お菓子作りの準備を始める面々。
そういえばこっちの世界の乃愛・花・『私』はお菓子の材料を買い出しに行ってたんだな、ひなたは自分が正気を失いかけた2人の発言を衝撃からすっかり忘れていた。
そんなひなたを他所に手際よく姉を手伝いを始める乃愛ともう一人の自分。
ひなたはその手腕に驚いた。2人は手伝いとはいえ妙に手慣れた手付きで姉の指示を受け作業をこなしていく。眼前の『自分』が「自分」には出来ないことをすらすらこなすのはなんとも不思議な光景である。
ひなたも家事を手伝うことはあったが、流石に料理の手伝いという分野に踏み込むことはまだしていなかった。お菓子といえば調理実習でクッキーを作った事はあったが、その時は同じ班の夏音に程度お菓子作りの経験があったので教えてもらったのだった。
そしてさらに驚いたのは花も調理に協力しているということだ。もちろん彼女が不器用な事もあってか作業は失敗しても支障が少ないような簡単なものを任されている。しかし、花本人が料理に本気で取り組んでいる点に関してはひなたは感慨深いものを感じた。
『手伝ってくれてありがとう じゃあ私はお昼ごはん作っちゃうから皆は自由にしてていいよ』
そして姉自身の料理の腕も相当のものだった。
再び自分の世界の話題で盛り上がる子供たちの会話の裏で作業をこなしている姉。時折傍目をふってその様子を見た限りだと、料理をあまりしたことの無いひなたでさえ手際が良く手慣れた感じなのが伺えた。調理と片付け、いくつもの作業を状況によって切り替えながら料理を仕上げていく。
ちなみに姉が作った昼ごはんはミートソーススパゲティであった。
「おいしい…」
『な!おいしいだろ?』
一口食べるなり無意識に発せられたひなたの「おいしい」。
ひなたは別段食にうるさい方ではなく、またどんな料理を食べたとしても必ず感謝と社交辞令も兼ねて料理のことを前向きに評価するのだが、これに関してはそういう気持ちすら一切含まれない完全に無意識から出た反応だった。
トマト・ひき肉・玉ねぎにんじんとそれぞれの味がきちんと感じられるのにどれか1つが目立つわけでもないし変にお互い干渉することもない。麺は若干固めであったが、ソースを絡めると丁度いい歯ごたえに変わる。子供のひなたでも分かるまさに計算しつくされたような料理だった。
『そうか分かるか!みゃー姉の料理は世界一だ!一度食べたらもう病みつきだぞ!定期的に食べないと体がおかしくなるからな!』
「いや、いくらなんでもそれはないだろ…」
『お姉さん!おかわりはありますか!』
「はやっ!!」
流石に花のおかわりは午後にお菓子も控えているからということで少しにされていたが、ひなたはここまで彼女が生き生きとしているのを見たことがなかった。
ひなたの世界の花は一見伏し目がちな美少女という容貌でありながら内心は常に食に飢えていた。しかしこちらはそれが亡き姉の手料理で満たされているのだ。
それは午後に焼き上がったお菓子、フルーツタルトの時も同様であった。彼女は1人でフルーツタルトをあっというまに3切れも食べ、4切れ目に手を出して流石に止められていた。
ちなみにこちらも大変美味しかったのだが、ひなたが驚いたのは今回のタルト作りは監修こそ姉だが、起案や大体の計画は花主導という点だ。
こちらでは定期的にこういったお菓子作りが行われているようで、件の買い出しもフルーツ等の追加という名目であった。どうやらひなたがこの世界で感じた甘い『匂い』は姉がお菓子作りを趣味としているからこそ生じた匂いらしい。
元の世界では花は美味しいものが好きなのに本人は料理が出来ず欲求不満だった。
そんな花にひなたは歯がゆさを感じる事があったがこの世界では違う。花は彼女なりにできることを見つけ、美味しいもの作りに参加している。
そして何よりそれが本人だけでなく皆で『お菓子作り』という形で楽しんでいるという点で、ひなたは花の嗜好が彼女だけではなく皆で共有するものに変化しており、飛躍していると感じた。
…あれ?これって花にとっても理想の世界なのではないか?
