槌の勇者が大王様   作:血糊

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大王様は知らない。
よく悪巧みをしている自分が、勇者になっていることを。



不名誉じゃないよむしろ名誉だよ

 半ば呆然とした声を上げた男は、動物の特徴のない、アドレーヌのようなごく普通の人間だった。

 

 対して男の連れていた少女には、狸のような耳と尻尾がある。あのイタチの少女と同じ位の見た目だ。

 

 

 (なんか目つき悪いな)

 

 

 男の目は鋭く、いつもならきっと何かを警戒しているような様子なのだろうが、その鋭さも心なしか和らいでいるように見える。まあ警戒する気が逸れるようなものが目の前にあるのだから仕方ないが。

 

 だが、あの目は、今日の朝に出くわした盗賊の目よりも鋭い。そして、何かに怯えているような……

 

 デデデは、あの男には何か怖いことでもあったのだろうと見当をつけた。

 

 

 「ああ、良かったら食べるか? この量は流石のワシでも食べ切れんし、保存食にしようにも多すぎて、どっちにしろ余るからな」

 

 「いいのか? 最近コイツが食べ盛りだから、助かる」

 

 

 食料処理が出来る奴を逃すわけにはいかない。だがあの眼光は結構怖い。デデデはあまり刺激しないように、命令口調ではなく、持ち掛けるという手に出た。

 

 男は思いのほかすぐに乗ってくれた。狸の少女が食べ盛りだということは、本人が目の前の肉に目を光らせていることからも良くわかった。

 

二人の同意を得たところで、さて何を作ろうか。

 

 

 (そういやあのダチョウもどきが石のテーブルを切り出してくれたし、石焼テーブルにしてみるか?)

 

 

 石焼きテーブルで作るのは、ステーキだ。ナイフがないから、ブロックステーキになる。

 

 正直、ナイフがないということは、食べにくいから結構不便だ。さっきの謎生物の解体はダチョウもどきにやってもらっていたから出来ただけで。

 

 

 「ああ、こっちが肉を切ろうか?」

 

 「いいのか!? なら頼むぞい」

 

 「ぞい……? ……まあいいか」

 

 

 アドレーヌいわく「自分の顔は日系人寄り」なんだそうだ。確かにこの男も色白だし、黒髪だ。こういう奴のことを日系人と呼ぶのだろう。

 

 男はナイフを取り出すと、大きな葉の上に置かれたブロック肉を切り始める。

 

 早い。しかも厚さが全て均等だ。

 

 

 (もしかしてコイツは料理が得意なのか)

 

 

 いやまだ油断するのは早い。例え過程が凄くても、もしかしたらあのサイコ料理人が作る料理みたいなゲテモノへと変貌するかもしれない。

 

 実は以前マキシマムトマトを調理したものを出されたのだが、不味すぎるあまり嫌いになりかけたことがある為、デデデは密かに怯えていた。

 

 

 「……あんた、何怯えてんだ?」

 

 「その肉が得体の知れない謎物質に変貌するのが怖いだけだわい。食中毒どころか命の危機に晒されるのは御免だぞい」

 

 「あんたの過去に何があったんだ……」

 

 「生で食べても絶品な野菜がどこぞの魔女が作ってそうな紫色のスープに成り果てさせられていた」

 

 「うわぁマジか」

 

 「それ、どんな味だったんですか?」

 

 

 

 好奇心がありありと浮かんだ瞳を向けてきた狸の少女に聞かれ、内心いやいやながらも、そのときの味を思い出す。

 

 物理的に海馬に刻み付けられたゲテモノの真骨頂という言葉すら生温いその味は、今でもよーく思い出せる。舌にその味が蘇ってくるほどに。

 

 

 「胃が焼けるくらいの辛さに、吐き気を催す苦味に、お汁粉の甘ったるさが霞むレベルの甘さが混ざった……この世のものとは思えないような味だったわい。あれはもはや食べ物ではない、あんな料理を食べるのはもう御免だわい」

 

 「分かるようで、分からないような……」

 

 「ゲテモノの一言じゃ片付けられないレベルの不味さだったってことだろ」

 

 「まるで今食べたような顔をされてますね。今にも吐きそうです」

 

 

 デデデは確信している。あれは食べ物ではなく一種のテロ兵器だ。

 

 具が無かったのが幸いだった。一気に飲めたことで食べる苦痛を長引かせないですんだのだから。

 

 

 

 

 

 ――その料理を頼まれたからには、しっかり満足してもらわなきゃねぇ~!

 

 

 

 

 

 (駄目だこれ以上はワシの精神が持たん)

 

 

 あれは禁忌だ。記憶の中にあるパンドラの箱に押し込まねば。

 

 サイコ料理人作【カワサキ・ベジタブルスープスペシャル】の衝撃的な味を思い出したせいで、メニューに載っていたソレに目を留めて頼んでしまった時の、目を輝かせたサイコ料理人の言葉すらもリアルボイス付きで脳内に再生される。

 

 このままでは発狂しかねない。ハンマーカービィの精神分析(物理)が無い今、ここで発狂したら不味いのは以前数学が全く出来なかったデデデだって分かる。

 

 なので、石焼きテーブルを準備しながらデデデは思考を逸らす。あの二人を見てからの考察をすればきっと忘れられるに違いない。

 

 

 (あの男の持っているナイフは、間違いなく戦闘では使えないようなものだ。対してあの少女の提げているのはれっきとした剣。目測だがギャラクシアと同じくらいの長さか)

 

 

 剣を買えるお金が無いという線は消えた。ならば、どうしてあの男は()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 マントの奥に隠すようにされた、それ。固定しているのか、ずっと右腕についたままの盾。中心には緑の石がはめ込まれている。

 

 

 (ワシのハンマーと同じく、石がついている。偶然ではないだろう)

 

 

 デデデの勘だが、あの盾は自分の持つハンマーと同じく、ただの盾ではないはず。

 

 だが、特殊性というものが全く不明なのが問題だった。石をつついても反応はないし、何かにぶつけてもぶつけたものが壊れるだけという始末。

 

 

 (――待てよ? こいつなら何かを知っているんじゃないか?)

