WinterGhost Frontline   作:琴町

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副官のお仕事/指揮官のお仕事⑥

「まだ寝ないの?416」

 

 404小隊にあてがわれた四人部屋、そのベランダで416が空を見ていると、UMP45が横に並んだ。

 差し出されたグラスを受け取って頷く。

 

「夜風が気持ちいいから。もう少し風を浴びたら寝るわ」

「じゃあ私もそうしようかなー」そう言ってフェンスに背を預ける45。

「あ、そうだ。私たち以外との出撃はどうだった?」

 

 そう言葉を継いだ彼女の目は昏く光っている。45がたまに見せる本性の片鱗だった。

 ここにいると忘れそうになるが、404小隊は表面上、存在しないことになっている。違法人形という素性も隠されている。そして、情報を秘匿することにより部隊の安全性や作戦能力を維持するという理念は、ノアも承知するところだった。

 そのため、“猫の鼻”では四人を異なる部隊に配属させ、404小隊としての作戦行動は最小限に留める提案がなされた。416にとっても合理的な判断だったので、45はその場でこそ反対しなかったが、内心は拒否したかったのかもしれない。

 

「目が怖いわよ45。そんなに違う部隊にされるのが嫌だったの?」

 

 もっともその露出は一瞬で、すぐにいつもの平たい笑顔が貼り付いた。

 

「……ま、そんなところ。それで、どうだったの?」

「慣れてない五人編成だったけど、かなり動きやすかったわね。

 そっちの部隊もそうなんじゃない?」

 

 416とG11は“第一強襲部隊”、略称「一襲」に身を置いている。攻撃に振り切った性能の人形――自分とG11のことだ――を他の人形で支援することにより、主に鉄血ハイエンドモデルの高速撃破を目的としている。残る隊員はVector、C-MS、リベロール。部隊長はC-MSだが、彼女の立てた作戦を自分とVectorが修正する、という流れがこの一週間で出来上がりつつあった。随分と個性的な面子ではあるものの、実際にこの部隊で行動を始めてから十三体のハイエンドモデルを撃破しているので、この構成を考えたノアの判断は間違っていないのだろう。

 45は頷いて、グラスの中の水をちびちびと口に含む。

 

「うん。こっちは偵察任務だったから戦闘は無かったけど、危ない場面すら無かった。

 ここの人形、ARやRFでもやたら隠密が上手なの。お陰で随分楽だった」

 

 45たちの部隊は“第二偵察部隊”、略称「二偵」。他のメンバーがMDR、T-5000、K5なので突破力にこそ不安が残る編成だが、潜入や偵察においては十全な働きを示すことができるようだ。

 

「それは良かった。アンタたちはこれから、二偵で“欠落組”の居所を探るのよね?」

「その予定よ」

 

 416はここに来る直前、自分たちが受けた任務を思い出す。

 自分たちが追っている相手は“凌辱者(トーチャラー)”。最近活動が確認された新型鉄血ハイエンドの片割れだ。常に行動を共にしている“鏖殺者(クレンザー)”と合わせて、G&K内では“欠落組”という呼称が与えられている。この呼称は、二体がエージェントやドリーマーの意向に従っている様子が無いことに由来する。普段はどこにいるのか杳として知れず、ふと現れては敵味方問わずあらゆる施設や人形を破壊していく。事実これまでに二回、鉄血の施設を襲ったところを確認されていた。

 その性能はこれまでの鉄血ハイエンドとは一線を画している。

 トーチャラーは優れたAIと尋常外の近接戦闘能力を有し、G&Kのみならずドリーマーたちの裏さえかいて捜索網から逃れ続けている。“欠落組”を二人組のサイコパスに見立てるなら奴は支配者だね、とはノアの弁だ。知恵でクレンザーを支え守る代わりに、自分のために戦うことを要求しているのだと。

 一方クレンザーは常時展開したフォースシールドの中から、無尽蔵のミサイルやらビームやらを休むことなくバラ撒き続ける。奴を包囲したG&Kの部隊七つが全滅したことは、G&Kにとってほとんど黒歴史のような扱いだ。奴と正面切って戦うには、普段ならば火力過剰と言われるような兵器を持ち出す必要があるだろう。

 そんな欠落組の居場所が偶然判明したため、その討伐作戦に新生AR小隊と404小隊が動員された。まずAR小隊がクレンザーを誘き出し、交戦する。16Lab謹製の秘密兵器を携えたM4A1や、改造を経て火力が大きく向上したAR-15がいるので、クレンザーとも渡り合えるであろうという算段だった。もしトーチャラーがクレンザーと共にAR小隊を相手取ろうとした場合は全力で撤退。そしてトーチャラーがクレンザーの援護に出てこなかった場合、404小隊がトーチャラーを暗殺するという手筈だったのだ。