ひなたは好きなものを手に入れ、好きな事をして生き生きとしている親友を見ると、喪った姉というのは実は自分たちに大きな影響を及ぼして成長させてくれる理想の年長者になのではないかと思えてきた。
実際それは当たっているのだった。
良い意味でも……悪い意味でも。
「撮影?」
『そ!お菓子を食べたら皆でカワイイ服着て撮影会することになってるの!』
食べてばかりで何もしないのは悪いと思い洗い物を片付けていたひなたに乃愛が教えてくれたのは、お菓子作りは写真撮影とセットで行うというこの世界の変わったルールであった。
写真撮影と言われても一体何をするんだろう。訳が分かるような分からないようなひなたが乃愛に手を引かれ連れて行かれたのはなぜか物置部屋。何でこんな所で?と思ったひなたがドアを開けると…なんと、この世界ではここは物置ではなく姉の私室になっていた。
小綺麗ながらもベッド、ビーズソファ、机に卓上ミシンが置かれ、壁にはなぜか知らないアニメのポスターが張ってあるという生活感溢れる光景にひなたは驚く。ひなたの世界では薄暗くて乱雑に物が置かれているだけの印象に残らない所だったのだが。
ひなたがここにきてさらに剥離していく現実感に困惑していると乃愛がどこからか可愛げな服を持って来る。
裾にフリルの付いた真っ赤なワンピースのドレス。
どこかで見たような気がするこれはえーと…ひなたが思い出そうとしていると乃愛が服を胸の前で見せびらかすように抱いてクルッと一回転して言った。
『カワイイでしょ!アイドルの衣装だよ!歌ってダンスするの!』
「へえ~お洒落だな 買ってもらったのか?」
『チガウよ ミャーさんの手作りだよ』
「は?」
ひなたは横目で思わずみやこを見る。
この人が、作った?このレベルの服を?料理の時も感じたがクオリティが随分高い、この姉器用すぎはしないだろうか。
乃愛がこんな事で嘘を付くとは思えないが、ひなたは姉に本当なのか聞いてみることにした。
「あの、お姉ちゃん お姉ちゃんって裁縫できるんですか?」
『え?うん、趣味程度の腕だけどね』
「これを一から手作りで…?」
『うーん、これは端材とか皆のお古とかを少し使ったから1からって感じじゃないかなあ』
「え?むしろそっちの方がすごくないですか?」
『ん?別にすごい事はしてないと思うけどね』
ひなたの目では店売りの洋服にしか見えない出来の服を有りもの込みで作ってみせる裁縫の技術と高い計画性。ひなたはもはや姉に感嘆するしかなかった。
聞いた所によると似たようなものを乃愛だけではなく、花・この世界の私・今ここにはいない小依・夏音の分と計5着作っており、昨日の夜遅くに完成したらしい。そうかジャージ姿だったのはこれを作る為に夜なべしていたからか、ひなたは納得した。
もちろん作ったのは今回だけではないとのこと。今日のようなお菓子作りと可愛い衣装を着た撮影会は定期的に行っており、その度に大抵は新しい服を作って自分達に着させてくれるらしい。
『ミャーさん!着替えてきた!』
『あーいいね乃愛ちゃん可愛いよ サイズおかしいとこあったりしない?』
『でしょー!あ、サイズはダイジョウブだよ』
『私もぴったりだぞみゃー姉!どうだ!似合ってるか!?』
『うん ひなたも可愛いね』
『ホントヒナタちゃんカワイイ!アタシはどう?』
『かわいいぞ、ノア!』
『ふふーん!…えーと、別世界のヒナタちゃんはどう思う?』
「私も同じだ 可愛いと思うぞ」
『…むふふー!アリガトー!』
2人が実際に着たワンピースを見ると、更に姉の凄さを思い知らされる。純粋に出来が良いというのは勿論なのだが、なんと一見全て同じ物のように見えて小物に差があったり、袖やネックラインの形が一つ一つ違うなど細部が異なるという手の込み様だった。
ひなたは周りから褒められて満足気な乃愛を眺め考える。元の世界でも乃愛が両親に買ってもらった服を見せびらかし褒められて嬉しがるという事はままあったが、ここまで喜ぶのは中々珍しいことだった。オシャレに対して妥協を許さない彼女がこれだけ嬉しがるというのは、知り合いに手作りしてもらったという点も込みだろうが、それ以上に乃愛が姉の作った衣装に満足しているからに他ならない。
花に続いて乃愛まで…。姉が存在する世界では花だけではなく、乃愛も充実した日常を送っているようだ。
本来同級生との付き合いならば仕切る側に立つことが多いひなたには年長者と接する経験は新鮮なものだった。そしてそれが自分の亡き姉だというのだ。
ひなたは昔「もし姉が生きていたら」という空想をしたことがある。しかし姉を知らないひなたでは、それは大抵おぼろげな輪郭のないものになりすぐに想像に行き詰まってしまう。
でも、今はその姉が目の前にいる。ひなたが想像できなかった姉はなんと自分の想像なんて容易に超えてしまうようなすごい人だった。
『…お姉さん 本当に今日、私もやるんですか』
『ん?そうだよ、いつもの約束だからね』
『はぁ…分かりました 着替えてきます』
だが、ひなたはまだ姉みやこの全貌を知らない。
『着替えてきました』
『おお!花、かわいいな!』
『カワイイ!ハナちゃんこういうのも似合うね』
『いい!花ちゃん似合ってるよ!最高だよ!』
「おおー…」
遅れてドレス姿に着替えた花を見てひなたは感嘆の声を漏らす。
それもそうだ、ひなたは彼女がこんなにかわいい服を着たのを見たことが無かったのだ。花といえば「ひげろー」というゆるキャラ?のシャツがメインで地味な出で立ちという謎のファッションで身を固めているというイメージが強く、全くお洒落をしないという印象だった。…いや、むしろ存分にしてるのか?
