戦う炎の料理人   作:ドミネーター常守

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今思えば、サンジが王族出身という伏線はリトルガーデン編からちゃんとあったんですよねェ。



Mr.プリンス

 

 

 場所は偉大なる航路(グランドライン)の前半部に存在する文明大国"アラバスタ王国"。

 

 そのアラバスタ王国首都アルバーナ王宮───王女ネフェルタリ・ビビの私室にて激震が走る。

 

「え、ええ!?サ、サンジさんて()()()()()だったの!?しかもあの"ジェルマ王国"!?」

 

 新聞の一面をデカデカと飾っているのは、ここ1年は大人しかった麦わらの一味のNo.2であるサンジだ。

 

 ただその内容に、かつて共に航海した仲間であるビビは非常に驚いている。

 あの優しいサンジがまさかのヴィンスモーク家出身───ジェルマ王国の王族だというのだから、その驚き様はかなりのものだ。

 

 ビビの認識でも、ジェルマ王国ヴィンスモーク家は悪い意味で有名なのだろう。

 

「え、えっと…サンジさんが()()()()()()()()()()歩いてるところを目撃されて、ジェルマの王子様ってことが発覚…けど、サンジさんは10年以上前に出奔してて、もうジェルマとは無関係だと現国王は言ってる。…なら、このお姉さんは?ジェルマの王女様よね?」

 

 一面に写し出されたジェルマ王国の元王子と王女───サンジとレイジュ姉弟は、どこからどう見ても仲睦まじい様子だ。

 

 とある島にて撮影されたこの写真だが、その真相はいったい───そして、毎度お騒がせな若き大海賊"玄脚(くろあし)のサンジ"だが、手配書の名が"ヴィンスモーク・サンジ"と書き換えられ、またしても注目の的となるのである。

 

「それにしても…ふふ…お姉さんと一緒だからか、かなり落ち着いてるように見えて、確かにこれは女性達の間で人気が出てもおかしくないわね」

 

 ビビが知らないサンジがそこに写し出されており、彼女もサンジが男としてますます素敵に成長したことを感じ取っている。アラバスタ王国の女性達の間でも"金色(こんじき)の伯爵様"として人気を集めているようだが、これからは"金色(こんじき)のプリンス"と呼ばないといけないのだろうと、ビビは頬を緩ませていた。

 

 

 *

 

 

 時を同じくして、場所は偉大なる航路(グランドライン)後半部"新世界"のとある島。

 

 その島に拠点を置く海賊───元王下七武海のクロコダイルは、新聞を片手に至って普通の様子で葉巻の煙を吐き出していた。

 

「なるほど…やはりコイツが"()().()()()()()"だったか」

 

 麦わらの一味のサンジが、ジェルマ王国の王子であることが判明し、それを新聞で知ったクロコダイル。

 

 かつて、クロコダイルがまだ七武海だった頃、アラバスタ王国で自身を引っかき回してくれた忌まわしい存在がいた。それが、Mr.プリンスだったのだが、今こうしてその正体が判明しようとは…。

 

 マリンフォード頂上戦争にて、"麦わらのルフィ"と揃って戦場を引っかき回した"玄脚(くろあし)のサンジ"に対し、もしやと疑惑の視線を向けていたようだが───ただ、クロコダイルにとって、サンジがジェルマ王国の王子であることなど、どうでもいいことなのだろう。

 

「借りは、何れまた会った時に返してやる」

 

 ただ、借りはきっちりと返す───それだけだ。

 

 

 *

 

 

 それから更に数日後───前半部のとある島にて、世界に名を轟かせる()()()()が激しい闘いを繰り広げていた。

 

 1人は、長い金髪の見た目美しすぎる男───世の多くの女達を虜にする"海賊貴公子"キャベンディッシュである。

 

「くッ!忌々しい…お前達"最悪の世代"はどこまでも忌々しいッ!!」

「んなこと言われてもな…周りが勝手にそう呼んでるだけだろ」

「海賊狩りのロロノア・ゾロ!貴様の次は"玄脚(くろあし)"だ!!奴を殺し、再びボクの人気を取り戻す!!」

 

