頂上決戦編もいよいよ佳境。
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広場を猛進するサンジとルフィ達は白ひげ陣営側の強力な援護もあり、襲いかかってくる海兵達を薙ぎ倒しながら広場を一直線に突っ切る。
絶対にこれ以上進ませるわけにはいかないと、海軍もこれまで以上の力にてサンジとルフィへと襲いかかってくるが、それでも勢いは止まることなどない。
「フッフッフ…若造が王だと?笑わせてくれる」
「邪魔すんじゃねェよ、フラミンゴ野郎!!」
だが、佳境を迎えたこの戦場にて、立っているのは猛者達ばかり。当然、サンジとルフィを狙う、行く手を阻む相手は強敵揃いだ。
サンジに傷を負わされたドフラミンゴだが、あの程度の傷で戦線離脱するはずもなく再びサンジの首を狙い仕掛けてくる。
「フッフッフ、調子に乗った若造に絶望を与えるのはさぞ気持ちいいだろうなァ」
どうやら、先の戦いでサンジにしてやられたのが余程頭に来ているらしいドフラミンゴ。
サンジを殺る気満々のようである。
「フフフフフ…身動きが取れない弱った相手をいたぶる趣味はまったくないんだがなァ」
「サンジ!?」
「ルフィ!すぐに追いつくから気にせず先に進めッ!!」
イトイトの実の目に見えぬ糸によりサンジを拘束したドフラミンゴは歪な笑みを浮かべながら銃を取り出した。身動きの取れないサンジをこの場に於いて公開処刑するつもりなのだろう。
「ほォ、随分と余裕だな…黒足」
しかし、サンジはこの状況でどこまでも冷静だ。いや、妙に冷めていると言うべきだろうか…。
「…これまで散々忌み嫌ってきた
「…何を言ってやが…ぐぁ!?」
サンジの体から突如
「"武装鋭化"!」
そして、武装色の覇気を鋭化させ糸を断ち切り自由になったサンジは、目にも止まらぬ速さでドフラミンゴの背後へと回り込み強烈な一撃を放つ。
「テメエは邪魔だ!スッ込んでろ!!
【
「がはッ!!」
強烈な
その黒足からは炎が燃え上がり、そして体から迸る電撃。それはあまりにも異様な姿だ。
「母親ってのは…本当にどこまでも偉大なもんだな、
体を迸る電撃を静かに眺めながら、今この場所にはいない、何年も会っていない自身にとって唯一"家族"と言っていい
前回の人生で、姉であるレイジュから聞かされた自身の出生の秘密をサンジは思い返す。
しかし、母親から確かに愛されていたのだと、そして姉からも愛されていることを知ったサンジは、以前のように"
今のサンジを見れば、サンジと他の兄弟達の成長速度が違っていたことは明白だ。
母親が身命を賭して人間として生んだサンジは、人間として様々な経験をし、幸せも、辛いことも味わい、そして自分のペースで少しずつ───着実に成長しているのである。
そして、今ここで───母の強い想いが花開く時がやって来たのだ。
「俺の名は"
忌み嫌い、一度は捨てた姓をサンジは誰にも聞き取れないようにぽつりと呟いた。
サンジにとっての"ヴィンスモーク"という姓は大切な
※※※
金色の閃光が縦横無尽に戦場を駆け抜ける。
「サンジ!お前、悪魔の実食ったのか!?」
一瞬でその場所を離れ、そして一瞬で戻ってくるサンジにルフィが慌てて口を開く。
サンジの変貌に誰よりも驚いているのはルフィだろう。炎を操り電撃すらも操るサンジを見て、悪魔の実の能力者になったのだとルフィが勘違いするのも当然だ。
しかし、サンジのそれは決して悪魔の実の能力ではない。
「いや…これは俺の母親が与えてくれたもんだ。悪魔の実じゃねェよ。それよりも集中しろルフィ!!」
「わかってる!」
「ならいい…ッ!今度は
脅威的な力を覚醒させたサンジは、この戦場に於いて非常に厄介な存在となっている。
そのサンジに対し、
「鷹の目!?」
「ったく、あの斬撃はもう懲り懲りだってのに」
