ノアの苦虫を噛み潰したような表情を思い出して、416は苦笑した。
「指揮官は渋々って感じだったけれど」
「そっかぁー。
今まで一人で全業務を回してたから、これをきっかけにあの人の負担が減ればいいんだけど」
安心したような顔で、MDRがマフィンサンドの残りを口に放り込む。
「へぇー!あの指揮官って戦闘だけじゃなくて仕事もできるんだね!」
そう声を上げながら、UMP9が自分のトレイを持ってやってきた。パンケーキとソーセージ、サラダにオレンジジュースというチョイスが何とも彼女らしい。
一人で416の向かいに座る9に、MDRが訊ねる。
「UMP45は?」
「45姉はもう部屋に戻っちゃった。何かやることがあるんだって」
準備を怠らず油断もしないアイツのことだ、今日の出撃に向けて銃の整備でもしているのだろう。
それよりも416は、9の零した単語の方が気になった。
「戦闘って?」
「聞いてないの?Spitfireたちがキミらを助けに行ったとき、指揮官も一緒に出撃してたんだよ」
「それは知ってるわ。おかしな話だとは思うけれど」
MDRの言葉を継いで、9が人差し指を立てる。
「あの工廠には、ここの人形たちが到着した時点でハンターしかいなかったんだって。
で、PKPたちが全員で私たちをここまで運んできたの。途中でちょくちょくローエンドと交戦しながらね」
「……待って。
それじゃあハンターはどうしたのよ。背中を見せて逃げられる相手じゃないでしょ。
――まさか」
ここまでの情報で論理的に考えれば、結論は一つしかない。
416が自身の予想の荒唐無稽さに目を見開くと、9が手を叩いて先を継いだ。
「そう、そのまさか。指揮官が囮になったんだよ。
しかも無事に帰って来たってことは……ハンターを追い払うか倒すかしちゃったってこと!」
「コアを持って帰ってたし、殺したんじゃない?」
「は!?」
驚きのあまりフォークを止めた416とは対照的に、MDRは何でもないことのように笑う。
「まー、他所から来たんじゃ信じらんないよねー。
S09地区だっけ?激戦区じゃんね」
「うんうん、アソコは大変なとこだったよ!でも、ココも似たようなものだと思う。
やっぱり近くに大きな町があるからかな?」
「“アンバーズヒル”だねー。
貧富の差がかなり激しいから社会としてはどうかと思うけど、資材はたくさんあるから。
鉄血から見ても狙う価値はあるんじゃない?」
9とMDRのそんな会話も、最早416の耳には届いていなかった。