それはさておき、ひなたの目には花のドレス姿は非常に似合って見えた。時折彼女がひげろーファッション以外のコーディネート…例えば三人で縁日へ行った時の浴衣姿だとか、文化祭の劇でヒロインを演じた時だとかは同年代ながら非常にかわいらしい姿だと思ったものだが、これは服が服なのでそういったものとは格が違った。
乃愛も似合っていると思ったが、普段のギャップから言えば圧倒的に花の方が輝いて見える。いつも思っていたことだが、こうして実際見るとせっかく可愛いのだから服もちゃんとしたものを着ればいいのにとひなたは思った。
ひなたがそんな事を考えていると乃愛が何故か食い気味な感じで話しかけてきた。乃愛の一番でありたい気迫だろうか、思わずひなたはたじろぐ。
『べ、別世界のヒナタちゃん!ハナちゃんが着替えたらアタシより見惚れてない!?』
「あ、いや 花がこういう服を着るのは珍しいからびっくりしてな」
『あっ、そう?…一応聞くけどそっちのハナちゃんはどういう服着てるの?』
「んー、ひげろーとか食べ物のプリントがされた服をよく着てるイメージだ」
『あー、ハナちゃんはどこの世界だろうとやっぱりハナちゃんだね』
『そうだな!』
『…ちょっと、二人とも』
「ははは」
ちなみに二人に注目しすぎてすっかり忘れていたのだが、姉お手製のドレスを着る『自分』もその…かわいかった。
『みんな準備出来たね じゃあ撮影始めようか』
『はいはーい、今日もカワイイアタシを撮ってくださーい!』
『こう並んでみるとお揃いの衣装も良いもんだなー さすがみゃー姉!』
『今日は別世界のひなたもいますし、早く切り上げませんか?』
『いや、今回は力作だしちゃんと撮るつもりだよ』
『うっ…』
「……」
手作りのワンピースに袖を通し楽しそうに喋る別世界の自分達を見ていたひなただがここで突如押し黙った。それは頭から離れていた自分が別世界に来ているという実感をふいに取り戻し、そして同時にこの光景を遠い場所から俯瞰しているような強い疎外感を覚えたからだ。
当初こそ自分の理想と想う世界は『姉が生存している世界』だとは思いも寄らなかった。だが、この世界の自分達に慕われている姉を見てそれも今では身にしみて理解できた。
…私はこんなお姉ちゃんが欲しかったんだ。
優しくて、手先が器用で、綺麗で素敵な、自分達の模範となってくれる、そんな「お姉ちゃん」が。
ひなたが選んだ『理想の世界』は姉が生きている世界だった。そしてその世界で生きている姉こそ自分が思い描く事が出来なかった『理想の姉』。
数奇な運命にひなたは思わずグッと歯ぎしりをする。
自分の想いに気付いたひなたの心に色々な気持ちが渦巻いては消える。
なんでこの世界にはこんなに素晴らしいお姉ちゃんがいるのに私の世界には居ないんだろうという寂しさ。
なんで私はそんな人を身代わりにして生き延びてしまったのかというどうしようもない後悔。
そしてそんな事をした自分が元の世界で『姉』の役割を埋め合わせる事ができるのだろうかという強迫的な責任感。
とりとめようのない暗い感情がグルグル、ぐるぐる、渦巻いていく。
そんな自虐的な感情に取り憑かれていたひなただがある事に気付く。
写真を撮られようとしている三人の中で花だけは表情がどこか浮いていないのだ。
彼女の態度をひなたは訝しがる。何故だ?あれだけ美味しいものを食べて、これだけ綺麗な服を着させてもらえるなら嬉しくないだろうか。現に他の二人はそうだ。
いや、単に写真を撮られるのが恥ずかしいのかもしれない。花は少し恥ずかしがりな所があるからこういうのも苦手なんだろう。ひなたはそう結論付けようとした。
だがそこまで考えてひなたはふと疑問に思った。
そういえば乃愛はお菓子作りと写真撮影はセットで行うものだと言ったな…。しかも写真撮影ではなく『撮影会』という表現で。普通、記念に写真を撮ってもらうだけで『撮影会』なんて表現をするだろうか。
乃愛は結構オシャレな言葉回しを好むので『撮影会』という言い方もをしたのかも知れないけど、冷静に考えるとそもそも根本的におかしいような。
『お菓子作り』と『かわいい衣装を着て撮影』この二つをセットでする理由は一体…?
