ここから先の展開はわたくしにとっても非常に…非っっっ常に難しい!!
世界の中心、海軍本部マリンフォードが大きく揺れ、そして崩壊して行く。
「し、白ひげを止めろォーーー!!」
「本気で島ごと潰してしまう気かッ!?」
最後の船長命令を
「エースに気づかう事もなくなった今…奴は本気でこのマリンフォードを海の藻屑にするつもりだ。
己の命と共に沈むつもりなんだ」
敵であるはずの白ひげだが───センゴクには白ひげの考えが理解できた。
そしてそれはガープも同様だ。
「時代に
伝説の───最強の終焉。
それは最強の名に決して恥じぬ、最強の名を改めて世界に知らしめる、そして───最強の海賊"白ひげ"エドワード・ニューゲートの武勇伝を締めくくるに相応しい最期となる。
*
白ひげとここで別れるという辛い現実を受け入れられない者は多い。だがそれでも、どうにかそれを受け入れ最後の船長命令を確実に遂行する為に───生きて新世界へと帰還する為に逃げる。
海賊が背を向けて逃げるなど後ろ指を指される恥。
だが、この場所での目的───エースの救出は果たした。
ならばこれも海賊らしい行動ではないだろうか…。欲しいモノを手に入れ、自由気ままに、自分勝手に周囲を引っかき回すだけ引っかき回し、そして華麗に退散する。
欲しいモノを───エースを力尽くで海軍から奪い返したのだ。なら、もうこれ以上はここで戦う意味などない。
何より、それが白ひげからの最期の船長命令であり、白ひげの願いなのだ。
「………」
「エース行こう!おっさんの覚悟が!」
「ぼさっとすんな、エース!白ひげの想いを無下にするつもりか!?」
「ッ、わかってる…無駄にゃしねェ!!」
それがわかっているかるこそ、エースは最期に───
「どけェお前らッ!!」
大恩ある、尊敬してやまない"
「…!言葉なんていらねェぞ。
…エース、一つだけ聞かせろ。おれが"オヤジ"で良かったか?」
「もちろんだ!!」
「グララララ!(それだけ聞けりゃァ十分だ。ロジャーの奴にとっておきの
エースから父親と認められなかったロジャー。エースから父親と認められ、尊敬され、感謝すらされる白ひげ。
どうやら、親子対決は白ひげに軍配が上がり、海賊王が敗北を喫することとなったようだ。
ただ、それを知るのはエースのみだろう。
それでも、白ひげの伝説はこれから先も朽ちることなく語り継がれる。
海賊王の息子が憧れた世界最強の海賊として…。
※※※
戦場から逃げる白ひげ陣営の海賊達。
それを追う海軍。追ってくる海軍の最大の標的は当然、解放されたエース───海賊王の血を継ぎし"D"の者。
そして、今回最大の功労者であり、海軍が最も苦渋を味わった者達───超問題児ルーキー海賊、モンキー・D・ルフィとサンジも最大の標的として狙われている。
絶対に未来に繋いではならない有害因子として強く認識されたルフィとサンジは、下手をしたらエース以上に強い警戒心を抱かれているのではないだろうか…。
事実、サンジに至っては七武海のゲッコー・モリアを撃破し、ドフラミンゴすらも圧倒して見せたのだ。
ルフィがエースを助け出すことができたのも、サンジという頼れる強力な船員が側にいたのが一番の要因だろう。
更に、頭脳戦に於いても海軍───センゴクの企みを察知し阻止したのだ。
将来性、そして現在の力を見た限りでも、元帥センゴクが最も危険視しているのはサンジだろう。
「黒足…あの男は厄介だ。海賊王ロジャーに"冥王"の存在が在ったように…黒足はシルバーズ・レイリーを彷彿とさせる存在だ」
処刑台でたった一度───たった一度拳と足を交えただけだが、これまで数多の海賊達と戦ってきたセンゴクの経験が、サンジに対して強い危険を感じたのである。
そして、当然ながらルフィに対してもだ。
「私は思い違いをしていた…」
センゴクは今回、海賊王ゴール・D・ロジャーの血を引くエースを処刑することで、この大海賊時代を沈静化させる腹積もりでいた。そうできるものだと信じて疑っていなかった。
