404小隊が“猫の鼻”に合流して二日後。45からある話を聞いて、416は執務室を訪ねた。
「副官の枠が空いているという話を伺ったので、立候補したいのですが」
その言葉にノアは意外な反応を示した。
口を「あ」の字に開いて首を傾げていたのだが、そこまで驚くようなことだったろうか。
「気持ちは嬉しいけど。空いてるっていうか、採用してないんだよ」
今度は416が驚く番だった。副官を必要としない指揮官などいるのだろうか。
「どうしてですか?」
「基地の運営とか依頼に対する条件の擦り合わせなんて、本当につまらないんだよ。暇だし。
そんな仕事の補佐で、キミたちの時間を奪うのは本意じゃないんだ」
ノアは手に持ったボールペンを八の字に揺らしながら言った。
そして、少し頬を赤くする。
「……」
「他にも何か理由があるんですか?」
「う……」
ノアが気まずそうに目を逸らすので、416はその方向へ回り込んだ。
目を逸らす。回り込む。目を逸らす。回り込む。
そうして椅子が二回転したところで、ノアは諦めの表情を浮かべた。ぼそぼそと言葉が続いた。
「その……他の基地の連中から聞く限り、副官っていわゆる『気になる子』を指名することが多いらしいんだ。
そういうの、自分勝手で嫌だなあ……って」
思わず、吹き出す声が漏れた。前半も建前ではないのだろうが、明らかに本心は後半だろう。
赤い顔でこちらをねめつけるノアに、416は「違うんです」手を振った。
「すみません。人形相手に随分と紳士的だと思ったので。
でもそういうことなら問題ないでしょう。こっちがしたいって言ってるんですから。
それに、楽しさで仕事は選びません」
ノアはペンのノックカバーで自分の頬をぐりぐりと捏ねる。余程副官を持ちたくないらしい。
少し悩んだ後、ようやく次の言葉を捻り出す。
「……そもそも、何でそんなに副官になりたいのさ?」
「ここでお世話になる以上、できる限りお役に立ちたいと思うんです。
助けていただいた恩返しもあります」
一方416の口からは、すらすらと文句が流れ出た。
しかし、416は理由を全て語ったわけではない。口に出した部分も嘘ではないが、より大事な部分が腹の底に隠れている。
416は先の作戦で、新型の鉄血ハイエンド――
彼は気にしていないかもしれないが、自分は気にする。このままでは、「誰よりも優秀で完璧な戦術人形」というアイデンティティの欠缺が埋まらない。それは困るので、副官として自分の優秀さを見せつける必要があるのだ。
そんな416の内心を知る由もなく、ノアは肩を落とした。
「“欠落組”討伐までの協力関係って話だし、こっちにもメリットはあるんだけど……そう言われると断りづらいなあ。
それじゃあよろしく、HK416。ここの隣が副官室ってことになってる。使ってないけど掃除はしてあるから、休むなり他の子とお喋りするなり、好きに使ってね。調度は家具倉庫にあるのを好きに配置して。
これ鍵。こっちは宿舎にある僕の部屋の鍵。念のためにね」