 しかし結局、作戦は失敗に終わった。AR小隊の方も、クレンザーに手酷くやられたようだ。先日再建が終わったばかりのS09地区戦術司令部に戻り、今は修復作業中とのこと。ノアはS09地区の指揮官やヘリアンに話を付けて、対“欠落組”作戦の指揮権を譲り受けたらしい。

 トーチャラーのことを思い出して、グラスを握った416の手に力が籠る。

 45は後ろ向きに空を仰いで声を上げた。

 

「そういえば聞いた?前回の作戦が見事に失敗して、AR小隊もあんなことになったから、S09の方の指揮官が上からかなり怒られて、危うくクビになるところだったって」

「そうなの?まぁ、結果だけ見ればそうなるわよね。

 でも『危うく』ってことは、結局辞めさせられなかったってこと?」

 

 お陰で怨敵のことから意識が逸れて、グラスは破砕を免れた。

 S09地区の指揮官もまた優秀で、404小隊も世話になったことがある。あっちの方は今、鉄血のみならずG&Kと正規軍のいざこざにも巻き込まれていて、あの指揮官はさぞ胃が痛いことだろう。ノアならきっと、G&Kの上層部や正規軍の高官も丸め込んでしまうのだろうけれど。

 

「指揮官が――あぁややこしいわね、ノアが事情を説明して、これまでの戦績を考えると彼女を失うのはG&Kにとって痛手だぞー、って偉い人たちに掛け合ったらしいよ」

「へぇ、そんなところまでお節介を焼くのね、あの人。

 ――って待ちなさい45、今指揮官を名前で呼び捨てた?」

 

 45は平然とした顔で手をひらひらと振る。

 

「だって紛らわしいでしょ、どっちも『指揮官』じゃ」

「だったらあっちの指揮官を名前で呼べばいいでしょっ、いつの間にそこまで仲良くなったのよ!」既に夜も深いので、小声で叫んだ。

「貴女が出撃してる時は私が彼を手伝ってるんだもの、それなりにお話しだってするよ。あっちの指揮官の名前なんて憶えてないし。

 なぁに、焼きもち?」

「莫っ迦じゃないの。私が嫉妬する理由なんてないわ。指揮官にも、アンタにもね」

 

 416は45の言葉を鼻で笑って吐き捨てる。これは本心だ。ノアと45が仲良くなろうと、自分が怒る理由などどこにもないのだ。強いて言うなれば副官は自分なのにという不満とか、自分より短い時間で指揮官と打ち解ける45のコミュニケーションスキルに対する嫉妬とか、抱くとしてもそんなものだ。……ん?

 45は416の心中を見透かしたように笑う。

 

「ま、安心して。彼、あんまり私のこと信用してないみたいだから。

 私も完全には信じてないし。敵ではないと思うけどね」

 

「は?なんでよ」素で疑問が零れた。45の疑り深さはよく知っているが、ノアの手腕や人形への接し方を見て信用できないというのは、いくらなんでもおかしな話ではなかろうか。

 

「うまく言えないんだけど、何か根本的におかしい気がするのよね。仕事ぶりとかもそうなんだけど……」

 

 そこで416は得心がいった。要するにアレだ。

 

「同族嫌悪じゃないの?アンタと同類の気配がするもの、あの指揮官って。

 妙に完成度の高い作り笑いとか」

「何ソレ、ひっどーい。

 ……まぁ、というわけで。私はこれから、少しずつ指揮官の素性を探っていくつもり。

 この部屋を調査の拠点にするつもりだから、ちゃんと秘密にしておいてね。G11にも伝えておいて」

 

 416がまさに言及するところの「完成度の高い作り笑い」を浮かべて、45はそう言い放った。

 そして今外に出てきたのは、わざわざこの話をするためだったのだろう。S09のときですらそこまではしなかったというのに、余程ノアのことが気に食わないのだろうか。

 416は嘆息してその頼みを引き受けた。「分かったわよ」

 

「ありがと。それと、私の動きに彼が気付かないように、指揮官の気を引いておいて」

 

 今度は変な注文がついてきた。416は素っ頓狂な声を上げ――そうになって、息を吐く。

 

「何ソレ、どうしろってのよ」

「そうね、色仕掛けとか?貴方そんなパーツ付いてるんだから楽勝でしょ」

 

 45は据わった目で416の胸を見て言った。こめかみに青筋まで浮いているが、自分で言ったことに自分で怒るのは止めてほしいと思う。しかしそんなことより――

 

「い、い色仕掛け!?そんなの嫌に決まってるでしょ!」

 

 先程より少し大きな悲鳴が出た。

 416の狼狽する様子を見て溜飲が下がったのか(上げたのは45自身だが)、ニヤニヤと45は笑う。

 

「ほんとに416は()()()方面の話、苦手よね。このくらいで赤くなってどうするの。

 まぁソコが可愛いんだけど」

「煩いわね……!」

 

 416はそう吐き捨てる。夜風だけでは熱が冷めそうにないので、グラスを頬に押し当てた。

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