ひなたが訳の分からないままいるとついにシャッターが切られたのだった。
『……はぁ!はぁ!良い!良いよ!!似合ってるよみんな!!!ひゅー!うふ、うへへへへへ!!ほらほら、花ちゃんスマイルだよ!笑って!笑って!!乃愛ちゃんみたいにポーズ取りながら笑って!!!あっ、ひなたそのダンス良いね!もらった!!花ちゃんは、はい!裾をたくし上げてみて!…そう!良い!!それで少し目線を外して…!その顔!!ありがとう!ありがとう!!たまらないよ!ん゛ん゛!んふふ!!んふ!!!あ、ああ、じゃあそこで皆で手をつないで上目遣いでこっちみて……良い!!!良いよお!!!最高!最高!!天使!マジ天使!!ふほほほほー!!あ゛あ゛あ゛あ゛!!!興奮する!!!!』
撮影会が終えた花が真っ先に心配したのは、別世界からやって来た「ひなた」がいきなりお姉さんのこの惨状を見せられて悪く思ってはいないだろうかという心配だった。
花が知る限りでは星野みやこの『本質』を知った人間が彼女にいだく感情は二通りだ。一つは前向きに受け入れむしろ自分もコスプレを楽しんでしまうというもの、もう一つはドン引きして唖然とするというもの。
ちなみにこの世界の『ひなた』は楽しんでいる…というか自分達が協力するまでは彼女の唯一の理解者だったし、乃愛や小依は最初からノリノリでコスプレ撮影に協力していたので前者だろう。松本に至ってはむしろお姉さんに着せる側である。
反面、夏音は理解はあれどお姉さんの豹変には流石に困惑したらしいし、自分も最初にお姉さんと会った時には恐怖し変質者だと通報しそうになり未だにコスプレも慣れない。二人は後者だろう。
では「お姉さんを知らないひなた」はどっちに該当するのだろう。半生は違えど同じひなたなのだからこういう趣味も寛容に理解するのだろうか、それともただでさえ知らない姉の濃い一面を見て混乱するのだろうか。
だからこそ花は別世界のひなたを前に撮影会を自重するように言うか否か悩んだ。しかし自分のタルト作りの計画に協力してくれた上に今日の撮影会を楽しみにしていたお姉さんにこういうことを伝えるべきか、また別世界のひなた本人がどう捉えるか不明なことを考えると余計なお世話なのではと思い言い出せず、結局は場の流れで撮影会は行われてしまった。
ともあれすでに後の祭りなのだが、花は別世界のひなたがどう感じているか顔色を窺って見ることにした。
『えーと…撮影終わったけどひなたはどう思った?』
「いい感じだったぞ花 衣装も似合っていたしポーズも素敵だった」
『あ、ありがと…』
彼女の返しは単純だったが、前向きなものだった。むしろニコニコと笑顔を浮かべて楽しんでいたような反応だ。なんだ考えすぎか、ひなたはどこの世界だろうとやっぱりひなたなんだ、そう考えて花は会話を変えようとした。
だが花はひなたの返しにわずかに違和感を覚える。何故ならこれまでやけに気にしていた姉のことに一切触れない上に返答もやけに素直な感じがしたからだ。
これはもしや…花は脇目で再びひなたの顔を窺う。
ぱっと見では分からなかったがよく見ると目が少し泳いでいる。
花にはこの表情に見覚えがあった。それはひなたではなくみやこが何かに困っている時によく見せる癖のようなものだ。例えばすごろくのお題で『笑顔であいさつする』と命じられた時や夏祭りの『一件』で詰問した時など度々見せている。もっとも演技が下手ですぐ顔に出てしまうみやこと異なり、別世界のひなたは感づかれないようにかなり上手く取り繕っているようだ。
しかし注意深く観察していると演技の限界を超えているといった感じだろうか、徐々にボロを出しているのが見て取れる。『こちらのひなた』のものではあるが、彼女の表情の変化はよく見ているのでちゃんと観察すればこういうおかしさも目に付く。
別世界のひなたは動揺しているのではないか。花は疑念を抱く。
それも多少の程度ではなく、もしかしたら自分が初めて星野家に来た時のような大きなショックを受けているのではないかという感じだ。
だったら…花がすることは一つだった。
「お、押入れ!?花、なんでこんな所に入るんだ?」
『いいから座って』
花が着替えもせずにひなたを連れてきたのは和室の押入れ。ここは以前家の中でかくれんぼをした時にみやこと一緒に隠れた場所なのだが、もちろんこれには訳があった。
ひなたと言えば良くも悪くも歯に衣着せぬストレートな物言いをすることは彼女と親しい人物なら誰でも知っている。だが、別世界のひなたは語調さえ似れどかなり他人の気持ちに配慮し言葉を選ぶどことなく繊細な性格のように花には感じられた。
であればもしもお姉さんの行動にショックを受けていてもひた隠しにして人前では決して本当の事は言わないのではなかろうか。ただ、彼女が語った別世界に滞在する期間が本当ならば、5日間はここにいることになる。5日間もお姉さんを悪く思いながら過ごすのは厳しいだろう。
だったら他の人の目に触れない場所で本当の気持ちをそっと聞いて確かめフォローするしか無い。そういう意味でここは適切だった。
『ひなた、本当の事を言って ひなたはお姉さんのことをどう思ったの』
「い、いや私は別に良いお姉ちゃんだなって…」
