルの上のどら焼きを絡めとり、口の中に放り込んだ。
「タランザの言うとおりだな。あと、スージー嬢。ハイネスの説得に手を貸してくれたこと、感謝する」
「ええ、まあ。ワタクシもはなはだ迷惑でしたので。ところでメタナイト様! 今回の任務が終わった後に、ウルルンスターの実地調査に同行していただけませんか!?」
(これを狙っていたのか)
見え透いた魂胆にメタナイトは内心辟易した。
たまに視察という名前のデートに誘われるのだが、今まで断ってきた。だが今回は恩がある手前、断りづらいというのもあるため、メタナイトはこれを了承した。
「ああ、分かった。ウルルンスターには私も行った事がないから、いい機会になるかもしれない」
「ありがとうございますわ!」
おいなんで貴様ら一瞬ざわってしたんだ。スージー嬢の誘いを受けることの何がおかしい。
テーブルで駄弁っていた奴らが驚愕の表情を見せていた。そしてその中の二名がテーブルの中央に視線を向けて、何かこそこそ話し始める。
「メタナイトがあの腹黒女の誘いを受けるなんて……この後災害でも起きるかもしれないのね」
「そうだな。ささやかだが恩があるとはいえ、奴の誘いを受けるなどまさに飛んで火に入るなんとやらだ。オリジナルの奴、血迷ったのか?」
「きーこーえーてーまーすーわーよ?」
メタナイトも気づけないくらいの超絶的な動きでタランザとダークメタナイトの背後に回ったスージーが、二人にアイアンクローをかました。
二人の絶叫が船内に響く中、メタナイトにふわふわと近づいていくものが居た。
「メタナイト」
「む?」
「モウスグ四霊星に着くヨ。準備シテ」
「分かった」
「キミの言っていた狭間とやらしきモノが今さっき、幾つか開いたカラ、着いたらスグに入るんだ」
「時間はあまりないということか。全員、突撃準備をしてくれ! 四霊星までもうすぐだ!」
メタナイトがそういった時、船内の和やかな空気が一変、まるで今戦っているかのような張り詰めたものへと成った。
「やーっとか……」
「フフ、楽しみなのね」
「メンドくさいからさっさと終わらせてやるのサ」
「やるからには全力でやらせていただきますわ!」
「現地人との交戦は出来るだけ控えるようにな、皆。さて、ソードとブレイドとハイネスを呼ばないと」
その時、ピピピピーッ! という電子音が鳴り、船内のモニターに中心に映像が展開された。
そこには、ウルトラソードの帽子を被ったカービィと、白い姿の星誕ニルの顔のどアップがあった。
『あ、繋がった!』
『メタナイトーマホロアー、いまぼくたち、ローアのちかくにいたわるいかみさまたおしたよー。たぶんもうひとりいるだろうけど、いまのところはくるようすはないから、あんしんしてー』
『あのね、さっきローアの姿が見えたからついでにテレビ電話できるかっていう実験もかねて電話してみたんだ』
邪神の懸念は消えたと見ていい、二人は有力な情報をくれた。メタナイトは胸をなでおろす。
「ミンナ!
ちょうど四霊星にも着いたようだ。皆が船首甲板に向かい始めると同時に、メタナイトは仮眠室に居る三人の所に飛んでいった。
カービィ達が倒したのはメディアではなく、ラルクたちの世界の奴です。
つまり、この物語はまだまだ続きます。
おかしい所があったら指摘してくれると助かります。