驚くルフィと悪態を吐くサンジに、鷹の目は容赦なく飛ぶ斬撃を放ってくる。
「クソッ…おっ!」
だが、その斬撃がサンジとルフィに届くことはなく、何者かによって阻まれていた。
「あ、お前!」
「確か、クロコダイルの」
「社長命令だ、麦わらのルフィ、黒足のサンジ。一旦、標的を変え海軍を敵とする」
かつて、アラバスタ王国にて麦わらの一味と死闘を繰り広げたクロコダイル率いる"バロックワークス"の最高幹部"Mr.1"。ゾロに敗北し、クロコダイル共々にインペルダウンに収監されていたが今回の騒動で脱獄し、再びクロコダイルの部下として動いているのである。
「ダズ・ボーネスか…」
サンジとルフィを守るように間に入るその男───"スパスパの実"の刃物人間である元"Mr.1"。
ただ、間に入ったはいいが残念なことに相手が悪すぎた。
「ウッ!!」
相手は大剣豪。鉄を鉄とも思わずに容易に切ることのできる鷹の目なのだ。
当然、鷹の目を前にしたら全身刃物人間も一太刀のもとに沈んでしまうこととなる。
そして、そのままサンジとルフィへと斬りかかろうとする鷹の目。
だが───
「!!…クロコダイル」
「おれァ今…虫の居所が悪ィんだ。気ィつけな鷹の目」
クロコダイルすらも援護に回る。
そして、サンジとルフィに協力する者は他にも存在した。それも、海軍にとっては一応
「どういうつもりなんだおめェ!七武海だろう!?"パシフィスタ"を何人も破壊しやがって!!
政府側のおめェがこんな事してどうなるかわかってんのか!?」
「妾は何をしても許される。そう…妾が美しいからじゃ。それと…一つお前に教えてやろう。
"恋はいつでもハリケーン"なのじゃ!!」
「何だそりゃあ!?意味わかんねェよ!!」
"海賊女帝"ハンコックはその美しさ故にワガママ三昧の自分勝手の極み。しかし、それはこれまでのハンコックで今のハンコックは大きく違う。
彼女は愛するルフィの為なら、たとえ火の中水の中───どんな危険も犯し、これまで以上にワガママとなるだろう。しかし、それは全てが愛するルフィの為。
元含む七武海達だけではなく、白ひげ、白ひげ傘下の海賊達───これだけの助力がありながら救えなかったなど決して許されることではないだろう。
期待を一身に背負いながら───いや、サンジとルフィにそんな大それた志や思いなど微塵もない。
ただ、やりたいようにやるだけだ。海賊らしく自分の思うがままに…。
サンジとルフィはひたすらに前へと進む。
「処刑台はもうすぐ近くよ!麦わらボーイ!黒足ボーイ!」
「ああ!」
「イワ!ルフィを抱えて飛ぶ!援護しろ!!」
「了解ッチャブルよ!キャンディ達ィ!!麦わらボーイと黒足ボーイの援護よ!!」
「うわっ!?」
「行くぞルフィ!!」
イワンコフ達の援護を受け、ルフィを抱え処刑台の頂上を目指し宙へと飛ぶサンジ。
エースのもとまであと僅か───
「行かせるなァーーー!!」
「何としても止めろォ!!」
サンジとルフィ目掛けて放たれる砲弾。だか、その砲弾は真っ二つに切り裂かれ2人に届くことなく爆発する。
「行けッ麦わらァ、黒足ィ!!」
花剣のビスタも2人の援護に全身全霊を注ぐ。
「行かせないよォー…!?」
大将黄猿が動こうとするも、それを白ひげが阻止し、白ひげもそちらへと視線を向ける。
宙を駆け上がるサンジはもう半分の地点まで。あとはもう一気に───
「ッ!?」
だが、サンジが一気に駆け上がろうと力を解放しようとした矢先、行く手を阻む影が未来視で脳裏に過る。
「ルフィ…こっから先は俺じゃダメだ」
「え?」
「お前にしかできねェ」
悲痛な表情を浮かべ、サンジは前を見据えている。
そして、サンジとルフィの眼前に現れる
2人の背中に向けられる多くの声援も、その人物の登場で鳴りやんでしまう。一瞬にして緊迫した空気がその戦場を支配するのである。
「じ、じいちゃん!?」