 懸賞金2億8000万ベリー。剣術の天才と呼び声高いキャベンディッシュではあるが、対するのは"最悪の世代"の()()()の内の1人、緑髪に三刀流という稀有な剣術を駆使する()()()()()()───麦わらの一味の剣士"海賊狩り"のロロノア・ゾロである。

 

 現在、ゾロは鷹の目から免許皆伝を受け、再結集までの期間を修業の旅として過ごしているようだ。

 

 その矢先、たまたま立ち寄った島でキャベンディッシュに発見され、いきなり襲撃されたわけだが───懸賞金では劣るゾロだが、大剣豪"鷹の目"に鍛え上げられた彼は格段に強くなっており、キャベンディッシュを相手に余裕すら見せながら圧倒していた。

 

 ただ、すでに新世界入りしているはずの、ゾロ達より一世代上のキャベンディッシュが襲いかかってきた理由というのが、簡潔に述べたら妬みのようだ。

 

 ゾロ達麦わらの一味他、"最悪の世代"が世間を騒がせ始める約1年近く前、彗星の如く現れ世の女達を虜にしたキャベンディッシュの人気は凄まじいものがあった。主に女性達からの熱狂的な人気ではあるが…。

 ただ、最悪の世代が頭角を現し始め、そして先のマリンフォード頂上戦争によってすっかり影が薄くなってしまったようなのである。

 

 そしてそんな己の状況を、ナルシストで目立ちたがり屋な美しすぎるこの男が許せるはずもなく、どうやらわざわざ新世界から逆走して、最悪の世代討伐に乗り出したようだ。

 

 まず最初に麦わらの一味を狙っているのは、"落とし前戦争"後、四皇に名を連ねた最悪の世代最強の"黒ひげ"と同等の知名度と、まだ新世界入りしていないことが理由らしい。

 麦わらの一味の討伐を果たし、そして知名度を取り戻し───いや、麦わらの一味のトップ3である、ルフィ、サンジ、ゾロを打ち倒したとなれば、間違いなく以前よりも知名度が増す。再びキャベンディッシュフィーバーを巻き起こし、新世界に戻り、勢いそのままに残りの最悪の世代達を、そして黒ひげすらも討伐し四皇に名を連ねるのがキャベンディッシュの目的なのである。

 

 ただ悲しいかな───麦わらの一味を甘く見すぎていたのは、キャベンディッシュの失態だ。

 

 しかも、キャベンディッシュの思惑など、この()()にとってはどうでもいいらしい。

 

「おい、さっさと終わらせろよ!お腹空いた!」

「わーってるよ」

 

 激しい闘いではあるにはあるが、余裕のあるゾロは背後から急かしてくるピンク色の髪のゴスロリ服の女───"ゴーストプリンセス"のペローナに気だるげに返事を返し、決着をつけるべく刀を鞘に納める。

 

「どこまでもボクを虚仮にしてくれるなッ!やはりボクは、最悪の世代の中でもお前達麦わらの一味が大嫌いだッ!!」

「おれはお前と初めて会うはずだが?」

 

 そう、会うのは初めてだ。しかし、キャベンディッシュがゾロに向ける敵意は、最悪の世代であることを抜きにしても相当なものである。

 麦わらの一味に対して、キャベンディッシュは何故ここまでの憎しみを抱いているのか───正確には、麦わらの一味に所属する()()()に対してというべきか…。

 

「お前達はボクよりも目立っている!それだけで十分、万死に値する」

「完全に妬みじゃねェか」

「顔は良いのに残念な男だな」

 

 ただ、その嫉妬は歪みすぎたもので、ペローナですらこう口にする始末だ。

 

「何よりも玄脚ッ!アイツだけは絶対に許さない!!」

「はあ?エロコック?なら、エロコックを探せばいいだろうが…お前とアイツの間に何があったかなんて興味」

「金髪の王子様!女性達にモテる!ボクと丸かぶりではないかッ!!少し違う部分があるとしたら玄脚はワイルド系と言われているくらいだ!玄脚がジェルマ王国の王子であることが発覚したことで、ボクと玄脚は海賊界の王子様の二翼扱い!これまではボクの一強時代だったのにだぞ!?

