WinterGhost Frontline   作:琴町

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副官のお仕事/指揮官のお仕事⑤

「ハァッ、ハァ……ッ、クソっ!どうして当たらないの……」

 

 第二訓練場の一室に響いていた銃声が止んだ。

 天井から床まで、辺りには数多の銃弾が突き立っている。

 ノアは手を握って開き、突き指がないことを確かめると、膝をついて息を荒らげる416に歩み寄った。

 下を向いている彼女の視界に、スポーツドリンクを差し出す。

 

「……どうも」

 

 416は恨めしそうにこちらをじろりと睨んで、ボトルをひったくった。

 

「何よ、完璧だなんて褒めそやしておいて。

 これじゃあ恥ずかしいだけじゃない……」

「そう気を落とさなくてもいいよ。突撃銃(アサルトライフル)の弾速なんて、音速の三倍弱しかないんだもの。

 当たらなくても仕方がないって」

「二.六一倍です。それだけあれば普通は当たるはずでしょう。

 それを、訳が分からない速さで動いたり指で銃弾を弾いたり、トーチャラー(アイツ)みたいで嫌な動きだわ。

 ……あ、有難う」

 

 同じようにノアが差し出したタオルを受け取る416。愛銃を置いて、汗を拭う。

 肌を滑り落ち、髪先から飛び散る珠が光を放つ。ノアは目を逸らした。こっそりと後ろ手で自分の腕を抓る。

 416がいうところの「訳が分からない速さで」動く技術は、実はそこまで難しくない。もちろん練習は必要だが、戦術人形や鉄血人形のように強靭な体と高い知能があれば、きっと自分より簡単にできるだろう。

 

「どうする。今日はこれまでにしておく?」

 

 壁に埋まった銃弾を数えながら訊ねると、チャキッという音が聞こえた。

 腕に硬い感触がするので視線を戻すと、416が銃口でノアの腕をつついている。普通に怖い。

 そうしながら416は首を振って、

 

「今見せてくれた、インチキみたいな体術。

 アレって発砲しながらでも使えるかしら?」

 

 少し、考える。友人に教えたときは出来ていたが――

 

「指で銃弾を弾くのは難しいと思う。もちろん素手なら簡単だけど。

 “絶火(ゼッカ)”――あぁ、キミの言う『訳が分からない速さで』動く技ね。アレなら、短機関銃(サブマシンガン)とか拳銃(ハンドガン)とか、小さめの銃でできることは実証済み。

 でも突撃銃は銃身が長いし、特にキミのはフロントヘビーだからなあ……術理は教えるけど、そこからのアレンジは一緒にやっていこう」

 

 自分の答えが余程嬉しかったのか、416の表情から苛立ちが抜け、眉尻が下がる。

 

「えぇ。じゃあ、今日はその基本を教えて!

 貴方に弾を命中させる練習はそれからね。ふふっ」

 

 そんなことを呟きながら笑うのは、恐ろしいので止めてほしい。

 416はボトルとタオルを棚に置こうとして、何かに気付いたようにこちらを振り返った。

 

「飲み物、指揮官の分が無いじゃない。

 ――はい。貴方は一応人間なのだから、私たちよりこまめに水分補給をすべきよ」

 

 しかし差し出されたボトルを見つめて、ノアはきょとんと小首を傾げた。「いいの?」

 

「もちろん。どうして人形が指揮官の水分補給を禁じるのよ」416も首を傾げる。

「そうじゃなくて。ソレ、今キミが飲んだヤツでしょ」

 

 ――沈黙が下りた。

 

 互いに首を傾げたまま、おかしな姿勢で固まる。

 やがて416が、肌をゆっくりと紅潮させながら俯いた。

 

「ご、ごめんなさい指揮官。貴方の水分補給を優先して気が付かなかったわ……。

 不潔だわ、新しいのを取って来るから少し待って……」

「いやぁ流石416、よく気が利くよね!その心遣い有難く受け取るよ!」

 

 どうやら自分は余計なことを口走ったらしい。

 ぎこちない動きでその場を辞そうとする416から、ノアは慌ててボトルを受け取りキャップを開いた。

 そしてそのままちょっと固まる。

 

「……そんなに見られると、飲み辛いんだけど……」

「ごっ、ごめんなさい!」

 

 顔を背けた416の、真っ赤に染まった耳朶が見える。

 

 (指摘するまで気付かないのは戦術人形らしいけど、意識した途端随分と恥ずかしがるあたり、そこらへんはヒトと変わらないんだなぁ)

 

 こうも意識されると、こちらまで恥ずかしくなってくる。

 

 チラチラチクチクと喉元を刺す視線を感じながら、ノアは一抹の後悔をドリンクと共に飲み下した。

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