 

 

 おそらく同じ特殊性を持つ盾を持っている男に聞けば、何かが分かるかもしれない。

 

 我ながらいい考えである。丁度テーブルを組み立て終わったのだから、聞いてみよう。

 

 

 「……ステーキ作るつもりだったのか」

 

 「貴様もそう思ってそうやって切ってたんじゃないのかぞい?」

 

 「確かにそうだが、幾つかは燻製にすれば保存できそうだし、やってもいいか?」

 

 「出来るのか!? なら頼む」

 

 「分かった。切った肉はワシが焼いて置こう」

 

 「私は食器を準備しますね」

 

 

 その前に、色々と準備し始める。どうやらあっちにはちゃんとした火種があったようだ。

 

 

 (ああいうのは、どこで買えるのかぞい?)

 

 

 正直、今デデデが持っているのは、初期装備品+謎生物らの素材+マント目的でかかってきた盗賊から手に入れた雑貨のみ。

 

 盗賊の持ち物には何故かは知らないが一応食器云々はあった。持ってた剣とか薬とかもあるが、剣は全部切れ味が鈍くて料理には使えない。薬も何がなんだか分からない。

 

 気づけば荷物ばっかになっていたが……

 

 

 (ゴミみたいな素材もあるし、あいつに見せてみるかぞい)

 

 

 下の焚き火に熱された石焼きテーブルの上に肉をすべておいた後、ハーブと共に肉を縛り終えて吊るしている最中の男は手が離せないだろうから、狸の少女と一緒に作業しながら話してみる。

 

 

 「おい、……狸娘」

 

 「私はラフタリアです、おじさん」

 

 「誰がおじさんじゃい」

 

 「どっちもどっちだろ」

 

 

 物凄い手際のよさでどんどん吊るしあげていく男が突っ込む。

 

 だが、どっちもどっちと言われたのが不満だったらしい狸の少女……ラフタリアは男に噛み付いた。

 

 

 「どっちもどっちじゃないです! ナオフミ様だって盾って言われたらムッとするじゃないですか! それと同じです」

 

 「確かにそうだが……俺もラフタリアの名前を知らなかったら、多分そう呼んでたぞ」

 

 「いえナオフミ様はいいです。ですがナオフミ様以外は駄目です」

 

 「なんで俺はいいんだよ」

 

 

 年端のいかない子供が理不尽を吐くということはよくあることである。アドレーヌもそうだし。

 

 というか、ラフタリアっってどっかで聞いたことがあるような。誰かから聞いたはずだけど。

 

 そう考えていると、男がやっと吊るし上げ終わった。

 

 ついに暇が出来たので、デデデは男に話しかける。

 

 

 「こんなもんか」

 

 「お、終わったか。なあ、貴様のその盾は何なんだぞい?」

 

 「ッ!」

 

 

 デデデが盾について聞こうとすると、男の体がびくっと跳ねた。

 

 

 (これは、言っちゃいかんかったか?)

 

 

 地雷だったのだろうか。だから隠していたのか。

 

 やっと見えにくいところに潜ませていた理由が分かり、デデデはちょっと申し訳なく――は、ならない。

 

 むしろ、男のその様子にデデデもよく分からない謎の知的欲求?が起こる。もうちょっと掘り返してみよう、とデデデは下衆な考えを持った。

 

 

 「ん? あまり言いたくないのかぞい?」

 

 「……ああ」

 

 「ふーん。なぜだ?」

 

 「……知らないんなら、聞かないでくれ」

 

 「大方、見られたらいけないものか。見られたら何か悪いことが起こるのかぞい?」

 

 「……」

 

 

 男は応えない。だが後ろからでも顔を苦く歪めているのは分かる。デデデは自分の中で組み立てた、推測の核心をつく。

 

 

 「ああ、もしかして。それがお前の正体を体現しているのかぞい? 罪人の証として」

 

 「――っ!」

 

 

 ぶわ、と男からほの暗い気配を感じ取った。デデデを射殺さんばかりの翡翠色の目には、はっきりとした怒り、怨嗟、そして恐怖がある。

 

 普通の人ならば、間違いなく怯むだろう。だが、色んな修羅場を潜り抜けてきているデデデにとっては、少しばかり驚く程度だ。

 

 しかし、これで確証は付いた。

 

 

 (この武器は罪人の証というわけか)

 

 

 罪を犯した者の不名誉な武器ということだ。咎人に武器を与えるのはちょっと不味いのではとは思うが。

 

 

 「そうか。お前も罪を犯したから、それを持っているのか」

 

 「……どういう意味だ」

 

 「なら、ワシも貴様と同じ、罪人ということだわい」

 

 「……何?」

 

 「ワシが何をしたかは知らんが、目が覚めたら牢獄に入れられていたからな。ちゃんとその証もある」

 

 「え…………ちょっとまて。その話、詳しく聞かせてくれ」

 

 

 即座に男が食いついたのはどうしてかは分からない。だが、一応デデデは男の言うとおり、ここまでのいきさつを話すことにした。




違う、そうじゃない。そうじゃないんだよ陛下。
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