「ロジャーの血ではない…ロジャーの"意志"こそが、この大海賊時代の根源であり、その意志が今この瞬間に花開いてしまった!!」
予想もつかない事態を引き起こす超問題児とそれを支える超問題児。
この超問題児ルーキー達こそが、海賊次世代の頂点に立つ資質を発揮する───センゴクが最も危惧する存在。
まるで、若かりし頃のロジャーとレイリーを見ているかのような、まだまだ実力に差があるが、それでもそう思わずにはいられない何かを、センゴクはサンジとルフィから感じ取ったのだ。
センゴクのその考えが正しいのか、間違っているのか───それはまだ定かではない。だが、この超問題児達は間違いなく嵐を呼び、嵐となる。
まさしく、予測不能な存在だ。
そして、センゴクはその予測不能を再び目の当たりにすることとなる。
*
海軍大将赤犬が執拗にエースを追う。
サンジと対峙していない赤犬は、センゴクのように強い危険性をサンジからは感じ取ってはおらず、第一標的はエースとその弟───ルフィのようだ。
海賊王の息子と革命軍総司令官"世界最悪の犯罪者"ドラゴンの息子なのだから、赤犬が何としても排除しようとするのは当然だろう。
誰を取り逃がそうと、ルフィとエース───この2人、最凶最悪の兄弟だけは何があろうとも逃がすつもりなどないという強い意志が犇々と伝わっている。
それはあまりにも強く、禍々しく感じてしまう程だ。
「逃がすと思うちょるんか…調子に乗りおって」
赤犬にとって苛立たしいこの状況。巨大なマグマの拳が容赦なく襲いかかる。
「エースを解放して即退散…あの白ひげ海賊団が情けないのう。どうやらわしゃァ思い違いしちょったようじゃな。じゃかまあ、船長が船長…それも仕方ねェか。
白ひげは所詮…先の時代の
このような言葉が出てくるのも、この現状に腹立たしさを感じているからなのだろう。
最も、赤犬は海兵だ。排除すべき海賊に対して罵詈雑言が出てくるのは息をするようなもので当然の事。
誰一人として赤犬の言葉を耳にし、足を止める者など───
「敗北者?」
「?」
「エース!?」
しかもその者は、決して足を止めてなどいけない───いの一番にこの戦場から退散せねばいけぬ者。
「取り消せよ…はあ、はあ…今の言葉ッ!!」
エース以外、誰一人として赤犬の言葉に足を止めている者などいない。
多少思うこともあれど、他の
現に、エースを宥め、逃げるように促している。
「あの野郎…オヤジをバカにしやがった」
しかし、エースの沸点はどこまでも低く、もう誰の声も届いてはいない。
そのエースに対して、この機を逃すまいと赤犬は更にエースを煽ってくる。
赤犬からしたら、これはまさに棚からぼた餅な展開だろう。さっきの言葉も、特に煽るつもりで口にしたものではないのだ。海兵として思ったことを口にしただけでしかないのである。
「口車に乗った息子という名の
白ひげの人生は実に空虚で惨めな人生じゃありゃあせんか?これを敗北者と言わずに何と呼ぶんじゃ?」
「やめろ!!」
怒りを露にするエース。だが、赤犬が今しがた"バカ"と口にした息子というのは、他の誰でもないエースの事だ。
赤犬の口車に乗り、白ひげを刺してしまった"大渦蜘蛛"のスクアードの事だと勘違いしてしまいそうだが、こうして口車に───安い挑発に乗り足を止めてしまっているエースは、赤犬からそう言われても仕方ないだろう。
残念な事に、エース本人はそれに気付けてはいない。
「人間は正しくなけりゃあ生きる価値などありゃあせん!お前ら海賊に生き場所などいらん!
白ひげは哀れな敗北者として死ぬ!ゴミ山の大将にゃあ誂え向きの最期じゃろうが!!」
「白ひげはこの時代を作った大海賊だ!!」
エースが拳を燃え上がらせると同時に、赤犬も拳をマグマへと変化させる。
もう、衝突は避けられない───誰もがそう思った。
「この時代の名がッ!」
いや、ただ
「白ひげェェ!?」
「何やってんだこのクソ野郎がッ!!」
エースの脳天に直撃するかかと落とし。そして続け様に、今度は赤犬へと攻撃を仕掛ける。
「テメエはお呼びじゃねェんだよ、マグマ野郎!
