WinterGhost Frontline   作:琴町

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アンバーズヒルの吸血鬼・前篇⑦

 現在、ヴィーフリ・ノア・416・シノ・9・45の六人は、二手に分かれてSuper-Shortyの行方を追っていた。

 ヴィーフリ曰く。見回りからの帰り道、怪我をした男性を発見したのだという。Shortyが応急処置をするというのでヴィーフリも付き添おうとしたが、

 

『大丈夫だって、すぐ終わるから。ヴィーフリは先に戻って指揮官への報告済ませといてよ』

 

と断られたらしい。

 しかし帰投後どれだけ待ってもShortyは姿を見せず、心配して通信を試みたところ応答しなかった。

 いよいよ異常事態だと確信したヴィーフリは、慌てて指揮官に報告した。

 416からその話を聞いたとき、どれだけ間抜けなのだと45は思った。アンバーズヒルの住民は戦術人形に対して友好的だが、今は連続殺人鬼が潜んでいるのだ。犯行が止んだからといって、油断していいはずがなかったのに。

 

「こっちはクリア。45姉、そっちは?」

 

 路地裏を改めていた9と合流する。お互い、戦場に身を投じるときと同じ装い。たかが人間一人相手に大袈裟かもしれないが、珍しいことにノアが下した命令だ。

 45は首を振って、それから頭上に声を投げた。

 

「こっちも駄目。しきかぁん、何か見える?」

 

 電信柱に立って街を見下ろしていたノアが、十二メートルほどの高さから飛び降りる。その着地に大きな音は伴わず、全く衝撃も感じさせない。まるで野良猫のような――

 

(いや、おかしくない?)

 

 しかしその落下に言及するより早く、ノアが口を開いた。その口調はいつもより駆け足で、彼の焦りが滲み出ているのが伝わる。

 

「ストリートで怪しい動きをしている奴はいない」

「ほんとに見えたの?暗いし遠いのに」

「夜目が利くからね。さ、次のポイントに行くよ」

 

 そう言ってノアが駆け出す。こちらは外骨格を着けているにも拘らず、真面目に走らないと置いていかれる速度。45はノアによる訓練を受けていないので目の当たりにしたことがなかったが、なるほどこの身のこなしならば戦術人形とも渡り合えるだろう。

 

(秘匿性の高い外骨格でも着けている‥‥?それとも薬物による人体改造?)

「待ってよ指揮官!足速過ぎでしょ‥‥!」

 

 隣を走る9が声を上げた。立ち止まったノアは振り返り、申し訳なさそうな顔で頬を掻いた。

 

「訓練の時、416は難なくついてきてたから、てっきりキミたちはそんな感じなのかと」

「416の運動性能は私たちの中でも一番だから。あの子と比べられたら堪んないよ」

「ごめん‥‥あ、416からだ」

(――ん?)

 

 ノアの表情が少し明るくなった。そして、画面も見ずにそう断言するということは、416専用の着信音でも設定しているのだろうか。

 どうやら45の思っている以上に、ノアは416のことを気に入っているらしい。

 

「――Shortyが見つかった」

 

 まぁ数秒後にはこの通り、憂鬱な表情が取って代わったのだが。


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