 あ、言い忘れていたが、玄脚が麦わらの一味のコックであるせいで、料理ができるワイルドな王子様なんてどれだけ素敵なのかしらってボクよりも年上の女性にモテるとは…何たる屈辱!絶対に許すわけにはいかない!!」

 

 ゾロの興味がないという言葉を完全に無視し、一息に言いきったキャベンディッシュだが、その内容はあまりにも一方的な嫉妬でしかない。

 

 それを聞いたゾロは、呆れ果てて死んだ魚のような目を向けており、ペローナに至ってはまるでゴミでも見ているかのような───"海賊貴公子"には微塵も興味を持っていないことが窺える。

 

 数日前に、サンジが本当の王子であったことはペローナから教えられゾロも知っているが、ゾロにとってそれはどうでもいいことだ。ゾロにとってのサンジという存在は、絶対に負けたくない相手───ライバルであり、そして仲間なのだから。

 

「はあ…言いたいことはそれだけだな?」

「何だと?」

 

 刀を納めたゾロは目にも止まらぬ速さでキャベンディッシュの視界から消え、神速の居合いにてキャベンディッシュを斬り、友から受け継いだ刀───大業物"和道一文字"を静かに納刀する。

 

「がっ!?」

「【獅子歌歌(ししそんそん)

 …テメエじゃおれには勝てねェよ…アイツにもな」

 

 ゾロの背後にて、キャベンディッシュの体から舞う血飛沫。この勝負、ゾロの圧勝だ。

 

「ん?」

 

 だが、勝負は決した───かと思いきや、地に倒れ込みかけたキャベンディッシュが脅威的なスピードでゾロに襲いかかってきた。

 

「うおッ!?て、テメエ…いったい()だッ!?」

 

 たった今まで、ゾロと戦っていたキャベンディッシュとはまったく異なる雰囲気───禍々しさを放ちながら、比べ物にならない剣の才を披露するその存在。

 

「え、ど、どうなってんだよ!?」

「おれが知るかッ!!それよりもちょっと離れてろ!コイツは…さっきよりも遥かに強いッ!!」

 

 さすがは、新世界でもそれなりに有名な剣術の天才"海賊貴公子"キャベンディッシュといったところなのか…。

 今までとはまったく違う超スピードによる剣術に、ゾロも舌打ちする。

 

「え?」

 

 しかも、攻撃対象はゾロだけではなく無差別で、ペローナにまで襲いかかろうとする厄介極まりない狂人と化していた。

 

「テメエ…見境なしか」

 

 どうにかペローナを守ったゾロだが、その表情は怒りに満ち溢れ、対して凶悪化したキャベンディッシュは凶悪な笑みを浮かべている。

 

 左腕に巻いた手拭いを外し、頭に巻き本気モードに入るゾロ。全身から醸し出される殺気は、血に飢えた獣のそれだ。

 

「おれを倒して有名になるとか言ってやがったな…なら、おれも同じだ。テメエを斬って、エロコックを上回ってやるぜ」

 

 未来の大剣豪 VS 剣術の天才───切り裂き魔。

 

 翌日、この事件は大きく報道される。

 

 一般人相手に見境なく斬りかかる凶悪化したキャベンディッシュは、凶悪すぎるその一面から悪名を上げてしまうこととなり、悲しいことにそれまでの人気がより低迷し、逆に恐れられることとなってしまうのである。

 更新された手配書───3億を超えた懸賞金額も凶悪化した一面が大きいだろう。

 

 そして、そのキャベンディッシュを討ち取ったゾロは宣言通り、いや───懸賞金額は確かに更新されたが、残念ながらサンジには及ばなかったようだ。

 それでも、麦わらの一味のトップ3の厄介さを周囲に認識させるには十分なもの。

 