【
「ぬぅ!黒足!!」
鋭い剣の形を象った強烈な電撃のビームが赤犬目掛けてサンジの足から放たれ、一歩踏みとどまった赤犬の頬を掠り、小さな傷を与えた。
「ぐっ、くっ…な、何しや…がる…」
鋭い視線を向けてくる赤犬を他所に、覇気を纏った足によるかかと落としを食らったエースは、これ以上ない程のダメージを受け頭を抑え踞りながらサンジを睨み付けている。
だが、そんなエースなどお構いなしにサンジが口を開いた。
「ふざけてんじゃねェぞクソ野郎がッ!安い挑発に乗りやがって!テメエを助ける為にルフィがどれだけ無茶したかわかってんのか?ああ!?三枚におろすぞ!!」
助けたエースに対してこの口振り───サンジが相当お怒りなのが犇々と伝わってくる。
しかし、それも無理はない。
エースの行為は、助けてもらっておきながら、まさに恩を仇で返しているとしか思えない愚かな行為だ。
「それとな!テメエの行為が白ひげを敗北者にしようとしてるってのにどうして気付かねェんだよ!!」
「な!?」
「テメエじゃ
前回の人生でその場にいなかったサンジではあるが、
だからこそ、こうしてエースを止めることができているのだ。そして、いつもは口にしない"アホンダラァ"という暴言を口にしたのは、白ひげの口調を真似てのもの。
「ッ…」
そのおかげもあってか、サンジの言葉はエースの心に深く刺さり、冷静さを取り戻させるどころか罪悪感すら感じさせてしまっていた。
「お、おれのせいで…オヤジが敗北者に?」
「白ひげが何の為に病を押して戦ってると思ってやがる。白ひげだけじゃねェ。テメエを守る為にどれだけの奴らが犠牲になったか…ルフィも
手荒い行動、荒い口調だったが、サンジは何もエースを傷つける為に蹴りをお見舞いし、厳しい言葉を吐いたわけではない。
エースを落ち着かせ、無駄死にさせない為だったのである。
「おんどりゃあ、余計なことしてくれおって…」
ただ、あともう一押し───あと僅かでエースを処刑できたであろう赤犬は、絶好の機会を奪ったサンジに怒り心頭だ。
「余計なことしてくれやがったのはテメエじゃねェか。けど…テメエのおかげでハッキリしたこともある」
怒り心頭の赤犬とは正反対で、冷静なサンジは不敵な笑みを浮かべながら呟くのである。
「白ひげは敗北者じゃねェ。エースを助け出し、殿を務め俺達をこの戦場から
「逃げ切れると思うちょるんか!?」
「それから…俺達を
「このッ」
赤犬の額に青筋が浮かぶ。ただ、サンジの言うとおりなのだから仕方がない。
海軍はエースの処刑に失敗したのだ。このまま取り逃がしたら、間違いなく海軍の敗北ということになる。
しかし、一つ気になるのがサンジの言葉───まだ逃げ切れていないこの現状で、そしてサンジの記憶にある前回の人生で起きた頂上決戦と少し違う形を辿っている現状でありながらも、逃げ切れることが決定付けられたような言葉。
「まずは貴様からじゃァ黒足ィ!!」
サンジに襲いかかるが、それを阻む存在が現れる。
「コイツらの命はやらねェ!」
「不死鳥か…邪魔し…ぬっ!?」
そして、サンジの言葉が意味しているものはいったい何なのか───その
「赤犬さん危ないッ!!」
赤犬の背後、拳に"覇気"と"振動"を纏わせて迫る最強の海賊───
「息子達に手ェ出してんじゃねェよ犬ッころ!!」
白ひげの強烈な不意討ちが赤犬を襲い、地に叩きつける。さすがの赤犬もこの一撃に一瞬だが意識が飛びかけてしまっていた。
「ぐウゥッ!ゲホッ…こ、この…死に損ないがッ!
【
だが、海軍の最高戦力の名は伊達ではない。白ひげの一撃を受けても倒れぬ赤犬は白ひげにマグマと化した腕で掌底を放ち、そして顔半分を焼き抉る。
「オヤジィ!!」
怪物同士の戦い───それでも、白ひげは決して倒れることなく、腕を振り抜き赤犬へ叩き込み、海軍本部諸共に大きなダメージを与えた。
「ったく、手のかかるバカ息子だ…さっさと行かねェかアホンダラァ!!」
足を止めてしまったエースに対し一喝する白ひげ。
その一喝を受けたエースは、改めて己の失態に気付き、ようやく足を動かす。
如何に己が愚かで、そして弱いか───今この瞬間に、それがエースの心に深く刻み込まれた。
だが、そんなエースの背に白ひげは安心した表情を浮かべ見送るのである。
"若気の至り"。血気盛んな若い時分には良くある過ちを白ひげも知っているのだ。だからこそ、これ以上は何も言わない。
過ちを犯し、経験し、そして若者は大きく成長する。
白ひげの時代は終わる。だが、己の意志を受け継いだ者が必ず新たな時代を作り出すのだと、白ひげはそれを信じて疑ってはいない。
「グララララ、まだまだこっからが本番だ」
真っ二つに裂けた広場───白ひげは大切な
原作で、ルフィに無駄にゃしねェと言いつつ、無駄にしてしまったエース。
そのエースが生き残ったONE PIECEはいったいどうなるのだろうか?
一点だけ。白ひげ亡き後、エースが生き残ってたとしたら…本気で海賊王を目指したりはしないような気がする。
大恩ある、尊敬する白ひげのような海賊を目指してくれたならば…。
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