『嘘 ひなたって困ってるときそういう顔するよね こればっかりは世界が違っても同じみたいね』
「い、いや えーと…」
薄暗い押入れの中、花は目をじっと見て問いかける。するとひなたの目がまた左右に泳ぐ。歯切れも悪い。
もちろんこれはブラフだ。というかこちらのひなたはそもそも正直なので困惑を隠すということはない。だが、別世界のひなたはこれがハッタリという事を知らないので、図星を突かれより平静を失ってうろたえ演技も雑になってきている。
ここまでくればもう本当のことを打ち明けるしか選択肢がないだろう。
それにしても取り乱し方がお姉さんによく似ていると花は思った。世界が変われば性格も違うようで、奇しくも別世界のひなたはお姉さんと似ている部分があるようだ。
花がぐいっと顔を近づけるとひなたはさらに歯切れ悪く口を開いた。
「あ、いや私は別に変だとか思ってないから… ああいう趣味もあるんだろうし…」
『落ち着いてひなた 私はむしろお姉さんの趣味が普通だとは思ってないから聞くの ほんとはどう思ったか隠してるんじゃないかって』
「……」
伏し目になって黙り込むひなた。すでにバレバレのようだったものとはいえ、こうなってしまうともう認めてしまったようなものだ。やっとひなたに本当の気持ちを聞くことができる。どう思ったか聞けばフォローもしてあげられる。
ただ自分は口下手なのでこういう場合本来なら夏音に説得してもらうべきだったろう。しかし彼女は自分と小依の二家族で旅行に出かけている。帰ってくるのは数日後だ。
なら、多少おかしくとも曲がりなりにも気持ちを理解できる私がやるしか無い。
そう意気込んでいた花はいきなり両肩をグッと掴まれる。
そこには困惑というか必死のひなたの形相があった。
「一体どういうことなんだ!?」
ひなたが目を大きく見開き、体を震わす。我慢していた気持ちを一気に吐き出すかのように叫び、肩を掴む力も強い。花から『ちょっと…痛いから』という指摘が入ってひなたはやっと我に返り、がっくりと項垂れる。
「何なんだあれは…」
『何なんだって言われても… あれが『お姉さん』だよ』
「…まさか本当は乃愛のダンスから続いてる一連のドッキリだとかじゃないのか」
『ひなたは『こっち』はもちろん、「元の世界」の私たちもそういうシャレにならないイタズラする人たちだと思うの?』
「す、すまん …でも正直信じられないぞ あれじゃ一見…危ない人、というか」
『ゔっ… そ、それは』
目を見開き手をわなわな震わせるひなたを見て花は口を濁らせる。
そんなひなたはガクッと体の力を抜き、虚ろな目と消え入りそうな声でぶつぶつと本心を語りだしたのだった。
「私はあんなことになるまで『お姉ちゃん』を理想の人だと思ってたんだよ 料理もできるし裁縫もできる 花にも乃愛にも良い影響を与えている素晴らしい年長者だと」
『……』
「でも実は友達に可愛い服を着せて興奮する危ない人だったなんて」
『……』
「確かに私は自分の命を救ってくれたお姉ちゃんにものすごい憧れて勝手に英雄か何かと勘違いしていたのかもしれない」
『……』
「でもあれはおかしいだろ… お姉ちゃんは全て投げ打って私なんかを助けてくれたんだ そんな人があんなおかしい趣味だとか信じられない」
『……』
「いくらなんでもあんまりだ 心の奥で実は会いたい会いたいと焦がれてた人がまさか、あんな…」
花はひなたが思った以上にショックを受けているのに驚く。ここまで来るともはや動揺している程度の話ではなかった。端的に言えば理想の存在が音を立てて瓦解していく様を見た反応だ。
思ってみれば『ひなた』がお姉さんをあれほど慕っているのは、長い事一緒に暮らしている上に彼女が常軌を逸したシスコンであるという盤石な土台を踏まえた上であるということを花はすっかり失念していた。
「ひなた」にはそれがない。物心付く前にお姉さんは死んでしまっている。さらに彼女はお姉さんによって命を救われたという負い目があるようで、お姉さんに感じている感情はこちらのそれとは異なっていた。
これはもはや「崇拝」ではなかろうか。花はそんな感じがした。
星野ひなたという人間が本来ならお姉さんに注ぐはずだった姉妹愛、それがお姉さんが手の届かない所へ行ってしまったことで空回りし敬愛と悔恨の念が複雑にからみ合った感情に変わってしまったのではないだろうか。
ひなたは「姉を英雄か何かと勘違いしていたのかもしれない」と漏らしたが、花はこの自己分析は間違っていないのではと思った。なぜならひなたがショックを受けていた一番の理由がお姉さんが『理想の姉』では無かったという点だったから。もちろんお姉さんが変質者みたいな感じだったのにもショックを受けていたが、ひなたはそれ以上に「姉が自分の理想としていた形と違った」ことに取り乱していた。
一方、自分と夏音がお姉さんにショックを受けたのは単純に彼女の嗜好にドン引きしたからだ。
しかし二人は紆余曲折あれど周りとの関係もあり、お姉さんとお互い受け入れ親しくなっていった。勿論そこには年の差という違いはあれど、別に彼女に何か特別な立場を求めていなかったからだろう。