 再結集まで残すところあと約半年───麦わらの一味復活の時が近づく。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 翌日、偉大なる航路(グランドライン)前半部のとある島にて、優雅に朝食を堪能する姉弟2人。

 

 ジェルマ王国の王子と王女───サンジとレイジュは、和やかな雰囲気を醸し出しながら、注目を浴びていた。

 

「ん?お!マリモの奴、懸賞金が上がってるじゃねェか…何やらかしやがったんだ?」

 

 手配書の写真も隻眼のものに変更されており、懸賞金額もかなり上乗せされたものとのっている。

 

 "海賊狩りのゾロ"。懸賞金、3億6000万ベリー。

 

「へェ、サンジの仲間の"海賊狩り"じゃない」

 

 手配書を眺めるサンジの背後から、肩に顎を乗せ後ろから抱きついてるかのような───愛しいサンジに触れるレイジュは、実に幸せそうだ。

 

「近ェよ」

「いいじゃない、姉弟水入らずの旅行中なんだから」

「ったく」

 

 嫌そうな口振りながらも、表情は穏やかで───優しい笑みを浮かべているサンジ。

 今こうして、レイジュと姉弟の時間を過ごせているのは、サンジがジェルマ王国からレイジュを連れ出し、そしてレイジュの心境にも変化が起きたことがきっかけだ。

 

 大海賊として王たる風格も身に付けたサンジと、これまで逆らうことができなかった父親。ただ後者に至っては、レイジュはすでに愛想をつかしていた相手だ。

 そんなレイジュが、サンジがジェルマの兵力をものともしない程の大海賊へと成長し、そのサンジから唯一家族だと認められ、愛を注がれたならば、彼女の中で優先順位が変化してしまうのも当然だろう。

 

 科学は凄い。それは確かだ。しかし、愛に勝るものはやはりこの世には存在しないのではないだろうか…。

 ジェルマの科学も愛には勝てず、レイジュはサンジの愛によってジェルマから解き放たれたのだ。

 

「サンジ、私…とても幸せよ」

「そ…そうか」

 

 慈愛に満ちたとても美しいその笑顔に、姉だとわかっているサンジも心を奪われかけてしまう。

 それ程までに、レイジュの笑顔は美しく───そして、サンジと過ごすこの時間に心からの笑顔を浮かべていた。

 

「さて…ではレイジュ王女…お次はどこに行きますか?」

「ふふ、愛しのMr.プリンスと一緒ならどこでも幸せよ」

 

 再結集まで残すところ約半年。サンジは、束の間の楽しい一時を唯一の家族と堪能している。

 

 

 






サンジに連れ去られて、絶賛旅行満喫中のレイジュお姫様。これまでは父親に逆らえなかったけど、父親…だけではなく、ジェルマの兵力をものともしない強者に成長し、立派な王の資質を身に付けたサンジと再会し、レイジュの中で優先順位が確立され、サンジ至上主義となり、出奔?し、麦わらの一味再結集までの間、姉弟水入らずの旅行を心から楽しんでいる。

やはり、愛の力はどこまでも偉大で強大で無敵。

レイジュ「あら?私達の時間を邪魔しようだなんて…サンジ目当てみたいだけど、悪い虫ね。殺虫剤(レイジュ特製猛毒)でも撒いておこうかしら?」

10年以上もサンジに会えなかったのが原因か、何もしてやれなかったのに感謝していると言われたり、姉さんと言われたりされたのが原因か、色んなものがぶっ壊れてブラコンを覚醒。

サンジに群がるファン達を牽制。ただ、レイジュも綺麗だから当然男達が群がり、それをサンジが牽制。
サンジもレイジュ程ではないがシスコンに…。

でもちょっと効果が強すぎた。10年以上の歳月の影響は大きい。

レイジュ「理想の男?そんなものサンジ以外いないわ」

麦わらの一味再結集後、どうするかは未定。

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