サンジと同じく"月歩"にて宙を飛ぶ伝説の海兵モンキー・D・ガープ中将。
かつて、海賊王を何度も追いつめた海軍の生ける伝説だ。そんな人物が"六式"を習得しているのは当然で、そしてその伝説が海賊王の息子であるエースの処刑を邪魔させまいと立ち塞がるのも運命なのかもしれない。
「じ、じいちゃん!そこどいてくれよッ!!」
「どくわけにいくかルフィィ!わしゃァ"海軍本部中将"モンキー・D・ガープじゃ!!」
ただ奇しくも、エースを助けようとするルフィと道を阻むガープは孫と祖父の関係にあり、エースもまた───ガープの義理の孫という悲運な運命にあってしまった。
「
ここを通りたくばわしを殺してでも通れ!"麦わらのルフィ"!!それがお前達が自ら望んで選んだ道じゃァ!!」
自身のような海兵になってほしかった祖父ガープ。対して、ルフィとエースは
身内のガープが立ち塞がるこの悲運な運命は、ルフィとエースにとっては必然的なことなのである。
「できるわけねェよじいちゃん!頼むからどいてくれよ!!」
「できねばエースは死ぬだけだ!」
「いやだァ!!」
「いやな事など、逃げ出したくなる事などいくらでも起きる!わしゃァ容赦せんぞ!海賊"麦わらのルフィ"!お前を敵とみなす!!」
絶対正義を背負い続けてきた男が───祖父が孫へと牙を剥く。ルフィにとって残酷な運命だが、それはガープも同じ。
その残酷な光景を前に、悲痛な表情を浮かべ現実を受け入れられないルフィに視線を向けていたサンジは、ルフィに対して小さく呟いた。
「これは…お前が越えるべき壁だルフィ」
「サンジッけどッ!?」
「エースを救いたいんだろッ!!」
「ッ!?」
サンジはルフィを支える者として、だが時には甘やかすばかりではなく厳しく───背中を押す。
この局面、伝説の海兵を前にルフィ1人では───と思われる局面だが、これはルフィだからこそ、ルフィが自分で乗り越えなければならない壁なのだ。
「進めッ船長!」
「ッ、おうッ!!」
「行くぞ!
【
カタパルトの要領でルフィを右足に乗せたサンジは、ガープ目掛けてルフィを蹴り飛ばす。
猛スピードでカープへと迫るルフィ。
ルフィはもう覚悟を決めた。
そのルフィを前に拳を振り抜くガープ───だが、ガープの脳裏に過る今と変わらずクソ生意気な───可愛い孫達の小さい子供の頃の姿。
「ッ…」
如何にガープが海賊達にとって悪魔と称される恐ろしい存在であろうとも、海賊王を何度も追いつめた海軍の生ける伝説であろうとも、ガープもまた人の親であり、孫に愛されたい孫馬鹿でしかないのだ。
その孫達との思い出が───愛が、伝説の海兵の覚悟を鈍らせる。
「ガープ!!」
長く苦楽を共にした元帥センゴクも、ガープの悲痛な心の叫びに気付き表情を歪ませた。
センゴクにはガープの表情は見えない。しかし、ガープが瞳を閉じたことをセンゴクは理解する。
これまで数多の海賊を沈めてきたその拳は孫に届くことなく、ガープは孫の拳を初めて受けることとなった。
「うわああああああああ!!」
孫の覚悟の籠った拳はどこまでも重く、強く、兄への愛が籠った拳であり、そして悲しいことに───祖父への愛も籠った全力とは言い難い拳でもあった。
サンジが大器晩成型のジェルマだと考えると、炎を扱えるのと強靭な脚力は、火花を操るイチジ、怪力のヨジ、兄弟達の能力をサンジは併せ持っていると思えなくもない。
そして新たに発現した電撃はニジなもの。
感情があるからこそ、人は弱くもあり、時には誰よりも強くあれるというソラの抵抗の証であり、想い、愛の結晶としてサンジは誕生した。
皮肉なことに、落ちこぼれだと早々に見限ったサンジこそがジェルマの最高傑作だったのではないかという展開。この場合はソラの遺した遺産ですね。
ルフィとガープの処刑台に到着する直前の展開、サンジを加えて書くの難産だった。