そもそも花が危惧していたのはひなたがドン引きするのではないかという想定だったことからも伺える。
でもひなたは私と夏音の二人のいずれとも違う。どんな形であれ星野ひなたという個人にとっては『みゃー姉が一番』、お姉さんは誇らしげな存在なのだ。
そして「別世界のひなた」にとってさらにそれは尋常ならざるものだった。見知らぬ姉に知らず知らずの内に抱いていた理想と憧れ。こちらの『ひなた』があれだけお姉さんを慕っていることを考えれば「彼女」の憧れも同じく、積もり積もってとてつもない大きさに膨れ上がっているのではなかろうか。
そんな「彼女」が姉が生存する理想の世界にたどり着くという願ってもいない奇跡を経験して、その上でお姉さんがあの体たらくだったのだ。とんでもないショックを受けるのも頷ける。
ならば…私はどうすれば良いのだろう。未だに失意を呟き、落ち込んでいる様子のひなたを見て花は戸惑う。
改めて考えると私とお姉さんの場合も第一印象こそ最悪だった。ただお姉さんがお菓子で私がコスプレ…と双方に利があったから交流し始めて、その中で段々お姉さんの良い所も見えてきて仲良くなった形だ。
だがこの「ひなた」がお姉さんから受けた最悪とも言える第一印象を私はどうやって取り払えばいいのだろうか。「英雄」らしくないお姉さんをみてショックを受けている、このひなたを。
「ひなた」がお姉さんを誤解した上でこの世界から去っていく、そんな未来は想像したくない。そして何よりこんな辛そうな顔をしている親友を花は見たくなかった。それがお姉さんに関することであればなおさらだ。
だが彼女に時間は少ないし、自分に何か気の利いた言葉をひねり出せるほどの器用さもない。何か、何か良い解決案はないか、花の顔に焦りが浮かぶ。
そんな中、ひなたの口からぽろっとこんな言葉が漏れたのを彼女は聞いた。
「…私、お姉ちゃんにもう一度会いたいなんて願うべきじゃなかったのかな」
『ひなたは本当のお姉さんを知らない』
「えっ」
ぶつぶつと喋っていたひなたを花が突如制す。
それはひなたの知る静かで冷静な花からは想像できないような芯の通った強い声。そして突然のことで言葉を失ったひなたを他所に花は矢継ぎ早に言葉を繋いでいく。
『そもそもお姉さんは引きこもりで人見知りでいかがわしいコスプレ衣装を私たちに着せるのが趣味のダメ人間』
「えっ」
『今日だって私達がコスプレするからこそお菓子手伝ってくれて衣装も作ったんだし、お昼もお母さんがいない時に作るとお小遣いくれるからやってるだけ 部屋着はいつも高校の時のジャージで外へはまず出ないし、出たとしても店員と怖くて会話出来ないからおつかいすら満足にこなせない』
「なっ…」
『私とお姉さんが最初に会話したとき、どんな感じだったか分かる?』
「…い、いや分からない」
『お姉さんサングラスにマスクの不審者みたいな格好で私たちが遊んでるところに来て、脈絡無しに友達になろうとか言い出したんだよ』
「…何だそれ」
『そもそも撮影会自体が美味しいお菓子を食べさせてくれる代わりにコスプレするって約束でやってるだけ 私は楽しくも何ともない まあ、他の3人は楽しんでるけど…』
「…ど、道理で嫌そうな顔をしてた訳だ お菓子目当てとは… でもそれで良いのか花…」
『…それは置いとくとして、お姉さんがどれだけ気持ち悪いことをしたか教えてあげようか 初対面で私の手を触ってすべすべしてるとか言った上でいきなり体のサイズを測ろうとした、ハグしようとにじり寄って来たこともある、誕生日プレゼントに私が欲しいとか言うし、挙句の果てには私の夏祭りの浴衣姿を盗撮しようとして警察に捕まりかけた…挙げだしたらキリがない』
「うわあ…」
『まとめるとお姉さんはダメダメな人、全然理想のお姉ちゃんなんかじゃない むしろひなたにどう説明しようか悩むくらいだったレベルの』
「……」
はっと我に返る花。彼女はひなたが漏らした失意の一言を聞いて、感情に任せ一方的に『星野みやことは何か』と吐露してしまったのだった。
花がおそるおそるひなたに目をやると…彼女はショックで虚空を見つめている。
この顔は確かお姉さんが『ひなた』に姉離れさせようと「なんでもやる券」を使って距離をおいた時に見た顔だ。だが「ひなた」の場合は逆にお姉さんと距離を縮めたことによってこんな顔になっているのだった。
それを見て花は自分だからこそ何を言えるかに気づく。
――難しく考えることはない、ひなたはお姉さんのことを強く想っていからこそショックも大きいんだ。
花はどんな形であれやっぱりお姉さんが一番な親友に軽くため息を付きながら、穏やかな顔をして再び口を開いた。
『でもそんなお姉さんだからこそ、私たちは友達になれた』
「えっ」
『お姉さんは本当にぐうたらでダメな人 でも自分が好きなことに対しては一生懸命になれる 年が離れてる私達とも親しくしてくれるし、妹…ひなたにだって優しい』
「……」
『初対面のお姉さんは完全に変質者だったし、今も暴走して変なこともする でも分かる あれは人付き合いが苦手なお姉さんが私と仲良くなりたくて必死にコミュニケーションを取ろうとしてる結果だって』
「……」
