「ハァッ、ハァ……ッ、クソっ!どうして当たらないの……」
第二訓練場の一室に響いていた銃声が止んだ。
天井から床まで、辺りには数多の銃弾が突き立っている。
ノアは手を握って開き、突き指がないことを確かめると、膝をついて息を荒らげる416に歩み寄った。
下を向いている彼女の視界に、スポーツドリンクを差し出す。
「……どうも」
416は恨めしそうにこちらをじろりと睨んで、ボトルをひったくった。
「何よ、完璧だなんて褒めそやしておいて。
これじゃあ恥ずかしいだけじゃない……」
「そう気を落とさなくてもいいよ。
当たらなくても仕方がないって」
「二.六一倍です。それだけあれば普通は当たるはずでしょう。
それを、訳が分からない速さで動いたり指で銃弾を弾いたり、
……あ、有難う」
同じようにノアが差し出したタオルを受け取る416。愛銃を置いて、汗を拭う。
肌を滑り落ち、髪先から飛び散る珠が光を放つ。ノアは目を逸らした。こっそりと後ろ手で自分の腕を抓る。
416がいうところの「訳が分からない速さで」動く技術は、実はそこまで難しくない。もちろん練習は必要だが、戦術人形や鉄血人形のように強靭な体と高い知能があれば、きっと自分より簡単にできるだろう。
「どうする。今日はこれまでにしておく?」
壁に埋まった銃弾を数えながら訊ねると、チャキッという音が聞こえた。
腕に硬い感触がするので視線を戻すと、416が銃口でノアの腕をつついている。普通に怖い。
そうしながら416は首を振って、
「今見せてくれた、インチキみたいな体術。
アレって発砲しながらでも使えるかしら?」
少し、考える。友人に教えたときは出来ていたが――
「指で銃弾を弾くのは難しいと思う。もちろん素手なら簡単だけど。
“
でも突撃銃は銃身が長いし、特にキミのはフロントヘビーだからなあ……術理は教えるけど、そこからのアレンジは一緒にやっていこう」
自分の答えが余程嬉しかったのか、416の表情から苛立ちが抜け、眉尻が下がる。
「えぇ。じゃあ、今日はその基本を教えて!
貴方に弾を命中させる練習はそれからね。ふふっ」
そんなことを呟きながら笑うのは、恐ろしいので止めてほしい。
416はボトルとタオルを棚に置こうとして、何かに気付いたようにこちらを振り返った。
「飲み物、指揮官の分が無いじゃない。
――はい。貴方は一応人間なのだから、私たちよりこまめに水分補給をすべきよ」
しかし差し出されたボトルを見つめて、ノアはきょとんと小首を傾げた。「いいの?」
「もちろん。どうして人形が指揮官の水分補給を禁じるのよ」416も首を傾げる。
「そうじゃなくて。ソレ、今キミが飲んだヤツでしょ」
――沈黙が下りた。
互いに首を傾げたまま、おかしな姿勢で固まる。
やがて416が、肌をゆっくりと紅潮させながら俯いた。
「ご、ごめんなさい指揮官。貴方の水分補給を優先して気が付かなかったわ……。
不潔だわ、新しいのを取って来るから少し待って……」
「いやぁ流石416、よく気が利くよね!その心遣い有難く受け取るよ!」
どうやら自分は余計なことを口走ったらしい。
ぎこちない動きでその場を辞そうとする416から、ノアは慌ててボトルを受け取りキャップを開いた。
そしてそのままちょっと固まる。
「……そんなに見られると、飲み辛いんだけど……」
「ごっ、ごめんなさい!」
顔を背けた416の、真っ赤に染まった耳朶が見える。
(指摘するまで気付かないのは戦術人形らしいけど、意識した途端随分と恥ずかしがるあたり、そこらへんはヒトと変わらないんだなぁ)
こうも意識されると、こちらまで恥ずかしくなってくる。
チラチラチクチクと喉元を刺す視線を感じながら、ノアは一抹の後悔をドリンクと共に飲み下した。