『まあお姉さんがお菓子、私がコスプレっていびつな感じで友達になって今も続いているんだけど… こういう形で始まったからお姉さんの良い所も目立つのかな』
「…そうか」
『乃愛が転校してきた時だって乃愛がお姉さんのコスプレ衣装に興味持って盛り上がったからこそすんなり仲良くなれたと思う …私も結構人見知りな所あるし』
「…乃愛か」
『夏音と小依はひなたに近いかも知れない 二人はお姉さんをすごい人だと誤解して会いに来たから でもお姉さんは不器用ながらも誤解をどうにかしようと頑張った それが好印象でむしろすんなり親しくなれた感じかな』
「…あの二人も」
『それに私は一人っ子だからやっぱりお姉ちゃんに憧れあるかも お姉さんはやっぱり綺麗な人だし料理が上手くて優しい それでいて私たちの目線で付き合える…いや、付き合ってくれるというか…』
「……」
『普段はコスプレ衣装ばっかり作ってるんだけど演劇の時は衣装作りに手を貸してくれた もちろん劇は良いものになったし、クラスの皆も喜んでたよ』
「…「こっち」はそもそも衣装集めで苦労したからな」
『まあすごいインドア派だから外で遊ぶことは中々ない …けど、お姉さんや皆と集まって話すのは本当に楽しい』
「そうか…!」
『他にもお姉さんとは色々と思い出あるけど…私はお姉さんと出会えて良かったと思うかな』
『もう一度言うけどお姉さんは英雄でも理想の人でもなんでもない ダメな所ばっかり』
『でも…ダメな所を覆い隠してしまうくらい素敵な所もあるってのは確かね むしろそんなだから私たちも気兼ねなく仲良くなれたんだろうけど』
「花……」
花はひなたの目を見る。
そこにはすでにお姉さんのことで動揺している彼女はいなかった。これならお姉さんを勘違いして元の世界に帰るなどといったことは無いだろう。
花はひなたをフォローするにあたって最初こそみやこの事をどうすれば上手く誤魔化せるか考えていた。しかしそれは所詮まやかし、ここで仮にみやこを「理想の姉」と思わせた所で相手はひなたなのだ。いずれは嘘だと感づき、結局失意のまま元の世界に戻っただろう。
ならば花がすべきことは『お姉さんはこういう人だ』という説明を自分の言葉で全てひなたに伝えることだ。もちろん悪い所も良い所も全部包み隠さず。それが、ひなたの知らない本当の“お姉ちゃん“なのだから。
花はそれに気付き、見事にやり遂げたのだった。
そんな花にひなたが少し照れくさそうに話しかける。
「…すまん 心配をかけたな」
『友達だし、別にいいよ むしろ話を聞いてもらえて良かった』
「…あのさ、花」
『何?』
「花はお姉ちゃんのこと大好きなんだな」
『なっ!?』
「人の良い所と悪い所をあれだけ挙げるのって簡単じゃないと思うんだ その人が好きでよく知ってなきゃならない 花はお姉ちゃんの事をとても詳しく教えてくれたじゃないか」
『…まあ確かにお姉さんのことは好きだけど』
「ほらな」
『あれでコスプレさせようとしなければ…』
「あっ…うん」
『そう言えばひなたは私たちがドッキリを仕組んでると思ったんだよね』
「あ、いやまああれはな…」
『私も実は最初はひなたが二人いるなんてドッキリだと思ったんだよ』
「…まあ私が思うならこっちの皆も多少はそう思うよな」
『でも私は途中でひなたは本当に別世界から来たんだなって思った』
「お、なんでだ?」
『こっちのお姉さんも同じ状況になったら間違いなくひなたをかばってた』
「……!」
『お姉さんはそれだけひなたのことを大切にしてる だから私はあれが作り話だとは思えなかった』
「そうか…!」
『うん あとそろそろ部屋に戻ろう 抜け出してきたわけだしみんな待ってると思う』
「ああ、そうだな」
襖が開けられて光が飛び込んで来る。目に眩しい。
でもひなたにはなんだか…それが清々しいように感じた。
『ひなた、ほんとにごめんね!』
「えっ」
部屋に戻ってくるなりひなたにかけられたのは姉の謝罪だった。
『あのね、いやー色んな事があったからちゃんとしてないといけないとは思って頑張ってはたんだけど…』
『皆もお菓子頑張ってくれたし、衣装も似合ってたしでちょっと盛り上がっちゃったというか…』
『いや、今さっきはあんな感じだったけど普段は普通というか、別にね…』
『……』
『…ごめんね 私がいない世界からやってきて期待してたと思うけど、私実はこんななんだ』
『ひなたは覚えてないかも知れないけど昔から人見知りだし、自分のことになると我を忘れちゃうし…』
『ごめんね こんなお姉ちゃんじゃガッカリだよね…』
そう言うとみやこは俯いてしまった。
ひなたが『覚えていない姉』の真の姿にショックを受けて混乱していたように、彼女も「初対面の妹」の前で羽目を外しすぎた自分を反省していた模様だ。
遠巻きで『私』と乃愛が見守っているのが見える。ひなたが花に連れられて押入れの中で話をしていた時、姉は二人に「ひなた」をガッカリさせてしまったのではないかと相談し、どうやって謝ろうかと考えていたのだった。
『お姉さんは英雄でも理想の人でもなんでもない』
花の言った事は真実だった。どう見ても、もはやひなたの目に映る『姉』は自分が勝手に抱いていた『理想の姉』からは程遠かった。
だけど……
ひなたは姉の手を握り、一言一言を噛みしめるように言った。
「確かに最初はガッカリしました……いや、こんな畏まった言い方はもう止めだ」
「確かに最初はガッカリした」
「死んだお姉ちゃんが実はこんな人だったなんてショックだった」
「お姉ちゃんは命の恩人で英雄なんだから、もし生きていたら私なんて遠く及ばないような誇らしい人だったろうって勝手に思い込んでいたからな」
「そして想定が少し外れただけで早とちりしてさ」
「こんな世界に来るんじゃなかったって言っちゃったんだ」
「でもそんな私を花が叱ってくれたんだ」
「『ひなたは本当のお姉さんを知らない』と」
「…確かに私はまだお姉ちゃんのことを綺麗な人で、料理が上手くて、裁縫が得意で、花をお菓子と引き換えにコスプレをさせて興奮して」
「…そして私の命を救ってくれた人としか知らない」
「私は本当に馬鹿だ 折角死んだお姉ちゃんと会える奇跡のような機会が訪れたってのに凝り固まった考えでそれを認めようともしなかった」
「そもそも私がこの世界にやって来たのは「お姉ちゃんに会ってみたい」それ以上でもそれ以下でもなかったのにな」
「だからこそ思ったんだ」
「理想がどうだなんてもうどうでもいい」
「お姉ちゃんがどんな人なのかちゃんと知って「元の世界」に帰りたいって」
「もう一度言うけど私は…私はお姉ちゃんがどんな人なのかもっと知りたい!」
「だから…その、宜しくな、お姉ちゃん 5日間だけど…」
『ひなた……』
『うん こちらこそよろしくね』
和解。みやこがニコリと笑って見せるとひなたも若干ばつの悪そうな顔をしながらもふふっと笑みを浮かべて見せた。
そんな二人を見ながら乃愛は得意げな顔で胸を張って言うのだった。
『これがイチバン! やっぱりヒナタちゃんがミャーさんに敬語使うなんて似合わないよ』
「乃愛」
『別世界のヒナタちゃん、やっぱりショック受けてたんだね』
「ああ」
『アタシ達すっかり慣れちゃってるけど まーアレってヤバイんだね』
「そりゃそうだろ…」
『んー そうか? 私はみゃー姉の作った服着るの大好きだからそっちの私も大好きだと思ったんだけどなあ』
「…本当にこっちの私や乃愛はこんな撮影会でも抵抗ないのか?」
『私はない!小さいときから色々作ってもらってるからな!花に関しては…あれだ、特別だ!』
『アタシもないかなあ ハナちゃんを撮影して興奮するミャーさんのキモさは最初こそ少しビビったけど、カワイイカッコできるならそれでオールオッケー!みたいな』
「……」
『の、乃愛ちゃん それはちょっと私傷つくかなあ…』
『で、ヒナタちゃん ミャーさんの事あんまり知らないんだよね』
「ああ、そうだ」
『じゃあ、アタシたちがもっともっと教えてあげようか!』
『おー!それいいな!みゃー姉のことなら私に任せろ!』
「ああ、是非教えてくれ!」
盛り上がる三人。その様子を見てみやこは胸をなでおろした。
そんな中みやこのジャージの裾がグイと引っ張られる。裾を引っ張ったのは花であった。そして花は溜め息交じりに呟いた。
『こうなると予想してはいましたがお姉さんはほんとに馬鹿ですね』
『は、花ちゃん…』
『こういう事が起きたら普通は見栄の一つでも張って我慢しそうですけど』
『そこでテンション上がっちゃうから私はいつまで経っても私なんだよ…』
『まあどうせどこかでボロが出てたでしょうし、これはこれでお姉さんがどんな人か分かったので良いんじゃないんですか』
『そ、そうかな …花ちゃん、本当にフォローありがとね』
『いえ、ひなたはあちらでもこちらでも私の親友ですから それに……』
『それに?』
『お姉さんの良い所、私は分かっていますから』
『花ちゃん…!』
『5日間、あの子にお姉さんがどんな人か教えてあげてくださいね』
『うん!』
星野みやこ。
「ひなた」が知った『姉』は理想でもなんでもない、むしろダメな所が多いような人間であった。
でも、だからこそ彼女は『ひなた』の良き姉となり、『花』や『乃愛』と出会い、そして紆余曲折あって彼女らと親しい間柄となった。
ひなたはまだ姉を知らない。否、ひなたはまだ姉を「少ししか」知らない。
だが、この本来ならば知りえなかった姉の存在が「彼女」を大きく成長させることになるとはこの時点ではまだ誰も知る由もなかった。
1日目 完
「それにしてもこの衣装の数はすごいな…」
『これでもかなり減らしたんだけどね』
『あっこの服よく見るとお揃いでカワイイね』
『それはけっこう昔に着たやつだな』
『お揃い…そういえば今なら二人のひなたで双子ネタも撮れるのか』
『あっ』
『ん?』
「……」
『わ、私ぃ?なんかすごい体が震えてるぞ!?』
「す、すいません ま、まだそういうのは勘弁してもらっても良いですか…」
『もう一人のヒナタちゃんが再びココロを閉ざして敬語モードに!』
『お姉さん…この期に及んで本当に最悪ですね』
『じょ、冗談だから!ポロッと口から出ただけだから!』
「あ、いえ、大丈夫です こういう所も受け入れられるように頑張りますから…」
『みゃー姉…』
『ミャーさん…』
『……』
『…見ないで!そんな目で私を見ないで!!』